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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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05 シナリオダイブ

「サクラ君だ──ッ!!?!」


「やかましい」


「ゲフッ!」


 抱きつこうとしたら蹴り飛ばされた。

 倒れて痙攣していると、憐れなものを見る視線を向けられてくる。


「どういう経緯でここに来たんだ。お前……宇宙生物だったのか?」


「それはこっちの台詞だよ! サクラ君、まさか帰り損なってずっとサバイバルを!?」


「してない。もう一度『ここに来た』んだよ」


 再訪。

 ってことはラグナ大陸からアルクス大陸に来た……来る手段が見つかったってことだろうか? しかし、彼が一体なんのために……?


「──人類が降ったり釣れるのか、この新大陸は」


提督(マスター)。流石に予期せぬ事故(イレギュラー)かと」


 ──と。

 起き上がると、桟橋に近付いてくる二組の男女があった。


 一人は()()()()()()()()だった。

 肩までの短い金髪に、青と金のオッドアイ。ゴーグルのついたシルクハット。貴族っぽい白シャツにサスペンダーのあるショートパンツに、船長服のようなコートを肩にかけている。


 もう一人は()()()()()()()()()。空で聞こえた声と同じ声だ。

 背中にかかるほどの長い薄水色の髪に、緑の瞳。少年の服と、どことなく色合いや雰囲気が似た衣装で、淑やかさのある、白いドレスとコートが組み合わさった格好をしていた。


 ……思い出した。彼らの格好はアレだ、スチームパンクと呼ばれるスタイルに酷似しているかもしれない。


「彼らは……? サクラ君の友達かい?」


「いや、どっちかというと敵」


「ええ……」


 仲間ですらないのか。

 しかし金髪の少年も釣り竿を担いでいるし、そのお付きのように横に控える少女もバケツを持っている。完全に釣り人モードである。一触即発、みたいな空気は感じられない。


「そこの緑の人造生命体(ホムンクルス)。面白い心臓をしているな、引き抜いていいか?」


 サッ! と僕はサクラ君の陰に隠れた!

 なにあの少年。一声目から怖すぎるんだけどッ!


「おい、脅かすな」


「だってほとんど魔物だろう、そいつ。どうやって人型の形と思考と魂を保っている? 解剖したいにも程がある」


 真顔でおっかないこと言われてる……

 ていうかなんで一目見られただけで僕の正体まで看破されてるの……

 千年間、誰にも気付かれなかったのにぃ……


 超自信を失う。何者なんだい彼は。


「ジェスター、先に説明しておく。このガキは『アルベルト』。身の危険を感じたら殺していい。もう一人の女は『テレーゼ』。アルベルトの使い魔だ。身の危険を感じたら殺していい」


「サクラ君、同行者に対して殺意が高すぎない……?」


 一体どんな人を連れてきたの。っていうか、


「……アガサちゃんは? 一緒じゃないのかい?」


「今のあいつは──」


「──おーい。なんか釣れたー?」


 声の方角を見ると、そこには長い黒髪を流した少女がいた。

 っていうかアガサちゃんだった。おや、ポニーテールじゃない。黒いジャケットに黒いショートパンツの軽装である。なんか旅行先に来た観光客みがあるなぁ。


「や、久しぶりアガサちゃん! 元気だったかい?」


「……、……あー……」


 サクラ君の陰から出て、軽く手を挙げて挨拶する。

 が、彼女はその赤い目を申し訳なさそうに逸らし、場に微妙な空気が漂った。


 ……なんだい? 僕、挨拶するだけで嫌われる境地に至ったの?

 なんて軽くショックを受けていると、サクラ君が補足してくれた。


「言っても無駄だ。今のアガサは()()()()()()()()


「……え!?」


「ア、うんそう。記憶喪失ってやつ? えーと、ゴメンね白衣の人?」


 ──久々の彼らとの再会は、やっぱり一筋縄ではいかなさそうだった。


     ◆


 ひとまずログハウスに案内された。

 僕はエルフの国の道中にある湖に落ちたらしい。そこで釣りをしていたサクラ君に釣り上げられたわけだが……


「……あの。このログハウスって……元々ここにあったやつなのかい?」


「いや? 野営のために錬成した拠点だが」


「僕の知ってる野営と違う!」


 住居じゃん! リゾート地!? 旅人が携帯してるものではないよ!?


「そうなのか? でも野宿なんてそれこそ命知らずだろ。魔物に襲われたらどうするんだ」


「そこは見張りとか立ててさぁ……え、ラグナ大陸じゃこれが普通なの……?」


 台所からお菓子を持ってきてくれたテレーゼさんが小首を傾げた。


「強度のある拠点を作れない錬金術師はフィールドワークもできません。身一つで素材採集に行ける手練れなら別でしょうが」


「これでも竜のブレス程度なら耐えられる強度なんだが、足りねェのか?」


 続いてサラッととんでもないコトを言うアルベルト少年。


 文明の……圧倒的格差を感じるッ……!

 ドラゴンブレスに耐えられるログハウスって一体……? それって木なの? え、そういう耐性を持つ進化を遂げた木がある? へぇ~すご~い~……


 ダメだ、ラグナ大陸の常識はアルクス大陸の非常識ッ! ほぼほぼ別世界の異文明だと認識しておいた方がいいのかもしれない。


「こっちには十日前に来たんだ」


 窓際のテーブル席に座ったサクラ君が、そう切り出してくれた。それに向かい合うように僕も椅子に座る。


「まずは座標の判明していた王国側に不時着して、色々。国王に話つけて友好国になって『開拓の使者』って名義であちこち回っている」


「え、王国って極東側だよね? どうやってこっちの西側に来たの……?」


 地続きに広がってるアルクス大陸だが、流石に一月足らずで移動できる距離ではあるまい。


「そこは錬金術で。空間移動の専門家が付いてきてるからな。まぁ、アガサの弟なんだが」


 おっ、噂の弟くん? 錬金術の講義を受けた時、ちょくちょくアガサ君がぼやいていた子だったっけ。来てるんだ!


「そっちは今、ヴァンに同行している。向こうも、東側からあちこち探索しているだろうな」


「当然のように巻き込まれてるんだねぇ、ヴァン君……」


「『宮廷騎士』って顔が広いらしいからな。英雄が信頼を置いている悪魔、ってだけでも幾分か行動しやすい。アガサの部下も何人か付いてて、ちょっとした冒険者パーティになってるだろうな」


 ヴァン君がいるというだけでイメージできる王道感。もしやメインストーリーは向こうでやっているのかもしれない。彼も彼で主人公気質だからなぁ、何か面倒事に首を突っ込んでいるかもしれない。


「じゃあ、サクラ君たちは、のほほんと旅してるってわけ?」


「探し物がある。俺が来たのは回収業務だ。で、それに勝手について来たのがこいつらだ」


 左横に目をやると、そこにあるソファ席では三方がじっと僕の方を値踏みするように見てきていた。といっても記憶喪失というアガサちゃんは、普通にサクラ君の話を聞いているだけのように見える。


「えー……っと……帝国科学機関に勤務してる、医者のジェスターだよ。西側には出張で来ててね、しばらく上司から帝都には戻ってくるなと命じられたので、あちこち、うろうろしてるところだよ」


「お前、なんで空から降ってきたんだ?」


「落下療法でもあるのですか?」


「生き飽きた系の馬鹿か?」


「なんか偽名っぽい名前だね」


 ぐさぐさぐさ。クリティカル!

 容赦ない、容赦がないよ君たち。その辺の誤解もきっちり解いておかないと!


「えーと……南方にある領地に往診に来たんだけど、そこの領主様が魔法使いでね。スカイダイブはその人に『送られた』結果だよ。ほんと酷い目にあった……」


「道理で向こうは嫌な気配がするわけか。まともに機能してんのか? その領地」


「いや、至って普通だったけど……?」


 ふゥん、と鼻で笑うアルベルト君。

 この子、たぶん見かけだけ子供ってやつだろうな。雰囲気が剣呑すぎるもん。戦争を引き起こしそうな危険人物の香りがする。あの謎の黒髪の少年に比肩する厄ネタの予感……


「──てか、アガサちゃんはどうしたのさ? 自分であえて記憶を消したとか、そういう作戦?」


「分からん。なんか西側に来た初日の夜、探しに行ったら倒れていた。で、起きたらこの通りだ」


「新鮮な役立たずさ! ごめーん!」


 笑顔で言い放つアガサちゃんは悪びれる様子もない。記憶がなくなっても彼女らしかった。物騒さも、僕の記憶より八割減しているような気がする。


「ジェスター、なんか記憶喪失によく効く薬とか知らないか?」


「うーん、『どうやって』記憶喪失になったのかが重要だからねぇ。悪魔のアガサちゃんに効くってことは、呪い以外の……魔術とか、それこそ魔法とか、そういう術によるものだろう? だったら、犯人を探し出して倒すしかないんじゃないかなぁ……」


 というか。


「アガサちゃん、割と落ち着いている様子だけど……不安じゃないのかい? 記憶ゼロって、自分のことも周りのことも分からないんだろう?」


「んー? 別に? ていうか不安ってなに?」


「えぇ……」


「むしろ労せずして好みの顔と一緒にいられるって素晴らしい。自分が誰だかどうだか? そんなの、()()()に決まってる。以上結論。問答無用。アーユーオーケイ?」


「……、」


 記憶がなくとも、自分は自分。

 そんな当然のように断言するのか、この子は。


 精神を構築するための、蓄積してきた経験も感情も、丸ごと失っているというのに。

 ……なんという芯のブレなささ。虚勢を張っているようにも見えない。本気で彼女は、己の在り方に迷いがないのか……、


 羨ましいとは思わないが、尊敬するに値する。


「っつーか、テメェの場合はサクッと魂逆行させて取り戻せばいいじゃねェか。良し、そうしよう。それがいい。無差別浸蝕系エネミーを野に放って新大陸を混乱に堕とそう。暇だし」


 アガサちゃんが右手に拳銃を取り出してアルベルト君に発砲した。

 同時にアルベルト君もリボルバーをどこからか取り出して銃声を響かせる。


 シームレスに開催される銃撃戦。ログハウスの中が一瞬で戦場と化す。こっちに射線、向けないでね? と僕はちょっと窓際に身を寄せた。


「俺たちはこれから、北上してエルフの国に行く予定なんだが……ジェスターも来るか?」


「あ、行く行く。ちょうど僕の目的地と一緒だね。サクラ君、さっき『探し物』って言ってたけど、何を探しているんだい?」


「人理兵装」


 流石に耳を疑った。

 だがサクラ君は、顔色を一切変えないまま、いつも通りの声のトーンで、続けた。



「五番目の人理兵装──『冥棺(めいかん)・終末式5ospel(ゴスペル)』の回収業務だ。使われると()()()()()。だからまぁ……あまり観光気分でいられる余裕は、実はない」



 主人公ある所に世界の危機あり。

 僕は何も聞かなかったことにして、また湖に飛び込みたい気分だった。

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