25 【提督ちゃん】魔王城攻略キタ!【スペシャルコラボ配信】
名無しの修羅『スペシャルコラボってなに?』
ガンマ『情報ナシ』
仙人『生き甲斐』
終戦記念『そろそろ始まる?』
……コメントが流れ始めた。
ボクの左の視界隅には、配信画面のコメントが映っている。数秒経つと、だーっと川のように勢いを増したので、テレーゼさんが実況を開始したのだろう。
魔王城攻略──場所は前回の続きから。
そう、あの【線の理】とかいう恐るべき理持ちに出くわした城内ホールからスタートだ。
偵察もかねてボクが先に来たけれど、あの軍帽エリファレット少年や、他の十三部隊メンバーの姿もない。シンとした空気は、嵐の前の静けさを思わせる。
しかしまた城内が修復されている。術式の痕跡があるので、これはたぶん錬金術師──インフォさんによるものだろう。
新米『ゲ! 提督!!』
仙人『〈永命種スラング〉〈土鉱種スラング〉〈悪魔種スラング〉』
ガンマ『金返せ』
攻略本『討伐部隊さんこちらです』
化石代表『伝説回の気配を察知』
コメント欄が呪詛に溢れ始めた……提督本人が出ただけでこんなことになるのか。配信者のネーミングの方はいいんだろうか?
そろそろ合流する頃かなぁ、と周囲を警戒しつつ待っていると、やがて目の前にグレンとキリカさんが現れた。
「お、来たね。二人とも今は仮想体だからネット接続できると思うけど、配信見てる?」
「色々面倒そうだから俺は見ない」
「私はなんとなく分かるから見る必要がないっていうか……テレーゼちゃんも、電脳体の間は実況と解説に専念するみたいよ。私たちは昨日みたいに自然体で──」
「今日の生贄のエントリーだァ!!」
ドガッッ!! とホールの大扉が蹴破られた。提督である。
「……この危険人物と、いかにしてやり過ごすかが肝要ね……!」
カッコカリ『誰?』
ガンマ『!?』
素材志望『え』
ブラック『待て待て待て待て』
某『キリカお嬢じゃん!!!!』
名無しの修羅『誘 拐 現 場』
コメントも荒れ始めた。キリカさんは素顔のまま出演らしい。
「キリカさんキリカさん、リスナーが動揺してるから一言」
「やっほーお父さん! 元気~!?」
統括長『提督kill』
やべぇ。今なんか不穏なコメント見かけちゃったんだけど。
「あ、通常運転だから大丈夫よ。あの人仕事忙しいし、最近私に構ってくれないもの」
統括長『自殺の名所ってどこだっけ』
眼鏡秘書『早まるな!!』
提督ちゃん『実にざまぁということですね』
提督(真)『メンタル雑魚乙』
統括長『死血斬』
瞬間、提督の髪の毛先が不自然に斬り落ちた。
……コメントと場が停止する。すぐに立て直したのは提督だった。
「さ、魔王城攻略改め、オレ様の工房奪取だ。キリキリ働けよ労働者ども」
「提督いま死にかけなかった!?」
「配信事故だ」
事故じゃないでしょどう考えても! 画面を貫通してくる斬撃ってなんだよ! グレンにもできそうなことだけどさ!
大人の対応ヅラして提督は城内を突き進んでいく。ボクらもその後を追った。……こうして一緒に冒険となると、船長な格好の存在感、ハンパじゃないな。
新米『メンバーの濃さにやられてましたけど白い人、イリス大先生ですか?』
「あー、紹介が遅れてたね。新人の天才イリスだよ、今日はよろしく」
一般教授『それはただの天才なんですがね』
薬氏『実在したんか……』
通りすがり『媒体もなしにどうやってコメ見てんだ?』
三才児『もう一人の音声だけって人だれ』
「……」
ちらっとグレンを見る──テレーゼさんのカメラには、取り決め通りグレンの姿だけが映らないようになっているのだろう。
「……ボランティアの人、かな……」
「イリスくん、そこぼかす意味ある?」
提督ちゃん『スペシャルゲストという紹介でどこまでもつか見物ですね』
仙人『魔境を突破できる修羅ってことは確か』
化石代表『この大陸、修羅多くね?』
終戦記念『神のせいですねぇ……』
ま、まあ現状はリスナーさんの予想に任せるとして。
グレンもグレンで積極的に喋る気配ないし。ていうか提督への警戒度マックスだしアレ。
「────はーっはっはっはー! 懲りずによくも来ましたね『攻略者』! 敗北してメンバー追加のテコ入れですか! その程度で小官に勝とうなどと、よくも思い上がりましたねぇ!!」
あ。金獣。
じゃない、エリファレットだ。ホールを抜けて廊下の先、ひらけた空間のシャンデリアの上からこっちを見下ろしている。
「今日はまとめて小官がじゅうり──」
パチン、とそこで音がした。
提督が無言のまま指を鳴らした途端、そこからエリファレットの姿が消失してしまったのだ。……例の次元連結で、どっかにやってしまった、っぽい?
「戦闘キャンセルしちゃうんだ……」
「若造。最近は口上が長すぎると遮られちまったり、『長すぎて聞いてなかった』っつーヒッデェ封殺カードがある。決め文句はシンプルかつ率直に、だ」
「なんで悪役側の見解なの……」
「昔さんざんやったから」
化石代表『対提督の勇者パーティとか昔あったな……』
……マジで時代の魔王やってたんだな、この人。
背中を見せたくないタイプだ。
「ていうか、今更だけど軍の子を配信に映して大丈夫だったのかしら……」
新米『もしかして俺らが見てるやつって国家機密?』
統括長『じゃあ今から外部に漏らした奴ら全員BAN刑ってことで』
ガンマ『法律書に書け!!』
ブラック『唯一国家の治安は終わりや』
ガンマ『元からだろ』
66『朝も工房爆破事故に巻き込まれた話する?』
とまぁ、第一ボスを反則スルーしつつ、ボクらは予想に反して平穏に城内を進んでいった。
提督いるだけで万能すぎるのだ。フロアに入った瞬間、罠が全部解除されるし、潜んでいた魔物もこっちに気付く前に錬金術で消音処理。完全に城の構造を理解しているようだ。
「あんまり爆弾とか使わないんだね、提督……意外だよ」
「嫁の実況優先」
……思わぬ要因がこの平和を作っていたらしい。お嫁さんって偉大だ。
サクサク進んでいくと、また大扉にぶつかった。この城には何枚の扉と部屋があるんだろうか?
ちなみにルシファーオーナーは本日、顔出し声出しNGと主に手下の方々から猛反対があったらしく、おとなしく他魔王軍の襲撃に備えているとのことだ。
おーなー『そんなとこに扉なんてあったか?』
「……、」
いやいるし! なんかいるし! 配信見てるし!
「待て提督。そこは嫌な予感がする」
無言で扉に足を向けた先導者に、グレンから待ったがかかる。
初の声出しにコメント欄がややざわつく。それを今は流し見しつつ、ボクも目視で大扉を解析した。
……確かに、なにか改ざんの痕跡がある。十三部隊の人が作った罠部屋だろうか?
「アッソウ」
忠告をガンスルーして提督が大扉を蹴破った。
ごガッ!! と乱暴に開け放たれたその空間は──部屋、ではなかった。
街──市街地だ。
黄昏時の空に、即興製のある建物群。これは明らかに、狙撃手向けの大がかりなステージであり、
「全爆破」
指鳴りの音も聞こえなかった。
刹那、見えた市街地が爆風と火炎の赤に染まる。耳をつんざく爆音。遅れて爆風がこちらに流れ込み、慌ててボクは障壁を展開した。
「初手フィールド破壊……!」
提督ちゃん『撮れ高ですね』
新米『RTAかな?』
やがて爆破の衝撃が収まる──しかし市街地の景色は、破壊されたところから元通りの形状へと修復されていく。
三十秒としない内にフィールド復活。どうやらこの空間自体がハッキング済み、そして目当ての倒すべき敵たちが潜んでいるようだ。
『──ごきげんよー。攻略者たち、それに視聴者の皆さん』
と、いきなり気だるいアナウンスが響き渡った。
声の根源を探るが、ボクの感知圏外だ。……噂のハッカー、インフォさん、だろうか?
「Infoくん!? あれ、洗脳されてるんじゃないの!?」
『あー、されてるされてる。別にReaderの力が弱まったから自力で脱せたとかじゃねーし』
「現状説明が雑すぎる……」
『ハイ集中~。今からルール説明しまーす』
予想外の言葉に眉をひそめる。
ルール説明? 今さら何の?
『この魔王城って眠ってる罠がわんさかありましてね。本業の片手間に、こっちで色々仕込みました。えーと、「パンデモニウム666のトラップゾーン企画」ってやつで──』
おーなー『ぎゃあああああ!! それ準備中のやつ外部漏洩絶許あああああ』
またオーナーが思わぬ傷を負っている……
ていうか待って、なにその明らかな時間稼ぎ?
「こ、子供心はそそられるけど、そんな場合じゃないでしょ!? Infoくん、正気なら私たちの味方してくれない!?」
『あー、無理っす。洗脳解けたけど、今のまんまじゃ外には出られないんで。魔王の命令は絶対! 的な? とにかくこっちもこっちのルールに則らないと、Readerの苦労が全部ムダになるんで』
「……」
……どうやら付き合うしかなさそうだ。まぁ今回は提督いるし、グレンもいるから、そう長引きはしないだろう。
『ほいじゃ文句も出ない内にゲームスタート~。罠はランダムなんで、恨みっこなしよろー』
カチン、とキーを押すような音がして。
ボクらの目の前に、大きいホロウィンドウが出現する。
〈トラップカード決定! 【神の裁き】〉
「……ん?」
神、の単語でぞわわっと悪寒がした。
それはこの直後に起きることの予感。裁きといえば、ラグナ大陸民ならば誰もが連想し、その心に精神に魂に刻み付けられている──一つの絶対的トラウマ。
市街地と大扉との境界が消え失せる。城内の天井は消え、ボクらの頭上を黄昏空が覆っていく。よって強制的にこの罠空間に入らされ、自然と天を仰いだボクたちの視界には、
終戦記念『あっ』
ブラック『ひ』
新米『え』
仙人『やば』
「────あ、ああ──あああ────」
キリカさんの喉から掠れた声がした。
「──マジか」
提督もまた、天を見上げたまま動かず。
「……これ、って……」
ボクは、黄金の光に埋め尽くされた死の空を。
三年前まで、毎年一回、幾度となく見てきた絶望を前に。
「……大、選別──」
瞠目したまま、呼吸を、止めていた。




