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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
59/97

16 闇黒演奏会

 一閃。初手先制必殺。


「──、」


 ドンッ、と袈裟斬りにされ、金髪の影が揺らめく。

 や、やった!? とボクは目を見張り、思わず拳を握った。


 だがおかしい──確かに彼は斬ったハズなのに、血潮が散る様子はない。なにか別の、また彼にしか認識できないなにかを斬ったのか──?


「──なるほど。これは難敵だな」


 ット、とそんな声と共に、すぐ左手にグレンが帰ってくる。ていうか現れた。そうか、やしろさんの転移術だ。周りの空間に乱れがない。

 視線を再び姉さんの方に向けると、少したたらを踏んだ様子だったが、すぐに持ち直す。

 動きは、かなり鈍い。まだ精神(なかみ)の方で主導権を争っているのだろうか……


「グレン、何を……?」


「あいつと異物との繋がりを斬ろうとしたんだが、外した。いや、一瞬は斬ったのかもしれないが、そんな間もなく復元されたのかもな。俺の技量じゃ、まだあの異物を『捉え』られないらしい」


 …………。

 ……あの、すいません。それってつまり。


「グレンでどうにもならないってことは……グレンの刃が届かないってそれ、()()()()()()()()()()ってことじゃないの!?」


「ああ、そうだよ」


 実に冷静(クール)だ。見習いたい。いや見習いたくはない。動揺できる時に動揺した方が真っ当だ!

 ヴァっ!? マジで!? しかも今のグレンって最高のコンディションだよね!? あの姉、とうとう異世界と繋がって地上侵略か! そんでもってここで殺しちゃマズイとか無理ゲーすぎない!? 世界終わったんじゃねッ!?


「イリスはいつも楽しそうだな……」


 彼の呆れ声に、ボクは自分の口元がニヤけていることを自覚した。

 ……いやぁ、だって。

 こんな未知の危機、面白くないわけがなくない?


「敵攻勢、きます」


「【固有理論(ロジック・アーツ)】」


 ゲ。

 姉から聞こえた第一声に身が冷える──触媒もなしに初っ端からそれって、ハードにも程がない!?


「終末理論・創世闇黒説(ロストエンド)


「ッ」


 しかもそれは、彼女が持ちうる中でも最悪を極めたものだった。

 咄嗟にボクは白羽織の内ポケットから、一枚のカードを取り出す。

 一瞬で姉の足元から伸びてくる影の触手の海。それに、加速をつけてカードを叩きつけた。


 キン、と空気を割るような音と光。

 一瞬の後、影は消え去り、とりあえず今の攻撃をキャンセルできたことは確認できた。


「イリス、今のは──」


「平気。こういう時のために作っといたやつだから」


 ──ロストエンド。さっきのアレは、触れるだけで相手の()()()()()極悪技だ。

 姉さん自身も滅多に使うものじゃない最終奥義。それをボクは、予め姉対策で錬成しておいた、「不要な自分の記憶」を結晶化したカードで無効化……まぁ条件を強制達成させて、退去させたのだ。


「対象へのリソース還元の反応を感知。──火楽赤桜の人格数値、完全消失(オールロスト)。【判読不能】による異界侵蝕、開始します」


「え、」


 直後だった。

 ボクが自分の過ちを解する前に、玉座からブワッと影束が広がる。キューブの琥珀光が輝きを増し、姉だったモノが右手を伸ばす。


「“闇黒式刀(シンセサイザー)”──」


 現れる漆黒の指揮刀。


「【固有理論(ロジック・アーツ)】。終演楽章、第四章・魔王の奏音(カルテット)


 空から縦横無尽に放たれる、四十四本の影槍。

 そのどれもが侵蝕系の呪いでできた一撃だ。触れれば大体のものは死へ直結するだろう。


「相殺します。接近、来ます」


「【終わりの死よ(エンデッド)】」


 やしろさんが影槍の処理に動いたと同時、漆黒色の敵は目の前にいた。

 刀身にのせた黒い魔力が、斬撃となってこちらの首を刈り取りに来る。しかし、そこで隣の白刃が割り込んだ。


「斬説」


 雷光のような一閃が的確に、指揮刀を握る右手首のみを斬り飛ばす。


「──っ」


 即座に邪魔になると踏んだボクは、素早くやしろさんの背後へと撤退した。

 普段から相性は悪いと思っていたが、今はそれよりも最悪だ。何を錬成しても、何を攻撃として叩き込んでも、「リソース」として吸収されてしまう。相手を強化してしまうだけだ。やしろさんの言う通り、ボクが打てるような手がまるで無い。


「洗霊術式・破邪消却」


 神聖さに満ちた光が場を照らし、雨として降ってきた影槍が、こちらに害をなす前に一掃される。悪魔としての本能がその光に寒気を走らせるが、それも一瞬だ。ボクのことは浄化の対象外に設定してくれたのだろう。


「【冥界式・黄昏斬撃ルナティック・レイヴァンテイン】」


「……は!?」


 聞こえた技名のトンチキさに目をむいた。いや技名にも度肝を抜かれたが、一瞬前に斬り飛ばされていた手首の指揮刀が、ひとりでに動いてその斬撃をぶっ放してきた現実も驚きだった。


「そんなのも作ってたな……」


 ──即座に鳥居が壁として顕現し、黒と黄金混じりの酷い色の斬撃が遮断される。大悪魔はそこで玉座側へと大きくさがり、飛ばされていた手首を指揮刀を影に戻すと、何事もなかったかのように腕の切り口から再生させた。


「なにパクられてるのさグレンッ!? ライセンス料支払わせなよ!?」


「ここを乗り越えたらな。やしろさん、分析の方は」


「現行世界への侵蝕率4パーセント。訂正、6パーセントに上昇しました。第一対抗案に最高権限術式の使用を、第二案に真名破壊の試行を提示します」


「侵蝕率のギリギリは」


「99.99パーセントを超過した時点で術式は起動不能となります。火楽祈朱の生命・存在維持には侵蝕率50パーセント以下が必須、朔月の神子は侵蝕が完了した時点で死亡します」


 侵蝕侵蝕言ってるけどそれってなに。

 なんて口にして、二人の余計な時間を取るのも嫌なので勝手に推測する。

 姉さんは物体Aを「侵略者(インヴェーダー)」と呼んだ──ならば異界からの敵とやらは、文字通り、この世界を支配しにやって来ているのだろう。


 侵蝕率というのは、いわば支配率。

 どれだけ今の世界が、異世界からの魔物によって「書き換えられているか」を示す数値状態といったところ──、


     ■


>>証明破綻


 黒。

 一面の暗黒。


>>証明開始。顕現完了。


     ■


「──ッ!?」


 一瞬、意識を失ったと理解する。

 ブツッ、と画面が途切れるように、先の刹那、ボクは()()()()()()()()()()


「イリス!?」


「侵蝕率、12パーセントです」


 ……頭に重みを感じる。指先の動きさえ少し、(ラグ)い。

 マズった、と遅すぎる確信を抱く。


 これ、ボクが来ちゃいけないやつだった。戦王の時と同じく、またボクは選択肢を間違えた。姉さんがいるからってなんだ、身の程を弁えて、おとなしく観客に徹しておくべきだった────


「終演楽章、第三章・混沌の調べ(プレリュード)


 ズッ……と空間内に広がった影海の中から、敵の背後に一体の翼持つ海蛇が現れる。

 体長六メートル前後の闇の眷属。──なんだっけアレ、“闇蛇ゲネシス”とかって姉さん呼んでたっけ。本当の生物じゃなくて、理論で作った疑似使い魔だったような……


「第二章・悪夢の行進(マーチ)


 いつの間にか姉さんの左手には、真っ黒な楽譜帳が開かれていた。

 パラリとページがめくられる音がすると、ボクたちの目の前に、また影から四十名ほどの黒い──無貌の兵士たちが立ち上がってくる。


 まさに魔王の軍勢といったご様子だ。

 兵士たちの恰好は現代的な軍服から、金属甲冑的なものまで無駄に豊富。ていうか一部のアレ、結構前に見たサルベージアニメに出てきてた服装じゃないか……?


「侵蝕率、18パーセント」


「……やむを得ないな。真名の破壊を試みる。無駄撃ちに終わったら即時、第一案を実行に移せ」


 グレンの声が聞こえるが、意味が、あまり頭に入って来ない。

 ……そこで気付く。ボク、どうにか立ってはいるけれど、ここに()るだけで限界だ。


 もっと緻密に。もっと高速に。もっと円滑に。

 旧来の方法じゃダメだ、もっと効率的にやらないと今の世界に耐えられない。考えろ、考えろ、考えろ、所詮は自分のことだ、これくらいの負荷(デバフ)、いつもみたいにとっとと「対応」してしまえば問題ない──


(──再証明開始──『虚構の狭間』を世界線に連動──活動履歴から現行の座標時刻を算出──仮説→実説に再構築──錬成開始(アルス・マグナ)、顕現完了──)


 瞬きをする。

 混濁しかけていた意識がクリアになる。

 そのときちょうど、黄昏を連想させる黄金炎が、立ち上がっていた影の兵士たちを焼き払ったところだった。


「空斬説」


極夜暗月説(ナイト・バッドエンド)


 拮抗は──一瞬。

 距離を一息に詰めた白髪の剣士が、襲い掛かった漆黒斬撃もろとも、黒蛇も一撃で斬り払う。

 余波のように、今度は悪魔の両腕が落とされ。

 間髪入れずに、その細首をグレンが正面から掴み上げた。


「【冥府に汝の名を問う】」


 唱えられる音は()()()()

 上位存在たちが扱う、共通語のオリジナルともいわれる原初のことば。

 悪魔の浄化、退魔の術は神子職としての一般教養。グレンはその道の一流だ。


「【悪魔に門は要らず。【狂気】の代弁者よ、これより汝の全てを清算する】」


 ──狂気の悪魔。それが姉さんの、()()()()()()()真名だった。


「【聴視せよ。想起せよ。以って朔月の神子が破却を告げる】──」


 持ち上げられた金髪の敵影の気配が揺らぐ。

 その魂に干渉され、危機本能から、わずかに、抗うように両足をバタつかせる。


 いや──ダメだ、グレン。きっと今の姉さんは……!


「【洗霊理論・破門粛清】」


 トドメとなる一声が完全詠唱される。

 本来ならば、並の真名持ちの悪魔ならここで打ち止め。真名を、魂を「破却」され、この世から消滅する。

 真名を破壊されるとはそういうことだ。魔を打ち破り、人界の境界を守るのが彼の本業なのだから。


 ──だが。


「『真名破壊』の実行を観測。──【狂気の理】・第三位の存在率、共に不動。侵蝕率26パーセント。最高権限術式の起動準備に入ります」


「ッ!!」


 やしろさんの観測結果に、グレンが悪魔から手を離す。

 いや、そこで離さざるをえなかった。

 その一瞬、彼のすぐ左手から、新たな刺客が現れていた故に。


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