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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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19 リスタート

「イリスのことだから、何が起こっているかはもう分かったな?」


「グレン、そこまでボクを過大評価しないで! 説明! 説明ください!」


 ──宿泊室から出て、ボクが連れてこられたのは隣の車両だった。

 その内装は、キッチン付きの木造喫茶店。まんま寝台列車だった景色が、扉一枚開けただけで立派な店内と化している。

 そしてテーブル席の一角では、


六十五万分の一ロイヤルストレートフラッシュ。お疲れさま」


「ッがぁぁー! Axeの姐さん、強くね!?」


「はぁ、はぁ、はぁ……大公様の淹れてくださった紅茶……こ、ここ、これは教会に収めて聖杯として認定すべきなのでは──」


「イエ、ただのお茶ですよLance。──おや、目覚めましたかイリスさん」


 スーツ姿に仮面の女性、見たことのある鎖使いの青年と、左右の側頭部からツインテールのように大きい黒角を持つ修道服の女性、カリオストロ老紳士の四名が居座っていた。


 ……て、あの仮面の(ヒト)、斧持ってグレンに襲いかかってた人なんじゃ。


「はぅわわわぁ!? 嗚呼、偉大なりし高潔なる悪魔様の気配ッ……!!」


「ヒッ」


 ぐるん、と大角のシスターがこっちを振り向く──なにぶん、本当に大きい角なので家具に当たったりしないか不安なのだが、間合いを完全に把握しきった鮮やかな振り向きだった。ショートカットの髪から覗く目が怖い。


 ──しかし。ボクと彼女の視線がはっきりと交わることは、なかった。


「…………? Rod様、今ここに、悪魔様がいらっしゃりませんか? あれ……?」


「──」


 言葉を失ったカオス先生が、ボクを見てくる。ていうかこっちだって絶句だった。

 ──この人、嘘をついた事が、ない。ボクが見えていない──!


「リーダーの弟さんって、現象か概念系の悪魔なのか? 俺にははっきり見えますけど」


「──なんですって? ちょっとChain、今すぐ貴方の目玉と私の眼を交換なさい」


「嫌ですが!?」


「さーさー、こっち座ってイリスくん! お腹減ってるでしょ、ステーキあるわよ!」


 ……教えてもいないのにキリカさんはもうボクの主食を把握している。ぐいぐいと背中を押され、廊下を挟んだ向かいのテーブル席に座らせられた。

 ごとり、とすぐに目の前にスライム肉でできた料理が置かれ──見上げた瞬間、ボクは目を瞬いた。


「ご乗車、誠にありがとうございまス。ワタクシ、車掌の『トレイン』と申しまス」


「んん!? ど、どうも……?」


 ピシッと礼儀正しい礼をしてきたのは、黒い制服に車掌帽──それに()()()()()()を持った、異形の稼働体。

 人工使い魔か、とすぐに思い当たる。キリカさんが錬金術で作った、この列車工房の管理者……といったところだろう。


 ……次から次へと見知らぬ顔ばっかりで、まだちょっと頭が追いつかないな!!


「えーと。それでグレン、いい加減に現状の説明をして欲しいんだけど……」


「何行で説明した方がいい?」


 ボクは場の人数を数えた。ちょうど、八人。


「……八行! リレー式で!」


 わかった、とグレンが頷く。同時にボクはナイフとフォークを持って、食事にかかる。


「やしろさんの術式で『物体A』の侵略者は眠った。次キリカ」


「だけど魔境の支配権は、未だにアガサちゃんが握ったまま! はいカオス!」


(ワタクシ)が解放された彼女らの精神を解析したところ、領土権は城内の第十三部隊(サーティーン)に分配されていることが判明致しました──どうぞChain君」


「魔王城の開錠にはいちいち時間がかかって、このままだと突入できる回数が限られる、でしたっけ。Lanceよろしく」


「え、ええと、リーダーを含めて、()()()()()()()が目標でございます! Axe!」


「ただし裏切り者が出る可能性が高く、更に『物体A』への対処法も早急に考案しなければならないな。では、車掌」


「飲料水のおかわりは必要でしょうカ?」


 ください、とボクは空になったコップを天球儀の車掌へ突き出す。


「……以上をもって我が城の攻略法は、自称ルナティック、もとい魔王アガサの部下たる残りの第十三部隊(サーティーン)を削り、最後に本命を叩く!! 心してかかれ!」


 廊下の真ん中で仁王立ちしたルシファーがそう締めくくる。

 なるほど──込み入った事情はあるが、やることはシンプルだ。けれど、


「しつもーん。ボク、第十三部隊(サーティーン)の最後の一人、知らなーい」


 そう。

 元より城外にいたのが、チェイン・ハンマー・カリオストロ先生の三名。

 けれど──ボクが玉座の間で見たのは、姉さんを入れて九名のみ。そこから二を引いても七人となり、残り八名とするための「あと一人」がボクの情報には欠けている。


「それは我が軍の『情報使い』……Info(インフォ)のコードネームを持つハッカーですネ」


「うわ、コードネームからして嫌な気配。リアルハックで現実改変する感じ?」


「──、正答が早すぎますヨ、イリスさん。名前だけでそこまで見抜きますかね、普通?」


「現実改変までいけるかはともかく、Infoの兄貴が裏で魔王城のロックを設定してるのは確実でしょ。メンバーの中でも最優先で確保しておきたい人材ですよ」


 というのが、チェインさんの言だ。

 第十三部隊、本当に高級人材の集まりだな。姉さんが指揮官でいいんですか?


「あと、そうだ。裏切り者って──」


「提督」


「提督デスネ」


「提督だと思うわ!」


 し、信用がねぇ……

 あの提督、歴史上でやらかしすぎだ。


「な、なにおう!? 我が盟友、そこまで信じられていないのか!?」


「むしろ信じてるのお前だけだぞオーナー。同じ協力者として助言するが、今からでも遅くないから手を切れよ」


「い、いやだがしかし……友情を抜きにしても、奴の装備錬成による供給がなければ、我が軍の火力部隊も心元ないというか……」


「有能なのは間違いないので、そこがタチ悪いんですよネ、あの暗黒提督」


 はぁぁぁ、と凄く実感のある溜息を零すカオス先生。

 そういえば、この人と提督ってどういう関係なんだろう?


「ねえ先生。提督とはどういう関係なの?」


「──ふっふっふ。それは私から説明しましょーう!」


 と、言葉を差しこんできたのはキリカさん。得意げな表情で、待ってましたこの話題が出る時を! と言わんばかりだ。


「時は地上歴4400年ごろ! その当時、地上では『剣鬼(けんき)』と称されるとんでもない剣士がうろついていたの!」


「剣鬼……?」


 そんな異名の人、いたっけ?


「さらに同じ時代! 天空では『戦艦工房』という未曽有の人工災害が飛んでいたわ! それまで負け知らずだった剣鬼は、そんな空飛ぶ戦艦に敗北を重ねてしまうの!」


「ほうほう」


「だけどいくら戦闘狂の剣鬼といえど、流石に考えたわ! あの憎らしい戦艦を、その主たる提督をどうやって地上に叩き落とすか! そこで剣鬼、もう手段は選ばない! 藁だろうが悪魔だろうが頼ることにして、『錬金術』に詳しいっていう悪魔を訪ねたわけ!」


「訪ねたというか、ほぼ襲撃みたいなモンでしたがね……」


 カオス先生が遠い目になっている。なるほど、その錬金術に詳しい悪魔っていうのが、当時の先生のことらしい。


「そして決戦の時はきたれり! 天空王と、錬金術を習得した剣鬼──プラス『名無しの悪魔』の一対二で戦いは幕を開けたわ! 長く激しい戦いの後、遂に剣鬼は勝利したの! 剣鬼の名を、テオフラトゥス! 今の統括長テオフラトゥス──私のお義父さんよ!」


「あぁー! そういうオチ!」


 へー、昔は「剣鬼」なんて呼ばれてたんだ、あの人。

 今じゃ剣聖って呼ばれる、今もなお生きてる英雄の一人なのに。


「えーと? じゃあカオス先生は、提督との戦いを知ってるんだね?」


「デスネ。二度と戦いたくねぇデス。あんなのはよほどの暇人か愚人がやることデスヨ」


「遠まわしな自虐なの?」


「くっ……」


 ぐさり、と何か刺さったようで、紅茶のカップを持つ手を震わせ、老紳士はうなだれてしまった。この人も、大概面白い人生送ってるなぁ。

 ──ていうか。それ以上に、真名持ちですらない、下級中の下級である「名無し」の悪魔なのに、今日まで生きてるって一体…………


「まぁ、脱線しちゃったけど今の状況と経緯は分かったよ。でも、カリオストロ先生たちは魔王城攻略に参加しないの?」


 ステーキを完食し、ナイフとフォークを置きながらボクは再び問う。

 攻略法は、要するに駒取りゲームだ。それで姉さんの支配領域を削って弱体化させて、あの「物体A」との繋がりを切断する。……その後に待ち受けるだろう「裏切り者」、「本命」との戦いについて考えるのは、今は後回しだ。


「ハイ。面目ありませんが、我々第十三部隊(サーティーン)は、あの城には入れません。『攻略者』に敗北し、『追放者』となったLance、Axe。いち早く城から離れたChain君、Hummerも近づけば手駒にされかねませんからネ」


()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 端的に核心を突くと、老紳士の目が一瞬丸くなる。

 ここにいる中で、最も精神操作・精神侵蝕に長けている錬金術師はこの人だ。一番敵に回したくない最凶代表、それがカリオストロ・ルージュシュタインを名乗る老悪魔である。


「ふ、ふふふ、本当によい生徒ですネェ、イリスさんは」


 ……すごく悪い顔で先生は笑う。垣間見える本性はひとでなしの悪魔の根底そのものだ。提督に並ぶ極悪性を、きっとこの老人は長年練り上げた擬態法で覆い隠しているに違いない。


 ボクがただの人間で、子供の生徒だったら、一つぞくっとでもしたのだろうが──『真名持ち』と『名無し』という悪魔間の絶対的上下関係、錬金術師としての単純な実力差で、そこまでの動揺はない。


 ボクは心からこの先生を敬愛してはいるけれど、同時に殺せるだろうという確信も存在する。こういう変にシビアなところも転生者たる影響なのだろうか? 分からない。


「──今の(ワタクシ)の任は、お嬢様をお守りすることです。第十三部隊(サーティーン)に属してはいますが第十三部隊(サーティーン)として動いてはおりません。リーダーから『裏切れ』とお達しが下ろうと、その命令を聞き入れることはないのでご安心を」


「……そうなの?」


 ボクはキリカさんへ視線を向ける。


「らしいわよ! でも私が向こうに人質に取られたらカオスがどう動くかは未知数ね! さぁ魔王城攻略、はりきって行きましょう!!」


「お嬢様? (ワタクシ)のちょっと良い話、聞いておられました?」


 きーてたきーてたー! とはしゃぐキリカさん。おお、もう、このじゃじゃ馬娘め。

 もしかしてカオス先生って、統括長親子に振り回される運命にあったりするんだろーか?


「まぁ、キリカには人質の価値も無いだろ。別に同行しても問題ないと俺は思うが」


「そうなのッ!?」


 がぁん、とグレンの発言にキリカさんが涙目になる。

 価値、ないんだ……良いトコのお嬢様なのに……


「価値がないって、なんで? カオス先生を動かせる可能性があるなら、相当なものだと思うけど……」


「護衛対象が攫われたからって、わざわざ危険を冒してまで取り戻しに行くほどの甲斐性、この悪魔にあるのか?」


「……」


 ……沈黙。

 ただしチェインさんとアックスさんはうんうんと頷き、ランスさんは「そういうところもステキ♪」と両指を組み合わせ、当のカオス先生はキリカさんから顔を逸らして紅茶をすすっていた。


「……カオス、給料差し引き決定ね」


「何故にッ!?」


「魔王の我輩もドン引きダナー……」


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