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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
65/97

22 一日目終了

「も、もう堪忍して……」


 心なしか勢いよく青年がぶっ倒れた。

 おかしい、まだ術式のミスを二、三十個しか指摘していないのに。

 パチパチパチ、とホロウインドウから拍手が聞こえる。


『実に鮮やかな精神攻撃だった。参考にさせてもらうぜ』


「やめてください」


 提督に純粋に褒められると、言い知れぬ罪悪の念がわき上がる。

 さて、キリカさんの方は──


「うわーん! イリスくーん!! たすけてぇー!?」


 ちょうどヘルプがきた。向き直ると、尻もちをついたキリカさんと、なぜかその手前で動きが止まっている双剣使いの姿がある。

 ……いや、止まってるんじゃない。動こうとはしている。ぎぎぎぎ、と双剣を持つ腕が軋んでいる。それでも一向にその動きが鈍いのは──


「……重力干渉?」


 それにしては錬成術式がどこにも見当たらないんだけど、まさか。


理論()でぎりぎり止めてるだけなのぉ! イリスくん、その灰色の脳細胞でSwordくん倒してぇー!?」


 なんでだろう、とても不思議なんだけど、灰色の脳細胞って比喩表現はちょっと嫌な感じがする。なんでだろ。


「ボクが剣士に『敗北感』なんて与えられるわけないじゃん……おとなしくグレンを待とうよ」


「てーとくー!!」


『精神破壊』


「発想が終わってる……」


 ホントにロクな人じゃない。

 しかしこうして止められているのも今のうちだ。再びこのソードという剣士が動き出したら、ボクには手がつけられない。とりあえず鎖を錬成して、身動きをもっととれなくしておこう。


「──、」


「?」


 ボクが近づこうとすると、双剣使いの眼がキリカさんを外れ、別の場所を見た。

 なんだ、と視線の方向をボクも見てみるが、そこにはついさっき打ち倒した弓使いが転がっているだけだ。


 もう一度剣士を見ると、ふっと彼の力が抜けた。キリカさんの力の縛りがもう消えたのか、と一瞬ぎょっとするも。


「……あれ?」


 ──剣士はそのまま、双剣を落として倒れ、眠り込んでしまった。

 ちょっと様子を見てみるが、起き上がる気配はない。なんか、勝った、っぽい?


「……お、おおお! 勝った! 勝ったわ! 流石ねイリスくん!」


「いやボク、何もしてないけど」


「Arcくんを倒したでしょ? それがSwordくんの決定打だったみたいよ!」


 赤刀を消してキリカさんが立ち上がる。絶体絶命感を演じていたが、その肌には傷一つとない。


「『仲間が負けたら自分の負け』、『仲間を守れなかったから自分の負け』。Swordくんは仲間思いがすぎるわねー」


「……あー」


 それはちょっと、ボクの思想観にはない考えだ。新鮮だけど、勝手に他人のことを背負い込むなんて傲慢のようにも思えてしまう。


「──うん。イリスくんはそうよね。こういう違いがないとやってらんないわ。じゃあこの二人、お願い!」


「とりあえずボクの工房内に回収しておこうか……」


 パチン、と指を鳴らすと、彼らの姿が光と化して消える。『白の万象』内に、素材を回収するのと同じ要領で格納したのだ。


「終わったか」


「あ、グレン──」


 振り返ったとき、思わず固まってしまった。

 そこにはややボロボロになったグレンと、その左手で子犬よろしく首根っこを掴まれている金色の少年が。


「ぐえー……まだまだぁ……負けてないデス。ぅぅぅぅ」


「……倒した、の?」


「さあ。本人がこの調子だから、連れ帰るのは無理そうだけどな」


 なにがなんでも負けを認めない精神。神獣級の脅威を再び倒さなくてはいけないとなると、非常に厄介だ。どうにかここで敗北をこの少年に認めさせたいところだが……


「……ム、ムダですよ。小官はリーダー以外には負けないって決めてるんですからっ。けんごーだかゴッドキラーだか知りませんけど、分かります。小官は、なにがあってもあんたには負けません……!」


「負けてるが……」


「負けてるけど……」


「負けてるわよね……?」


「ぐわーっ! 精神的な問題です!!」


 意固地だなぁ。これはボクでも説得は難しそうだ。

 ちらっとキリカさんに視線をやるが、無言で首を振られる。お手上げのようだ。


「勝敗以前の奴もいたようだな?」


 グレンの目がよろよろと立ち上がっていた黒狼に向く。へにょりとその尾は弱々しい。


「……言い訳はない。故に面目ない。しかし、貴様たちの実力はよく分かった。収穫としては十分なものだ。正直、信用していなかった。悪かったな」


「オーナーって魔王のくせに素直だね……」


「ム。評価すべきものを評価せずして何が運営者か」


 まともだ。魔物だなんて信じられないくらいのまともさだ。

 だから余計に惜しい。なんだって提督に素で騙されてるんだこの人。


「ぐ、ぐぅぅぅうっ……! 魔王はクソザコだけど、他があまりにも過剰火力ですッ! 仕切り直し! 仕切り直しを求めるです!!」


 ぎゃー! と軽く暴れ始めるエリファレット少年。まんま子供の癇癪だ。グレンでも抑えられる程度になっているのは、激闘の後のおかげだろう。


「なのでぇ……()()()()()()()Wire(ワイヤー)──!!」


 空間に彼の声が響き渡る。

 直後だった。



     「【線の理】」



 ──異常が起きた。

 ピン、と視界に、空間に「線」が入る。

 それはさながら糸のように。あらゆる法則を無視して──現出する。


「「「「!!」」」」


 そこにいた誰もが息を呑んだ。

 見えた糸のような線は一瞬で消失し、次に空間全体が崩れ始める。

 ()()()()()()

 そう理解した時には、城内の崩壊は止められるような事態になく。


「あっ」


 天蓋が落ちてくる。魔族でも人間でも、まともに食らえばまず助からない大質量。

 思わずグレンの方を見たとき、彼も動きが止まっていた──いや、正確には操り人形よろしく全身が糸に捕らわれ、頼みの綱である刀もガッチガチに柄と鞘の部分が糸で固められていた。


「それじゃー皆さんサヨーナラー! 小官はぶつかってもヘーキですけどねっ!」


「エリファレットくんの馬鹿ぁー!!」


 ああ、そりゃあ神獣キメラの彼なら、どれほどの瓦礫に埋もれたところで無傷だろう。

 ボクもボクで防御術式や抵抗術式を構築しようとしたが、ことごとく、「発生」する()によって術式が断ち切られてしまう。


 万策はここに尽きた。

 そうしてボクらは落ちてくる死の瓦礫になす術もなく──全滅した。


     ■


「いやぁケッサクだったな!!」


 爆笑する提督に無言で拳を放った。笑いながら回避される。

 そこでカプセルケースから、むくりとグレンとキリカさんが起き上がった。二人とも、顔色が悪い。


「「ちょっと吐いてくる……」」


「あ。う、うん、いってらっしゃい……」


「お手洗いは右の突き当たりです」


「「アリガトウ……」」


 ……疑似的な死によるショックだろう。流石のグレンでもこたえるものがあったらしい。

 死に慣れているボクや姉さんよりもずっとまともである。

 一方で提督はまだ「www」している。ボクらの全滅がそんなに面白かったのだろうか? 控えめにいってもゴミカスすぎる。


「まさかの理持ちかぁ……」


 最後に発動された、敗因の一手。

 カオス先生たちから、残りのメンバーの能力をちゃんと聞いておくべきだった。……あー、いや、普通に軍事機密だろうし、訊いてもどうせ無駄だったかな。


「あー、笑った笑った……くっ、くくっ。見事な負けっぷりだったなァ?」


「レベルの低い煽り文句だね提督。殺すぞ」


「だがオレ様の発案も無駄じゃなかっただろう? こうして本当の全滅は免れたんだからな」


「……」


 ……事実が事実なので言い返せないけど、生身のグレンだったらあんな失態はやらなかったと思うんだよな。

 彼は神を殺した人材だ。たかが理持ちの奇襲一つで死んでられるような器じゃない。


提督(マスター)。データから専用アバターの作成、完了しました」


「よくやった。これで明日は直接城内を探索できるな」


 ……やっぱりグレンとキリカさんは実験体だったらしい。

 しかし呆れるとか怒りの感情はなく、ボクはただ、


「正気か?」


 この提督と行動を共にする未来に、未曽有の脅威を感じていた。


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