ひかりと風の恋
朝。
夏美はカーテンをシャッと開けた。
「わぁ、いい天気。今日もがんばろっと」
差し込む光が、まるで「おはよう」と挨拶してくれているようで、思わず笑みがこぼれる。
(なんだか…見られてる気がする)
そのとき、ふと頭に浮かんだのは、昔読んだ「北風と太陽」の絵本。
(あのふたりって、競い合ってたけど…実は、仲良しだったりして)
そう思った瞬間、ふわりと風が吹き、陽の光がキラキラと踊った。
——そして夏美の妄想が始まった。
⸻
そこは、雲の上。
やわらかい光の中に、小さなお家。
縁側に座って、のんびり紅茶を飲んでいるのは、あたたかく微笑む太陽。
そしてその隣で、くしゃみをしながら毛布にくるまる北風。
北風「おまえんとこの陽ざし、強すぎるって…あちぃ」
太陽「日焼け止めちゃんと塗ってから行きなさいって言ったのに」
北風「オレ、風だぞ…液体無理だってば」
太陽「ふふ、じゃあ帽子かぶっていきなさい」
ふたりは、ちょっと不器用だけど、とても仲の良い恋人同士。
太陽「ねえ、夏美ちゃんって子が、今朝も『がんばろう』って言ってくれたわ」
北風「おっ、それはオレの風のおかげだな。昨日、気持ちよく眠れるようにそよ風送っといたんだぜ」
太陽「……なにそれ、ズルい」
北風「へへっ。ライバルなんだろ、オレら」
太陽「ううん、パートナーよ。世界を心地よくするためのね」
ふたりは、空のあちこちを旅しながら、毎日地上に「ちょうどいい日常」を届けていた。
暑くなりすぎないように、寒くなりすぎないように、風と光の絶妙なバランスで。
たとえば、公園のベンチで昼寝するおじいちゃんを見守ったり。
洗濯物をふんわり乾かしたり。
保育園の子どもたちの帽子を、ちょっとだけ飛ばしたり。
日常の「なんでもない幸せ」は、ふたりのやさしさから生まれていた。
⸻
「……なんか、あったかいな」
夏美はそっと窓を閉めて、朝ごはんの準備に向かう。
(太陽さんと北風さん、今日もありがとう)
キッチンのカーテンが、風にふわっと揺れた。
まるで「どういたしまして」と言っているように。
朝のやさしい空気の裏側には、太陽と北風のあたたかな日常があるかもしれません。今日もきっと、ふたりが息を合わせて世界を包んでくれているのです。