たまごの旅と、朝のひかり
朝ごはんのテーブルに並んだ、あつあつのトースト、シャキッとしたサラダ、そして、つやつやのベーコンエッグ。
「いただきまーす!」
夏美は一口食べて、にっこり。
「美味しい〜! お母さん、いつもありがとう〜」
黄身の真ん中にフォークを刺した、その瞬間——
「いたっ!」
……えっ? いま、誰かの声がした?
フォークを止めた夏美の頭の中に、妄想の扉がふわりと開く。
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「僕はね、養鶏場のおじさんに大切に育てられたお母さんから、生まれてきたんだよ」
そこには、草原を自由に駆け回るニワトリたちと、その中の一羽、おっとりした顔の“お母さん鶏”。
「行ってらっしゃい。きっと誰かの力になるんだよ」
お母さん鶏に見送られて、たまごは出荷された。
スーパーの棚に並び、買い物かごに揺られ、冷蔵庫で少しの間ひと休み。
そして今日、夏美のお母さんの手で、やさしく割られ、ベーコンと一緒にフライパンで焼かれた。
「僕は、栄養になるために旅をしてきた。そして今、夏美と出会ったんだね」
黄身がとろりとこぼれながら、たまごは語りかける。
「ありがとう。いただきます」
夏美は手を合わせて、改めて一言。
「ごちそうさま。今日も一日、がんばれそう」
たまごの小さな冒険は、夏美の元気な朝の一部となったのだった。
何気ない朝ごはんにも、小さな物語が詰まっている。今日も一日、心がほっこりするスタートを。