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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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06 アルクス大陸いまむかし

 目の前でログハウスが光の粒子に変わり、消える。

 光はテレーゼさんの持つ白い杖に吸い込まれ、それで「収納」が完了したらしい。


「どういう技術なの……」


「錬金術です」


「さ、行くぞ」


 サクラ君、アガサちゃん、アルベルト少年、テレーゼさん、そして僕。

 奇妙な空気感のパーティでエルフの国を目指して歩き始める。旅人一行っていうより……サクラ君たちの圧のせいで、ラスボスパーティ感がちょっと拭えない……さながら僕は頭脳労働担当の、怪しいマッドサイエンティストという具合だろうか。物理に弱そうな役だ。


「ところでエルフの国には何をしに行くんだい?」


「コレだ」


 ピラッと振り返ったサクラ君が一枚のチラシを見せてきた。

 なになに……「エルフ祭」……?


「閉塞至上主義のエルフがやる祭りを見に行く。流石に気になってな」


「ちょっと偏見が入ってない? ていうかお祭りとかあったんだ、あの国」


「燃えてなきゃいいがなァ」


「なんで……?」


 僕の疑問に、ハッとアルベルト君が嗤う。


永命種(エルフ)の里といえば燃えてるモンだろうが」


「補足いたしますと。ラグナ大陸の永命種(エルフ)はその昔、太陽神を信仰していたのです。そのため、よく陽が見える山頂付近に村落を築いて生活していたのですが、陽のよく当たる過酷な環境下ゆえ、木々がよく自然発火し、そのため『永命種(エルフ)の拠点といえば燃えているモノ』というのが此方の大衆イメージなのです」


「凄まじいなぁ! え、移住するでしょそんなの!?」


「いえ、長命種の信仰の固さは短命種間のソレとは比較になりません。それこそ現代では神話と語られることを、実話として語り継ぐ長老もいましたので。なので彼らは年中、燃えている環境で何百年と生活するのが常でした」


「そのまま生活してたの!? 今も!?」


「ラグナロク後の現在、ラグナ大陸に残っている永命種(エルフ)は多くありません」


「あ……そっか、戦争で数が減っちゃったんだ……?」


「違う」


 と、口を挟んだのはサクラ君。


「第一位が顕現する何千年も前、永命種(エルフ)の長が『このまま大陸にいれば種族が滅びる』と予言した。そこで連中は住んでいた領土の山々や森林を切り開き、それを材料に船を建国したんだ」


「船を……建国?」


「大陸を滅ぼす神から逃れるために造り上げた戦艦型国家。生き残りを選んだ大多数はそれに乗って海に渡り、未だに行方が掴めていない。大陸に残った少数の永命種(エルフ)は、終末戦争に立ち向かった英傑だよ」


 ……じ、自分たちの領土を船に作り替えて逃げたっていうのか。

 それまで燃えていようと山頂に留まるほどの信仰心があったのに、それを投げ捨てて海に逃げるほど──彼らは、第一位を恐れた……ということだろうか。


「ん……? でも、海に出たから行方不明って、なんで? 船まるごと国になったんだろう? 連絡ぐらいつかないのかい?」


「……ラグナ大陸の海は、虚数だ。『次元海峡』と呼んでいてな、入ると自己の境界と、次元の境界の境が消えて、廃人化して死ぬ」


「え゛」


「だから後を追おうにも、誰も追えない。虚数の海の航海技術を持ちえたのは、後にも先にも、大陸を飛び出した永命種(エルフ)たちだけだ」


 ラグナ大陸・異世界説。

 というか魔境だ。アルクス大陸と環境が違い過ぎる。


「じゃあ、空は? 海がそんなことになってるなら、空もヤバイのかい?」


「空は」


 ──誰よりも早く、言葉を差し込んだのはアルベルト少年だった。


「空はいい。大気、風、水、光、資源の宝庫だ。高濃度エーテルに満ち満ちた楽園そのもの。暗躍するのに空以上に適した場所はない」


「……参考にしていい意見なのかい、ソレ?」


 僕にしては非常に珍しいことなんだけれども。


 このアルベルト少年、苦手だ。


 天敵って感じがする。背中を見せたくないし、縁というものがあるなら顔を合わせている毎秒切りたいくらいには、なんかイヤだ。


 彼が目の前で瀕死の重体で現れたとしても、無視してしまうかもしれない。

 医者としての仕事を私情で放棄してしまうかもしれない。


 正体とか、真意とか、動機とか、経歴とか、言葉とか。

 ありとあらゆる彼の要素は、「相手にしない」ことが最適解だと直感が告げている。


「サクラは好きな場所ってある?」


「家」


 アガサちゃんの質問に即答するサクラ君だった。

 家って。バリバリの戦闘系のクセして、インドア派なのか。


「殺される心配がないからな。こんな世界の外を出歩きたいと思う奴の気が知れない」


「確かに……私も閉じこもっていれば、記憶喪失にならなかったかもしれないのに……」


「アガサちゃんのは結果論でしょ。サクラ君はその、お疲れ様と言う他にないけれど」


 仕事じゃなかったら、わざわざ世界の危機を救いに来るタイプじゃないんだろうなあ、彼。

 こうして関わってくれているのは、まさに奇跡としか言いようがない状況なのかもだ。


「オイ現地民。訊いてくるならこっちの問いにも答えてもらおうか」


「……なんだい。言っておくけど、僕れっきとした公務員だから。守秘義務に関わることは言えないよ?」


「歴史だ」


 アルベルト君の簡潔な結論に瞬きする。


「今の主要国家の歴史を教えろ。極東の王国、中央帝国、西側諸国、北の宗教国家、南の廃国。──これらはどうやって生まれた? 特に、()()()()()()()()()()()はなぜ滅んだ?」


 まぁ、異邦人の彼が一番そこに興味を惹かれるのは、分からなくもない。

 アルクス大陸にあった歴史上の国家で、大帝国ほど稀有な滅び方をした国は、他にないだろう。


「んー、じゃあざっくり説明すると。まずアルクス大陸の北側には、『聖国』という始まりの国があった」


 ひとまず帝国の教科書範囲にならって、僕は講義を始めた。


「当時、人々は『龍』に導かれる矮小な存在だった。その龍と、友である精霊と神々を信仰し、共存していた国が聖国だ。かの国の民は、なんでも神や精霊から()()を受けているのが普通だったんだって。大教皇なんて存在になれば、複数の神から寵愛を受けていたとも聞くよ」


「宗教国家か……」


「身近に神がいた国家形態だからね。でも、龍の庇護下に入らず、聖国の外では多くの人類の国々が建立していた。その中でも最も力を持ったのが──『科学国家アカシア』」


 ……んー?

 アカシアなんて、どこで習った国名だったっけ……まぁ、知識ははっきり思い出せるから、いっか。


「当時、人類にとって竜は特別な存在だった。神よりも上の存在として、大陸中が認識していた。その中でアカシアが聖国と同等に力を持ったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……それは、王国の──」


「うん、あの地竜様だね。僕は会ったことないけど。で、アカシアはとにかく研究一筋、って感じの国でね。人間の叡智である科学を謳いながらも、聖国に敵対することなんてしなかった。けれども聖国以外の小国は、続々と統合されていってね……建国から二百年後の『神代大戦』が起こるまで、この大陸は聖国とアカシアの勢力に二分されていたんだよ」


「? なんだ、結局戦争してんじゃねェか」


「うーん……そうなんだけどね……この『神代大戦』、色々と謎が多いんだ。最終的に、炎の始祖竜が大陸を燃やして強制終結させたと伝えられているんだけど、どうして起こったのかは、分かっていない」


 歴史の謎だね、と僕は曖昧に切り上げる。


「この聖国とアカシア、神代大戦の時代が、地上暦千年から四千年ちょっと前の出来事。大魔術師ザカリーや聖騎士エディンバルトの伝説はこの後で、地上暦四二〇〇年になって、ようやく『大帝国ヴェルトルーツ』が建国される」


「最終的に、今の王国と帝国に分裂したっていう国か」


「そうそう」


 よく勉強してるなー、サクラ君。王国に滞在していた時に、歴史書でも漁ってたんだろうか。抜け目ない。


「大帝国の歴史で外せない偉人といえば、やっぱり『賢者フラメル』や『大帝モーガン』だね。前者は大帝国の建国に関わって、後者は後の大帝国を広げ、今なお恐れられている統治者だよ」


「で、どうやって滅んだんだ?」


「結論を急がないでよ、アルベルト君。ま、賢者フラメルのことは割愛するとして……建国から四百年後、生まれたのが世にいう大皇帝モーガン。彼の快進撃は凄まじいものでね、当時まだ小国だった大帝国の領土を一気に押し広げ、北で覇権を握っていた聖国と全面戦争までしたんだよ?」


「まだ聖国あったのか」


「あったあった。もうここまで長寿だと生きた古代国家だね。それだけ信仰を集めやすかったんだろうし、『神や精霊には頼らない』って方針のヴェルトルーツから逃れた人々にとって、理想郷か楽園のような場所だったんだろう。だけど二百年に及ぶ戦争の末、勝ったのは──大帝国だった」


 神秘の終わり、とも現代では揶揄されているが。

 聖国が育て上げ、築き上げてきた信仰の力は、今も各所に爪痕を残している。

 それこそ先日、僕を襲撃してきた教団関係の連中のような、ね。


「地上暦五一〇〇年、大帝国は晴れて大陸の覇権を握るに至った。人の時代の到来だ。『百年の黄金期』と呼ばれていてね、滅亡までの百年間、モーガン統治の大帝国は平和を保っていた。そして──」


 その日は、突然やってきた。



「地上暦五二〇〇年、八月八日。一夜にして、大帝国は滅亡した」



     ◆


 ──何も残らなかった。


 歴史も、文明も、芸術も、思想も、言語も、──何も。


「大帝国の滅亡理由は、未だに解明されていない」


 全ては夢のように。

 本の最終ページがやってきたように、パタリと大帝国の歴史は、途絶えた。


「一夜明けたら、領土の全てが更地になっていた。更に、それを境に大帝国の景色、文化、歴史、技術……その全ても丸ごと『消滅』した。それが大帝国ヴェルトルーツの結末だ」


「……兆候はなかったのか?」


 サクラ君の当然の疑問には肩をすくめる。


「うーん。一部では、夜が明ける前後に強い光があったとかなかったとか……それくらいだね。どこの国がやったとか、誰が何のためにやったのか……何も、今も分からずじまいさ」


「地下の高密度エネルギー体が爆発したとかねェの?」


「界外からの隕石衝突の可能性も……」


「国ってそんな簡単に滅びるんだ?」


「いや……だから不明なんだって……」


 浪漫たっぷりに語ったというのに、異邦の生徒たちは容赦ない。いや、彼らの唱える仮説も、浪漫性はあるけれど、ズケズケと刺さる指摘の嵐だ。


「滅んだんだよ。完膚なきまでにね。かろうじて残ったのは、諸外国にまで名を広めた一部の偉人と、最後の皇帝の名前のみ。後は、伝説上の消失国家となったヴェルトルーツにちなんで語られるようになった、都市伝説や伝承くらい……かな」


「ただの『滅亡』じゃねェ、と。経歴まで白紙に戻される“滅び”か……超抜存在の仕業かなんかか?」


「それも、仮説の一つだよ」


 すると、やはりサクラ君も怪訝な声を上げる。


「……そんな滅び方で、どうやって今の王国と帝国が誕生したんだ……?」


「王国サイドには、領土から逃れていた皇族の血筋がいたようだよ。今でいう、魔術の始祖──魔術王と呼ばれる人物か。そして帝国には、大帝モーガンの直系とされる皇女がいる。このことから、大帝モーガンには未来視があった説も唱えられているね」


「本当に未来が視えるなら、国の滅びを回避するものじゃないのか?」


「だよねぇ。そういう矛盾があるから、大帝モーガンにも、大帝国にも、歴史の浪漫たっぷりなのさ!」


「現代の歴史家たちが頭を抱えていそうですね」


「そうそう。『触らぬ大帝国に祟りなし』、ってね。研究しようにも、大帝の呪いだとか、聖国を滅ぼした天罰だとか、世界の修正力だとかって、不吉な噂が多すぎてね。手出ししたがる人はまずいないよ。本格的に研究がされるのは、もう少し先じゃないかなぁ」


 そうやって講義も無事、終わりに近づいた時だった。

 そこでやっぱり刺してきたのは、アルベルト君だった。


「──で? オマエはどこまで真相を知ってるクチなんだ?」


 ……すっごく嫌な声色。

 この、「こいつこそが犯人だ!」と謎の根拠から確信している、迷惑な探偵のような口ぶり。やっぱり超苦手だよ、この子!


「オマエの()()()()からして、帝国滅亡時期から生きてンだろ? 多少は当時のことを見聞きしてるんじゃねェのかよ?」


「……なに? 魂の強度って……」


「アルベルトは魂の見える魔眼を持っている。だが、別に答えなくてもいいし信じなくてもいい。というかこいつに情報を渡すのは基本的に危険だから、相手にしなくていいぞ」


 フォローのようで、単なる悪口じみたサクラ君の物言い。どんだけ危険視されてるんだ。普通そこ、僕を疑って追及する流れなんじゃないの? こっちの味方なの? そ、そう……


「チ、赤神子がいるとやっぱやりづれェな……オマエ、人間らしい好奇心すらねェのか?」


 ──あ。

 知ってるんだ、彼ら。サクラ君が人間ってこと。


「大帝国が消えたにしろ、そこの科学者が観測者にしろ、俺が最重要視するのは一つだけだ。『敵かどうか否か』。歴史が敵として現れたなら相手をするし、そうでないならしない。そして、お前の今言った好奇心は、あらゆる存在の死因の一つとして挙げられるものだ。さっさと自滅しろクソ野郎」


 聞いているだけのこっちが震えあがるほどの毒舌だった。彼の刀のような切れ味だった。

 ……このアルベルト少年……どんだけサクラ君のヘイトを買ってるんだよ。過去に何をしたんだ一体……


「ハ、自滅しろと来たか。実に人間らしいワードセンスだ、同族の()()()()を罵倒に使う滑稽さは他に劣らないな」


 ……? 絶滅理由?

 そういえばサクラ君以外の人間の話は聞いたことがないけれど。

 えっ、ホントの本気でサクラ君が最後の生き残りだったの!? 希少な生き残りの一人、程度に思ってた!


「ねーねー。バッチバチに言い合ってるとこ悪いんだけど、アレって私たちが向かってる国?」


 と。

 口喧嘩を横に自分の思考に没頭していた僕よりも、しっかりしているアガサちゃんが、ふと指をさした。


 その先には森。

 もっといえば、森の中にある人工物の影。

 エルフたちの国、レルレーン。その都市の一つだろう。


「……そうだね、たぶん……」


 遠目に見た向こうの状況に、ろくな返答が紡げない。

 だってそこは。森の中で築かれた、エルフたちの拠点は今、


「炎上……してるけど……」


 ──激しい火炎に巻かれて、ゴウゴウと燃え盛っていたのだから。

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