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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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21 バーサス

「オーナーはさ、なんで魔王とかやってるの?」


 剣豪VS神獣との恐るべき死地からだいぶ離れて。

 その戦闘音と余波の轟音が遠のいてきたところで、廊下を小走りしながらボクは話題を振った。


「……こんな時に、ナゼそんなことを訊いてくる?」


「気遣いを察してよ。お互い、今日が初対面なんだよ? こういう空き時間にこそブレークタイムが必要でしょ」


『今破壊(Break)の話をしたか?』


 してねぇ。テロリストは黙ってろ。


「そう言われてみれば謎よねぇ。『どうして魔王たる者は、魔王として振る舞うのか?』。魔王石から伝わる意志なのか、なぜ魔王は魔物を従え、魔物はそれに従うのか? もうそういう存在なんだー、って勝手に解釈していたけど、理由があるなら聞いてみたいわ!」


 流石はキリカさん、空気の読みは一流だ。この会話への溶け込みやすさ、まるで数年前から知り合いであったような気さえしてくる。


「……逆に問うがな、悪魔の小僧。貴様は『なぜ錬金術師なのか?』と訊かれて、用意している答えはあるのか?」


「ん? そんなの、世界のことをもっと知りたいからに決まってるじゃん」


 錬金術とは万物理解に通ずる学問だ。

 前世、前々世、あるいはずっと前の人生から、ボクはそうやって生きてきた。

 今のこの身には知識しか無いけれども、膨大に積み重なった知識から、「なぜ錬金術師でいるのか」「錬金術師でなければならないのか」は明白だ。


「ボクは自分のことだけは知りすぎてるからね。もう、『知りたい』って思えるものが外界にしか無い。そのために錬金術が一番手っ取り早くて、一番楽しいから、結果的に錬金術師をやってるだけだよ」


「……なるほど。まさしく、だな。ちなみに我が盟友ギルトロアよ、貴様には『動機』なんて存在するのか?」


 あ、それはボクも気になる。

 稀代の大錬金術師は、いかなる理由でそう在り続けているのか?

 転生し続けてきたボクとは違い、「ずっと」生き続けてきた提督は、どういう──


『そりゃァ、己が手でこの世界という盤上を、破壊の光景で埋め尽くすためだが?』


「……」


「……」


「……」


 期待したボクが愚かでした。なんだよこいつ、なんで万物を創る錬金術で、万物をぶっ壊す方向で行動理念が一貫してるんだよ!


「ねぇ。私の妄想だと思うけど、提督って『魔王』個体の亜種とかだったりしない……?」


「そもそも種族不明だよねぇ。自己改造って言ってたから、この世の『錬金術という概念』の代弁者だったり? ハハハッ、ごめんテキトー。そんな存在知らなーい」


『ンな超越存在じゃねェよ。オレ様だってただの生命体に過ぎん。造物主が死んでから、暇を潰しに錬金術かじってたら数千年経ってただけの人生(ハナシ)だ』


「ぞう」


「ぶつしゅ?」


 えっ。今、さらっと歴史の謎が開示されたような。


「……え!? て、提督って、人造生命(ホムンクルス)だったの!?」


 てっきりマジな異界生命体とか、神々とは別種の破壊の僕みたいな存在かと思いかけたけど!

 同じ人類なんだ!? へー!!


『出自の情報をバラしただけでそう食いつくモンか?』


「食いつくよ! ぞ、造物主って誰。名のある錬金術師!?」


『知りたいか。ならば対価だ。テメエもその過去を丸々明け渡すんだな』


「うっ……」


 ぐぅ、いいところで。

 過去を明け渡す──過去の記憶を抜いて譲渡する、って意味だよなぁこれ。

 そんなことはできない。()()ボクでは不可能だ。


 ──だって十歳以前の本物の記憶は、あの棺の中に持ち去られてしまっているのだから。


「ッ!! 総員待て! 来るぞ!!」


 ルシファーが警告したとき、遅れてボクも新手の気配を察知した。

 ガゴン、とまず聞こえたのは駆動音。

 刹那の後、前方の天蓋から爆撃が降ってきた。


(──、)


 カッと視界が白み、床に亀裂が入ったのを悟る。ボクは素早く壁へ跳び上がり、周囲の爆風と衝撃波を錬金術で無効化する。


「二人──!」


 キリカさんから情報が上がってくる。粉塵が視界を邪魔しているが、彼女もどこかで無事なようだ。

 ……ルシファーはまぁ、借りてる身体が身体だから、あまり心配する必要はないとして。


「逆算終わりッ!」


 今の射線を元に、攻撃位置と術師を特定する。

 再び装填されるような音がしたが──それよりこちらの干渉の方が早い。

 廊下を抜けた空間に着地し、狙撃者と凶器の姿を目視する。


 その青年は()()()()()()()。黒コートに隠れてるけど下は洒落た格好だ。背後には、威圧するように漂う巨大な──四エートル弱のボウガンが見えた。


錬成干渉(アルス・マグナ)……!」


 ボウガンの支配が完了する。術式の分解を実行する。

 バキン、と一瞬でボウガンは砕け散ったが、直後に首筋に冷気が走った。


「イリスくん、伏せ!」


「ッうっわわ!?」


 倒れ込むように屈んだ瞬間、後頭部の端を風が薙いでいく。

 いや、風じゃない。きっと刃だ。

 転がったとき、背後に迫っていたもう一人も視界に入る。──こちらも若い青年。両手には美しい双剣が握られていて、一発でそのコードネームに予想がつく。


「──ッ!!」


 だが、それに思考を割いている場合ではなかった。

 頭上で錬成の気配がする。中空に陣取った弓使いが、四十近い矢で空間を埋め尽くしていく。

 発射は錬成とほぼ同時。見事な腕前だ、防御なんて考えたらすぐに串刺しである。


 ──相手が天才(ボク)でなかったらの話、だけど。


錬成却下(キャンセル)ッッ!!」


 一声のもとに、矢雨が青い光となって砕け散る。

 崩壊していく相手の術式。たった今ばらばらになったそれらを、こちらの支配下で再錬成(リサイクル)する。


「っ……!」


 だがそんな間にも双剣使いの刃が首に迫る。ぎりぎりで剣先を避けるも、流石にこれ以上の速度からは逃れられないと予感する。


Sword(ソード)くん、こっち!」


「!?」


 こちらを襲ってきた白刃が、赤い影に弾かれる。ギャィン、と打ち鳴る金属音。双剣使いが横やりを入れてきた第三者──キリカさんを振り向く。


 その一瞬、ボクも彼女の得物を目にした。赤い赤い、柄のない刀。

 見る者の肌が粟立つような、赤。おぞましいまでの生命の脈動。痛々しすらある鮮烈さは、血液を思わせた。


「──錬成完了(アルス・マグナ)


 考察は後。

 ボクはボクで弓使いの術式への干渉と再錬成を終わらせる。一瞬前に砕けた矢は緑光のエーテル弾へと生まれ変わり、中空の術者へ向かって射出された。

 城内に轟き渡る炸裂音。エーテル同士の衝突で空間が揺れ、軽い爆風が巻き起こる。


(……防がれた!)


 弓使いに直撃だったが、障壁がそれを阻んだと察知する。

 その時、すぐ左手側で起きた剣戟音に目を向けると、赤い刀を持ったキリカさんがこっちに背を向けたまま、双剣使いを後退させたところだった。

 ……意外なことに、彼女の立ち姿はグレンにも引けを取らない、一人の鍛えられた剣士のものだった。


「キリカさん、戦えたの?」


「私のお義父さんが誰だったか忘れたのかしら! 剣術、剣法、剣理、ぜんぶ教えてもらったわ! すっごいスパルタだったんだから!」


『負けろ負けろ』


「提督は黙ってて!!」


 そうか──剣聖テオフラトゥス。

 彼女の養父はかつて提督ともやり合った生きる伝説。ならば彼女が今持っている武器も、その伝説になぞらえた「血刀マスカレイド」か。……見たところ、模造品っぽいケド。


「じゃあ、そっちの人は任せていい?」


「お安い御用よ! でも私、スタミナ無いからさっさと加勢してね! あとやばいと思ったら、この辺一帯吹き飛ばすから!」


 吹き飛ばす用意があるのかぁ。実に錬金術師だ。

 ……ところで。


「提督、オーナーは?」


『そこから座標31。最初の爆撃で意識と精神が吹っ飛んでる』


 ちら、とこの広いホール場に入る廊下の手前を見ると、目を回して雑巾のように転がっている黒い狼が。

 うーん、まるで身体の性能を活かしきれていない! 魔王に憑依術はまだ早かったようだ。


「……そもそもオーナーって、自分の城に弾かれてる身よね。器を借りたところで、戦闘なんてできる状態になれないと思うけど」


「キリカさん、それ追い打ち」


 城主としてのプライドまで批評したら何も残らなくなってしまう。

 憐れ、魔王ルシファー。いいとこナシだ!


「イリスくん、Arc(アーク)くんは手強いわよ。接近戦なんてしちゃダメだからね!」


「……もしかして超武闘派?」


「当ったり前でしょ!」


 キリカさんが双剣使いへ飛び出していく。それを横目で見届け、こちらも地上に降りてきた弓使いと相対する。

 距離八エートル。相手の目は虚ろで、自動的に戦う機械のようだ。まるで戦う意志というものが感じられない。さっきから全然喋らないし、やっぱりあの半神獣・エリファレット君が超例外なのだろう。


  ──さて、相手の手札を整理しよう。


 一つ、飛行術式。これは今も阻害中。ボクを倒さない限り、彼はもう空へは上がれない。

 二つ、大ボウガン。ボクには脅威とならないが、また展開されてキリカさんを狙われたりしたら面倒だ。

 三つ、大規模掃射。素晴らしい。シンプルかつ量産型。火力もあり。これだけ使ってくれれば、こっちは打ち返す作業だけで戦闘は終わる。

 四つ、体術。どうにもならない。ボクじゃ無理。彼との戦闘は、この距離を保ったまま迅速に終結させる必要がある。


 以上、高速思考で熟考終わり。

 結論は一秒で出た。


「展開。方程式(セイクリッド)虚光界(フィールド)


 あっけなく。

 ドスリ、と弓使いの青年の身体を、十数本の光の細針が串刺す。

 ボクの錬金術の主素材は「光」だ。光速で攻撃が発生するので、よっぽど運が良くないと逃れることはできない。


 けれど今回に限っては、死なないよう設計・設定してある。肉体ダメージはゼロだ。痛みだってないだろう──ただし、青年はもう動けない。


「……ッ、カ……?」


 こちらを見る青年の瞳に、一瞬意識が戻る。

 光針が刺したのは青年の精神のみ。この直接干渉で、洗脳は解けるのか否や?


「気分はどう? 話せる? 自分の名前は言えるかな?」


「……なん、……あんさん、誰や……」


 意識の表層は覚醒したらしい。しかし針を抜けば元通りだろう。

 それでは意味がない。


「うーん、どうしようかな……」


『今の城内ルールに則れ。要は、相手に“敗北した”と思わせりゃいい。それで晴れて向こうの駒は「追放」される』


「思わせる、かぁ。随分と高度な要求だね」


 まぁ──グレンだったら余裕でクリアできる条件だ。あの剣士と戦えば、誰だって「負けです見逃してください」って精神にはなる。


 ボクの場合は……そうだなぁ。

 そこで針に貫かれ、棒立ちになっている青年に笑顔を向ける。


「──恐縮だけど。君の錬成術式、効率悪いし間違ってるよ☆」


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