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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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14 魔城攻略RTA

 白い庭園が広がっている。

 玉砂利の敷き詰まった風景を眺められる縁側に、彼女は座っていた。


“姉さん”


 呼びかけると、小柄な背が傾いて、こちらに顔が向いた。

 やんわりとした微笑みを形作る、(くら)い、(くら)い、朱紅(あか)い瞳。

 肩につかないほどの短い茶髪がさらりと揺れて、真っ赤な着物に影を落とす。


『やぁ、祈朱(イリス)。君の姉さんに、なにか御用かな?』


 距離の離れた話し方をするヒトだった。

 三歳差とはいえ、十歳でこれなのだから、将来はさぞキレイな人になるんだろうなあ、と漠然と空想する。


 たおやか、静穏、可憐、ミステリアス。

 幼い日の火楽(かぐら)赤桜(アガサ)とは、そういう少女だった。


 そして、どうしようもないほどに、救いようのない人間だった。


     ■


 壁を蹴って移動する。城内天井に入り組んだ骨子が見える。着地する。走り出す。

 下の方に突き出ているバルコニーが見えた。骨子から飛び降り、衝撃も発生させずに疾走を続ける。同時に、頭の中では次に進むルートを構築していく。


 短くも暗い廊下を抜けた先の大ホールでは、無数の、理性をなくした様子の魔物たちが待ち構えていた。


「“残照”」


 放たれる黄金()

 すぐ後ろから追いついてきたグレンの一閃が、相手の動きを待たずに存在ごと焼却する。


「感知生命数、残り79。次エリアまでの最短ルート二十四エートル。火楽祈朱に想定ルート六番を推奨します」


「──! オッケー、見えた! グレン、右と上から来る奴だけ消して!」


「了解した」


 ボクの()()()()()()やしろさんの助言通り、次に行く順路を決定する。それに伴って必要な指示をグレンに伝え、再びボクたち三人は城内を駆けだした。


『わ、我輩の城が、リアルタイムアタック(RTA)で攻略されていく──ッ!?』


 視界左手に、そんな嘆きの声を上げる魔王(オーナー)が映った次元窓(ホロウィンドウ)が現れる。ラグナロク後に普及した、現代の最新通信技術である。


「ちょっと黙っててよ城主。今こっち、忙しいんだからさ」


 飛行して襲い掛かってきた魔物の群れを、白光線で一掃する。周囲の被害なんてのはガン無視、効率重視の攻略進行なんで、城の中の内装は、それはもう無残なコトになっている、


『あー! そのシャンデリアは幹部たちが十年かけた渾身の……あぁーッ! そこの我輩像は苦節二十余年のローンを組んで……ぎゃーっ!!』


「お城って爆破しちゃダメ?」


『悪魔ァァァァァァァァ!!』


 画面の向こうでブチギレられたので笑ってごまかしておく。冗談冗談、冗談だって。

 流石にね?


 しかしRTA、という響きには享楽を覚えずにはいられない。そりゃあだって、ボク、グレン、やしろさんなんて面子が揃ったら、なにをやるにしたって「最短攻略」になるに決まっているのだから。


 錬金術師として空間の把握に長けたボクがルートを構築、ナビゲートし。

 湯沸かしから未来演算まで完備した超兵器やしろさんがそのサポートに回り。

 以上のバックアップを受けたグレンが、指示通り、最適最善最良の手段をもって、障害をサクサク排除していく。


 裏技もバグ技もいらない。「真っ当に」「正面から」「ただし最短最速で」──ボクたち三人は、この“魔王城攻略”に挑んでいた。


     ■


「よし。今すぐ殺しに行こう。ジャストナウ」


 よっしゃ合法的に姉さんをぶっ殺せるぜ。

 時を少し遡って、拠点の作戦室。ボクは工房からライフル銃を取り出して、弾丸を装填した。


「まぁ待て。やる気があるのはイイコトだが、現時点でまだ、取れる手段は他に三ルートある」


 と、提督が三本指を立てる。


「一つ、真っ当にパンデモニウムを真正面から攻略する。二つ、裏技を使う。具体的には、外部から古代兵器ごと魔王城を錬金術でハッキングして鍵をこじ開け、支配権を丸ごと奪う。三つ、ここでこのルシファーをぶっ殺して全て無かったことにする、だ」


「三で」


「ふぁっ!?」


「バウッ」


 三と即決したのはグレンだった。黒狼に怒られて、しぶしぶと掲げた刀をおろす。

 職務放棄もいいところだ。彼がどれだけ普段から仕事をしたくないかがよく分かる……


「じゃあ、取れるのは残り二つ?」


「アア、そうなるな。だが本日、オマエらのような活きのいい駒が補充された。作戦は同時並行で行かないか?」


「ちなみに誰が?」


「もう知っての通り、ルシファーの軍は常に他の魔王勢力から狙われている。必然、ルシファーは指揮を、オレ様は装備の錬成や後方支援で手が回らねェ。特攻組はオマエら三体……いや四体か?」


 提督の目が黒狼を見やる。すると魔法使いの使い魔は、無言でルシファーの足元へ移動し、そこで完全に動きを停めてしまった。


「ん? なんだ?」


「護衛か。まぁ、ストーリーテラー的にはオーナーの命が最優先だろう」


「ほォん。『懐旧』の爺さんか。意外な人脈持ってンだな、ルシファー? それも千年魔王業やってる奴なりの人徳かね」


「エッ、うーん……年始に年賀葉書を送り合ってるぐらいの関係なんだがなー……」


 魔法使いと年賀ハガキ送り合うってどういうことだよ。充分すぎるくらい異常だよ。


「──イリスも来るのか?」


「? そりゃもちろん。姉さんがラスボスなんでしょ? ボクが行かないで他に誰が行くのさ?」


 グレンへの当然の返しに、しかし一瞬、その場の空気が凍結した──気がした。

 いや正確には、ルシファーの顔色が変わったと言うべきか。


「な……血縁なのか!? な、なぜそんな乗り気なのだ!?」


「え、前から姉は殺すべき存在だと思っているからだけど……」


「いや、身内だろう。血の繋がった……ええ? 人類社会って、そういうの、重要視するものなんじゃなかったのか? おいギル?」


「あ? そんなの人それぞれ、ってやつだろこのパターン。殺し合うことで愛ってのを確かめる風習もあるらしいが、オレ様の管轄外、趣味外だな」


 いや、それってどんな風習だよ。少なくともボクと姉さんの間にはそんなの無いよ。


 姉弟(きょうだい)愛とか。

 この世でもっとも下らない概念だ。


「超抜存在としての姉さんは、十年前に討伐したハズなんだけどね──どうなの、グレン? そこのところは」


「会ってみるまで分からないな。そもそも、『第三位』というのは()()()()()()に過ぎない。存在規模が同格にまで変生しているのは、魂を自己逆行させた一時的覚醒である可能性が高い」


 カハッ、と提督が乾いた笑いを響かせた。


「超抜存在の生まれ変わりって輪廻の逆行までできるのかよ。とんだ力業だな。よく現行の魂が潰れねェモンだ」


「……」


 ……それがホントにおかしいところなんだよなぁ、あのメンタルお化け。

 精神強度の強靭(つよ)さが異常なのだ。いや、狂人(つよ)さ、と言うべきか。

 ボクが絶対に姉さんに勝てない一点はそこにある。精神強度──自我の強さ。あの人は、それだけに関しては、誰にも引けを取らない怪物だ。


「だが身内なら対処法もいくつか知ってんだろう? ましてや討伐済とくればな。攻略特攻隊としては、これ以上ない人選だとオレ様は思うがね──つぅかそこの超人形(オーパーツ)、答えを知ってるんじゃねーか?」


「音声認識にエラーが発生しました」


 やしろさんの意外な反応に、ボクとグレンの目が丸くなる。

 ──うん? あれ、そういえば提督って、どういう種族?


 とか思っていると、当の提督はすっかり表情を消して、その鋭い視線で訊けよ、と訴えてくる。


「えと、やしろさん。今の姉さん……火楽赤桜の状態は?」


「演算データが不足しています。現状数値で推測できる情報を開示します。──火楽赤桜は現在、()()()()にあると思われます」


「拮抗状態? なにと?」


「不明です」


 回答はそこで終わってしまった。どうやら本当に情報不足らしい。

 拮抗……今の話の流れで考えるなら、前世の魂と……なんて発想になるけれど、第三位の存在数値はやしろさんも記録しているところのハズだ。ここでその名称が出ないってことは、やっぱり────


「……あのさ。提督たちが使おうとしていた古代兵器って、ぶっちゃけなに? それが姉さんたち……第十三部隊(サーティーン)が魔王城に突っ込む理由になったんでしょ?」


 この馬鹿二人の元凶ども。

 こいつらが悪用しようとしていた、「古代兵器」とやらが絡んでいるに違いない……!


「──マ。そこの赤神子に喧嘩を売るのを覚悟で白状すると」


「?」


 提督に妙な異称で呼ばれたグレンが眉をひそめる。

 なんだよこれ以上の面倒事はご免だぞ、と顔に書いてあった。

 けれど──そういう時、大抵グレンは、厄介事に巻き込まれるのが世の相場である。



「どうやらアレ、()()()()のブツらしかったんだよなァ」



     ■


 ──一般的に。

 「異世界」という概念について、ラグナ大陸ではこう定義される。

 現人類にとって未観測の、全く新たな別の世界、と。


 そもそも異世界の具体例などは、この大陸の歴史上、未だなにも報告されていない。

 なのでボクたち人類は、異世界をある種、空想にも似たおとぎ話の存在だと認識している節がある。


 なのだが。


“こんちわー! 異世界から来ました、バイトのカゲアキでーっす!”


 実例はいる。()()()()という、「異世界」の存在を証明する実例は。

 今は境内に「ホームステイ」していると主張する、あの謎学生は、人理兵装(レリック)の一つを用いて、()()()()()()()()()()()()()()のだという。


 故に、異世界は在る。

 在るが、こちらからもあちらからも、滅多に干渉することはない。

 そもそもカゲアキのような実物(異世界人)を知っている者など、グレンとやしろさん、それに境内に入り浸っているボクや姉さん以外にはいないだろう。


 なのでラグナ大陸における異世界話は、そのほとんどが眉唾モノの噂話、都市伝説レベルの認識だ。


 だっていうのに、まあ。

 実を言うと、異世界要素はいつだってボクらの近くにいる。

 現代ではもうすっかり生活基盤の一部と化し、その原初を知る者は数少ないが。


 ──()()()

 それは大昔、この世界に流入してきた()()()()()()が元にあるという──



『異世界から落ちてきた異物にして遺物を兵器転用するってのは、これまでのオレ様の錬成履歴史上、中々ロックな計画だったと思うぜ』


「よし、今の案件が終わったら提督を殺す」


『ハッ! やァってみやがれ所詮現代地上最強がァ!』


「絶対に殺す」


「喧嘩は後でしてー」


 次元窓(ホロウィンドウ)を出してまで煽ってくるなど、提督もずいぶんと余裕そうだ。あと今のグレンの声色は本気のやつなので提督はマジで逃げた方がいい。

 今回の少数精鋭の攻略は、やしろさんの未来演算も後押ししたけれど──なーんかこの提督、まだ隠してることがありそうでならない。


 ていうか絶対にある。

 それを確かめるためにも、ボクらは今、初日初見攻略RTAという経営者からみれば余りにも残酷な手段をもって、ルシファーの実家を焼き討ちしなければならないのだ。


BOMB(爆破)


 敵の少なくなった廊下を走りながら、パキッ、と指を鳴らす。瞬間──周囲が白く閃き、術式でプログラムした通りに、城内に仕掛けていった爆弾が作動した。

 タイミングも爆風の流れも計算済み。美しさすらある一種芸術パフォーマンスじみた破壊活動に、思わず口元がつり上がる。


『■■■■■■■■──!!!!』


 提督の後ろでオーナーが人語を忘れている気がするが、無視する。

 いや、だって必要だったんだもん。最短攻略のための犠牲と思ってほしい。

 が、悪性を好むこの口は、そんな様子の魔王に、つい声をかけてしまう。


「文句言うくらいなら自分で来ればよかったのにー」


『我がパンデモニウムのセキュリティシステムは優秀でなぁ!! 一度敵対者・排除対象と認めた者は決して中には通さんッ! 古代兵器にその辺りの機能を占拠(ジャック)されている今、城主たる我輩ですら扉一枚潜れぬ惨状だ! 早々に中枢の偽魔王を打ち倒せ勇者どもッ! その暁には貴様らは永久に出禁だ────ッッッ!!!!』


 それ、もう魔王が勇者に言う台詞ではないんだけど。


「やしろさん、内部からのハッキングにはあとどれくらいかかる」


「未観測データを演算収集中。完全分析が始まるまでおよそ十三時間です」


「やっぱり姉さんを直接叩いた方が早いね。やしろさん、三番と八番、どっちがいい?」


「九番、十二秒後から十五秒間のルートをカットすることで最速攻略が可能です」


「──、オッケ。そっちのがいい。グレン、鳥居で西のエリア、落として」


「分かった」


『今落とすっつった!?!?』


 瞬間──指定したエリアに、数十規模の鳥居が顕現する。そこにはトラップ用の魔物たちが、今まさに出現したところであり。

 上から下へ。文字通り、赤い鈍器が床を叩き割り、エネミーたちを根こそぎ奈落へと突き落とした。


「グルアアアアァァ──!!」


「ハイハイ邪魔邪魔ッ!」


 前方から飛び出してくる魔物を光線で排除する。バキバキバキッ! と足元では鳥居による殴打で割れていく床が、後ろからボクらをも奈落に突き落とさんと迫ってくる。


「っ跳んで──!」


 刹那、ボクは崖と化した足場を蹴り飛ばし、対岸の階段めがけて跳び上がった。

 着地成功、だけど足は止めず。五段単位で一気に飛ばして駆け上がり、一瞬、後方の二人へ目を向ける。


「次はどっちだ」


「エリア崩壊により十六番、開通しました。最適ルート候補と提言します」


 汗一つなく佇むグレンに、同じく無感動に告げるやしろさん。


 ──ほんっと頼りにしかならないなぁ、この二人……!


 合法チートとはまさにこのコト。

 規格外すぎる若干二名とプラス一名のRTAは、ルシファーが絶叫とともに気絶するまで続いた。


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