27 この中に部外者がいる!
無駄に壮大な試合も終わったので魔王城に戻って来た。
天空に移動できることはこれで実証できたから、次から工程を省こう。今度の改良型は、宇宙から直接エネルギーを引っ張れるようにしよっと。
で、ボクは気絶したエリファレット君を連れて、元の市街地フィールドに帰還したのだが。
「やっぱ銃はダメだな。全然当たらない」
「ファイト! ……としかもう言えないわ! 銃の基礎は全部教えたわ! 後は当てるだけッ!!」
「……テメェら、何故こんな無駄な時間を費やせンだよ……」
市街地郊外。そこは小規模な枯れ草の原っぱだった。
そこではなぜか拳銃を両手で構えたグレンと、離れて応援するキリカさん、的のような位置には、不自然な立ち姿で停止している提督がいる。
〈トラップカード決定! 【射的】▼任意の一人を射殺せよ〉
中空にはそんなホロウィンドウが出ていた。
ここには残りの十三部隊の人もいるはずなのに、なにを遊んで……いや?
キリカさんのいる近場の木の根元。そこにはロープで縛られた人影が二人。
軍用ゴーグルをかけた中年のおじさんと、貴族服を着たツインテールの少女。見た感じ、どちらも気絶しているようだ。もう本筋の「攻略」は完了してしまったらしい。
……それでまだトラップシステムに時間をとられてるのは、こっちも笑うしかないんだけど。
「なに遊んでるのさ三人とも。ボクの心配はしてくれなかったの? よりにもよって神獣のハーフと戦うハメになってたんだよ?」
「ちょっと待て。次は当たる気がするんだ」
「……」
四発分の銃声音が響く。しかし弾丸の軌道はどれも提督から外れ、虚空へと流れていってしまう。
場はなんともいえない空気。その時グレンが拳銃そのものを投擲し──
「ゥガッ!?」
ごッッッ!! と提督の顔面にクリティカルヒット。
コメント欄が喝采と投げ銭に溢れる。
「うーん、狙撃のエイム力が無さすぎるわねー……」
「そういう問題?」
吹っ飛んだ拳銃を錬金術で瞬間的に転移させ、ボクの手元に取り出す。
弾丸は……どうやら対象に当たるまで自動生成されるようだ。そこにちょちょいと細工をして、グレンへ手渡す。
「はい。これでどう?」
「……」
受け取った拳銃をまじまじ見てから、グレンは適当に片手で引き金を引いた。
──と。やはり的外れな方向へ飛んだ弾丸は、一人でに動いて提督の頭部を打ち抜いた。
がっ、と微かに呻いて提督が倒れ、その仮想体がポリゴンとなって消滅する。
「……何をしたんだ?」
「弾丸の方をいじったんだよ。これでクリア──」
〈トラップカード決定! 【地獄の炎Ⅱ】〉
「もういいって」
トラップが発動する瞬間、術式に干渉して根幹システムを破壊する。
コメント欄でオーナーの悲鳴が書き込まれたが、無視だ無視。
「ところで、どうやって提督を的にしてたの?」
「私の重力理論と『提督ちゃん』の停止術式で、ちょっと」
「あの提督にサービス精神が……?」
『いえ、単に私が裏切っただけです』
ホロウィンドウが現れ、ビット的絵柄になったテレーゼさんから一瞬そんな通信が入る。
……裏切りさえ「理想の嫁」要素とはたまげたなぁ。
「やれやれ、久々に『拷問のような時間』ってのを味わえたぜ」
と、ひょっこりと提督が復活してくる。
誰もボクの心配をしてくれなかったのは、この悪の提督にそこまで言わせる時間を知らしめたことで相殺としよう。
「合成獣はやったな? ちなみにどうやって倒した」
「宇宙ぶつけた」
「説明になって……いや……、そういう事か。その手もアリか」
さっすが提督。理解が秒速。
グレンとキリカさんは顔を見合わせて、こっちに異常者を見るような視線を向けてくるけども。
「いや、キリカさんは解るんでしょ?」
「……流石に宇宙は管轄外、ってことにさせてちょうだい……」
理解を拒んでいる笑顔だった。もしや、ドン引きされている?
「これで残りはWire、Infoだけか」
「姉さんもいるから三人だよ」
「私、アガサちゃんとは戦いたくないんだけど……普通に負ける気がするし」
「──いや。どうやらお出ましのようだぞ?」
提督の愉快そうな声で、ボクも気が付いた。
市街地のフィールドが、急速に解除されていく。テクスチャが剥がれた空間は、鋼鉄でできたような円形の足場だった。その奥、階段から硬い足音が聞こえてくる。
気配からして──姉さん、ではない。別人だ。
「──無理ゲー。当説、降参」
ずっこけそうになった。あと「当説」って一人称、もう個性的とかいうレベルじゃない。
長い紫色のストレートヘアーの少女……いや、幼女だ。十一歳ほどか? 黒コートに、機動性の高そうな軽装。手袋の仕掛けからして──例のワイヤー使いか!?
それに目を引く外見特徴があと一つ。生気のない、黒色の瞳に息を呑む。
黒曜の目──それは魔族にとって、魔力量の最高峰を示す証だ。
理論使いで魔力量最高って、一バトル起きても良さげなカードなんだけど……?
「……え? 君……」
キリカさんが怪訝な声を上げる。
それは戦闘を放棄したことではなく、彼女そのものに対する疑念──不可解なものを見たような表情だった。
「配信、切断、要求。話、拒否」
「テレーゼ」
『了解しました。提督命令が下されたので本日はここまでです』
プツッ、とテレーゼさんの画面が消え、ボクの視界端からもコメント欄が消える。
無慈悲だ……リスナー側の気持ちを考えたくない。
「攻略、終了。再主張。当説、降参」
「──えぇッ!? Wire、戦わないんです!?」
おや、とボクは近くに転がしていたエリファレットを見る。どうやらもう起きたようだ。あれでも手加減はしてたけど、やっぱり頑丈だなぁ。
また動き出されても面倒なんで、今は対神獣用の拘束縄で手足を縛ってるけど。
「提督、悪魔、重力。──無理。多勢無勢。幼女リンチ、駄目」
「……まぁ、絵面は最悪だね」
なにせ三体一だ。理論使いといえど、単独で提督とグレンを同時に相手したいとは思わないだろう。
「……その気配。もしかして、異世界人か?」
グレンの指摘を理解するのに数瞬かかった。
ちょっと待って。それってどういう──
「肯定。当説、捨て子。戻る道なし。現状満足、以上」
「ええええ!? そうなんですッ!?」
『マジで!?!?』
──いきなり新たなホロウィンドウが現れた。映っているのは……背景からしてキリカさんの列車内。カオス教授やアルクさんを始め、解放済みの十三部隊の面々がそこには集結していた。
キリカさんが苦笑いを浮かべる。
「み、皆いつの間に……」
『同僚のやられっぷりを皆さん是非視聴したいとのことで……』
『誤解やん。後で反省会しよーって話やったやん』
『俺はScytheの一人勝ちに全賭けしてたんだけどな』
「う。ザッシュ兄さんゴメン……」
『本名呼ぶな。ChainだChain』
と、とにかく、驚きの事実が発覚したわけだけど。
……まさか、あのバイト学生以外に、こんな例があったとは……
「って事は、その瞳して魔力ゼロか。確かに殺し合いにもならねェな」
──そっか。黒い瞳だけど、彼女は異世界人。元から魔力を保有しない、完全に別世界の人なのか……
「異世界人だからアガサの洗脳も通用しなかったようだな。降参ということは、Infoというハッカーの居所も教えてくれるのか?」
「肯定。But、Info、降参不可。試練設置」
「試練……?」
「追従要求」
くるっとワイヤーさんが踵を返して、階段を登っていく。
ボクはちらっとエリファレットを一瞥してから、彼女についていくグレンたちの背を追おうとして。
「……えっ。小官、置き去りですかッ!?」
「あ、後で回収しにくるから……気絶しとく?」
「……マッテマス」
すんっと神獣クンはおとなしくなって寝転がってしまった。微弱ながら恐怖の感情波を感じる。きっちりボクのことはトラウマと化したらしい。
■
やがて連れてこられたのは──あの玉座の間にも通じるような、鋼の大扉の前だった。
区画からして別の場所だろうが……この辺り、前にRTAした時は通らなかった道だ。造りも石製ではないし、壁も床もスベスベとした黒い鋼鉄製。ここだけなんかSFエリアだ。
「Info、ここ。扉、開錠、必要」
「なんだこの馬鹿みてェな桁数の開錠パスワードは……オレ様の工房をなんだと思ってやがる」
「──あ。この辺、提督のエリアだったんだ。リソースとして奪われたって言ってたね……」
「五月蠅ェ」
道理で材質に違いがあるわけだ。近未来的なのも工房と分かれば納得である。
カチャン、とグレンから鯉口を切る音がした。
「斬ってみるか?」
「……やってみろ」
扉から提督が退き、グレンが抜刀する。
一閃。
扉には切り傷が刻まれたが、二秒としない内に復元されていく。
「高い復元機能があるな。斬った位置から発動している」
「チッ、システムの元をどうにかしないと無理か。……いや、クソガキ。なんかあるだろ」
「え、ボク?」
指名されて、冷や笑いしてしまう。
なに提督、この程度もどうにかできないってわけ?
「あ、る、だ、ろ」
ガッと頭をわし掴まれた。
「人呼んで錬金術の帝王なんでしょ。工房の制御権くらい奪えないの?」
「魔王城と融合してるせいで術式弾かれンだよ! 必要経費だ、望みを言ってみろ!」
「絵面が親戚のおじさんと子供」
「グレンくん、もしや天才?」
やめてほしい。ちょっとボクの中でもウケちゃったからやめてほしい。
この提督と親戚関係なんて、死んでもゴメンだ。転生したってゴメンだ。
「じゃあ、後で提督の過去話とか教えてよ。それで手を打とう」
「……、……いいだろう」
拍子抜けというか、「は? そんなん?」みたいな顔をされたがヨシ。
頭から手を離されたので、作業に取り掛かる。
「思い切りやっちゃっていいね? 危ないから、一応十エートルぐらい離れておいて」
何をする気だ、という目でグレンが見てきたが、まぁまぁまぁ。
ここしばらく使う機会もなかった傑作の一つだ。今日は色んな術式を試せて楽しいな。
一人大扉の前に立ち、ボクは右手を伸ばした。
術式構築は不要。展開まで二秒。トリガーは術式名。
ていっ。
「『機巧仕掛けの星壊』」
瞬間──ボクの右手横に鋼の円形射出装置が現れ、充填されていた純エーテル砲が撃ち放たれる。
これがボク好みに構築した、『必殺なんでもブレイカー』。
掃射される光線には、地上のあらゆる物質を分解・熔解・消滅させる術式を組み込んである。対物理への絶対兵器だ。頭使わないで目の前の障害を消し飛ばすにはこれが一番手っ取り早い。
激しい熱風。扉を分解し続ける熱で、ボクのいる周囲の床と壁も融けてきた。なお、ボク自身へのダメージはカットしてある。その辺は抜かりない。
熱線と扉の復元機能が拮抗する。しかし絶え間ない分解に、扉の方が先に音を上げた。
室内にまで光線が届かないよう射程距離を調整しつつ。
とりあえず複数人が通れるほどの穴が開いたところで、作業終了。
「おわったよー」
装置を工房にしまって後ろを振り返る。
次元障壁らしい術式や、重力による壁、鳥居の境界防壁が消えていくのが見えた。
提督、キリカさん、グレン、ワイヤーさんの四人は、棒立ちでこっちを眺めている。
「Reader、Brother、Fantastic……」
「何千年後の純エーテル砲だ今の。次世代の戦争にも使えそうだな」
「現代には早すぎる未来兵器よ……なんで持ってるのイリスくん……」
「これがボクなりの脳筋解決法だよ。結構便利だよ?」
「脳筋と呼ぶには叡智を詰めすぎだ……」
グレンまで呆れ返った目をしてくる。
なんだよー。役に立ったんだからいいじゃんかよー。
とか思っていると、部屋の奥から新しい足音がした。
「チートも合法じゃあ反論の余地もナシ。大手を振って投降ってワケですハイ」
低い、気だるげな声。
床にひきずるほど長い、ざんばらの青髪を持つ男性だった。二十代後半ごろ、に見える。
種族は、鳥の獣血種……だろう。頭から羽っぽいのが生えてる。両目は長すぎる前髪で見えなかった。
黒染めした白衣のような黒コート。その手には、薄い板状の端末を持っていた。
「貴方が……」
「エドワード・フランクシュタイン。コードネーム:Infoです。第十三部隊、全員の撃破お疲れ様でした」
『WireとInfoの兄さんは戦ってないやんか?』
「Readerの命令は『魔城攻略者の相手をしろ』。戦えなんて一言も言ってないんだよクソ脳筋共。洗脳されてたとはいえ、相手する=戦闘とか蛮族思考すぎィ」
『──、』
通信先のアルクさんを始め、十三部隊の元敵メンバーたちが黙ってしまった。
……言われてみれば、確かに姉さんのやつ、そういう命令を下していた気がする……
「じゃ、早速クリア報酬をば。まず提督サン。こちら工房の制御権です。エリアの切り離しまでは拙の管轄外なので悪しからず。あと、こっち現状の『未明異物』の生体反応データです。お役に立てれば」
「!?」
バババッ、と空中に十枚以上はあるホロウィンドウが現れる。
そのどれもが未明異物──あの「物体A」にまつわる分析結果や対処考察、特攻術式案の情報だった。
一方、提督の手には小さい鍵型の物体が現れていた。
「オイ……クソハッカーのくせして有能か?」
「一応職務なんで……それに現状、安全にできる人材アンタしかいないっしょ」
「対価は」
「城内にいる、解放した十三部隊の平穏かつ確実な外界への退去。以上です」
「取引成立だ。テレーゼ」
『はい──魔王城中層に残っていた三名とそこのWireを強制退去させます』
ピピピッと電子音が響くと、すぐそこにいたWireさんの姿が消え、列車工房と通じていたホロウィンドウからドシャッと音が聞こえる。すぐさま、わーわーと混乱に騒ぐエリファレット君の声がした。
「確認完了しましたー。じゃ、拙もこの辺で……」
「──え、待ってよ。姉さんは?」
「あー、手遅れです」
今思い出したかのようにサラッと告げられ。
こっちを見もしないまま、あっさりとInfoさんの実体は電脳体のように情報分解されて、そこから消え去った。
──瞬間。ボクは、自分の後頭部に銃口が突きつけられる気配がした。
「……あ、あの。提督?」
「停まってろ。──オレらの協力関係、もとい契約関係もここまでだな? 神殺し」
「ああ。『天空王ギルトロアが自身の工房制御権を取り戻すまでの間、社に属する者は協力相手として敵対しないものとする』。俺は魔法使いの要請通り、魔王ルシファーへの味方は続けるが、提督との共闘はここまでだ」
「共闘なんて場面、一瞬でもあったかねェ? さっき普通に射殺された気がするが」
『……提督。本体格納ケース──もとい「電脳仮想体変換装置」、干渉できません。サブプランにあった「神殺し・久遠桐架、両名の間接的排除」、不可能です』
な゛。
こ、こ、この提督ッ!! やっぱ初めから裏切るつもりだったのか──!!
「そうか。まァ予想はしてた。あの機械人形、初日の時点で、オレ様の司令室に何か仕込みやがったな?」
「それは俺の感知するところじゃない。任務達成の未来ために、アレが自己判断しただけだ」
「……おほほうふふ。サクラくん、もしかしなくても私たち、やしろさんがいなかったら詰んでたってことかしら~……」
「提督の目的がどうあれ、最優先で対処すべき障害は第三者の俺たちだろう。──完全な部外者である、ただ一人を除いてな」
と──今度はボクに視線が集まる。
提督。グレン。キリカさん。ホロウィンドウ越しにテレーゼさん。それに十三部隊の方々。
「……何かな? 皆、そんな、人をラスボスか黒幕みたいな目で見てきて……ねぇちょっとグレン、さっさとこの提督の銃、退けてほしいんだけど──」
「……」
ボクの言葉にグレンは一切答えず。
キリカさんの方は、オロオロとした様子で周囲の状況を把握しており。
「じゃ──主役様がたにおかれましては、一時退場を願おうか?」
「!!」
小気味よい指鳴り音。
途端、グレンとキリカさんの姿も、その場から消滅してしまった。──強制退去、というやつだろう。装置内の本体には干渉できないが、仮想体の方の彼らを城内から弾き出すことくらいは造作ない。
残ったのは殺されかけのボクと、殺人犯予備軍の提督。それに電脳体のテレーゼさん。
……ええっと。ここからどうすれば。まさか提督と戦闘? やだなぁ。
「あの、ていと──」
ひとまず取引の試みを、と後ろを振り返った時。
やはり銃口は、目の前にあった。
「報酬だ。受け取れよ」
響く一発の銃声音。
銃口から飛び出した弾丸はボクの額を撃ち抜いて──意識はそこで途絶した。




