説明②
大司教メサメにものすごく多くの質問をする一同
大司教メサメは冷静に深呼吸をし、ハブたちを見渡した後、口を開いた。「進化と超水について話そう。ただし、進化について語り出すと話が長くなる。ここでは簡潔に説明しよう。」
彼は少し間を取って、真剣な声で語り始めた。「進化とは、この世界の生命が新たな力を得る過程だ。その鍵を握るのが“超水”――この世界において最も神聖な水だ。」
メサメは歩きながら、その説明を続ける。「超水は生命を進化させる触媒であり、人間年齢で15歳以上の成熟した肉体が適切に使用すれば、全身が均整を保った形で強化される。また、新たな能力や魔法の才能を得る者も多い。その力は、この世界を生き抜くための大きな助けとなる。」
大司教メサメが超水についての説明をする最中、ハブが手を挙げて質問を投げかけた。「それでさ、その超水って俺も飲めるのか?なんか、どんな感じになるのかちょっと気になるだけなんだけど。」
その言葉にメサメは少しだけ目を細め、慎重に反応を返した。「ほう、興味本位ということか。それならばなおさら、慎重に答えねばならないな。」
彼は間をおいて、冷静なトーンで話を続けた。「結論から言うと、今のお前が超水を飲むべきではない。」
「えっ、なんで?飲めるのなら試してみたいじゃん。」ハブが軽く肩をすくめて尋ねる。
メサメは軽くため息をつきつつ、「理由は単純だ。超水は、飲む者の肉体や精神の状態に深く影響を与える。その結果が何になるか、今のお前には全く見通せていないだろう。」
「うーん、確かにそうかも。でも、ちょっとワクワクするだろ?」ハブは笑みを浮かべて答えるが、メサメは静かに首を振った。
「ワクワクなどと軽々しく言うものではない。」メサメの声には重みがあった。「超水は、進化を促す強力な触媒だ。それゆえ、飲む者に大きな責任と覚悟を求める。その覚悟がないまま超水を飲むのは、もはや進化ではなくリスクとなる。何が起きるか分からないぞ。」
「まあ、リスクって言われるとちょっと怖いな…。ただ、どんな感じなのか想像したくなるのは分かるだろ?」ハブは少し照れくさそうに言った。
「注意しろ。人間年齢で15歳以下の者が超水を飲むと、進化は未熟な形で現れ、身体に異常をきたすことになる。」
「異常って、具体的にどんな感じだ?」ハブが少し緊張した面持ちで尋ねる。
メサメは静かに答える。「例えば、先程のもの達のように、片腕だけが異様に肥大化したり、片足だけが異常に発達する――つまり、左右非対称な進化が起きる。また、身体の一部が過剰に変化することでバランスを崩し、結果的に力を制御できなくなるのだ。」
その言葉に、カゼラスは神妙な表情を浮かべながら呟く。「だから、さっきの3人組もあんな異形の姿になってしまったのね…。」
メサメは静かに頷き、「そうだ。」と続ける。「あの3人は幼い頃に、規則を無視して超水を飲んだ。その結果、未熟な進化が引き起こされ、あのように異常な形で暴走してしまったのだ。」
「でも、15歳以上なら安全なのか?」ハブが重ねて尋ねる。
「そうだ。ただし、超水は慎重に扱わねばならない。それは単なる力の増幅ではなく、生命そのものの形を変える神聖なものだ。乱用すれば災厄を呼ぶ。正しいタイミングと目的をもって使用することが重要だ。」メサメはその言葉に力を込めた。
カゼラスも微笑みながら付け加えた。「私もまだ超水は飲んでいないけれど、それでも今の自分でできることがたくさんあると思うわ。焦らないでいいのよ。」
ハブは少し考え込みながら、「そうだな、確かに急ぐ理由もないし、もうちょっと周りのことを見てからでも遅くないかもな。」と答えた。
メサメは静かに頷き、「良い判断だ。それこそが知識を求める者の正しい道だ。」と話を締めくくった。
「そして、この超水を創り出した存在が、“世界の父”だ。」メサメはハブたちを見据えながら、少し低い声で語り始めた。
「世界の父は、この世界の創造者であり、生命と魔法の根源を司る存在だ。彼はこの世界に秩序と調和をもたらすために、自らの力を使ってこの大地を形作り、超水や魔法といった特別な存在を生み出した。」
その言葉に、ハブは眉をひそめながら尋ねる。「でもさ、その世界の父ってどこにいるんだ?会えるのか?」
メサメはその問いに少し考え込み、静かに答えた。「世界の父は長い時を経て、現在は姿を消している。直接会える者はいないと言われている。だが、彼の意志と力はこの世界の隅々に宿っている。その証拠が、超水や魔法の法則なのだ。」
「じゃあ、旅をしても無理ってことか…。」ハブががっかりした表情を浮かべる。
その時、メサメは少し声のトーンを変え、柔らかな笑みを浮かべた。「そうとも限らない。世界の父の遺跡や、魔法の流れが強い場所――そういった場所には、彼の残した意志を感じられる痕跡があると伝えられている。」
「つまり、世界を巡ることで、会えるかもしれないってことだな?」ハブはその言葉に目を輝かせた。
「可能性はゼロではない。」メサメは頷きながら続けた。「だが、世界の父に近づくということは、自らに課せられる試練に直面することを意味する。その覚悟がある者だけが、その足跡をたどることができるだろう。」
カゼラスはその話を聞きながら、小さく微笑んで呟いた。「それって、すごい冒険ね。旅の目的がますます面白くなるわ。」
メサメは静かに目を閉じ、「世界の父の遺志を辿り、己を超える力を求めるのも良いだろう。ただし、それが試練の連続であることを忘れるな。その道は決して容易ではない。」と告げた。
大司教メサメは、静かな声で一同に向かって話し始めた。「さて、精霊ロボットについて話そう。その力を発揮するためには、ただのロボットの器だけでは不十分だ。」
「精霊をロボットに宿らせることができるのは、エルフ、または光の属性を持ち、超水を用いて魔力を進化させた人間のみだ。」メサメの言葉に、ハブは少し目を見開いて反応する。「それって、やっぱり特別な奴しかできないってことか?」
メサメは静かに頷き、「その通りだ。エルフは精霊との強い結びつきを持つため、最大で3体のロボットに精霊を宿らせることができる。だが、人間の場合は、超水で進化を遂げたとしても、1体のロボットにしか精霊を宿らせることはできない。」
「へえ、そんな違いがあるんだな。」ハブが感心したように言うと、メサメはさらに続ける。「精霊をロボットに宿らせるのは、単なる技術ではない。これは自然と精霊の力、そして魔力の融合が必要となる神聖な行為だ。そのため、エルフや特別な力を持つ人間しか成し遂げられないのだ。」
「覚えておけ。」メサメが一同を見渡しながら語った。「精霊ロボットを扱う力は、この世界のバランスを保つために極めて重要だ。それゆえ、この力を得る責任もまた重大だ。」
続けてメサメは、「次に、精霊ロボットが生み出す“マギデバイス”について話そう。」と一同に視線を向けた。
「マギデバイスとは、精霊ロボットが超水の力を利用して作り出す特別な道具だ。」と説明を始めた。「ロボットに宿った精霊が超水を飲み、1週間にわたって魔力を蓄え続けることで、その力が結晶化し、マギデバイスが生み出される。」
「1週間もかかるのかよ!」ハブが驚くと、メサメは冷静に頷いた。「そうだ。その間、魔力が途切れれば全てが無駄になる。非常に集中力と忍耐が必要な過程だ。」
「でもさ、そのマギデバイスって具体的にどんな力を持ってるんだ?」ハブがたずねる。
「マギデバイスの力は、精霊ロボットと使役者の意思や目的に応じて変わる。」とメサメは答える。「その力は、戦闘や移動、探索、さらには日常的な作業にまで活用できる汎用性を持っている。ただし、1体の精霊ロボットが作れるのは最大で3つのマギデバイスだけだ。」
「俺のマギデバイスは最高だぞ!」とシノカが自慢げに口を挟む。「例えば、“スイッチ・イルカ”は重力を中に操れるし、“シャッター・チャンス”なんてシャッターに収めた対象に少しだけ超水の効果をつけることができるんだ!!」
「名前が独特すぎるけどな。」ハブが笑うと、シノカは「センスが分かる奴だけが評価すればいいんだよ!」と叫び返した。
カゼラスは微笑みながら、「でも確かに、マギデバイスがあれば私たちの冒険もより便利になるわね。」と軽く付け加えた。
「さて、最後に食事についてだ。これが一番現実的な問題かもしれない。」
「食事!!そうだよ食事だよ!!」ハブが興奮気味に聞き返す。
「残念ながら、この世界の食べ物はお前の舌に絶望的に合わないだろう。」その言葉にハブは目を見開き、「ええっ!!?これは変わらないのか??」と叫んだ。
「だが、希望がないわけではない。」とメサメは続けた。「この世界には、無の属性を持ち、超水で頭脳が進化した者がいる。その者はロボットの側を作り出す技術者であり、もしかするとお前の特殊な舌に対応する方法を考えてくれるかもしれない。」
「それって、もしかしたら俺にも希望があるってことか!」ハブが興奮する。
「ただし、今すぐその者に会うのは難しい。そこで、私が暫定的に魔法で対処してやろう。」メサメが提案する。「“デリシャスメモリー”という幻覚の魔法を使えば、お前の口にする全てのものが美味しく感じられるようになる。ただし、効果は1週間だけだ。」
「やってくれ!今すぐ!」ハブは即答した。
メサメは静かに頷き、手をかざして魔法を唱えた。「デリシャスメモリー。」
すると、ハブを包み込むように淡い光が漂い、魔法が完成した。「さあ、これでどんな食べ物でも美味しいと思えるはずだ。」
「おお!何もかも美味しく見える!いや、シノカ、お前なんか美味そうじゃないか…。ずっと思ってたんだよな…、シノカ…ノカ…中華…餃子…ラーメン屋…ラーメン…」
「ちょっと待てよ!おい!」シノカは後ずさりするが、ハブがかじりつこうとする。「やめろバカ兄ちゃん!くらえ、“エア・ブラスター”!」
風の魔法がハブを吹き飛ばし、広間の端まで勢いよく転がっていった。
「いててて…なんだよこれ…!」倒れ込んだハブの頭からは血が流れていた。
「くだらない。」メサメは深いため息をつきながらハブに近寄り、治癒の魔法を発動した。「すぐに直してやる。」
淡い光がハブを包み込み、傷が一瞬でふさがる。その効果に、ハブは立ち上がりながら「大司教様、マジでありがとう!」と感謝した。
「シノカ!」メサメが怒りを含んだ声で振り返る。
「わ、悪かったよ!」とシノカはしぶしぶ謝る。
カゼラスは微笑みながら、「でも、幻覚の魔法は便利だけど、ハブには的確じゃないみたいね。」とまとめた。
「俺は…俺はもう美味しいご飯は食べられないのかーーー!!!」ハブが大声で叫ぶ中、広間には笑い混じりの喧騒が響いていた。
大司教メサメは、一同をじっと見つめながら静かに尋ねた。「さて、聞きたいことはすべて聞けたか?」
ハブたちは顔を見合わせた後、それぞれ口を揃えて「大司教様、ありがとうございました!」と深く頭を下げた。シノカは少し不器用な口調ながらも、「助かったぜ、大司教!」と感謝を述べ、カゼラスも柔らかい微笑みを浮かべながら「本当に感謝しています。」と心を込めて伝えた。
メサメは穏やかな微笑みを浮かべて頷き、「礼には及ばない。」と言葉を返した。そして続けて、「ところで…次に向かう場所は、西の都なのか?」と尋ねた。
ハブは考え込むように頭を掻きながら、「そうしようかな。でも、その前に俺にはやることがある!」と力強く言った。「まず、この食べ物問題をどうにかしなきゃいけないし、俺もロボットが欲しいなって思うんだ。」
その言葉にメサメは少し意外そうに頷き、「なるほど、それも一つの目標だな。」と呟く。そして彼は意味深に口を開いた。「お前が本当にロボットを手に入れたいと思うなら、私の名前を言えば話が通る店を教えよう。」
「本当か!?それなら簡単にいけそうだな!」ハブが目を輝かせると、メサメは微笑みながら「だが、簡単に済むと思わぬことだ。お前自身がその価値を証明しなければ、精霊ロボットを手にすることはできないだろう。」と冷静に答えた。
「そっか…まあ、それも含めて頑張るさ!」とハブは自信たっぷりに答えた。
一同は改めて、大司教メサメに深い感謝を伝えた。「本当に色々ありがとうございました。」カゼラスの穏やかな声を皮切りに、ハブとシノカも次々とお礼を述べた。
メサメは静かに頷き、「お前たちが無事に旅を続けられるよう祈っている。」と見送りの言葉をかけた。
そして一同は、中央魔法教会を去り、次の目的地――西の都へ向かうための新たな旅路を歩き始めた。
西の都を目的地にする一同
次回月~水のどれかの18時です