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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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03 襲撃と魔法使い

 ガタゴト。ゆーらゆら。

 馬車の荷台に乗って、僕は出張先の領地へと向かっていた。


 襲撃事件から一夜明け。

 僕は「よく囮になりましたで賞」を上から贈られる前に、とっとと帝国から脱出した。


 だって仕事場のみならず、帝国城中から集まる視線が痛いのなんの。

 「奴は襲撃者の仲間だったのでは?」「なんで殺されかけて生きてるんだ?」「っていうか全部あいつの策略では?」「怪しい。今すぐ逮捕すべきでは?」──なんて! せっかく助けてあげたっていうのに、疑りの目ばっかりだ!


 とはいえ、「いやいや、全世界を時間停止してたら神様っぽい少年が現れて、手伝ってもらったんだよ~」なんて馬鹿正直に自白したところで、狂人性の噂に磨きがかかるだけ。


 てか時間停止、時間が停まってるところを見せられないから、証明の仕様がない。


 今までだって使った機会は、書類の提出締切がギリギリだった時とかくらいだ。いつだったか、マンガ描くバイトをした時も、アシスタントとして役立ったっけ。そういう方面にはめっぽう強い力なんだけどなぁ。


「はぁ……人生ってどうしてこう、上手くいってくれないんだろうねぇ。そう思わない? 御者のおじさーん」


 返事はない。ヌヌ、無言って傷つくんだぞー。

 一体どういう顔で馬を御しているのか、ふと気になって天幕から御者台に顔を出せば。


「ちょっとおじさ──……えっ。あれっ?」


 ──御者が死んでいた。

 こう、ザックリと。首の辺りに矢が突き刺さっていて──


「ヒヒィーン!!」


「おわぁ──ッ!!」


 血の気配に動揺した馬たちが暴れ出す! やばっ、やばいやばいと慌てて手綱をとったが、その瞬間、矢が左手から飛んできた!


「わー! わーッ! わァー!!」


 矢をかわし、ひとまず御者の死体を力任せに荷台へと叩き込み、馬を操って加速する。馬術のバイトやってて良かった! 魔物じゃない普通の馬なら僕でも多少は言う事を聞かせられるはずッ!


「なになになに!? だれだれだれッ!?」


 答える声はなく、ただ敵意と殺意と矢がヒュンヒュン飛んでくる音が聞こえる。

 人の気配は……えーと、二十人前後? 多いなぁ! 噂の革命軍だろうか!? けど僕を襲撃したところで、帝国の政治には何の影響も与えられないと思うけど!?


「ってか、ここ崖道──! ひぃい──!」


 よりにもよって! よりにもよって!

 右側は高い岩壁! 左側は切り立った崖! ちょっと馬の進路をミスったら真っ逆さま! 射手は崖下の森から撃ってきてるのかな!? こ、殺す気しか感じないッ! 本当に僕がなにをやったっていうの!?


「あっ!?」


 サクッ、とそこで片方の馬の首に矢が突き刺さった。当然、馬が暴れ、僕の手から手綱が離れ、馬車の進路が狂い、崖が崩れ、あああぁぁ────! 落ーちーてーくー!!


     ◆


「アイタタタタ……」


 馬車が崖を滑り落ちた瞬間、僕は荷台のトランクを掴んで、馬車から一足先に落ちていた。

 といっても三十メートル以上の高所からの落下だ。下の樹の枝に白衣が引っかからなかったら、どうなっていたことか!


 ひとまず白衣を破って枝から飛び降り、着地! したところで、近づいてくる人影の群れに僕は振り返った。


「──帝国科学者、ジェスターだな?」


 フードを深く被ったローブの集団だった。昨今、こんな「いかにも怪しい者です」を主張する敵団体、現実にいていいの!?


「馬車を落としたのは君たちかい……駄目だよ、こんなことしちゃあ。僕が標的なら、ちゃんと堂々と手続きを踏んで……」


「貴様の産まれは知っている。忌まわしき()()()の負の遺産が一人……生かしておく道理はない」


 ……また大帝国かぁ。最近になって随分とよく聞くようになった。


「えーと、君らは……なんなの? 例の革命軍?」


「革命軍? ハッ、あんな能無しの連中と一緒にするな! あれは神々への信仰心もなければ、帝国さえも目の敵にする狂人の集まりだ。我々は違う。大帝国から輩出され、今や科学の権威にまで登り詰めた貴様を、真の正義のもと排斥する……光栄に思うがいい」


 信仰心、か。

 ってことは、彼らのルーツになっている思想は……


「──『聖国』にまつわる団体ってことかい? けど教会組織って、もう帝国に取り込まれてるんじゃなかったっけ?」


 聖国。

 それはかつて、大帝国と相争った宗教国家だ。

 かの国の民たちは大いなる神々を信仰し、精霊より加護を得て、当時最高峰の科学兵器を投入していた大帝国と互角に争った。


 けれども最終的には大教皇の死亡を以って、聖国は滅亡。

 長い戦争に打ち勝った大帝国は、今に伝わる、「百年の黄金期」へと突入した……


「愚者が。ふん……まぁいい、貴様がどのように考えようと、ここで死ぬ以上、全て無意味だ。──殺せ」


 集団が刃や弓やらを構える。

 背後は崖の壁。逃げ道はない。信仰団体なら奇跡の一つでも使ってみてほしいところだったけども、そこは僕程度には見せる価値もない、ってことなのかなー。傷つくー。


 さて。

 ところで僕は昨日、魔力はぜーんぶ使い果たした後なので。

 ぶっちゃっけ現在、抵抗手段が微塵も欠片もない、超絶な絶体絶命状況なのだったりした──!


「すみませんちょっと待って謝るから殺すならもうちょい別の場所で──!?」


 殺されることに関しては、別に文句はないけどさッ!

 こんな辺境でぶっ殺されたら、野ざらしってことでしょ!? 死んだ後のケアも考えてくれないかなぁ!?


「さらばだ、己が生を後悔して逝け──!」


 そう、リーダー格らしき教団員が口走った時だった。



「第一魔法:“絶誕祭アンハッピーバースディ”」



 パン、と合掌の音が響いた。

 その音と同時、世界の理が捻じ曲げられる。

 刹那、視界は反転したように真っ黒に染まり────


 ぐしゃんっ。


 ──事が行われた直後、二十数名いた生者たちは、潰れた肉片へと変わっていた。


「………………、え」


 破裂死、と呼ばれる死因があるならそういう現象だっただろう。

 血が弾け飛び、彼らは自分が死んだことにも気が付かずに──死んだ。

 大いなる理不尽。

 絶対の理、天災に見舞われた憐れな不運──そんな、どうしようもない力の前に。


「迎えに上がった──帝国の古き医師よ」


 人の気配、ではなかった。

 血だまりの向こう、木々の陰から現れたのは、人の形をしていたが、それとはかけ離れた──


「……えぇっと……」


 ──「異様」「異常」「異物」。

 そんな単語ばかりが相手への印象だった。


 石膏のような白い肌。長くうねった月白の髪。黒と真紅が入り混じった瞳は、深淵のように、底なしに昏い。

 猫背気味な長身で、見た目は人間換算でいったら二十代後半から三十代前後。しかし気配は完全に人類から逸脱しており、ぶっちゃけ「会っちゃいけない魔物」に出くわした感覚そのものだ。


 ……黒いコートの下に見えるのは、大貴族っぽい黒い上下の衣服。えーと、一応、社会にいちゃいけなさそうな存在感してるけど、ちゃんと社会の一員……っぽい?


(ワタシ)はここの領主をやっている──カリギュラ・エグレイシス。貴殿ら外界の者には……“魔法使い”と呼ばれている者だ」


 あ、とそこで考えが追いつく。

 エグレイシス。それは確かに、これから僕が出張診察に行く予定の、患者の名前だった。


     ◆


「賊が失礼した」


 と、血だまりを蒼い炎で焼き消す中、カリギュラ伯が言った。


「『廻星(かいせい)』と名高い貴殿の出現の影響を、予測しきれていなかった此方のミスだ。傷はないか」


「あ……ああ、うん……僕は大丈夫だけれども、馬車の馬と御者さんがね……」


「弔おう」


 そう告げて、落ちた馬車を魔法……か魔術かで浮かせて探り当て、馬二頭と御者の死体を回収してくれた。そちらは使いの者に帝国へ運ばせ、馬車の方は、後で修繕してから返すとか。


「科学者。貴殿はなぜ祈る?」


 死体に向かって手を合わせていると、そんなお声がかかった。


「こういう時は、こうしておくべきものだと学んでいるからね」


「虚ろな回答だ。貴殿に心はないらしいな」


「でも、あるように見えるだろう?」


「ああ」


 すると伯爵も目を閉じて黙祷していた。手を合わせなかったのは、きっと彼にとってその行為は「魔法」を用いる手段だからだろう。


「……」


 おかしな絵面だ。僕が魔法使いと死者を弔っている。人生、何があるか分からない。魔法使いの類は、本当に好きじゃないんだけどね。



「まさか伯爵様自らがお迎えに来てくれるとは思わなかったよ」


 弔いが終わった後、そう肩をすくめてみた。

 帝都から離れた土地とはいえ、相手はお貴族様だ。こんな医者一人のために、教団の掃討までこなしてくれるとか気風が変わっている。魔法使い故、だろうか?


「後継ぎの容態が芳しくない。到着まで待っていては、保つか分からなかった」


「…………あのね、伯爵様。そういうことはもっと! 早く言ってください!?」


(ワタシ)が見つけた以上、大して時間はかけない。手を」


「?」


 白い手の平を差し出されて、恐る恐るそれを掴む。

 ごつごつした巨人じみた石っぽい手触り。あとすごく冷たい。グッ、と一際強い握手をされた瞬間、


「──、へ?」


 ぱっ、と視界が変わった。

 そこはもう峠道の林ではなく、でっかい立派なお屋敷の目の前だった。


「……て、転移魔術……?」


「座標移動の方だ。酔いは?」


「あ、も、問題ないよ……」


 手を放され、改めて周囲を二、三度見する。

 い、一瞬で目的地に着いてしまった……これなら、初めからお迎えに来てほしかったっていうか、どうか座標移動なる術をお教えくださいって感じだ!


「こちらだ。案内する」

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