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水の番人・蛇口くん

「ただいま〜。あ〜、疲れた〜」

玄関のドアをバタンと閉めた夏美の声が、家中に響く。


「夏美、手を洗ってらっしゃーい」

キッチンから母の声。


「はーい…」

重たいカバンをドサッと置き、ふらふらと洗面所へ。

蛇口をひねって、冷たい水を手に流す。


「ふぅ〜…」

両手をこすりながら、ようやく一息。


そのとき――


「おいおい、もっと優しくひねってくれよ〜!」


「……えっ?」

思わず固まる夏美。手を止めて、キョロキョロと周囲を見回す。


「ごめんごめん……って、今しゃべったの、蛇口?!」

「そう、僕だよ。毎日君にひねられてる、この“蛇口くん”です」


「うわ〜、ついに私、疲れすぎて蛇口と会話し始めたか…」

「違う違う。僕、前からしゃべれたけど、君が気づかなかっただけさ」


「えっ、いつから見てたの…?」

「そりゃあもう、ずーっと。朝の寝ぐせも、歯ブラシをくわえたまま歌ってるのも。

あとこの前、鏡の前で変なダンスしてたのも…」


「うわーー!!それは忘れて!!」

顔を真っ赤にして手で顔を覆う夏美。


「大丈夫、誰にも言わないよ。僕は“水の番人”だからね。

君の“ちょっとダメなところ”も“ちょっとかわいいところ”も、ぜんぶ見守ってる」


「……そんなの、恥ずかしいけど、ちょっと安心かも」

タオルで手を拭きながら、夏美は笑った。


「ちなみにね、君のお母さん、今朝はいつもより顔色がよくなかった。疲れてるみたいだったよ」


「えっ、そうなの?」

「うん。ちょっと声かけてあげたら?」


「……ありがとう、蛇口くん」

「いいってことさ。じゃ、また明日もよろしくね。次は優し〜くひねってくれよ?」


「了解、水の番人さん」


洗面所の電気を消し、台所へ向かう夏美の背中は、ちょっぴり軽くなっていた。

その背後で――


「明日はちゃんと、やさしくひねってよな〜」


小さなつぶやきが、水のしずくにまぎれて聞こえたような、聞こえなかったような。


夏美は、ふふっと笑って、廊下の先にある夕飯の匂いへと歩いていった。

当たり前のようにひねっている蛇口にも、実はずっとそばで見守ってくれている心があるのかも…?

ちょっと疲れた日こそ、そんな小さな存在に気づけたら、心がふっとやわらかくなりますね。








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