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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
69/97

26 神の仔

 ──大選別。

 それは終末神ラグナロクが、毎年初めに執り行った絶望の儀。


 大陸全土の空を覆い尽くす、黄金の光。

 それらは雨となって地上に降り注ぎ、あらゆる物理的防壁、結界、障壁を貫通して、有機生命体を殺害する。


 光の雨、或いは槍。

 それに貫かれた者、触れた者、掠った者は、光の粒子となって消滅する。

 個人が持つエネルギー全て、魂を神の使うリソースへと変換されて──永遠に消える。


 それが今、ボクたちの頭上に展開されている事象の正体だった。


「なにしてるんだお前ら? 突っ立てないで、さっさと敵を探しに行くぞ」


 ──何気ないグレンの声が意識を引き戻す。

 呼吸を再開したボクは、もう歩き始めていた彼の背中を見た。


「い、いや、上! 上のやつ見えないの!?」


「ただの再演だろ。幻だ。当たっても……まぁちょっと痛いだけで済むんじゃないか?」


おーなー『……予算がなかったから、本当にビビらせるだけのトラップなのである……』


 悲しい事実の書き込みがあった。

 光の雨が降り注いできたのは、その瞬間。


「うわっ……!」


「い──や──! しにたくなぁああいぃッッ!!」


「ぐがっ」


 後ろからキリカさんにしがみつかれる。勢いで倒れてしまい、身動きがとれなくなる。

 ──光の雨が手首を掠めてしまい、一瞬精神が底冷えする。が、本当に何も起こらない。


「……あ、ほ、ほんとだ……大丈夫っぽい……」


「あー! うわぁー! 私しんだー! しんでるぅー! あああ──!」


「キリカさん、ごめんだけど重い……」


 あとぎりぎり首を絞められているので苦しい。彼女の方にはボクに触れている感覚がないと思うので、かなり容赦なしの力加減だ。

 ちらりとグレンを見てみると、こっちに呆れた目を向けたまま、ひょいひょいと槍雨をよけていた。なにあの技術。


「……触れても大丈夫なんじゃ……」


「いや、幻だろうとあの野郎の攻撃に当たるのはちょっと……」


 言葉の底には殺意があった。思い出し殺意ってやつだろうか。おっかないな。

 提督は──


「これサムネにするか」


 いえーい、と電脳テレーゼさんの映った実況ホロウィンドウに向けてピースしていた。

 暢気か?


三才児『……もしかして音声の人って例のあれ? え?』

化石代表『ハハハそんなサマカ』

ブラック『ないないないないない』

肉いも『スペシャルコラボってまさか……』

三才児『じゃあ一応スパ投げる:10000G』

仙人『なんでやww』

某『特に意味はないけど一応ね?:100G』

化石代表『……:1000G』


 ……なんかコメント欄が気付き始めて賽銭投げ始まってる!

 みんな無言でお金を投下している。なんの儀式だこれ。ボクも投げとこ。


「おい早く起きろ。次の罠が来る前に──」


 フッ、とそこで光雨の幻影が消えていく。

 あ、と思った時、再びボクたちの上にホロウィンドウが現れた。


〈トラップカード決定! 【ミラー】〉


 キィン、と閃光が起こった。

 するとボクたちの進路方向には、四つの黒い人影が──


「空斬説」


「Delete」


 グレンの放った斬撃と、提督の命令(コマンド)がそのうちの一人に突き刺さる。

 瞬殺された影は──ボクだった。ボクの輪郭を模した、鏡映し。

 それで今のトラップの意味を悟った。


「キリカさん、敵!!」


「にゃッ!?」


 素早く彼女を押しのけ、こっちに向かってきた影のグレンの剣撃を障壁で受け止める。

 ……やば、これ。模倣ってどこまで、これ斬られ──

 命の危機を感じたとき、斬、と目の前の影が散った。本物のグレンが斬り伏せたのだ。


「ッ! 第四説・重力崩壊!!」


 ごおっっ!! と強い風と重力を感じた。

 キリカさんが右手を突きだし、なにかのエネルギー──おそらく重力そのものを攻撃として放ったのだろう。

 それは大通りのフィールドを抉りとり、きっとそこに「居た」影を霧散させる。一瞬にして起きた大規模破壊に、グレンと揃って言葉を失う。


「……雑か。巻き込む気か?」


「成功したんだからいいでしょ! あと、提督の『映し』は──」


「もう殺したぞ」


 サラッと言って提督が合流してくる。

 その右手には影の海賊帽。さらさらと砂状になって消えていく。

 ……提督VS提督という惜しい瞬間を見逃したかもしれない。後で配信確認しよ。


〈トラップカード決定! 【スタンピード 中級編】〉


 無人の市街地に、今度は数百体規模の魔物の軍勢が現れる。

 ……このトラップシステム、まさか永遠無限か?


「何種類あるのコレ……」


おーなー『666種類の予定だった』

提督ちゃん『実数は?』

おーなー『……ひゃく』


 予算不足の悲しい事実だ! 涙を禁じ得ない!


「サッサと消化するしかなさそうだな。おいガキ、怠けてないでそろそろ本気でやれよ」


「面倒だからって押し付けないでくれる? てか、提督の方が熟練でしょ?」


「とっくにオレ様のやり方を学習して最高効率化できてんだろ。こんな歯ごたえのねェ攻略やるくらいなら嫁の配信の方が精神滋養あるわ」


おーなー『今サラッと我が城のシステムディスらなかった??』


 ……まぁ、目立つことは嫌いじゃないし?

 グレンの方も提督同行で気が立ってるようだし? ここは一つ、天才錬金術師として配信用にもパフォーマンスするべきか──



「敵情、分析、作戦、結論、完了! 小官やーっと理解しました、ダントツで白い奴ブッ()っとくべきですねー!?」



 エリファレットの声がした。

 しかしボクがその発生源を見る前に、視界の景色は変わっていた。


「ごっ──ガッ、ぁぁぁああ──!?」


 胴体が炸裂するような、感覚。

 ごキベキベきベキャッッ!! ──なんて冗談みたいな鈍音が自分の身体からするなんて思わなかった。

 左真横からぶっ飛ばされたのだ、と現状を解するまで一.五秒。走る鉄塊に突っ込まれた想像はあながち間違っちゃいないだろう。


 ぐるん、と視界と平衡感覚が狂って、見えたモノは黄昏空。上空を舞ってるようだ、ごぅごぅと風圧が襲ってくる。


「どこ──から──!」


「Info(にぃ)にお頼みましたぁー! 絶対奇襲ッ! さぁさッ、トドメでぇ──す!!」


「ッッッ……!!」


 十数メートルの高さから、金色の獣がやってくる。

 これはマズイ。

 天地を割る威力はあるだろう踵落としが迫る中、ボクはそこで──


>>証明中断


 ──いったん、この世から退出した。


     □


「──んっ!?」


 盛大な空振りを金色の少年が感じ取ったとき、もう白い悪魔の姿はそのフィールドに存在していなかった。

 すかっ、と足技は大気を蹴り、その衝撃で地上のスタンピードの半数と周囲の建物群を消滅させる。

 地上にいた者たちからすれば、まるで隕石が降ってきたかのような光景だったが、張本人の少年は地上の様子なんて眼中にない。


(あいつ──どこに──)


 己の五感、第六感までもを総動員して、軍帽の彼は空中で停止し、敵の気配を探る。

 人類とは比にならない、超越的に鋭い感覚は、微粒子の異常まで逃さない。

 ──瞬間。


「そこぉッ!!」


 本能に従い、金色の光が空を奔る。

 だが伸ばした左手は何も掴まない。少年が迫った途端、またしても悪魔の気配が消失したからだ。


「逃がさないですよ──!?」


 再び、離れた座標に悪魔の気配を感知する。市街地のフィールドを縦横無尽に駆け抜けて、余波で街並みを破壊しながら、黄金の流星は「獲物」へと襲いかかる。


「〈殲滅黒銃アルスラグナ〉」


「!?」


 突如として、翔ける少年の前に黒銃の大群が出現した。

 それは彼が忠誠を誓う錬金術師の術式と同一。あらゆる神獣生物を破壊・掃討することに特化した殲滅兵器である。


「掃射開始」


 合図はパチンと指鳴り一つ。

 四十丁の黒雨が唸りを上げる。ゴガガガガガガガッッッ!! と無秩序の銃声が一体の獣に降りかかった。


「──【神獣覚醒(アクセス)】」


 即断だった。一瞬にして金色の少年の気配が激変する。

 軍帽の頭上に光輪が輝く。その背には、黄金の光翼が閃いた。

 翼は刃状と化し、神気が満ちる。黄金の粒子が舞い、銃弾のことごとくを打ち払う。


(──ッ!? この弾、Readerの神弾よりも重ッ……!?)


 光翼を広域展開し、エリファレットは力任せに銃身群を消し飛ばす。

 すでに悪魔の姿はない。消失と顕現を繰り返しながら、相手の気配はフィールド内を逃げ回っている。


「どこへ行こうと無駄です──小官が追いつけないモノはありませんッ!!」


     ■


 覚醒モード……響きはカッコいいが、それに相対する側の気持ちを考えたことはあるだろうか?


 光輪を現し、光翼を背に顕現させたエリファレット君は、光となって失せた。

 直後、市街地を大規模な砂嵐が襲う。それがたった一人が駆けただけの衝撃波にしか過ぎないなんて、まったく笑えないジョークである。


「あー、こわいこわい」


 ボクは市街地で一番高い建物の上にいた。フェンスに囲まれた屋上で、障壁を展開しながら砂嵐をやり過ごしている。

 先ほどフィールド内に数百単位のデコイを錬成し、相手は今それを全速で追っている。しらみ潰しもここまでの速さとなると、稼げる時間は十数秒ほどだ。


 再顕現と同時に、肉体の損傷も消えた。

 この間に、こっちもこっちで対処法を用意する。


「まだ仮説段階の(座標固定)やつだったけど(:次元軸決定→)……君で試させても(天空:スケールレベ)らう(ル1)よ、神獣の仔」


 敵は第一位の遺した眷属兵器。そのハーフ。

 自分の実力をぶつけるにはもってこいの相手だろう。


「追いかけっこは終わりですか? ──って訊くのが礼儀なんですよね、こういう時?」


 砂嵐が終息を迎える。

 目の前のフェンスの上には、こちらを見降ろす、黄金の絶対強者の影。

 ボクは肩をすくめた。


「そういう台詞を言った奴は、たいてい負けるんだけどね」


「えっ、そうなんです? でもまあ、小官にはカンケーないコトですね!」


「……戦う前に一つ聞いてお(展開準備。次元層アク)きたいん(セス開始)だけどさ」


「?」


 少年が可愛らしく小首を傾げる。

 獲物を見る眼光に揺らぎはないが、どうやらこの子は好奇心を優先するようだ。


「なんでボクを狙ったの? 昨日の経験からして、(観測点調整。次元:宇)普通はグレン…(宙の観測始め。)…神殺しを選ぶのが道理じゃない?」


「だってあの人、奇襲通じないじゃないですか。それに今日、小官が貴方を選んだのはちゃんと理由があります──それだって本日の作戦のおかげですっ」


「作戦?」


「攻略者たちの複製体を作る、トラップがあったでしょ?」


 ああ、と数分前の記憶──鏡映しのトラップを思い出す。

 メンバーがメンバーなので瞬殺で終わった出来事だったけど、あれに注目するべき点なんてあっただろうか?


「あの神殺しと提督の初動が決定打です。あの二人、真っ先に自分たちの『映し』じゃなくて、『貴方の映し』を狙ったんですよ。しかも同時に、全力で。この意味が分かりますか?」


「……そりゃあ、あの中じゃ(仮称アストラルエネル)ボクが一番(ギー充填始動。)弱いからでしょ(演算式調整まで五秒)


「皮肉が低レベルですね。逆に決まってるじゃないですか!」


 エリファレットはわざとらしく、大仰に両腕を広げた。


「彼らは、貴方が一番残しておいたらヤバイ奴だと判断してるんです。故の瞬殺です。なにかを学習される前に、最初の一撃で決める必要があった──ほら、これを『規格外の化物』と呼ばずして他になんて言うんです?」


「……光栄だね(証明開始。)君のような傑作から(対象エネルギー体の変)そんなこと(換完了。)を言われる(混沌エーテル操作術式)なんて(構築中)


「褒めてないです皮肉です。ギャグセンスゼロですか?」


「君ね、もうちょっと相手に同調することを学んだ方がいいんじゃない?」


「エンリョします。小官、人になる気はありませんから」


 ざわり、と空気が震える。

 軍帽の少年に魔力が──神気が満ちていく。きらきらとした金の粒子が、周囲の空間を舞い始めた。


「Scythe君って負けたことある?」


「いっぱいあります。部隊(チーム)のみんなは強いです」


「……ボクの姉さんって、どんな感じ?」


「サイッコーです! あんな物騒で愉しいヒトの命令、大好きです!」


 満面の笑みで獣の少年は応え。

 それに、ボクもわずかに微笑んで。


「へえ。そりゃ趣味が合わなさそうだ」


 自分で思っていたよりも、冷徹な声が出た。

 ジャラリ、とエリファレットの手に、金の光で出来た大鎌が現れる。刃の近くには鎖もついていて、引き寄せ→狩るの確殺コンボが見える。


 ……素手の威力だけで十分だっていうのに、獣が道具を使う知性とは。


「悪魔って、魂さえ無事なら死なないんですよね──でも小官の鎌、純神気製なのでちょっと痛いかもですよ!」


「すっごく痛いの間違いでしょ……」


 知性ある動物ほど末恐ろしいものはない──人類を狩り、上回る存在として、これ以上に恐れるべきものが他にあるだろうか?


 卓越した戦闘技能、常軌を逸した運動能力、埒外の魔力量。

 最強になれるカード全部揃えましたって感じのデッキだ。これはひどい。


「死は一瞬です。安らかにどうぞ!」


 処刑宣告は安っぽく。

 黄金の獣は、流星の速さでこちらへ接近し────


次元接続(アルス・マグナ)


 ──途端、目を瞬いたことだろう。



 視界に広がる、蒼穹の世界。

 青、青、蒼蒼蒼蒼青青蒼蒼青青──彼とボクは今、真っ青な空にいた。


「──フぁっ!??!」


 金色の影はボクの下方を落下中。

 空中と認識できても飛べないのだろう。地上であれば、エリファレットは神獣としての機能から飛行が可能だが──ここは、さっきまでいた「地上」ではない。


「講義の時間といこうかエリファレット。この世は三層構造になっている。地上・天空・宇宙だ。ボクら人類が生まれ、生きてきた次元を『地上』といい──」


「ええぇぇあああぁぁぁ──あああアアアア──!? 飛べなっ、飛べないデスッ、落ちっ、落ちてる落ちてる落ちてるぅぅぅううううう────!!」


「ボクらの今いるここは、『天空』と呼ばれる高層帯だ──!」


 いやぁ、愉快愉快。

 神獣の彼は闇雲に大鎌を振り回して大混乱。一方、ボクはそれを上で滞空して見下ろしている。

 形成完全逆転。

 ここは通常、人類が生身では来れないし、長く生存もできない絶死空間。

 ただし神獣ハーフのエリファ君、そして悪魔として色々特例すぎるボクは、即死するなんてことはない。


 本番はここからだ。


「さぁエリファレット君! ちょっと実験体になってもらうよ! 大丈夫、後で報酬は払うから!」


「タケケテ──! Canon(カノン)、Wire! リーダァアア──!!」


「投射開始──!」


 ゴォォオ、とあるはずのない風の音が聞こえる。

 巨大な影がボクらを覆い、その時、神獣の彼がこちらを見上げた。


「な──な、なん、なんなんですかァ、貴方は──!?!?!?」


「人類最新の錬金術師! そして今日から……君のトラウマだぁ──!」


 ボクの頭上に開いたのは、闇への入口。

 彼方に瞬く星々の煌めき。どこまでも続く果てなき虚無の向こう。

 ──それを、古代の人々は「宇宙」と呼称したそうで。


 現在においてそこは、この世で最も高所の次元層(レイヤー)にある、「神々の居所」だという。


「これが世界の果て、真理の一端だ。せっかくだし、術式名も相応のものにしようか」


 闇海の蓋が開いていく。

 まるで地上を睥睨する瞳のように。

 真っ黒な虚から、オーロラ色をした人類未踏のエネルギーが溢れ出す。



「虚構式:新世界」



 色彩鮮やかな光の煌めきが、青空を塗りつぶす。

 これがボクなりの、対上位存在──そして対異界存在への対抗策。

 結果は最上。なす術もなく、神獣の仔は宇宙の前に消し飛ばされた。


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