始まり
異世界ロボットバトルアクションファンタジー悲しみ人情ラーメンラブコメディ
「ラーメンは人生の縮図だよな。」
自転車を漕ぎながら、ハブは空を見上げて呟いた。澄み渡る青空の下、心地よい風が頬を撫でていく。目的地はお気に入りのラーメン屋、「超水軒」だ。木造の古びた暖簾、ラーメンのスープの香りが彼を引き寄せる。
「この時間のために一週間頑張ってると言っても過言じゃない。スープの奥深さ、麺のコシ、完璧なチャーシュー…。俺の生きる希望、それがラーメンなんだ。」
彼はペダルを踏み込む足に力を入れ、町外れにある「超水軒」への道を急ぐ。この店の味は、彼にとって日常を支える柱のような存在だった。
暖簾をくぐると、いつもの香りが鼻腔をくすぐった。木製の椅子とカウンター席だけの小さな店内はどこか懐かしい。ハブは迷うことなくカウンターに腰を下ろし、店主に声をかけた。
「バリカタでお願いします!醤油ラーメン!」
店主は手慣れた様子で鍋を振り始める。「おう、兄ちゃん。今日も来たな。いつものバリカタな。」
ラーメンが出来上がるのを待つ間、ハブは目を閉じてその瞬間を待った。湯気が立ち上り、黄金色のスープが目の前に現れた時、彼の心は踊った。
「これだ!やっぱりこれが俺の生きる希望!」
彼はスープを一口すすり、麺を勢いよくすすり込んだ。幸福感が全身を包み込む。これ以上ない至福のひとときだった。
しかし、その瞬間だった。店全体が揺れ、轟音が響き渡る。皿がガタガタと揺れ始め、天井の蛍光灯が一瞬明滅した。そして次の瞬間、眩しい光が店内を覆い尽くした。
「な、なんだこれ!?」
ハブは視界が真っ白になる中で、強い風のような感覚を受けた。そして気づけば、自分は広大な草原の中に立っていた。
目の前に広がる草原には、青い草が風に揺れ、遠くには石造りの建物が立ち並んでいるのが見える。「これ、どこだよ…?」
自分がどこにいるのか分からないまま、ハブは混乱しつつも立ち尽くした。突然異世界に放り込まれたような感覚に、言葉を失う。
「俺の…ラーメンは…?」
彼は地面に膝をつき、呆然とつぶやく。そして、失ったラーメンへの思いが溢れ出し、涙が頬を伝った。
「まだ麺もすすってないのに…」
「おい、兄ちゃん。そんなとこで泣いてる場合じゃねぇだろ?」
しゃがれたダミ声が聞こえ、ハブは顔を上げる。目の前には、白い丸いボディに黄色い目が特徴的な2等身のロボットが立っていた。
「なんだお前…。ドラえもんみたいな形してるじゃないか!」
「ドラえもん?誰だそいつ。俺はシノカって名前だ。カゼラスってエルフに使えてる精霊ロボットだよ。で、ここで何してんだ?」
ハブは少し混乱しつつ、涙を拭いながら答えた。「分からないんだよ!気づいたらこんなとこにいて…。ラーメンもないし…。」
「ラーメン?なんだそりゃ。聞いたことないけど…で、俺の質問だ。赤い服を着たガキを見なかったか?」
「赤い服…?ああ、そういえばさっき俺がここで泣いてた時、なんかこっちを見てた子供がいた気がする。」
「それだな!そいつが俺の大事な魔法機械を持って行きやがったんだよ!」
「マギデバイス?何だそりゃ?」
「兄ちゃん、マギデバイスも知らないのか?マギデバイスってのは、簡単に言うと魔法で動く機械だ。俺ら精霊ロボットが作ることができるんだけど、限界があってな。一体につき3つまでしか作れねぇ。それでその中でもカメラのデバイスは結構特別なんだ。」
シノカは黄色い目を光らせながら説明を続けた。「普通のカメラみたいに写真を撮ることもできるけど、その写真を特定の生物に当てると、一時的に強化したり癒したりできるんだ。」
「ふーん。なんかすごそうだな」
「兄ちゃん、俺の話ちゃんと聞いてたか?…」
「まあ、そんなすごいものを盗まれるって、そりゃ大変だな…。じゃあ俺も一緒に探すよ。」
「それでいい。お礼はするぜ。さっき言ってたラーメン?も、どんなものなのかわかれば作れるかもしれないからな。それにしても、赤い服を着た子供、今頃どこまで行ったんだろうな…。」
「ラーメンを作ってくれるのか!!!?、絶対見つけてやる!」
シノカの指示でハブは赤い服の少女を追い、森の中へと足を踏み入れた。冷たい木漏れ日が揺れる中、彼らは音もなく進む。湿った土の匂いと、遠くで鳴く鳥の声が辺りを満たしていた。
「おい、兄ちゃん、足音がデカいぞ。もっと静かに動けよ。」シノカは小声で注意を促す。黄色い目をギラリと光らせて周囲を見回している。
「そんなこと言われても、これが俺の普通だし…」ハブが反論しかけた瞬間、遠くから小さな人影が見えた。
「見つけた!」シノカはダミ声を少し抑えつつ声を漏らす。そこには、赤い服を着た少女がカメラ、いや、マギデバイスを手に持ち、何かを撮影している姿があった。
「おい、やめろ!それはおもちゃじゃない!」シノカが叫んだが、少女は振り向くことなくシャッターを切り続ける。彼女の周りには奇妙な光が漂い、植物の葉がものすごく増えていた。
少女が撮影を続けるたび、周囲の植物や昆虫が一瞬だけ強烈な光を放った。普通の姿に戻るも、その場に倒れるように朽ち果ててしまった。
ハブはその様子に驚愕し、立ち尽くす。「なんだよこれ…!」
「だから言っただろ、無闇に使うなって!」シノカは少女に駆け寄り、カメラを取り返そうとする。しかし、少女は抵抗しようとしてさらにシャッターを切った。
その瞬間、少女は肩で激しく息をしながら力なくその場に崩れ落ちた。彼女の顔は青ざめ、目に力はほとんど残っていなかった。
「やっぱりだ…。エネルギーを使いすぎたんだ。」シノカは慌ててカメラを奪い返し、その光るレンズを調べ始めた。「くそ、どうにかしないと!」
「この子、大丈夫なのか?」ハブが不安げに尋ねる。
「分からねぇ。けど、急いで助けないと命に関わるぞ!」
その時、静寂を破るように、透き通るような声が聞こえた。「シノカ、無事だったのね。」
木の間から現れたのは、黒髪のボブヘアと尖った耳を持つエルフだった。彼女の姿を見ると、シノカはほっとしたように肩を落とした。
「カゼラス!ちょうどいいところに来た。この子がマギデバイスを使いすぎて倒れちまったんだ。なんとかしてくれ!」
「分かったわ。とりあえず落ち着いて。まずこの子の状態を見てみましょう。」そのエルフは優しい声で答え、少女のそばにしゃがみ込む。彼女の落ち着いた様子は、ハブにも不思議な安心感を与えた。
エルフは少女にそっと手を当て、その状態を確認している。彼女の指先からは微かな魔法の光が差し込み、倒れた少女の体に触れるたび、穏やかな波紋のような輝きが広がる。
「彼女はマギデバイスを過剰に使ったせいで、体内のエネルギーを使い果たしてしまったのね。でも、まだ助けられるわ。」
エルフの透き通るような声が、場の空気を和らげる。ハブはその言葉に安心しつつも、心の中で疑問を抱いた。
「エネルギーを使い果たす…?それってどういうことだ?」
シノカがダミ声で答える。「マギデバイスってのは、使用者の魔力や体力を消耗して動く仕組みだ。こいつみたいに使い続けると、そりゃ体に負担がかかるに決まってるだろ。」
「そういう仕組みなのか…。じゃあ、この子をなんとか助ける方法はあるのか?」
エルフは微笑みながら頷いた。「魔法でエネルギーを補充すれば、彼女は回復できるわ。ただ、それには少し時間が必要よ。」
エルフは少女のそばに座り込むと、静かに魔法陣を浮かび上がらせた。その動きは流れるようで、優雅な所作だった。魔法陣から放たれる光は、柔らかく温かで、見る者の心を癒すようだった。
「これで少しずつエネルギーを補充していくわ。その間、シノカ、彼女がどうしてマギデバイスを盗んだのか聞いてもいい?」
シノカはエルフの言葉に少しだけ眉をしかめたが、すぐに頷いた。「ああ、分かった。けど、まずはこいつが目を覚まさないと何も分からないな。」
ハブはそのやり取りを見ながら、異世界の不思議な光景に感心していた。「魔法って、こんな風に使うものなんだな…。なんかゲームとかで見るのとは全然違う。」
しばらくして、少女は微かに目を開けた。その目にはまだ疲れが残っているが、なんとか意識を取り戻したようだった。
「ここ…どこ…?」
「安心して、今は安全な場所よ。」エルフの優しい声が、少女の混乱を和らげた。
「君、なんでマギデバイスを盗んだんだ?」ハブが率直に尋ねると、少女は少し困ったような表情を浮かべた。
「だって…これを使えば、もっと強くなれるって聞いたから…。でも、全然思った通りにいかなくて…。」
少女の言葉を聞いたシノカは、大きなため息をついた。「バカな真似をするもんじゃねぇよ。マギデバイスは使い方を間違えると、簡単に命を落とすことになるんだ。」
「ごめんなさい…。」少女は泣きそうになりながら、うつむいた。
エルフは少女の肩に手を置き、優しく語りかけた。「大丈夫よ、これから正しい道を歩めばいいだけだから。まずは無理をしないで、ゆっくり休んでね。」
その姿を見ていたハブは、異世界での初めての出会いに胸を熱くしていた。「この人たち、なんか頼りになるな…。俺も何か力になれればいいけど…。」
シノカはカメラを握り締めながら、ハブに向かって小さく頷いた。「よし、これでカメラは取り返した。とりあえずここにいるのもなんだからこの森を出るぞ。」
森の奥へと進む一行。ハブは先頭を歩くカゼラスを見ながら、小声でシノカに尋ねた。「なぁ、この人って、何者なんだ?」
「カゼラスのことか?彼女はさっきも言った通りエルフだよ。魔法や知識に長けた種族で、この世界じゃエルフ族ってのは特別な存在なんだ。」
「へぇ、やっぱり普通の人間とは違うんだな。」ハブは少し感心しながらカゼラスの背中を見つめた。その優雅な歩き方や静かな佇まいに、どこか神秘的なものを感じていた。
森を抜けると、そこには木造の立派な家が現れた。草花に囲まれたその建物は、魔法で守られているかのような安心感を与える。
「ここが私の家よ。どうぞ中へ。」カゼラスがドアを開け、一同を中に招き入れた。
家の中は木の温もりとほのかな香りが漂い、どこか懐かしさを感じさせる空間だった。本棚には古い本や魔法の道具が並び、窓からは柔らかな光が差し込んでいる。
「それで、自己紹介をしましょうか?」カゼラスが椅子を勧めながら提案した。
「お、俺からいいか?」
ハブは聞いた
「俺、ただラーメンを食べてたら、この世界に来ちゃったんだ。訳が分からないけど…。あと…」ハブは少し自信なさげに言いながら頭を掻いた。
「この兄ちゃんはラーメンってもんが食べたいみたいだぜ」
思い出したのかのようにハブの話を遮ってシノカが言う。
「あ、まあそうだな、まあ一旦自己紹介の続きをしよう」
ハブが言う。
カゼラスは静かに語り始めた。「私はカゼラス。この森に住むエルフで、自然や魔法について少し知識を持っているの。訪れる人を助けるのが私の仕事みたいなものね。」
ハブはその言葉に感心しつつも、少し戸惑いながら尋ねた。「助けるって言っても、こんな世界でどうやって生きていけばいいのかも分からない俺を、本当にどうにかできるのか…?」
「あなたが本当に何も知らないことは分かっているわ。」カゼラスは微笑みながら返し、続けた。「でも、この世界のことを少しずつ知っていけば、きっと答えが見つかるはずよ。」
その後、カゼラスが興味深そうに尋ねた。「ところで、そのラーメンってどんなものなの?」
ハブは一気に元気を取り戻し、情熱的に説明し始めた。「ラーメンっていうのは、スープが命なんだ!透明感があってコクが深くて、麺はしっかり歯ごたえがあって…。ネギやチャーシューも欠かせないよ!」
その説明を聞いていたカゼラスは微笑みながら言った。「分かったわ。それじゃあ、試しに作ってみるから、ちょっと待ってて。」
彼女は早速キッチンに向かい、異世界特有の食材でラーメン風の料理を作り始めた。木の実を潰してスープにし、魔物の肉をトッピングとして調理する。一方、シノカも小さな手を忙しなく動かし、調理道具を駆使して手伝っている。
「できたわ!これが私たちの世界で作れるラーメンよ。」カゼラスがどんぶりをテーブルに置き、一同に手渡した。
湯気を立てるスープは見た目は悪くない。ハブは期待を胸に一口すすり込んだが――すぐに顔をしかめた。「うわっ…これ、俺の体には合わない…!」
彼はそのまま外に駆け出し、吐いてしまった。その後、顔を真っ赤にして戻ってきたハブは、カゼラスに頭を下げた。「ごめん!でも、本当に俺には無理だった…。」
カゼラスとリリカも同じ料理を試してみたが、二人とも微妙な顔をした。「うーん、悪くはないけど、これがラーメンって感じではないわね…。」
「異世界から来たあなたには、きっと体に合わなかったのね。」カゼラスは優しく言いながらハブの肩に手を置いた。
その後、話題がマギデバイスに移ると、シノカが得意げに話し始めた。「よし、俺の出番だな。マギデバイスってのは、精霊ロボットである俺が作る特別な道具のことだ。」
「精霊ロボット?」ハブが尋ねる。
「そうだ。俺はもともと精霊なんだ。それをカゼラスがこの体に入れてくれたんだ。」
「すごいな。でも、なんでそんなに大事なことを俺に教えてくれるんだ?」ハブが疑問をぶつけると、シノカは肩をすくめた。
「カゼラスが言っただろ?お前がこの世界に来た理由を知るためには、この世界の仕組みを教えてやる必要があるんだよ。」
一通りの話が終わった後、リリカが少し緊張しながら口を開いた。「もし良かったら…お兄ちゃんたちと一緒に行ってもいい?」
その言葉に、ハブは一瞬驚いたが、すぐに笑顔で答えた。「もちろんだよ。一緒に行こうぜ。」
「ありがとう…。本当に感謝してる。」リリカの顔には安堵の表情が浮かんでいた。
カゼラスは全員を見渡しながら提案した。「ハブ、あなたがこの世界に来た理由を探るには、魔法教会がいい手がかりになるかもしれないわ。」
「魔法教会か…分かった!そこに行けば何かわかるんだな。」ハブは少し自信を取り戻したように頷いた。
「よし、じゃあ明日から行動開始だな!」シノカが元気よく声を上げる。こうして、一行は次なる冒険の準備を整えた。
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