目覚まし姉さん、6時の約束
夏美はベッドに入り、もふもふの掛け布団にくるまった。
「明日は早番…」
そうつぶやきながら、目覚まし時計を手に取り、6時にセット。
カチッ。
「よし…って、あれ?」
部屋の空気が、ふわっと甘い香りに包まれた。
ラベンダー?それとも…シトラス?
すると、目覚まし時計の上に――現れたのは、まばゆい光に包まれた美しい女性。
「こんばんは、夏美ちゃん」
「わっ……だ、誰ですか……?」
「目覚まし姉さんよ。今夜はちょっと、ご挨拶に来てみたの」
「め、目覚まし姉さん…って、こんなにきれいな人だったの?」
目覚まし姉さんは、背中まで届くゆるい巻き髪に、ネイビーのロングドレス。
目元はパッチリ、でもやさしく、口元には大人の余裕をまとった笑み。
「まあ、うれしいわ。だけど私はね、美しさよりも“時間の正確さ”で生きているの」
「なんか…かっこいい…」
「ふふっ。そう言ってもらえると、明日の6時が楽しみね。
あなたがちゃんと目を覚ますか、少しだけドキドキするけど…信じてるから」
「うん…たぶん起きる…いや、起きます!」
「そう、それでこそ私の“契約者”」
「け、契約者…?」
「目覚ましをセットした瞬間から、あなたは私と“朝の約束”を結んだの。
私がベルを鳴らし、あなたが目を覚ます。
それが守られると、世界は今日もちゃんと動いていくのよ」
「すごい話になってきた…」
目覚まし姉さんは、ふっと宙に浮かび、時計の針の上にそっと腰をおろした。
「実はね、私たち“目覚まし族”は、それぞれに守る人が決まっているの。
私は、あなた担当。なぜかって?」
「えっ…な、なんでですか…?」
「それは、あなたが毎日ほんのちょっとだけ“今日も頑張ろう”って思ってくれるから。
そういう人に、私たちは力を貸したくなるのよ」
「ううっ…なんか泣きそう…」
「ふふ。泣いたら明日、目が腫れて大変よ。
さあ、もう眠って。私はここで、6時ぴったりに、世界で一番きれいな音を鳴らすから」
そう言って、目覚まし姉さんは時計の中へと静かに戻っていった。
静寂に包まれた部屋に、コチコチと優しく針の音が響く。
夏美は目を閉じながら、うっすらと笑った。
「明日、ちゃんと起きる…起きるんだから…」
その夜、夏美は夢を見た。
大きな時計塔の上で、キラキラしたベルを手に、誇らしげに立つ目覚まし姉さんが、
「時間ですよ、夏美ちゃん」と優しくささやいていた。
朝がちょっぴり苦手な夏美にとって、目覚まし時計はただの道具じゃないのかもしれません。
時間ぴったりを守ろうとする、美しくてちょっと頼もしい“姉さん”の存在が、今日も一日を始める力になってくれます。
起きるのが少し楽しみになる、そんな朝があるって、いいですよね。