表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
97/97

13 闇の中で蠢く

 つかれたから寝る。

 と言って、サクラ君は適当な休憩テントを借りて休みに行ってしまった。


 ここから地上へ出るにしても、半日はかかるので僕らもここで一泊することになった。

 原獣の脅威は本当に消えたようで平和そのもの。魔物避けの結界もあるし、ぐっすり眠ることができた。


 ……とはいっても。


(睡眠とかロクにしたことないけどね……)


 寝ようにも、熟睡にはほど遠い。居眠りと同じくらいの浅い眠りから覚めると、まだ周囲のテントも寝静まっていた。


 脳はいつも通り冴えている。疲労の名残など欠片もない。

 そも、この身体は疲労という概念から程遠い。

 常に最高の状態を維持しているのだ。これは僕の意志ではなく、生まれた時から備わっている機能だった。僕にとって睡眠とは休息ではなく、単なる「暇な時間」に過ぎない。


 枕元に置いていた眼鏡をかけ直し、散歩がてらテントから出る。

 ふと、昼間に診た患者たちがいるテントを見て──


(容態良好。向こう三時間は起きる気配ナシ、と)


 本人たちの様子を直接確認するまでもなく、そんな「知識」が湧き上がる。

 それを自覚して、しまった、と自己嫌悪する。


「……いやいや、一応、ね」


 何を妄想と予想で満足しているのか。

 それで「診察」を終えようとした意識に活を入れて、患者用のテントを見に行く。そこに並べられた四人の顔色を伺い、本当に体調良好だな、と確認してからその場を後にする。


(……また順序が逆だ)


 確認してから安心するのではなく、「解っていたから」安心する。

 同じような経験を、もう何度もしてきている。未知から既知にするのではなく、既知を確認する行い。これは──他と僕とを、確実に分けている一線だ。


 死なない身体。

 なんでも知っている知識。

 人はそれを完全だと言うが、成長の道から外れた生命など意義を失っている。


(……あれ、でも)


 今日ひとつ、分からないことがあった。

 あの原獣だ。

 原初の混沌から生まれたという原生生物──僕は、アレについて()()()()()()()()


 その感覚に似たものを知っている。サクラ君の言葉をなぞることになるが、あの不可解さは、初めて遺生物を目の当たりにした時とおんなじだ。


 新鮮な未知。知識にない研究対象。

 そういった感覚が興味深くて、夢中になったことがある。

 助手たちには呆れられたけど、あれほど充実した研究期間はそうなかった。


「……なんかなぁ」


 別に自分を天才だ、と口ではいくらでも言うけど、本心ではそこまで本気じゃないし。

 ズルというかチートというかバグというか。

 知りもしない特権を勝手に使っている感覚に、申し訳なさを覚えている自分がいる。


 ──こんなことに使うべきものではないのに。

 ──他にもっと使うべき道があったのに。

 ──それが何だったのか、()()()()()()


 忘れているのではない。そもそも何かを忘れたことなんて一度もない。


 生まれる前に何かを落としてきたような。

 役割、役目、使命、義務のような──大切な何かを、取り落としてきたような感覚。


 「知識」が浮かぶたび、振り返る。

 「不死」に苛まれるたび、首を振って進み続ける。


 先は長く果てしない。

 ああ──だけど。


──『■■■■■』


 一つだけ。

 やるべきことがあることを、まだ覚えている。



「──?」


 拠点フロアを歩いていると、まだ灯りのついているテントを見つけた。

 あれは……調査隊の作戦テントだろうか? みんな、まだ寝ていなかったのか。

 それとも何か、原獣以外で問題が──?


『──帝都の方で混乱が広がっているのは間違いないだろうな』


 ノクスさんの声だった。


『前皇帝の遺言だと明かしているのは大きい。皇族は自決しろと言っているようなものだ。それは現帝国体制の崩壊を意味している。近いうち、内部派閥で何が起こるか、誰も予想できん』


『……いつかは来ると思っていたさ。上層部、貴族連中、皇族派閥、どいつもこいつも腐り落ちてるのは二十年前から知ってる。だが……はぁ、まさか皇帝自身がその引き金になるとはな……』


 もう一人の声はオルステッドさんのようだ。

 冒険者同士の情報交換、ってやつだろうか。


『かつて、大貴族だったお前を切り捨てた相手か。しかし時の流れで済ませられるような復讐ではあるまい。だから()()()()()なんてやっているんだろう、オルステッド?』


 ごめんちょっと待って今なんて?

 退散しようとしていた足を止める。僕はそろりと、テント近くに積んであった木箱の陰に隠れて、二人の話に耳を澄ませた。


『「銀の黎明団」……お前たちの目的は、今の帝国そのものを揺るがす真実の暴露だろう。大帝国時代から秘密裏に続けられている研究──それは、』


『ノクス。他人(ひと)の悪心を煽るクセは治ってねぇようだな? それにその研究は、巷の都市伝説だ』


『本当にそう思うか? だったら何故こんな所に何年もいる? お前が求めていた成果はまさに今日、得たものではないのか?』


『……』


 ……オルステッドさんたち革命軍の狙い。

 それで今日、得た「成果」といえば──原獣?


『原獣を生け捕りにしようとして失敗したんだろう。だから俺に救援なんて求めてきた。俺は倒してしまったことを謝罪するべきか?』


『……いらねぇよ。一目見た時から、アレは俺たちの手に負えないモンだと気付いた。あのサクラって奴の言う通りだ。超抜存在の眷属──一筋縄じゃいかねぇ相手らしい』


『対抗するなら最低限、人理兵装を持つ者をスカウトするべきだな。まぁ、そんな者が野良に転がっているなどあり得ないが』


 無言で僕は顔を覆う。

 いる、いますノクスさん。まさに貴方が! スカウトした! サクラ君って奴がぁ──!! めちゃくちゃやってる人理兵装所有者だよぉ──う!!


 野良に転がってる兵装持ち、サクラ君!

 物凄いパワーワードだ。世界遺産が散歩してるようなものだよ! 世界って在り得ないことだけで出来てるなぁ!


『……ノクス。てめえはあの原獣がなにか知っていたな』


『お前の見立ては正しい、オルステッド。俺を呼んだのも神がかり的な英断だ。確かに俺はあの原獣の主が何か知っているし、いくつか対処法も知っている』


『ッ! なら──!』


『だが』


 ゴト、とグラスを置いたような音がした。


『友人を死地に送り込むほど、俺は自分を失っていないつもりだぞ』


 打ったような沈黙。

 その時、オルステッドさんはどんな顔をしていたのだろう?


『先に進む覚悟も、ここで手を引く覚悟も同価値だ。誰も()()()()を責めはしない。超常的な存在に対抗できるのは同類だけだ』


『──愚問だな』


 そこで僕は、あのテントの中にいる気配を数え終わる。

 話しているのは二人だけだが、オルステッドさんの周囲には──調査隊、もとい革命軍のメンバーが集まっていた。


『人外同士の戦いは人外だけでやればいい。ああ、化物合戦なんて管轄外だ、馬鹿馬鹿しい。なら俺たちが行く戦場は一つだけだ。陰謀巡らせ、裏で高みの見物決めこんでる阿呆を引きずりだす──人類側のいざこざを制圧する。革命軍はそのために組織したんだからな』


『……そうか。そこまで言うのなら──そこまで意志が統一されているのなら、もはや俺から送る忠告はない』


 諦めたように、溜息を吐いたようだった。

 どこか呆れたような眼差しをする、ノクスさんの顔を思い浮かべる。



『知っている限りだが……超抜序列、第五位について教えよう』



「……」


 僕は、そこでそうっとテントから離れた。

 その先の話を聞く必要はなかった。気配を殺し、闇に紛れ、自分がいるべき場所へ戻っていく。


 なぜならそれは、とうに「既知」だったのだから。



     ◆



「さっき、“超常的な存在に対抗できるのは同類だけ”……っつってたがよ」


 ──情報の交換が終わり、完全に二人だけが残されたテント内で、椅子に座ったオルステッドは最後の疑問を問うた。


「それは……お前がスカウトした連中は例外ってことか? あのドクターも?」


「あぁ、最近の者は知らなくて当然だな」


 テントの出口で振り返ったノクスは、意外そうな顔一つせずに答える。


「──彼は冒険者カルキ。『死終の塔』先遣隊の唯一の生還者。たった十年の活動で、失われていたこの大陸の地図を作製し……今の冒険者活動の基礎を築いた第一人者だよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ