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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女の行先

作者: ミディア寝子

 とある日、神の隣で小さな命が誕生した。

 幼い命を神は大切に扱い、神と同じ性質の命を兄妹のように愛した。

 性別はないものの、命は大きくなるにつれ可愛らしい少女のような外見へと成長していった。

 少女を神は妹のように思い、少女のための楽園(セカイ)を与えた。


 歳を取らぬ少女は、何千年もの間1人で楽園(セカイ)にいた。

 世界を治めていた神は、少女を気にかけてはいたが、あまり構うことはできないでいた。


 少女が初めて得た感情は、孤独。

 忙しい神に比べ、特にすることもない少女は1人で退屈していた。


 ある時、久々に手の空いた神が、少女のもとへ訪れた。

「あまり構ってやらなくてすまない。何か欲しいものはないかい?私にできるのはそれぐらいだが、できることなら叶えてやろう」

 神からの提案を喜び、少女は何がいいかと考えた。

 退屈しない何かが欲しい。

 共に遊んでくれる物が欲しい。

 それを聞き、神は大きく頷いた。

「分かったよ。お前と共に遊び、お前を大切にし、お前を守る者を作ろう」

 そう言って、神は2体の生き物を作った。

 雄と雌。これならば、この者たちの寿命が来ようとも子孫が少女を守れるだろう。


 初めての友であり、仲間である生き物を少女は大切にした。

 少女は2体から沢山のことを学ぶ。

 楽しさ、怒り、そして悲しみ。

 2体が寿命を迎えた日、少女は涙を流し、命というものを知った。

 寿命の無い彼らは脆く儚い者だと。

 自らを守り、大切にしてくれた彼らを、己も守らねばならぬと決心した。


 何年、いや何百何万もの年が経ち、彼らの子孫は少女の楽園(セカイ)に一つの国を作った。

 少女を神と崇める彼らは今もなお、少女を守っている。

 少女もまた彼らに加護を与え、大切にしていた。


 ある年に新たな王が選ばれた。

 王になることは容易では無いものの、資格は誰にでも与えられていた。

 新たな王になった男の動機は、少女に恋をしたからだった。

 数年に一度の建国祭。その時、男は初めて神とされる少女を見た。

 一目見て恋に落ちた男は、少女と会う方法、話す方法を模索する。

 そこで気がついたのが、王座。

 王であれば、少女のすぐそばで仕えることができ、会話も可能だ。

 恋の力だけで王座に上り詰めたものは前にも後にもこの男だけだろう。


 ただ、恋をしたというのは、男の勝手だ。

 少女にとっては、男は加護するものの中の1人にすぎない。

 どれだけアピールされようとも、恋愛対象にはならないのだ。

 そもそもの話、寿命の無い少女にとって、男は最近産まれたばかりだ。

「貴方を愛しています」だの、「僕だけを見てください」だの言われたところで、無理なのだ。

 何万もいる加護する者たちを一人一人見るなど、不可能だ。

 断るたびに男のはしつこくなり、少女を自分のものにしようと、手段を選ばなくなっていく。


「そうだ、他の者がいるから駄目なのだ」

 そう感じた男はついに、国民を身近なものから殺め始めた。

 少女と関わりのある側近、女中、城仕えの者……

 何の罪もない者たちの血が流れていく様を見て、少女は怒り狂い男を自らの手であの世へと誘った。

 男は最後、死に際に少女にこう言う。

「…ふっ、貴方の手にかけられて…死ねるとは、きっと、僕を忘れられなくなる。……僕が、最初で最後の………貴方に殺された男だ。…悪くないな」


 男は何十もの罪なき者を殺めたとはいえ、国王だ。

 ましてや、国民が国王の悪事を知る由もない。

 国民たちは真実を知らず、少女に矛を向ける。

 国王は少女が殺めた。何も悪くないのに…

 同族を殺されたと言う事実に、国民たちは警戒し始める。


 国王を殺害した…神ではなかったのか?…寿命がないのは…

 魔女なのではないか?…そういえば、最近行方不明者が……

 あれも魔女の仕業……国王はそれに気がついて……殺された


 憶測が真実となり、国民に広まった。

 最早、少女を守るはずだった者はおらず、少女を狩ろうとする者のみになる。

 少女にしてみれば、皆を守った結果がこれなのだ。

 もう守ろうとは思うまい。


 それからと言うもの、少女を神と崇める者は消え去った。

 少女が民を守ることもない。

 疫病が流行ろうが、加護を与えず…病は魔女のせいだと言う言葉を聞き流す。


 楽園(セカイ)は今や蹂躙されている。そう感じた少女は、心の奥底で叫んだ。

「この者たちはもういらない」

 …と。

 その想いを知った神は、すぐさま彼らの寿命を取り上げた。

 後に残ったのは、死体の山。


 楽園(セカイ)を掃除しながら少女は考える。

 結局私は違う生き物なのだ。

 国王の無実を何の疑いもなく信じたのは、同じ種族であり、仲間だからだ。

 私は彼らの神ではなかった。本当の神ならば、こうはならなかっただろう。



 ある時、久々に手の空いた神が、少女のもとへ訪れた。

「あまり構ってやらなくてすまない。あの子たちのことも、お前を傷つけてしまった。何か望みはあるかい?私にできるのはそれぐらいだが、できることなら叶えてやろう」

 その言葉に少女は気がつく。

 “あの子たち“

 神は、神は私ではない。

 彼らの親は神であるお前なのか…!


 神に向かって少女は微笑んだ。

 私の望み、私の望みはね…

「うん?なんだい?」

 神になること!

 そう言って笑顔のまま少女は神の首に手をかけた。

 貴方がいたら叶わないの。

 じわじわと手に力を込め、神の座を勝ち取った少女は邪悪な微笑みを浮かべていた。


 今までの神が治めていた世界。

 彼女の箱庭となった世界。

 絶えず争いが起きる世界では弱肉強食が唯一のルール。

 少女は、ただ傍観するだけだ。


 誰が新たな希望の光となるのだろうか。

 邪神に乗っ取られたと、誰が気づくのか。

お読みくださりありがとうございました

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