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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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32 破壊の王政

 忌々しい声が聞こえた。こんなタイミング良く。

 視界に映さなくても分かる──姉さんたちがようやく合流してきたのだろう。


「自分の直感を信じろ! お前とソレが触れるとマズイことになる!! 世界にとっても──お前自身にとってもだ! 死ぬどころじゃない、お前の存在そのものが消えて無くなるぞ!!」


 相手の口を挟む隙間など、一切与えず。

 一息に叫んだ姉の声は、そこでようやく途切れた。


「……だ、そうだ。どうする、ルシファー? オレは別に、()()()()()()()()()()()()


「「!?」」


 提督の発言にはボクも息を詰めた。

 な、なんだこの局面でその言い方は。嘘とも判別できない。異様な余裕っぷりが気持ち悪い……!


【だ、だが、盟友ギルトロア。我輩でなければ、この「ループ」は終わらんのだろう……?】


「可能性は無限大だぜ。このタイミングで、“第三者が現れた”。これがオマエにとって『初めての』状況だっていうなら、なんらかのイレギュラーが起きている可能性がある。──なに、オレは急ぎはしない。決定権はオマエにある。オレ様は友人としてそれを心から尊重しよう」


「……嘘だ」


 思わず、愕然と呟いていた。

 嘘だ。嘘だ。嘘だろ。

 提督にとってもここは大事な場面だろうに、なんで本心からそんな事が言える……!?

 何を考えている? これも罠の一環か? それとも却下した場合のサブプランがまだあるっていうのか? ボクに千年分の演算をさせておいて!?


 ──いや、それとも。

 千年分も演算させて、()()()()()()()()ことこそが、本当の目的だったとしたら──?


「……ループ? チ、そういう事かよ。マイブラザー、やっぱやらかしやがったな?」


 ウルセー。

 それに関しては全面的にボクに非があるけれど、「魔王城攻略」とかで色々振り回してくれたアンタに指摘されたくはない。グレンに言われた方が遥かにマシだし彼にこそ文句を言う権利があるってものだ。


「オイ、ルシファー。『ループ』ってのは誤認──」


【人類軍の指揮官よ】


 オーナーの言葉が姉を遮った。

 ……緊張が走る。さあ、どう出る? なんにせよ、ルシファーの選択がこの先の展開を決定する。


【……合流と助言、感謝する。そしてギルトロア、貴様の言う通り──】


 ゴクリ、とボクは思わず唾を飲みこんだ。


【──可能性は試すべきだ。新たな切っ掛けが生まれた以上、一度お前からの提案は保留にしよう】


「……そうか。残念だが、それもいい」


 ──胸の内で息を吐く。

 ルシファーの気配が玉座から離れていく。よかった、これでひとまず最悪は回避、



         「【人理観測(レリック・アーツ)】、【開闢と破滅の矢(ジャガーノート)】」



「──あ?」


 刹那、閃光。

 視界が白に焼け、真っ白になる。

 その直前の光景を脳内が再生する──光だ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 何の前触れもなく。

 予備動作はおろか気配もなく。

 唐突に──それこそ落雷か、天罰のように。


【ッガ…………アグァァアアアアアアアアッッ!?!?!?】


 悶絶する絶叫。

 そこでやっと視覚が戻る。風を感じた。玉座の間の天井がまるっと消失していることに気付く。

 見える黄昏の空。おそらく先の光の矢だ。天井を消し飛ばして、ルシファーのいた座標に撃ち込まれたらしい。


「ルシファー……! 提督、テメェ──」


 また姉さんの声が聞こえるけど、倒れ込んだままじゃ周りの状況がよく分からない。

 頭の熱が抜けたわけではないが、仕方ない。ちょっと無理をして、この場の観測者である姉さんの視界をジャックする。


「……──!」


 見えたのは、倒れているボクの姿。

 そして玉座の傍に立つ提督と、黒焦げになって、たった今倒れ伏したルシファー。

 更には────


人理(レリ)兵装(ック)……!?」


 長杖ではなく。

 ()()()()()を持った、テレーゼさんが佇んでいた。

 それで思い出す──閃光の直前に聞こえた詠唱、アレは彼女の声だったと。


「よくやったテレーゼ。流石は自慢の嫁だ。バッチリだな」


「はい。我が提督(マスター)のご意志を実行するのも伴侶の務めですから」


「オイオイオイざっけんなよ……兵装保有者(レリックホルダー)なんて情報、聞いてないぜ。いやむしろ自前の神聖武装だろ? そうと言えよ、なぁ……?」


 流石の姉さんも衝撃が隠せていない。

 兵装保有者(レリックホルダー)、それは超抜存在を討つモノ。

 第五位以上の持つ人理結界を唯一破壊できる人材、グレンの刀と同等の力を持つ人類。


 その内の一人が──まさか、テレーゼさんだったと?


【ぎ、ギルト、ロア……なんだ、何がおこっ、起こって…………】


 焼死体と化したルシファーの声は掠れている。超抜存在となっている今の彼にとって、人理兵装など天敵以外の何者でもない。直撃しながら未だ存在を保っているのが奇跡的だ。

 そんな彼を嘲笑うように、クックックッ、と喉で笑う音がした。提督からだ。


「末席でも超抜存在か。特攻の一撃でも完全な破壊までには至らねぇ。実に都合がいい、最高だよ本当に」


「絶対にロクでもない答えが返ってくるだろうがあえて訊くぞ──提督、一体なにが目的でルシファーと関わった?」


「そいつは単純だ。実に単純な話だ──欠伸が出るほどありふれた、ただの好奇心からきた一大実験にして大事業だ」


 世界に対し。

 錬金術師は──錬金術師の怪物は、軽く両腕を広げた。



「究極破壊兵器の錬成。異界からの侵略者同士を融合させ、新たなる異界侵蝕生体兵器を造り上げる──これほどココロ躍る事業はない、新境地の『破壊』が見られるかもしれないんだぜ?」


「はっはっは、面白い冗談(アイデア)だ、呆れて物も言いたくないが大人だから言ってやる──テメー本気の馬鹿だな!?」



 今だけは姉さんに完全同意(ヘッドバンキング)だった。倒れていなければ。

 もはや、もはやそこまでくると何も言いたくない。ノーコメントでぶっ飛ばす。きっと対提督にはそれが最適解かつ最善のコミュニケーションだったのだろう。

 話し合いなど通じない。

 初めから塩対応を一貫していたグレンが一番正しかったというワケだ。ボクも見習おう。


「元よりオレに善悪の物差しなど存在しない」


 無の声色と表情。

 それは人形にも似て。

 それは昆虫にも似て。

 感情を持つ知性体では、決して理解しえない、別の生物(ナニカ)のカオだった。


「オレ様に唯一在るのは()()()()。錬金術もそれを満足させるための手段にすぎん。

 人類を真似るために人格を錬成した。社会を識るために感情を学んだ。動きを、口調を、言葉を、オマエたちが接しやすいように、理解しやすいように調整(チューニング)した。

 それが大錬金術ギルトロア。破壊の王という絶対者を()()()モノ。──納得いったか? 零落の大悪魔」


「──新生したと言え老害。大体、害虫が人生を批評するな。未練が透けて見えるぞ、欠落者」


 姉さんの言葉を受けて、ニヤリ、と提督は凄惨に笑みを浮かべる。

 ああ、あの目は知っている──興味深い観察対象を見つけた時の、幸運を歓ぶ錬金術師の眼だ。


「最高警告発令。『仮称・物体A』の捕食本能、目覚めます」


 姉さんの方から、やしろさんの声がした。

 一瞬、視界が倒れ込んだままの魔王(オーナー)を注目したが──


「──、総員退避優先!! ルシファーの回収は諦めろ!」


 直後に変化があった。

 接近は一瞬。黒いキューブの影から伸びた触手が、倒れていた魔王(オーナー)を飲み込んだ。


【──ア、】


 断末魔すらなかった。

 走馬灯もあったかどうか。

 影は刹那にして第十位を取り込み、キューブへと還っていく。バチバチと周囲に軽い放電が発生しつつ、琥珀の光が更に輝きを増していく。


「第十位の存在反応喪失」


 無機質の報告だけが場に響く。


「『物体A』の名称更新。龍神の仔、活性状態へ移行しました。世界滅亡軸の演算開始。未来確定。個体・第六位の遺児との戦闘開始します」


「第六!? 誰だよ!?」


「ネーミング機能(センス)バグッてンのかその機械?」


 声が飛び交う中、ボクは姉さんの視界越しに、キューブの方を見ていた。

 ……離れているのに、脈動を感じる。アレは生きている。ぞわぞわと鳥肌が止まらない。触れたが最後、(ボク)でさえ存在を、概念を保っていられるかは怪しい。


 それに取り込まれてしまったルシファーは──いや、悼むのは後だ。後にするしかない。


「“神殺し”を連れてこなかったのは慢心か? それとも途中退去(バックレ)か? なんにせよ有難いがな、世界の危機には役者が不足してるんじゃねェか?」


 ──え。

 慌てて周囲の環境気配を探る。

 だけど、いない。ここに絶対にいるべき人材が、致命的に欠けてるんだけど何事ぉ──!?


「ちょ……っと姉さん、いくらなんでも、それは舐めすぎでしょ…………」


「えっ!? あれ、お前生きてんの!? 死体かと思ってた!」


 クソ姉がよッ……!

 いや反応できてなかったボクもボクだけど──って、声が届いてるってことは、防音障壁消えてたのか。クソォ、演算精度が致命的に落ちている……!


「あー。そっち、忘れてたな」


 間の抜けた提督の声と同時、


「ッぅ!?」


 姉さんの視界ジャックが中断され、ボクは何かに引き上げられた。

 いや、抱えられた? 目を開けると、


「火楽祈朱、回収しました」


 やしろさんだった。やしろさんに抱きかかえられていた。

 倒れていた位置から、既に遠ざかっている。空間転移だろう。すぐ前方には、黒コートを着た、金髪の姉さんの後ろ姿が見えた。


 キンッ、と着弾の音が遅れて聞こえる。

 さっきまでボクが倒れていた場所には、弾丸が転がっていた。

 ……推進力とセットで錬成された、例のアレか。おっかないなぁ。


「あーァ、やっちまった。気分アガるとケアレスミスを起こしちまう。コレあれだろ、後でその白いガキが逆転札持ってくるんだろこれ? ()()()()()()()()


提督(マスター)、今なら全員消し飛ばせますが」


「いや、いい。どのみち破綻するとしても観客がいないと勿体ないだろ」


 提督の声は、世間話をする調子そのもの。

 まるで緊張感がなく、まるで空気に馴染まない。

 それでも今、この場を制しているのは間違いなく彼だった。


 船長服のコートが風に吹かれ、嗜虐的な笑みと異色の眼光が閃く。

 その傍には、黒い衣装に金目となった、永遠の少女が花のように付き従う。


「──時間は有限。脅威は目前。元凶オレ。ブッ飛ばしたい奴から掛かってこい、人類代表ども」


 ゴゴゴゴゴ、と大気の蠢動があった。

 天井が消し飛んだ余波で崩れていた瓦礫たちが舞い上がり、提督の背後で一本の大腕のような形が組み上がっていく。


「……やしろさん、ソイツ任せる。──伝令ッ! 敵対象、『提督』ギルトロア並びに、『兵装保有者(レリックホルダー)』テレーゼ! 第十三部隊(サーティーン)、戦闘開始──!!」


 直後、空間に鎖を始め、銃弾や茨らしき攻撃の数々が嵐のように展開される。

 メンバーの姿も位置も、今のボクでは捉えることができない。大方、光学迷彩で隠れていたのだろう。


 そんな決戦場から、ボクはやしろさんに抱えられたまま、一時撤退させられていった。

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