トライアル・オブ・カオス?聞くだけで死にそう
目が覚めた。
昨日、瞑目した時の天井とはまるで違う。
……ここ、どこだ?ていうか、なんか立ってない?おい、俺のベッドは?確か自分の部屋で寝ていたはずなのに…
「この世界へようこそ!世界を支配する俺のインベンション!」
背後から声をかけられた。
振り返ると、その声の主が視界に入る。まるで洋画から抜け出してきたかのようなマッドサイエンティストがそこに立っていた。
「なんですって!?」
俺は困惑を隠せない声で叫んだ。
「お前はおいらによってこの世界に召喚されたんだ。異世界人、お前は強くなり、ゴールを達成する。そのゴールとは…この世界の勇者達を殺すことだ。プロジェクト・アナイアレイション、略してプロアナ。お前が強くなるまで、おいらが育て上げてやる」
マッドサイエンティストの言葉をまともに受け入れようとしなかった。どうせ夢だ……そう思ったからだ。夢のはずなのにこんなにも鮮明に感覚が伝わってくることに驚いた。本当に目が覚めているように感じられた。
ちっちゃい頃から、ずっと魔法に憧れていた。
もし魔法が使えたら……そう思い続けてきた。
だから、本当にあんまり関わりたくなかったマッドサイエンティストに躊躇いながらも質問を投げかけた。
「……俺は魔法が使えるんですか?」
マッドサイエンティストは口元を吊り上げ、ウフッと含み笑いを漏らす。
「当然だろ。勇者どもに勝つためには、使わなきゃならん。この世界では権力は力で決まるんだ。おいらは20年間の実験で作り上げた"最高のレベルアップポーション"を持っている。お前を最強の武器に仕立て上げるぞ。そっちの世界には魔法とかないのか?」
「いや、ないっすけど…あとレベルアップとはなんですか?モンハン的なですか?」
「もんはん?なんだそれ?」
マッドサイエンティストは頭を傾げながら言った。「まあ、簡単に言えばだな…モンスターを撃退することにより経験値を蓄積し、その累積が限界値に達した時、いわゆる「レベル上昇」が発生する。かかる上昇の際、報酬として付与されるのがステータスポイントである。このステータスポイントを攻撃力や防御力といった各能力値へ振り分けることにより、己の戦闘能力を強化することが可能となる。
もっとも、レベルの上昇を遂げ得る者は極めて稀であり、その条件を満たす者に限り、戦力の増強は格段に容易となるのである。だいたい分かった?」
簡単に説明してねぇじゃん、分かるわけないだろ!なに急に賢く喋ってんねん!?
マッドサイエンティストの話、どうやら結構ガチっぽい。
夢かどうか疑わしくなってきた。
もしかして、ガチで異世界転移したのか……判断するにはまだ早いか。
まあ、とりあえず『分かった』って適当に言っとくか。
「分かった、じゃあどっから始めればいいですか?」と、俺は話を進めるように適当に言った。
「適当やないかい!!」
……こいつだるっ。
マッドサイエンティストくんが、自分が滑ったことに気づき、咳払いしてから続けた。
「まだ初日だからHQを見せたいんだ。あ、ちょっと待った、自己紹介はまだしてなかったか。ごめん、おいらはちょっと忘れっぽくてな」
いや、それは最初から分かってるぞ。
「おいらはエルドリック、45歳の発明者だぞ。よろしくな。これから仲良くするから、気軽に話していいよ。敬語とかはいらないぞ!」
思っていたより歳を取っていた。20代後半ぐらいで、黒髪に茶目。長い白いコートを羽織っている欧米人だ。挙動も笑い方も気持ち悪いのに、見た目的には確かにイケメンだ。
何かの目的で俺を召喚した発明者らしい。悪いやつじゃなさそうだけど、さっきの「勇者を殺す」という話は結構気になる。俺を最強の武器にするために召喚されたみたいだ。
しかも45歳にしては元気だな……この世界には過労死ないからだろうか。
「俺は月城勇武、17歳。よろしくな。……なんで日本語分かってんの?」
本当に異世界なら、普通日本語は通じないはずだ。
夢だと確信したかと思いきや……
「翻訳魔法だぞ。みんな10歳から学校で習うから言語が通じないとかはないんだ」
さすが異世界、翻訳魔法。
「さっきレベルアップできる条件って言ってたけど、よく分からないから説明してくんね?」
さっきの説明だと、レベルアップできる人は少数らしい。
「この世界にはトライアル・オブ・カオスというダンジョンがあるのだ。試練があるのだ。内容はだいたいハイレベルなモンスターをレベル1の状態で倒すことだ。
モンスターを倒せば、レベル上昇が起こる。ほかの人やモンスターの残ってる生命力が見えるようになり、ステータスポイントがもらえる。
それ以外の機能がたくさんあるが、話が長くなるから必要になったらまた詳しく教える」
おい、もう長いだろ。
まあ、理解できたから大丈夫っしょ。
「ゲームみたいだな…そのトライアルに挑んで生き残ってやるぞ!いや、待て、それより、そもそもなんで俺を召喚したんだ?あと、勇者たちを倒すっていう目的はなんで?」
「勇者」という言葉に、エルドリックの顔がなぜか引き攣った。顔に嫌悪と悲哀が顔に浮かんでいるように見え、まるで心の声が叫んでいるかのような威圧感があった。
「これはあとで話そうと思ったけど、言ってきたから話す」と、生真面目なトーンで言った。
「話すのがそんなに辛いなら言わなくてもいいよ」と俺が言うと、エルドリックは咳払いして、口を開いた。
「おいら、11歳の時は両親と妹と暮らしていたんだ。裕福で、平和に暮らしていた……でも、あの事件までだった。」
「ある日、帝国の教団がこう言ったんだ。『終わりへと向かっているこの世界を救うため、異世界から勇者3人を召喚する』ってな。……終わりってのは、聖書の預言に書いてあったんだ。1525年にこの世にいないモンスターが召喚され、世界が滅ぶって。だから勇者3人を早めにを召喚したんだ」
「でも、その勇者たちは全然違った。召喚されてから4日、爆裂音で目を覚ましたんだ。窓の外を見ると、炎と血まみれの村人たち……友達も家族も、10人ぐらいが燃えていた。殺したのは間違いなく勇者たちだった。楽しそうに爆裂魔法を発動させて、笑いながら近づいてきたんだ」
「おいらはベッドの下に隠れ、気づかれなかったことを祈った。玄関からも爆裂音が聞こえた。一人の勇者の声が聞こえた。『高いものいっぱいだぞ!盗ってから全部燃やそうぜ』って笑い声も。家は無茶苦茶になり、家族は……両親は焼死体で見つけた。妹は見つからなかった。この村で生き残ったのはおいらだけ。だから……だからこそ勇者たちを殺したいんだ」
話長かったけど、復讐したいって気持ちが強いんだな。
「それは…つらいよな」としか言えず、ちょっと気まずかった。
「ごめんね、急に悲しい話して……まあ、それはさておき、HQを見せよっか、おいで!」
おい、切り替えるの速すぎだろ!まだ悲しい余韻に浸ってたのに!