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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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12 大錬金術師

「……すご」


 ──戦争都市。この目の前に広がる風景を一言で言い表すならば、それが相応しいだろう。


 鉱石混じりのタイルが敷き詰められた地面、住居や屋台と思しき建物が立ち並ぶ市街地。全体的なデザインは、古い……というか、統一感はない。現代のを含め、過去の文明がごちゃ混ぜになっている印象だ。


 市街地の中心には、何よりも目を引く巨大な建造物が一つ。

 それは鋼鉄製の要塞だった。戦艦と融合したような構造で、あちこち大砲なんかが見える。なにあのグレートオブジェクト、拠点の名を借りた破壊兵器じゃない?


「ようこそ我が城、パンデモニウム()()()へ。一応ここが今、我が軍の作戦本部となっている」


 行き交っている雑踏は全て、例外なく魔物。パッと見、万単位の中級~上級レベルの個体が、そこらを往来している。

 ここにいる全員が、まさか、ルシファーの傘下だというのか。


「領土の土台はギルが確保・錬成し、我が配下たちがその上から施設を築き上げた。百時間もあれば、これくらいのことは造作もない」


「……まさかオーナーの部下って、錬金術を……」


使()()()()()()()


「──、」


 今度こそボクは言葉を失うしかなかった。

 下位の魔物は言語すら解さないが、上位なものになればなるほど――彼らの価値基準に沿って言えば、強ければ強いほど、魔物の知能は高い傾向にある。


 そしてルシファーは今、部下の()()が錬金術を使えると即答した。

 つまり彼の配下の全員が、上級、或いは上級に匹敵する魔物。幹部から末端まで、全てがそうであると言ったのだ。


 ──都市、なんてレベルじゃない。こんなの、もう立派な()()()()だ。

 人類の唯一国に引けを取らぬほどの文明が、ここでは十分に築かれている。


「パンデモニウム本城はどうしたんだ」


 グレンのもっともな指摘に、オーナーはやや沈黙して。


「…………色々、色々あってな。今は、あっちにある」


 そっ……と控えめに彼が指さした地平線彼方の方角には、確かに落陽の逆光を浴びて黒く染まった、立派な城がそびえている。

 まんま悪の居城って感じだ。しかし──なんか、遠目に見てもちょっと、ボロくなってないか?


「まあ、その辺りは後で話そう。要塞でギルが待っている。そこで──」


「あ! お疲れ様っすオーナー! 今回も凄まじい奮戦でしたねぇ! ところでこっちに回されている予算に関してなんですが──」


「帰ってましたかオーナー様! 以前に提案した計画の続きですが──」


「丁度いいところにオーナー。ちょっとこちらの実験結果を──」


「ぐわぁ!? ちょ、ちょっと待て、順番に来い順番に! 一度に四件までだ!」


 道を歩き始めた途端、ルシファーの周りに魔物が集ってくる。次々突きつけられる資料に目を通し、サクサク処理していくカリスマ社長の後に、ボクもついていこうとして、


「──では、私が先にお客様たちをお連れしておきます。オーナー、さっさと合流してくださいね」


「えっ、テレーゼ嬢? そこは我輩を待つとかしてくれないか!?」


「部下か本題か、どちらかを選べない半端者が意見しないでください。──ここまでくれば、もう提督(マスター)の管理領域です。軽く跳ぶので、皆さま、準備だけはしっかりと」


 キィィィン、とテレーゼさんの杖先が赤く輝く。

 瞬間、ボクたちのいる地面に術式が展開され、空間転移の起こりを察知した。


 あ。ていうかこれ、ボクが使った空間連結──


「次元連結」


 異変はコンマ数秒となく。

 一度まばたきした時、そこはもう外ではなく、暗い、金属質な、やや広大な室内だった。


 キィ、と椅子が軋むような音がした。

 顔を上げると、階段状となった司令席らしき高台の向こうには、巨大なモニター画面が広がっており。


「──この世の錬金術師には、二種類のヤツがいる」


 芝居がかったような口ぶりで、黒椅子に足を組んで座る人影があった。

 我こそが事件の黒幕だとでも自白しそうな、視界の全てを見下す視線を向けるその人物。


「究極か凡俗か。使えるかゴミクズか。天才か秀才か。──馬鹿馬鹿しい、そんな程度の尺度、差すらない。故に世界に在る『差異』とはただ一つッ! オレ様という至上最高の大天才か、地上にはびこるテメエら有象無象かの違いのみ!!」


 あまりの暴論に唖然としている中、声の主は椅子から立ち上がる。


「怯え、畏れ、讃え、妬み、戦慄しろ! ようこそゴミクズども、イカれた戦場によく来たなァ! ──じゃ、軽いデモンストレーションだ」


 流れるように。

 刹那、その人物の背後左右の上空に、二台のガトリングガンが錬成された。


「ぇ──ちょ、」


 ボクの制止の声も間に合わず、引き金の引かれる音がする。

 ──炸裂する銃声合唱。完全に不意を突かれた先制攻撃に、まったくボクは反応できず、


「ご挨拶だな。腐らせた脳で物を喋っているのか?」


 グレンにしては刺々しい言葉が聞こえた時、全てを斬り払う剣撃が反響した。

 弾丸を刻む、金属の連続音。そこで我を取り戻したボクは、咄嗟にガトリングをハッキングしようと目の前の空間を睨み。


 パチン、と鋭い指鳴り音。

 直後、ガトリングが変形し、二体の黒い猟犬と化して飛び出してきた。


「──な、」


 無機物から有機物への変換──だと。

 虚を突かれてまた反応が遅れる。後手に回る。それでも反射的に右手に白拳銃を錬成し、影の猟犬二体へ弾丸を叩き込む。


「キリカさ、避けっ……」


 猟犬の動きは止まらない。だが瞬間、サクラの一刀が右手の片方を斬り殺し、存在を霧散させる。けれど、逃がしたもう一体は──


「お嬢様!」


 カリオストロ先生が、棒立ちになっていたキリカさんを引っ張り上げるようにして庇う。

 そんな教授の左腕に猟犬の牙が食い込み、容赦なく引き千切った。


「ぐっ──!」


「優しくなったなァ、カリオストロ。今の、尖ってた頃とは別人みてェだったぞ」


 吹き上がる赤黒い血飛沫。即座に猟犬の首に白鎖を錬成したボクは、そのまま鎖を思い切り引っ張って、突き付けた銃口から、黒い胴体に弾丸をぶち込んだ。

 四発きっかりで絶命を確認。猟犬のカタチが、霧散する。


「先生、治療──」


「奴から目を離してはなりません!!」


 飛んできた一声に、ボクは後ろを振り返る。

 そこで見えたのは、ちょうどグレンが次弾として再錬成された空中の銃器をぶった斬り、体勢低く刀を構え、提督であろう人物に斬りかかろうとした瞬間だった。


「オイ、速ッ」


 ざッ、と敵の上体が逸れる。ぎりぎりでグレンの一閃をかわした相手は、しかし、その背後で、先ほどまで座っていた椅子が両断された音を聞いたことだろう。


「おっととっ」


 無造作な動きで、提督の右手がグレンに伸びる。目で追えるぐらいの緩慢さなのに、意識の隙を縫うような一手。それを直感したのか、そこで大きくグレンが飛びのき、高台から、地上のこちらへ戻ってくる。


 高台席では、すかっ、と一人で虚空をつかむ人影。それだけ見れば本当に隙だらけな立ち姿なのに──全然、油断できなかった。


「……ほーう」


 モニターに照らされた逆光の人影が、頬に左手をやる。どうやら薄皮一枚、グレンに斬られたらしい。


「神殺しは伊達じゃねぇってか。テオフラの剣速を超えてるな? つーか、今のでこっちの次元障壁百枚をぶった斬るって、ソレどーゆー人理兵装(レリック)なんだよ。気になるぞ」


 ……どうやらボクの観測外で、やっぱりグレンはとんでもないコトをしていたらしい。

 視認不可能な次元に障壁を展開している相手も相手だが、それを錬金術師でもないのに認識できるって一体。


「ちょっと──ちょっとカオス! 酔狂で庇わないでよ、給料半減するわよ!? 今の、単に私の罪悪感を煽るためだけに片腕犠牲にしたって、私分かってるんだからっ!」


「えー。いやでも、動機はどうあれお嬢様は助かりましたデショウ……?」


「それは感謝してるけどー! ホラ飲んで! 霊薬(エリクサー)!」


 騒がしい背後に目を向けると、キリカさんが半泣き半ギレ気味でカオス先生に液体の入った小瓶を押し付けていた。

 霊薬。エリクサー。或いは蘇生薬。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、肉体を蘇生させるための回復アイテムだ。


「提督さんも、もういいでしょ!? サクラくんの武器の性能は垣間見えたんだから、そういう無駄な巨悪ムーヴ、お腹いっぱいよ!」


「産廃如きが意見してんじゃねー。つか、巨悪云々の話をしたら、今オマエを庇ったそっちの老害の方がよっぽどだぞ」


「私はアルシオンのそういう面、あんまり見てないからノーカンなのっ!」


「若者らしい甘さだな……産廃なのが非常に残念だ。もう少し『使えて』たら、ちゃんと実験体にしていたんだがなァ」


 温度のない提督の声に、キリカさんがビクリとなる。

 ──本気だ。この大錬金術師、悪名高いだけあって、本気で「自分以外」のものを、使える素材か使えない屑かとしてしか見ていない。


「ま──確かに、これ以上ヘイトを買っても得られるものはなさそうだ。お前らの大まかのスペックは把握した。援軍として迎え入れるには合格、駒としては落第だ。もっとオレ様を崇拝しろよ、凡俗ども」


 カスみてえな理論しか言わないな、この大天才野郎。

 これが姉だったらキレていたところだった。他人だからキレないけど。


 パッ、とそこで空間に明かりがつく。モニターだけが光源だった部屋がクリアになり、視界が開ける。


「──いや。凡俗じゃないのが一体いるか。なんだショタガキ、お前、なんか面白い存在しているな?」


「っ!?」


 ト、っと足音がした時、ボクのすぐ目の前に、男が立っていた。またこれも瞬間移動に類する錬金術だろうと頭が理解するまでのコンマ数秒、ボクは至近距離で、はっきりと彼の顔を見上げた。


 ──三十台前後に見える容姿だ。

 目の隈が濃く、頬もこけている。それがなければ、ルシファーにもひけをとらない顔立ちをしているだろう。

 長い前髪から覗くのは金の左目と、青の右目の異色瞳(オッドアイ)。その目つきは姉よりも凶悪な鋭さで、誰がどう見ても危険人物だ。


 黒い船長風のコートにズボン、青い宝石がはめ込まれたレースの胸飾り、布や羽根で派手な装飾がされた大きい海賊帽。

 長い髪は頭頂部から中ごろまでは金一色だが、ところどころ青が混じっている。それが後ろで二つ結びになった様は、彼の雰囲気とアンマッチすぎて、変人度に拍車がかかっていた。


 ……提督というより、船長って呼びたくなる服装だ。格好、まんま海賊だし。


「うわっ、ちょ!?」


 がっ、と雑に首根っこを掴まれ、持ち上げられる。地面から足裏が浮いて、百八十センチ(メギス)前後はある身長の目線の高みに視界が上昇した。

 ちなみに、ボクの身長は百四十八メギスぐらいである。


「なるほど、()()()()()()()()とは恐れ入った。体重じゃなくてエーテルの質量だな、この重さ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、三次元に現出してきた二次元存在か? 一体どういう理屈と実説を構築してそこに存在してやがる、面白過ぎるだろ」


「離してぇー……」


 ひぇぇぇ。

 殺気も敵意も悪意も感じないのに、嫌な予感だけはビシバシ伝わってくるこのおっかなさ。まるで言語しか通じていない異星人に見られているようで、実に居心地が悪い。


「おい期待の新人。テメエ、錬金術師としての階級はどこだ」


「……え。えーと、『超級・黒』、ですケド……」


 錬金術師の界隈には、一応階級制度がある。

 錬金術師見習いの「錬成士」を最下級として、全部で十段階。そのうち、今ボクが言ったのは上から三番目の称号だ。


 ちなみに姉はこの一個下の「特級・金」止まりである。ざまあ。


「悪くねェな。よし、あと百年したら弟子入りを認めてやる。よく育てよ」


「エッ、ア、ハァ」


 地面に降ろされ、がしがしと頭を揉まれる。チョット痛い。

 ……なにこれぇ。今、ボクん中での提督の人物像、だいぶグッチャグチャになったんだけど……


「で、オマエがここに来たのは取引の話だったか? 条件通り、そこの産廃娘をオマエは輸送してきた。オレ様は大錬金術師なんで、口先だけの約束は偶にしか破らない。そして今は、実に幸運なことに、その『偶に』のタイミングではない」


「……キリカさんを納品する代わりに、ボクの願いを叶えてくれる、ってこと?」


「ああ。そういう事だ」


「──あ。そうだったわね、そういえば。ごめんねカオス、せっかく庇ってもらったのに、私、もう未来がないわ……」


「……い、イリスさん? 冗談デスヨネ、流石に、貴方ほどの錬金術師が、そんな男の甘言を信じるというのデスカッ!?」


 後ろから絶望と動揺の声が聞こえてくるが、構いはしない。

 ていうか二人とも、やしろさんを使ってわざわざ強制召喚した辺りで、ボクの本気度に気付いてほしい。


 願いを叶える、と言った提督の言葉に嘘はなかった。

 今の──約束を守るという、彼の言葉にも。


 ……ボクの願い。願いねぇ。

 改めて考えるとそうは思いつかない──ワケでもない。

 思いつこうと思えばいくらでも思いつける。造りのいい脳みそ様様だ。


 些細なものから、身の丈を超えた我が儘まで。

 そのうち一つだけを選別する。現時点での、錬金術師イリスとして、もっとも強く欲望を抱いている事柄について思考して。


()()()()()()()()()()()()()()。ボクからの要求はそれだけだよ、提督」


 はっきりと、その答えを提示した。


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