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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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07 地上の天使

「門は完全に閉じられています。内側から結界らしきものが張ってあるので、外からの侵入は困難でしょう」


 足早に街の関所まで向かうと、テレーゼさんがそんな分析結果を報告してくれた。

 ……衛兵の姿もない。守りを結界任せにしている辺り、かなり状況は切羽詰まっているようだ。


「ジェスターが空から降ってくることになったの、これのせいかもな」


「え、そうなの?」


「結界は基本的に『外界を弾く』ものだろ。それに転移、座標移動なんて技術があるなら、結界の精度も更に上がる。魔法使いは厚意でお前を送り込んだんだろうが、それをこの街の結界が弾いてしまっていた……とかな」


 じゃあ僕のスカイダイブは事故だった可能性があるワケか。悲しい。

 アルベルト君が小型爆弾らしきものを手に現出させる。


「派手に吹き飛ばすか」


「索敵って言葉を学習し直してこい。わざわざエルフが()()()()()()()辺り、相当厄介なものがいる可能性がある」


 閉じこもっている……すなわち、敵を閉じ込めている、か。

 思えば、この前まで王国もそうだったっけ。ザカリーが展開していた大規模結界によって、遺生物は閉じ込められ、逆説的にアルクス大陸は守られていた……という。


「うーん……でもこの結界、条件を満たせばちゃんと入れそうだよ?」


「条件?」


 うん、と僕は閉じられた門扉に手を当てる。

 結界の入口。つまり、門の錠前部分だ。


「これはよくある、『限定下において強力な効果を発揮する結界』さ。ルールに則って通ればペナルティは受けない。今回の場合は……」


「門、ですね」


 するとテレーゼさんの手に、光……いや、エーテルが収束した。それは一つの物質を形作り、一瞬で錬成が完了する。


「鍵を開ければ結界は反応しない……初歩にして基礎。しかし対錬金術師相手では、脆弱セキュリティと言わざるを得ません」


「錬金術、便利すぎる……」


「これだからラグナ大陸の錠前は秒間変化式が主流だな」


 初めて聞いたそんな単語。あとなんでアルベルト君が自慢げなんだ。

 ガチャリ、とテレーゼさんが門の錠……その手前の空間に鍵を差しこむ。結界の術式が彼女には見えているのか。すると閉ざされていた樹木の門は一人でに開き、僕たちを歓迎した。


     ◆


 燃えている。

 どこもかしこも燃えている。


 踏み込んだ街中は、あちこちに火が回っていた。消火活動の痕跡もなければ、住民の姿もない。もう、どこかに避難しているのだろう。


 レルレーン領土、第一都市アリア。

 そこに広がる本来の風景は、大樹が作り上げた高層住宅街だったのだろう。しかし今、木々の摩天楼は凄惨なまでに燃え続けている。


「これは酷いね……」


 大火災も大火災だ。視界が真っ赤。常人は踏み入れば、空気の熱に肺を焼かれることだろう。

 その点、なぜか当然のようにサクラ君を始め、他の三人も平気そうだけど。


「北西方向の地下に多数の生命反応があります。こちらは避難民かと。もう一つ、ここから北東方面に、五十人規模の生命反応。動きからして、戦っているようです」


「恩を売りさばくチャンスか。余所者らしいイベントじゃねェか」


「お前はさっさと死んでその口を閉じてろ」


 流石にサクラ君に同意見である。だが、戦っているってことは負傷者がいる。僕という医者の出番だ!


「私が飛んで先行します。戦闘に移行した場合は、潜伏しつつ後方支援を行います」


 するとテレーゼさんは手元に白い長杖を出して、飛び立った。

 なんと!? でも火災現場で高所移動は危険では!? え、大丈夫なの? そうなの!? どういう種族なの!? 魔砲少女とは一体……!?


 ひ、ひとまず、テレーゼさんを追いかける。火に焼けていくエルフの街を横目に進んでいくと、どんどん、戦闘音らしきものが近づいてくる。


「一か所に留まるな! 攻撃を分散させろ! 仲間の死を無駄にするな……!」


 そんな空気を裂くような兵士の声。

 地面に倒れ伏した亡骸の数は、凄惨かつ絶望的な戦いの存在を示している。


「なんなんだアレ? 魔物ってか、ゴーレムの一種か……!?」


「殺せば分かることでしょ、アイザックさん。まぁ殺せるか以前に、生物とは思えないケド……」


「くっ……冒険者諸君、加勢は有難いが、引き際を見逃すなよ……!」


「気にするな。どの道、この街が焼けるのはこちらとしても不便だからな」


 ──一見、その戦闘風景は、ちょっと異様だった。

 剣や槍、盾を構えているのは、数十人規模のエルフの兵士たちだ。

 兵士はこの街の戦力として……それを援護するように立ち回っている武装した三人、エルフには見えない。どうやら冒険者のようだ。


「……ん? もしかしてノクスさん……?」


 見覚えのある立ち姿が一人! カリギュラ伯爵の屋敷で見かけた、黒髪の青年だ! まさかこんなに早い再会になるなんて……!


「ジェスター、アレもこの大陸の魔物なのか?」


 サクラ君の声で、僕も一番重要な方に視線を向けた。

 彼ら、兵士と冒険者たちが相対している敵の姿を。



『──地上殲滅対象を確認。命令……続行中……』



 それは飛んでいた。滞空していた。

 地上およそ三十メートル付近に、一体の人影。

 白い肢体に、仮面をつけたような顔面。しかして人の気配はなく、その背部には──六枚の機械で出来たような細い翼が、生えていた。


 ──天使。


 不意に、そんな単語を思いつく。

 だがアレは……アレは天使を模したような、人形に近い。機械人形だ。


「……なにあれ……見たことないよ。科学兵器の一種みたいだけど、帝国でも大帝国の科学力でも、あんなものは知らないよ……」


「現代の科学者が言うなら間違いないか。おい、アルベルト──」


「──テレーゼ。()()()()()


 金髪の少年が言い放った一言を、処理するのに二秒かかった。

 ……え? 今なんて?


「了解しました。生け捕りにしますか?」


「いや、壊していい。回収、解析できれば御の字だ。クク、いいな新大陸。未知のものが向こうからやってくる……ッ!」


「こいつ……ジェスター、聞いての通りだ。安全なところにいるか、向こうの連中に話つけておいてくれ」


「えっ……えぇ!? ちょ、三人とも!?」


 そこでテレーゼさんの姿が消える。

 前に出たアルベルト君が、その手にライフル銃を生成する。

 苦い顔のサクラ君が、鯉口を切った。

 アガサちゃんは──


「がんばえー」


 ──完全に観衆モードだった。


「いやっ、君は指揮官じゃないの!?」


「へ? 指揮? あんなの、攻撃全部かわして攻撃叩き込むしかなくない?」


「脳筋戦法ッ!!」


 だが──究極的にいえば、戦いはそれが全てだ。

 攻撃なんて、当たらなければどうということはない。

 記憶を失って、反射でそんな最適解を出すってことは……彼女の無意識でも、あの敵にはそれが最善だと結論しているのだろうか……?


『人類脅威度、DからCへ。迎撃機構、アンロック』


「!?」


 その時、天使の翼が動いた。ガチャン、と羽ばたくように変形したそれは、羽のような部分から銃口のようなものが見えた。


「ッ……!? 全員、結界を張れ! 何か来──」


 エルフの兵士たちが防御姿勢を取るが、もう遅い。

 予備動作もなく、次の瞬間、天使の翼からは青い光線雨が発射される。

 全てを焼き尽くす広範囲射撃だ。逃げる術も、逃れる術もない──!


星塵の盾(エスクード)


 しかし閃光の後、光線は防がれた。

 大気に舞う、銀の光の粒子。それがおそらく──僕にはどういう原理か一切不明だが──盾となって、光線を防いだのだ。声からしてテレーゼさんの錬金術、だろうか?


「──ッ? これは──」


「まずは耐久テストからだ。試作044:禍津の呼び笛(ギャラルホルン)!」


 兵士たちが困惑する中、アルベルト君の命令と共に起きた事象に、目を疑った。

 炎の手。

 周囲の炎が、巨大な拳を形作って、天使にストレートを放ったのだ。


「いいぃぃぃッ!?」


 それなんて魔術!? マジックショー!?

 なんて思っている間にも、炎の拳は天使に直撃。ゴリゴリガリガリと、まるで天使の周囲の空間を削るようにして衝突を続ける。


「はーん、周囲の空間をズラして壁にしてやがる。小賢しいな。破壊者なら正々堂々とやれってもんだ」


「無数の迎撃術式を侍らせているお前が言うのか」


 呆れたようなサクラ君のツッコミ。この場においては唯一の心の安寧だ。


「……な……なんだ!? 援軍か!? お前たちは一体……」


「ッ! ああっと、僕僕ジェスター! 帝国の医師です! えっと、困ってるみたいだから加勢するよ! 僕の護衛がね!」


 口が回るな、とボソリとサクラ君からそんな声が聞こえる。褒め言葉として受け取っておこう!

 一方で、僕の台詞を受けた兵士や冒険者たちは、半信半疑な空気感。だが。


「──あの医者は知っている。お前たちは負傷者を連れて退避しろ」


 そこで状況判断が早かったのは例のノクスさんだった。

 おお、歴戦の冒険者って感じ! 僕のことも認知してくれて嬉しいな!


「ジェスター……っ、あの根絶不可と言われた流行病を治した名医か!? 恩に着る! 各員、今の内に負傷した者は下がれ! 動ける者は引き続き私の指揮下で働いてもらうぞ!」


 おー。優秀なエルフの兵士だ。世間でいうプライド高山は嘘だったんだね。地味に僕のことを「名医」と正しく認識されているのも高ポイントだぞ──!


『攻撃無効プログラム、構築。迎撃対象を変更──』


術式看破(インターセプト)


「コード:攻撃機構(メインサーキット)


 炎の拳が消え、テレーゼさんの声の後、ライフル銃を構えたアルベルト君が引き金を引いた。

 ドガァン! と収束したエネルギー砲が紫の光線として放たれる。ライフル銃、見た目だけのようだ!


『損傷、三パーセント……』


 光線は天使の左翼の一枚を撃ち抜き、姿勢を傾かせる。初めて入ったまともな攻撃だったのだろうか、エルフの兵士や冒険者側からも、どよめきの気配がする。


「さ、サクラ君サクラ君っ。アルベルト君って何者なんだい!?」


「前に話した大国を一夜で滅ぼした野生のテロリスト」


 無情な返答に、僕は自分の期待が虚無に散った感覚を覚えた。

 ……あー。

 そりゃあ僕……受け付けないワケだ、ね…………


「またの名を破壊提督ギルトロア。今の姿は、フィールドワーク用だとかいう端末だ」


 ……中身の年齢が違うどころか、本体ですらなかったのかっ!

 どこまで自由だ錬金術師。いや錬金術。

 今はまぁ、その技術に頼るしかないんだけどもッ!


『損傷修復完了。殲滅対象、一掃開始』


 カッと再び開いた翼に、光が収束する。

 高い所から攻撃とか卑怯だぞ! っていうか機械のクセに自己修復ってなにさ! 無駄に防御が固いのもクソゲーだ! そりゃあこんな地獄になるハズだよ!


「社門」


 サクラ君が呟くと同時、光の爆撃が降ってくる。だがそれは、フィールド一帯に現れた赤い門──鳥居の壁群によって遮断された。


「空間位相、特定しました。提督(マスター)


「よくやった。さっさと落とすぞ」


 テレーゼさんと提督少年の周囲に、金色の光が奔った。次の瞬間、提督の周囲には四十丁はあるライフル銃が展開され、天使に狙いを定める。


『量子防壁展開』


「さて、残機はいくつだ?」


 直後、放たれた。

 刹那に天使の姿も失せる。空間転移による回避行動か。しかし銃撃は「何か」に直撃し、煙が晴れた後、遠くの上空をスライド飛行する天使が見える。その四肢は傷こそあったものの、一瞬光ると元通りに復元した。……攻撃、効いたのだろうか?


『永久回路接続モードへ移行。敵対象Aの優先度を再設定。炉心稼働。ブレード使用の申請を許可。データ送信──失敗しました。サーバー情報が確認できません。申請を自動破棄します』


 なになになんて?

 微かに聞こえた機械音声の内容に眉をひそめる。なんか制限解除してパワーアップ? サーバー情報って? こんなのを管理しているモノがどこかにあるの? ああもう、考察にばかり思考がいってしまう!


「──解析した。動力炉が三つあるな。オイ赤神子、ちょっと突っ込んでこい」


「位置は?」


「知らん。強い反応が三か所あるってだけだ」


 それを斬れ、と。

 中々に無茶苦茶なことを言う提督だが、サクラ君に言うのならば、無茶も無茶じゃなくなる。


 現実的には不可能なことが、可能になる。


 だって彼は、それができることを証明してきているのだから。


『殺害機構、稼働開始』


 物騒すぎる機械音声。と同時、再びその姿が失せた。

 空間の揺らぎ。微かな違和感に僕が気付いた時、


「お」


 ──提督少年の姿が吹き飛ばされた。

 直後、どこぞの大樹の虚に突っ込んだのか、盛大な衝突音が聞こえてくる。


「アルベルト君!?」


 ここにきて超超近距離!? ゾッと肌が寒くなるのを感じながら、天使の姿を探そうとした時、


「危ない」


 素早くアガサちゃんに首根っこを掴まれた。

 と、すぐ目の前を強風が通って、それがただ通り過ぎただけの天使だと分かるまで約三秒。


『対象Aの生命反応、途絶。殲滅を再開します』


 輝く六枚の機械翼。

 もう何度目かの広範囲掃射。しかし、それが放たれることはなかった。


「抜刀理論・空斬説」


 きっかり三閃、斬撃がその翼に直撃した。天使が地上に叩きつけられる。

 生成された光線を斬ったらしい。けれども、起き上がった天使の翼はまだ残っている。サクラ君でも斬り落とせていないって、どんな耐久性してるんだ……!?


『脅威反応──』


 紅蓮の剣士は、既に天使へ接近していた。

 至近距離で一人、白刃を閃かせて。


「新月理論・絶華波刃斬(ぜっかはばきり)


 恐ろしい、いやおぞましい量の斬撃が見えた──気がした。

 たった一つの対象を斬り刻むためだけの絶技。

 それ以外の用途を一切不要と断じたような、一撃。


 砂塵ごと切り裂いて、四方からの斬撃華が天使を八つ裂きにする。

 だが天使は人型の原型を保っている。多少、表面に傷がついただけだ。──機械仕掛けの中身が露出する程度の、深い傷跡を負っただけだ。


『損、傷──三十パーセント──』


「頭、心臓、翼の付け根だ。好きに選べ」


 サクラ君が一歩、後退した。

 直後──


「焔剣・火閃」


「《魔導黒壊(メイストーム)》」


 炎の大剣を持った青年と。

 黒い剣を携えたノクスさんが。


 示し合ったかのように完璧なタイミングで接近し、頭部を横薙ぎに炎剣が、翼部分を背後から黒剣が破壊した。


星塵を作れ地上破壊砲レイジング・クリムゾン


 続いて、長距離からの深紅の光線。

 テレーゼさんによる砲撃は、仰向けに倒れようとする天使の胸を貫いた。


「やっ……た?」


 って、言ったらよくフィクションでは敵が復活したりするものだけど!

 けれど完璧な攻勢だった。流石にアレでは生きていま──


『損傷拡大。炉心回路……修復不可──自動爆破機構を展開します』


 え。嘘でしょ?


そういうのいいから(抜刀理論・空斬説)


 間際の機械音声にぎょっとしたところで、サクラ君が何やら一閃。

 ぱきん、と天使内部の「何か」が斬られ、天使から放たれようとした強大な気配が失せる。


 刹那、糸を張ったような静寂。

 稼働を打ち切られた機械人形は、そこで無機物らしく黙って崩れ落ちた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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