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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第三章 幽世トロイメライ
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02 オープニングセレモニー

 一点に収束する魔力の奔流。

 次の瞬間に解き放たれる、破壊の嵐。

 ──その寸前。



「時間並列。【停滞式・時間停止(エターナルオーダー)】」



 カチン、と。

 時計の針が停まったように。

 世界の全てが──時が、その歩みを停止した。


 ……チラ、と周りに視線をやる。

 灰色の世界。逃げ惑う人々。絶望の瞳で止まったままの葬列者たち。

 風も水も鳥も草木も。その、全てが完全に固まった領域を。


「…………あ、あっぶなぁ~~……!」


 フゥ──……と大きく息を吐く。

 いやはや、久しぶりに嫌な汗が止まらない。咄嗟に全部止めてみたけど、これ大丈夫だろうか。

 魔力をありったけ使ったが、流石にここまで大規模な()()()()は僕も初めてである。


「えーと、まず君は誰……って、おわっ!?」


 来襲者に近寄ると、彼女の構えている大剣にビビる。

 刀身にまとわれた赤い魔力は、この時間が停まった世界の中でも輝きを失っていない。つまり、この魔力だけは時間停止の影響を受けていないのだ。


「……破壊属性の魔力……? なんとレアな」


 破壊属性。それはあらゆるモノを「破壊」するという、物騒で稀有な魔力属性である。

 赤い魔力のコレは、僕の魔力を「壊す」ことで時間停止から逃れているのだろう。


「……つまりこの子が鎧みたいにこの魔力をまとったら、僕でもお手上げってわけかな? どこまで本気なのさ……」


 ガチすぎて怖い。誰だこんな刺客を送り込んできたのは。

 いや、前皇帝か。本人の言い分によれば。


「う~ん……射線上にいる人たちはコレ、アウトだなぁ……どうにかしてまとめて避けさせないと……いや、というか彼女をどっかにやった方が早いかな……どこに?」


 考える。

 この停まった時の世界で一人、考える。


 一つ、次の瞬間に「絶対に」くる魔力斬撃をどう防ぐか。


 二つ、破壊属性の魔力を防げる「壁」なんてこの世のどこにあるのか。


 三つ、時間停止の効果は三十分。ただし「完全に」範囲内全てが停止しているのは僕の感覚で一分間が限度だ。それ以上は中心点である僕へ向かって、徐々に停止の効果範囲が縮小して、端っこから時間が進み始めてしまう。


 つまり三十分後、確実にここは、災厄の海になる。


 結論──絶望的ッ!!


「いや無理だって……僕一人だけでどうにかしろとか、いや無理だってぇ~……」


 思わずその場に膝をつく。Orz、ってやつだ。縦書きだったら分からないねコレ?



「ふーん。だったら手伝ってやろうか?」



「へ」


 新しい声に顔を上げた。

 ありえないもう一人の声に、顔を上げた。


 僕を見下ろすように、二十メートル上空。

 そこに──滞空する、一人の()()がいた。


     ◆


 一つ補足を。

 時間停止の中で動ける生命は、術者である僕以外だと、かなりの例外存在となる。


 つまるところ、「時間」という攻撃に対して耐性のある者や。

 この名も知れない少女のように、魔力に対抗する手札を持っているとか、だ。


 目の前に現れた、この黒髪の少年の場合──


「だーから、()()()()()()()()()()()()()、っつってんだよ。俺の趣味は善意の押し売りでな……自己顕示欲もすこぶる高いロクデナシだから、人助けが大好きなんだ」


 ……なんかロクでもない存在に絡まれてしまったようだ。


 ショートカットに切り揃った黒髪。右耳にはひし形の輪っかをした黒ピアス。

 黄金の目は彼が上位存在であることを示している。だが服装は黒いパーカーに短パンとラフなもので、一見お洒落さんな美少年にしか思えない。


 それに警戒しつつ立ち上がる。敵か味方か──なんて判別はつかない。そういう相手が一番怖いのだと、この千年で学び尽くしている。たとえ外見が十歳に満たなそうな子供であろうとも。


「……あー、対価は?」


「ないない! 無償の善行ってやつ! 人類って『無償』『無料』って言葉に弱いだろ?」


 あ、あやしー!

 僕を凌ぐ怪しさ、うさん臭さだ! 一周まわって感動モノだよ! 緑髪バサバサロング白衣に眼鏡を揃えた、この僕のビジュアルなんてお飾りになってしまうくらいの怪しみ!


 ははーん。

 さては人類の敵だな? こいつー。


「ちなみに……どうやって手伝ってくれるつもりなのかな?」


「そりゃ、一秒後に発生するこいつの攻撃力をゼロにするとか。判定スカスカ! 突如として放たれた魔力の攻撃は、ただの演出として終わるのだった……みたいな?」


「二撃目がきた場合は?」


「だったら、『この場で起こる全戦闘行為を無効化する』、とかすりゃいいんじゃね? ノー暴力、ノー殺傷! ただし絶望とトラウマは残ります……的な?」


 ……ぜ、絶妙なラインの譲歩。

 つまり、“この場で起きる悲劇”は防いでくれるけど、その後までは知らん、というお手伝いらしい。


 けどまぁ未来視もないこの身、差し出された手は素直に掴むべき、


 ────いやでも全無効化はやりすぎだから攻撃力ゼロ止めで充分だなぁ。あんまり頼ると後が怖いし。神様って“いる”分には大助かりだけど、関わられるとすっごく大変なんだよなぁー。


「…………おーい? 熟考か? 俺を前に、変わったヤツだなぁ」


「むむっ」


 ハッと意識と思考を取り戻す。いけないいけない、つい考えにふけってしまった。


「それでどうする? 俺を頼るのか、頼らないのか?」


「……も一つ質問いいかな? なんで面白かったの?」


「んあ? 細かいトコ気にするヤツだな、神経質か? そんなん、元同胞だからに決まってるだろ」


 ……同胞……?

 質問すればするほど訳が分からない。なにか、はぐらかしてるのかな彼?

 ──でも嘘をついているようには見えない。直感だけど。


「あとは……ああそうだな、お前、()()()と縁があるんだろ。だったら困ってるところを放置なんてしないさ。フレンドリーサービスってやつだな!」


 言ってることはサッパリだけど。

 周りの、一秒後には死を前にするだろう人々を見る。無闇に、理不尽にその人生を終わらせかけられている彼らを見る。


 ……ともあれ今は、協力関係を結ぶしかないようだ。


「君、名前は?」


「よくぞ訊いてくれた。『ロック』とでも呼んでくれ」


 絶対に偽名だなぁ、と思いつつ。

 いっちょ、神頼みしてみることにした。


     ◆


──ワン、ツー、スリー!


 少年の声に合わせた三回の指鳴らしの音の後、ぱちっと目を開けて時間停止を解除する。


 混乱が再開する。

 どよめきが続行する。

 恐怖と絶望の世界が──始まる。


魔鉱剣(ヴァルムンク)、神聖抜刀」


 次なる絶望が、襲い掛かる。


壊し尽くす極魔の刃(ラグナロク・デザイア)


 紅色の閃光が全てを埋め尽くす。

 轟音と突風は市街を削り、大通りにいた人々に容赦なく襲い掛かり、


「……ほう。多少、やる奴はいるか」


『……!?』


 閃光の後。

 確かに魔力の斬撃を被ったハズの葬列は、何事もなく無事だった。

 騎士団、近衛部隊、皇族たちから困惑の気配がする中、攻撃をスカされた剣士は、ざっとその目を周囲へと向け──


「────お前か」


「!?」


 そろ~、っとこの場からこっそり離脱しようとしていた僕の方を向いた!


 見つかった! 終わりだ! タスケテ──!


「どうやら気を見誤ったのは私の方だったらしい。先に殺しておくか」


 直後、襤褸の人影が跳んだ。

 その進路方向は、一直線に僕に! 僕にぃ──! うわああ! 大剣がくる! 真っ黒な、当たったらめっちゃ痛そうな大剣が物凄い勢いで──!!


「待って待って! 知らないって! 人違いだってぇ──! なに──!?」


「……ッ!?」


 紙袋の荷物を両手に抱えたまま、どうにか斬撃を避ける避ける!

 コワイ! なにこの子、超こわい! 触れたら一刀両断、漫画みたいに縦に真っ二つ! グロすぎるよ! 嫌だよそんな死に方!?


「うわーッ!?」


 避けた大剣の一撃が、すぐ横の地面に亀裂を刻む。

 その間合いから逃れるように、なるべくまだ人の少ない方へと、ひたすらに駆けていく。


「貴様──まさか──」


 まさか、なんて意味深なことを言いながら、襲撃者の大剣を振る速度は一切緩まない。今度は魔力を伴って振り抜かれてくる。もう勘弁してほしい!


 その時、近くにあった街灯が斬られて倒壊してくる。かわし……いや、そしたら次の次の一撃で確定キル! 街灯ごっとぶった斬られてデッドエンドだ! なので回避ではなく、僕はその街灯を()()()


加速(アクセル)ッ!」


「!?」


 叫びながら、そのまま街灯を槍投げよろしく投擲する。

 音速とまではいかないが、結構な勢いで街灯が飛んでいく! それは見事、襲撃者に命中し……命中し……?


「ただの投擲でこの威力か。お前、何者だ──?」


 剣でガードされたので大したダメージになってなかった。なにアレこわい。「アクセル」ってブラフでエンチャントっぽく叫んだのに、フツーに看破されてるし。


「っ、うぉわぁ!?」


 直後、かわした斬撃が地面に衝突し、隆起した影響で道が崩れる! 足場が崩壊したことで躓き、その場で転んでしまった。痛い。ううう。


 どうにか膝をついて起き上がったところで、ジャキッ、と首元に剣先が突きつけられた。

 顔を上げると、そこには遂に追いついた襲撃者が。


「……あ、あの……できれば、一瞬で……」


 恐れ余って、思わずそんなことを口走ってしまう。

 デッドエンド寸前! 千年かぁ、いやぁ長い人生だった。後悔は……んー、割とあるかな!


「潔いな。さぞ楽な人生だったんだろう」


「ははは……まぁね」


「──何年この世界にいた?」


 生きていた、って言い方じゃない辺りは彼女の人生観だろうか。

 そうだなぁ、とちょっとだけ彼女の顔を見て、考えて、僕はこう返した。


「……君と同じくらいだよ」


「そうか」


 大剣が振り上げられる。

 黒い刃はまるで、逃れようのない断頭台のようだった。


 そして。


     ◆


 ──帝都の時計台に、彼はいた。


Atla3(アトラス)、配備完了」


 無名の傭兵は己が得物を構える。

 銃口を向け、指定されたターゲットを肉眼で目撃する。


「目標視認」


 漆黒の狙撃銃は無音のまま。

 誰にも知られることなく、誰も気付くことなく、超常兵器は稼働した。



「──【人理装填(レリック・アーツ)】」



     ◆


 え、と僕は声を上げた。

 見上げていた処刑人の頭が、いきなり弾け飛んだからである。


「……え? えっ!?」


 ぐらり、と剣を振りかぶった姿勢のまま揺れる剣士の影。いや死体。

 首無しとなったソレは、重力に従って倒れ──なかった。


「今のは……痛かったな」


 ……目を、見張った。

 瞠目する。

 首無しの胴から、当然のように、頭部が元通りに生えてきたから──だ。


 それは蘇生術とか、何かしらの加護が発動した……ような形跡もなく。

 生物が呼吸するような、そういう機能の一つのように。


「……さ、再生能力って」


 フードが消し飛んでいるので、再生と共に、さらっとした、彼女の長い白髪があらわになる。光のない青い瞳は……死体のように、真っ暗だった。


 ギッと彼女は、恐らく弾道の先を振り返る。……時計塔の方角、だろうか?


「レリックか……悪くない。だが()()()()()()()では、私は殺せないぞ……」


「──、」


 死なない。

 死なないのか──彼女は。


 常人なら絶望すべきところを、やはり僕は違う感情を抱いていた。


 ──ああ、いたのか、と。


 自分以外にも、()()()()()が実在していたのか──と。



「ハイ、タイムアップ~。撤退だよ、Aちゃーん」



 凄まじく場違いな、っていうかまた僕以上に空気読めない軽々しい声がした。

 あの黒髪の少年……ではない。

 大剣を持つ少女の背後、その路地からぬっと現れたのは怪しい男だった。


 なんせ崩した黒スーツにサングラス。ウェーブを帯びた長い銀髪に、左目を隠すように切り揃えられた特徴的な前髪。死臭とそれを紛らわすかのような酒の匂い。


 こいつはやばい。

 不審者。明らかな不審者である。表通りを歩けばお縄一発だ!


「……Dか。こいつは殺しておくべきだと思うぞ」


「や、無理っしょ。ジェスター・トゥルギア。千年生きてる傑物だ。オレちゃんでも高難易度ワーク。それとも本人に訊いてみる? ドクター、今すぐ死にたい?」


()()()()()()()


 よいしょ、っとフランクになった空気に甘えて、あぐらをかいて座り直す。

 あーあー、荷物があっちに飛んでってる。中身、無事だといいなぁ。


「……、どういう関係だ?」


「長寿仲間、カナ? いや、こうして対面したのはお初だと思うケド」


「僕は何度か君を見かけてるよ、D。いい加減、魔法使いを殺すのは止めたらどうだい。僕だって連中は好きじゃないけども、一方的に殺されてる様を見るのは良い気分じゃない」


「ハッハ! それは無理デスネ、唯一の生き甲斐みたいなものナノデ!」


 ──D。

 埒外のアウトロー。大陸指名手配犯(ワールドエネミー)

 魔法使いへの絶対殺害権を持つとかいう、現代まで生き延びている真の怪人だ。


「おっと……無駄話してたらお上さんに怒られちゃいマスネ。ではドクター! 縁が続けば、またどこかで~」


 ひょい、っとDが白い剣士の首根っこを掴み、そのまま二人の姿が路地裏の闇に消えていく。

 ……気配も一瞬で無くなった。逃げ足だけは古強者か。さっすが、年中から大陸全土を舞台に逃亡劇しているだけはある。


「はぁ……つっかれたぁ…………」


「──中々良い見世物だったなぁ」


 カチッ、と世界が静止した。視界には、逆さまに顔を出してきた黒髪の少年がいる。

 時間停止。ぼ、僕が全魔力を使い果たしてようやくできることを、あっさり……!


「ああ……手伝ってくれて……感謝はしておくよ、ロック君」


「なぁに、お安い御用さ友人。そのまま信仰してくれても構わんよ?」


「いや、いいっす」


 それは遠慮する。全力で遠慮する。

 神も人も、ほどほどの距離感ってのが大事なのだ。いいね?


「そうか、残念。だがお前の晴れ舞台はここからが本番だ。とっとと主役に合流して、面白おかしく()ってみろ」


 ……なるほど。本当に神様らしい。

 的確にこちらの神経を逆撫でしてくることを言ってくる。僕にそんな神経があったことに、僕自身が驚いているくらいだ。


 フッ、とそこで世界に色が戻り、時間が進み始める。

 謎のオシャレ黒髪少年も、白い襲撃者も、殺人犯も、みな、退場した。



 ……類は友を呼ぶ、って言うけどさ。

 僕がいったい、何をしたっていうんだい!?

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