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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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36 役者は揃った

「仕留め損なっ……え? 嘘でしょ? あんなになんか凄い戦って!?」


「なんだ、言い訳タイムをくれるのか?」


「解説だよ解説! 解説をよこせよ!!」


 ボクと姉さんでそんな風に問い詰めると、グレンは足を組んで話し始めた。


「斬った瞬間に時空移動された感触がしたんだよ」


「じ、時空移動……」


「タイムトラベル。過去には跳べないハズだから、遥か先の未来に一瞬行って、爆速で宇宙層まで逃げていったパターンだと思う。そのうち空に異常が起き始めたらカウントダウンだな」


 ────世界滅亡がほぼ確定したからか、外なのに普段より数段グレンがフランクだった。

 全ての縛りから解放されたっていうか。

 むしろ投げやりに近いっていうか。

 ……くっ! レアすぎるから裏で録音しておこう………………


「じゃ、じゃあ……お前、じゃあアレだよ、宇宙に斬撃飛ばして仕留めるとか……」


「いや、流石に世界層(レイヤー)が違うから無理。ていうか宇宙は天空層の更に上だろう。まぁ、俺があと五十年くらい修行したら、ここからでも届く……かもしれないが」


 さらっと出来るという可能性が出てくる辺り、やっぱこの人おかしい気がする。

 てか時空移動って……時空移動ってなんだよ。そんなのボクや姉さんでも対応不可能だよッ! 異界の侵蝕者というものをナメていた、いやナメた瞬間なんて覚えがないけれども、にしたってしぶと過ぎだ。スペック馬鹿か? 斬られたならそこで死んでおいてほしいものなんだけどッ!!


「──! そうだ! グレンがテレーゼさんの人理兵装(レリック)使って、撃ち落とすっていうのは!? 弓だよ弓! いけるんじゃない!?」


「それで届いたとして、どこに奴がいるか俺は分からないぞ」


「そこはまぁ、ボクが犠牲覚悟で観測するしか……」


「やめろ。イリスの細胞データの一つでも取り込まれたら、完全に人類から未来永劫、勝算の目がなくなる」


 うぐぅ、あっさり却下。でも未来永劫は言い過ぎなのでは?

 だがこうして悩んでいる間にも刻々と時間が過ぎていく。世界終了の未来が、もう秒単位で近づいてきていると思った方がいい。


「──侵蝕開始。魔境の魔物反応、ロストしていきます」


 清廉な機械音声の報告が聞こえた。ぶった斬られて無惨な姿になってしまったやしろさんからだ。

 ……え? 今度はなに……?


「龍神の仔により、魔王石と同等の権能を用いて魔物が『眷属化』されています。予測演算時間において三十分後、全ての魔物は唯一国への進軍を開始します」


「な゛ッ……」


「映せ」


 グレンの命令に、やしろさんが空中に大きくホロウィンドウを映し出す。

 拠点にしていた魔物たちの都市、赤色の大荒野。そこにいる全ての魔物たちは動きを停止していた。足元から黒い、あの仔龍と同じ色の黒が滲みだし、次々と変色していく。


「……おいダメ提督、アレに一体なにをした」


 ギロ、とグレンが鋭く提督を見る。

 元凶はしれっと返した。


「ただの『学習』だ。あの時、取り込ませたルシファーの野郎は『超抜存在』『魔王石』のデータバンク。ショタガキの一撃で分離しても、とっくに異物の中には同じ能力が入っている。真なる魔王の爆誕だ、手が込んでるだろ?」


 ……じゃあなにか、それは。


「つまり、今のアレ、魔王かつ超抜存在ってこと……?」


「ああ! 同等の存在といっていい! まさに傑作だ! 造物主に逆らったコト以外はなァ!」


 ダメだこいつやっぱカス。

 腐れ自業自得野郎め、笑ってんじゃねーよ。悪役にしかなれない病にでも罹っているのかな!?


「こちら私。Scythe、応答しろ」


 姉さんがコートからトランシーバーを取り出してその場を離れていく。

 一方、ボクは空を見た。変わり映えしない黄昏がそこに広がっている。見すぎないよう、視界感度を調整して、今の上空の大気状態やエーテル値を計測するが異常はない。薄気味悪い静けさだけが空を覆っている。


 ──ぐぅぅう。


 不意に聞こえた音はキリカさんから。若干ハイライトを失った瞳で、彼女は右手を上げる。


「ごめんなさい、お腹すいちゃった……誰かおやつ持ってない……?」


「…………」


 緊張感のなさに肩をすくめた時、ガサコソとグレンが羽織から差し出した。


「携帯食でよければ……」


「わーい!」


 レーションっぽいのに飛びつく久遠お嬢様。

 流れるようにボクも片手を差し出す。


「ボクにもなんかちょうだい」


「バイトからもらった飴しかないけど……」


 手渡されたのは棒付き飴だった。これ、異世界産の飴かぁ。

 カバーも棒も、見慣れない構成物質だ。文字が書いてあるが読めない。外すと青い表面の飴が出てくる。こっちは割とフツーだ。

 パクっとすると知らない味だった。なにこの……なに? 形容しがたい爽やかさと甘味が完璧に融合された舌ざわりは…………


「美味いのか?」


「うーん、味覚と嗅覚にくる高揚感が独特だね。食べただけでちょっと気分が明るくなるなんて、凄い作り込まれた嗜好品だよ。てか、なんでこんなの常備してたのさ?」


「お前に渡したやつは忘れてただけ。キリカにやったやつは、仕事終わりにでも食べようかと思ってた自分への報酬だよ」


「……えっ」


 キリカさんの動きが止まる。頬いっぱいにモグモグと召し上がっていて、袋はもうカラだった。


「……、…………めちゃくちゃ美味しかったわ!! ごちそうさま!!」


「開き直った……」


「別にいいよ。さっきラーメン食べたし……」


 ……どこでそんなの売ってたんだろ。やっぱりルシファー傘下の魔物たちだろうか。変わった個体もいるんだなぁ──って、たぶん現在進行形で「侵蝕」されてるんだろうけど……


「オマエらのそれは余裕なのか? それとも楽観なのか?」


 ──と。

 しばらく黙っていた提督がそんなコトを言ってくる。何の感情も読み取れない、レンズのような目で、だ。


「状況を正確に理解したから発狂する、なんて精神性は持ってねェだろ。どういう思考の変遷でこの状況でそんな『無駄』ができる?」


「提督。お前がいつ理解できるようになるか分からないがな、俺たちは単に軽く現実逃避してるだけだぞ」


「グレンが言うと謎にカッコよく聞こえるのはなんでだろう……」


「開き直ってるからじゃないかしらー……」


 そういえば潜伏中のカオス先生はどこいったんだろう、と軽く気配を探るが、この辺りにはもういないようだった。姉さんの指示かなんかで退避したんだろーか?


「──あのぅ。我輩、なにがなんだかよく分からないのだが、とりあえず今ってヤバイのか?」


 空間の隅っこでおとなしくしていた魔王(オーナー)が、そろーっとこちらに近寄ってくる。

 まだ記憶が戻ってないらしい。彼は現在の状態が「最も強い」らしいが、とてもこの状況を打破できるようには見えない。さっき蘇生に全魔力を使い果たしたらしいし。


「この上なく『詰み』だ。明日を迎える前にこの世界は終わる。脱出しておくのなら今の内だぞ、侵略者」


「でええええ!? な、なんというショッキングニュース! 慌てなさすぎだろう、現住民! 数秒前の死闘はどうした! き、貴様、この世界の『境界線』じゃないのか!? その身なり、世界防衛拠点の『社』の者だろう!?」


「防衛拠点……?」


 ボクが首を傾げると、フンとルシファーは腕組みした。


「元は異界と貿易するための『港』だったらしいがな。現地人なのにそんな基礎も知らんのか」


「いや、基礎って……グレン、そうなの!?」


「まあそうだけど……」


 そうだけどって。

 説明する気がなさそうだ。普段より五割増しに目に光がない。


「守護者としての誇りはないのか? 何故そんなにやる気を失っている! 貴様こそは我が侵略道における第一の壁のハズ! もっと足掻くのが普通ではないのか!?」


「…………」


 グレンの目は、この上なく冷めきっていた。

 とてつもなく憐れなものを見るような。憐憫と同情の入り混じった、呆れ返った顔だ。


「……やる気に満ち溢れた侵略様には申し訳ないんだが、俺は世界が終わろうが続こうがどうでもいいんだよ。永久退職できるなら清々するくらいだ。俺の年中無休の馬鹿みたいなブラック労働でようやく守れる世界なんて、とっくにかなり終わってるだろ」


 ………………。

 やばい。ちょっと何も言う言葉がない。この世界に生きる者の一人として、この天才的頭脳をもってしても、反論がなにも思い浮かばない──!!



「──でも手段があるなら、とりあえず手を伸ばすんだろ? どういう結果になるにしろ、な」



 答えたのはやはり姉の声だった。……いつの間にか、戻ってきていたらしい。


「なにか良い手立てでも持ってきたのか?」


「客人だよ。真の切り札は最後にくるものさ」


 姉が振り返った先──視線をやると、「あ」とボクは声を漏らした。

 そこにいたのは杖をつき、三角帽を被った人影一人。

 この事件の発端。始まりの人物。獣貌の老人。


 ──魔法使いストーリーテラーが、気配もなく佇んでいた。


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