専業主夫のプロローグ
夏になるとよく「冷やし中華始めました」と書かれた張り紙を見かけることがある。
俺はこれを見る度にいつも思う、生半可な気持ちでやって行けるほど甘くはないぞ、と。
その数日後、張り紙を張っていた店を訪れてみると、案の定インスタントだったり、おいしくなかったりする。
生半可な気持ちで始めても、大変なだけだ。あの日から数日経ち、俺はそのことを、身をもって体験している。
数ヶ月前、俺は結婚をした。美人で、グラマラスで、社長業に就いている完璧な女性、津田瞳、25歳と。
そんな瞳は現在、居間でテレビを見ている。結婚と同時に移り住んだこのマンションでは、台所から居間の様子がバッチリと見ることができる。俺はニンジンを切る手を止め、瞳の姿を見ていた。仕事の時にはしっかりと結んである茶色の髪は、今は解かれていて、いつもよりもセクシーに見える。さらに、ソファに寝転がっているので、シャツの間からチラチラと肌が見える。非常に目の毒だ。これは注意しなければならない。
「瞳、女の子がそんなはしたない格好しちゃいけません」
俺がそういうと、瞳は「はーい」と答え、上半身を起こしてシャツの裾を少しだけ捲り上げた。瞳の顔を見ると、からかうような笑みを浮かべていた。どうやら注意は逆効果だったようだ。俺は料理に集中することにした。瞳が何か言っているが気にしてはいけない。
次の日の朝、
俺は手に持っていた弁当を、妻である瞳に渡した。
そして少し恥ずかしい朝の恒例行事を済ませた後、俺は、元気よく仕事に出て行った瞳を見送る。瞳が頑張っている姿を想像し、俺も頑張ろうと思い「よし!」と独り言をつぶやいた。
今日も一日、やることはたくさんある。
申し遅れたが、俺の名は池田博文、29歳。
そんな俺はつい最近 「専業主夫始めました」
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