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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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10 神竜の洞

「付き合わせて悪かったな」


 ──ノクスさんとの交渉の後、不意に隣のサクラ君がそう言った。


 人々が街の復興を進める中、僕らはそれに混じって手伝いに従事するアガサちゃんを眺めていた。勝手にどこかへ行かないか、変なトラブルに巻き込まれないか見守っていたのだが、悪魔の気配がごっそり消えている今の彼女は気の良いお手伝いさんとして溶けこんでいた。順応力の底知れなさを感じる。


「『死終の塔』にお前が行く必要性はなかった。すまない」


「? えーっと……」


 ああ、と少し考えて思い出す。

 サクラ君にとっても悪くない取引に、わざわざ僕を巻きこんだことを謝罪しているらしい。まあ確かに、ちょっと強引な手ではあったけど……?


「別に僕は構わないよ? どうせ行く先も決めていなかったし。というか、どうにか理由を付けて君たちについていこうと思っていたくらいさ」


「……そう言ってもらえるのは助かるが……」


「なんだいなんだい水臭い! 僕とサクラ君の仲じゃないか! 人生の先達として、大いに頼ってくれて構わないとも!」


 軽く肘で小突くが、サクラ君は暗い面持ちである。

 うーん? なにかなこの空回ってる感。意思の疎通が若干ズレている気がする。


「……正直、今この大陸で、一番信用できるのはお前やヴァンくらいだ」


「ほう? それは光栄だね」


「アガサの記憶障害がいつまで続くか分からない以上、他に頼れるアテがない。()()()()()()()()()()()()


「──、」


 そこでようやく理解した。

 ──まったく、一切、表に出していなかったが。

 ……彼は今、物凄く、かつてないほどに、()()()()()()()()のではないか。


 二度目の見知らぬ土地への訪問。

 絶対に回収しなくてはいけない人理兵装。すなわち世界の危機。

 周りには敵と断定するほど信用ゼロの二人組。

 ──そこへやってきた、僕という顔見知り。


 ……アガサちゃん本人が平然としているから気が付かなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、など。


 いや、まあ。

 それこそ余計な勘ぐりかもしれないし、僕の勘違いかもだけど────


「……ふむ。サクラ君、けっこう今、かなりキツイ?」


「ぶっちゃけ無理」


 わぁい、とさしもの僕も顔が引きつった。

 真顔でそんな即答されたら、何も言えないって。


「なんでアガサが記憶失ってるのか理解の外だし、人理兵装なんてどこにあるか知らんし、テロリスト馬鹿二人はどこ行ったかだし、あの天使は何だったのかだし──アルクス大陸マジで怖い」


「うん。よく言ったね」


 言ってる内にしゃがみこんだサクラ君の背をぽんぽん叩く。

 いくら強いとはいえ、彼の精神は突出して狂っているわけでも頑強すぎってわけでもない。平凡や普通、とも言えるほどの構造ではないだろうが、一つ一つ受けるショックは決してゼロではないのだ。


 傷つかない人なんていないのだ。

 それがどれだけ、隔絶した人となりをしていようと。


「……(ここ)は、疲れる」


 はあ、と大きく溜息を吐くサクラ君。

 今の彼は、とても人間らしかった。


     ◆


 翌日。

 宿に一泊した僕たちは、朝から悪い知らせを聞いていた。


「真っすぐ迷宮に行ければよかったんだがな。やはりそう上手くはいかなかった」


 そう食堂の席で話すのはノクスさんだった。

 僕の左手に座ると、対面にいるサクラ君とアガサちゃんへ一通の便箋を差し出す。


「……救援依頼?」


 中身に目を通したサクラ君がそう呟く。

 横から覗き込んだアガサちゃんが続ける。


「他の冒険者から? なんで?」


「お前たちを迷宮探索に連れていく条件として、ギルド側からその依頼の遂行を任された。適正試験のようなものだな」


 あー、そうなったか。

 ギルドからすれば、『死終の塔』は挑戦者の死が確定している魔窟だ。貴重なZランクが失われる前に、有効活用しとこうっていう魂胆だろう。


「救援場所は?」


「『神竜の(ほら)』。深部はS級にも匹敵する調査途中のダンジョンだ。下層に潜れば潜るほど多くの魔物が潜み、油断すればAランクだろうがSランクだろうが命を落とす」


 僕の問いに答えるノクスさんは神妙な面持ちだ。ベテラン冒険者として、その危険度が身に染みているのだろう。

 が。


「そうか。じゃあさっさと片付けよう。他に注意事項や必要物資はあるか?」


「……」


 サクラ君はまるで散歩にでも行く平常テンション。横のアガサちゃんも「どんなトコかなー」と観光気分のようにさえ見える。

 僕は肘でノクスさんを軽く突っつく。


「ノクスさん、ノクスさん。心配しなくてもこれが彼らの通常運転だから。『死終の塔』の前座クエストくらい、余裕でクリアできなきゃ勧誘した意味がないじゃないか」


「……そうだな。まぁ、ただ者ではないことは解っている。『開拓の使者』の実力、見せてもらおう」


     ◆


 『神竜の洞』は、洞窟系ダンジョンだ。

 主にアルクス大陸の西中央の地下に根をはる巨大迷路。或いは通路。


 その成り立ちは神代大戦にまで遡り、炎竜エリュンディウスが引き起こした「炎の七日間」を生き延びるため、地上の人類が築いた最後の生存圏──とも。


 まぁ、規模があんまりにも大きいので、果たして本当に当時の人類が造ったのかどうかは疑問視されているけど。そこら辺は歴史の謎の一つである。


 さて、第一都市アリアの北門から少し西に進み。

 やってきた洞の入口付近はかなりの賑わいだった。戦士や鉱夫を始め、駆け出しらしき若者たちが集団で話している様子がちらほら見える。


「ふーむ、まさにダンジョン入口! って感じの空気だねぇ」


 昔はそうでもなかったんだけどなぁ。

 今や一攫千金求めて、腕に覚えのある者や、謎と浪漫を求める冒険家たちの巣窟か。


「あまり長く放置すると、洞から魔物が出てくる事もあるからな。前は定期的にギルドの者が処理していたんだが、最近は最下層や人理兵装の噂もあって人口が増加している」


「流行ってやつだ。なぁなぁサクラ、あっちの綿菓子ってやつ食べたい」


「高いからダメ」


 自由人な二人はさておき。

 事前に準備は済ませておいたので、ここの屋台並びでやることはない。一直線に、僕らは洞窟入口へと足を運ぶ。


「今回はギルド側から同行者が二人いる。もう着いている頃だと思うが──」


 見えてきたのは、ぽっかりと洞穴の口が空いたような入口付近。

 そこで誰かを待つように佇む男女のペア。こっちを見つけた男の方が、軽く片手を挙げた。どうやら同行者とは彼らのようだ。


「時間通りだな、ノクス。って、そっちは昨日の……?」


 後ろで一つ結びにした赤髪が特徴的な青年は、見たことがある。というか隣の少女も覚えがある顔だ。

 それは昨日の天使撃退戦で、僕らが来るまでノクスさんと共に戦っていた冒険者たちだった。


「ああ。しばらくパーティを組んだ。今回もおまえたちと同行する。構わないな?」


「ノクスさんの決定に逆らう冒険者はいませんけど。その剣士さんはともかく、他の二人は使えるんですかー?」


 黒髪をツインテールにしている少女は僕とアガサちゃんを、その好戦的な目で見つめてくる。どうやって殺そうカナ、という気配の在り方は、なんとなく、あの「D」と名乗る殺人犯と似たようなものを感じざるをえない。


「私はアガサ! 特技は記憶喪失と銃撃と自己再生! よろしく!」


「僕はジェスター! 特技は治療全般、斥候役! よろしく頼むよ!」


「こんなのでも戦闘経験と人生経験は豊富な連中だ。まあ、上手く使ってやってくれ」


 サクラ君の優しいフォローがしみる。

 でもアガサちゃん、特技の「自己再生」ってなに? 僕的には不穏だね?


「足手まといにはならない、ってことか。俺はアイザック。こいつはマインな。あんたは?」


「サクラでいい。短い間だがよろしく頼む」


 アイザック君の差し出した手をサクラ君が握り返す。ラグナ大陸には握手の文化がないようだが、そろそろ彼は慣れてきたらしい。


「それじゃあ行くぞ」


 ノクスさんを先行に、かくして僕らの洞窟探索が始まった……!


     ◆


 洞窟に踏み込むと、独特な魔力の気配を感じる。冷ややかで、この場所だけ時間が停まっているような感覚だ。アルクス大陸にあるダンジョンの中でも、最も身近で最も古い迷宮通路は、その実、歴史から忘れられた広大な一つの遺物なのである。なにせここは人が造ったものではなく──


 ──……と、また意識が途切れかけていた。

 なんだか身に覚えのない情報をキャッチしていたようだが、これは僕の長年の悪癖だ。


 人は物を見た時、いちいちその製造工程なんか、専門家でもないと意識なんてしない。

 だけど僕は昔からそうだった。既知か未知に関わらず、自然と()()()()()から出展不明の情報を考えてしまう。


 ……いや、正確には「考えている」という感覚すらない。近いのは、無意識的に行ってしまう妄想、だろうか。しかし妄想だとしても、僕がこの時に取得する情報群は、ただの一度も、嘘やでたらめだった覚えがない────


 学習した覚えのない知識、

 記憶した覚えのない情報、

 それは普通なら妄想癖の一言で終わるだけの病状だ。


 若い頃はなるべく口を閉ざすことでこの悪癖を隠し、今となっては千年分の経験を活かして、どうにか表には出さないよう常に努力しているが。


 ……ああ、それでも僕の頭は、知らない知識は語り掛けてくる。


 思い出せ。理解しろ。

 でなければ貴様には一片の価値もない、と。


 覚えのない衝動は、「不死」と同じく、僕を千年悩ませてきた隣人だった。



「一度ここらで休憩とする。五分後には中層に潜るぞ」


 そう言ってノクスさんが立ち止まったのは、中層手前の休憩スポット。

 これまで何度もここまでやってきた冒険者たちが造り上げてきたのだろう、ぐるりと円形に岩壁で囲われたホールには、焚火の跡や、ここを半ばねぐらにしている浮浪者たちの姿があった。


「うーん、恐ろしいほど順調でしたね。魔物も大して出なかったし……不気味なほど静かっていうか? お三方、誰か魔物避けの加護でも持ってます?」


 そう尋ねてきたのは、殿としてついてきていた、マインという冒険者少女だった。

 僕はちらっとサクラ君とアガサちゃんの方を見る──彼らの雰囲気は、ただそこにいるだけで少し異様だ。ノクスさんもノクスさんで強者のオーラを持っているが、それは自然体なものではなく、戦う時と普段で切り替えているタイプのものである。


 が、この黄金の魔境生まれたちは、存在感からして「異様」だ。


 下級の魔物からしたら、歩く災害にも等しいというか。歩く「死」そのものというか。

 そりゃあ、浅い階層の魔物たちは彼らから逃げるように隠れ潜む。おかげで静かなスタートだった。


「加護というのは知らんが。アガサが忙しなく動き回ってたからじゃないか?」


「洞窟=採掘=鉱石──という図式がなぜか頭から離れなくてな! 見て見て、良い感じの棒と石を見つけたよ」


「気が抜けるお嬢さんだなぁ……」


 苦笑を漏らすアイザック君には内心同意する。

 記憶喪失の影響か本人の素の性格か、またはその両方のせいかは分からないが、ここまでの道中のアガサちゃんは完全に洞窟探検を愉しむ幼児であった。


 まぁこの洞窟、上層でも壁をよく見ると白骨死体が埋まってたりするから、初見さんはあちこち興味を惹かれるものなのだろうけど。


「そんな石と棒で何が出来るんですか? 飛び道具?」


 石と棒、とマイン少女は言うが、アガサちゃんが持っているものはそれなりに良い素材だ。

 手の平サイズもある黒い魔石は換金すれば一万ぐらいするだろうか? 灰色の棒きれの方は色々と混じっているが、ミスリルっぽい輝きが見て取れる。


「くっくっく、これをこうしてこうだよ」


 アガサちゃんが棒を地面に突き立てると、そこに魔石をかざす。

 と、黒い光が起きたかと思うと、そこには真っ黒な──ハルバードが一振り、錬成されていた。


「我が深淵なる黒斧、ブラックキャリバー!!」


 ててーん、とアガサちゃんがハルバードを掲げる。雑なネーミングを感じる。


「「え゛」」


「斧でいくのか」


「洞窟で銃声は危ないっしょ? 手ぶらでいくのも冒険感ないしなー」


 錬金術初見勢が絶句しているが、サクラ君とアガサちゃんは気にした素ぶりもない。

 ここは有識者たる僕がちらっとフォローしておくかな。


「相っ変わらずワケ分かんない技術だねぇ……」


「……アレは異邦の?」


 横にやってきたノクスさんに、うんと頷く。


「『錬金術』って言ったかな。エーテルをあーだこーだする技術なんだってさ。彼女、記憶喪失ではあるけど、知識や能力はなんとなく覚えてるみたいだね」


「……錬金術……」


「おや、もしかして知ってたりする?」


 Zランク冒険者の情報網に軽く期待してみたが、いいやと首を振られた。


「初耳だ。だから驚いてる。しかしそうなると、天使戦にいた女と子供も同類か」


「ああ、あの飛んでた奴か! あいつらはどうしたんだ……?」


 アイザック君の問いに、サクラ君は冷たい表情をまったく変えなかった。


「逃げた。見つけ次第、殺した方が世の為だろうな」


「逃げっ……え、仲間じゃねぇの……?」


「違います」


 ……アレを仲間とするなら、世の皆とは友達になれるかもしれない。僕としてもそれくらいの印象だ。直感と本能の全てが言っている。あの二人のことは信用した方が負けだと。


 しかし彼ら──今はどこで、何をしているのだろう……?



 お知らせ。真の第1話にして0話を投稿しました。

 終末戦争の終わり、サクラが見たもの。起点のお話。

 他、既存1~5話まで加筆・修正いれたのでよろしくお願いします~

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