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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
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04 デストロイ・オブ・デストロイ

「──直接、ルシファーの城に送ってもらわなくて良かったの?」


 荒野を超スピードで駆けていく文明の利器。

 それに跨りながら、ボクは目の前の運転手にそんなことを訊いてみた。


「やしろさんは未来を演算した上で行動を決定する。こんな中途半端な位置に俺たちを送り込んだってことは、この先、拾っておかないといけない『寄り道』があるんだろう」


 フラグ管理ってやつだろうか。うーん、このリアルRTA。意味、二重だけど。


 ボクたちのバイクが今走っているのは、魔境と呼ばれる領域、その付近だ。

 どこかに魔王城が目視できてきたら、もうそこは魔境といっていい。けれど見えない今は、まだ境界線だろう。


「──集落だ」


「え?」


 運転手の報告に、ボクは正面へ顔をのぞかせた。

 少し先の地平線には小さな町並み。タンブルウィードが風に吹かれてゆく景色は、映画のような一枚絵だった。


     ■


 バイクを押して歩くグレンの隣を歩きつつ、ボクは町を観察する。

 町には関門がなかった。黙って侵入してみたが、こちらを引き留める気配もない。

 道端には、ちらほらと錬金術師と思しき影が数人。荒くれな見た目から、ちょっとした朝の食事に来たような軽装の人々が、まばらに歩いていたりするのみだ。


「……バイク、目立たないね。そういう機能?」


「ああ。軽い認識阻害を少し」


 大型バイクを押して、堂々と大通りの真ん中を突き進んでいても注目は集まらない。

 やしろさん印の生成物だからなぁ……錬金術でスキャンしてみても、どういう原理で認識が阻害されているのか、よく分からない。光学迷彩系のなにかだとは思うのだが。


「──ぐギャァッ!?」


 突如、衝突音と共にそんな悲鳴。

 少し道を行った先。酒場と思しき建物の中から、異形のものが吹き飛ばされてきた。

 人型の、しかし頭部は爬虫類を思わせるそれ。ベージュ色の軍服っぽいものを着ていて、妙に文明人らしい。


 ──正体がなにか問うまでもない。明らかにそれは、魔物だった。

 恰好から察するに……野良にいる種ではなく、魔王の教育を受けた個体、だろうが。


「キッ……サマァ! 無名の悪魔ごときが、我ら魔王軍に歯向かうつもりか!?」


 テンプレートみたいな三下の台詞だ。ボクが今まで見てきた雑魚の標本第一位かもしれない。


「……ッヒ!? な、なんだこれは!?」


 ズズズズ、と爬虫類顔の魔物へ伸びていくのは、酒場から出てきた影の群れ。

 蛇のようなそれは、魔物の影へ同化し、獲物の四肢を捕まえる。


「ガ、ああ、なん、だれか、ガアアア────!」


 みるみる内に闇へと取り込まれていく魔物一匹。

 ……白昼堂々、町中で起こる超猟奇事件。

 だが、周囲の人々に広がる動揺はない。あーあ死んだな、と一連の出来事を日常風景として流し、観客たちは視線を切っていく。


「……ふゥーむ。暇つぶしに狩ってみましたが、そこそこの品質デスネ。適当な市場で売りさばきますか……」


 そこで聞こえたのは、純度百パーの悪意の台詞。

 道理も弁明もクソもあったもんじゃない。そこらの小悪党じゃ決して歯も立てられない、悪心の権化みたいな人が、酒場の前にいた。


 深緑のスーツに青いネクタイ、貴族紳士らしい赤いコートに、黒の平らな筒状(ポークパイ)ハット。U字型の黒杖をついている。

 サンディブロンドの髪に口ひげと揃えた様は、老いたジェントルメンの理想像そのものだ。


 っていうか。


「カリオストロ先生?」


 あの猟奇事件の犯人、すっごく見覚えある知人なんですけど!


「……イリスさん?」


 こちらの声に振り向く老紳士。

 向こうとしても意外な再会だったのか、少し固まっている。


「知り合いなのか」


 うん、とグレンの声に頷く。


「錬成士養成学院の教授だよ。こんなところで会うとは思わなかったけど……」


 この人のボクの最終結論としては、ズバリ、邪悪紳士だ。それは先の所業から見ても多くの同意を得られることだろうと思う。


「奇遇ですね、先生。フィールドワークか、課外講義の一環ですか?」


「──イリスさん! おお、なんと都合の良いところに! 遭遇できてとても喜ばしく思います。お元気でしたか?」


「先生、なんか本音漏れてません?」


 明らかに、これから利用させてもらいマスヨの予告。逃げることは簡単だが、しかし、やしろさんの意図が引っかかる。

 ここで先生と会えたのは、偶然とは思えない。明らかに計算されて()()()()()()()()感じだ。


「おや、そちらの方は? ご友人ですか?」


 と、先生の銀目がグレンに向かう。

 ……もしも普段の神子服だったら、ここで卒倒モノに違いなかっただろうが、しかし先生がグレンの正体に勘付いた気配はない。この異世界コーデにも認識阻害の機能が編み込まれているのだろうか……


「はい、グレンって言うんです。ボクの、」


「近所の兄貴分です。どうぞよろしく」


 ッ────!?


 ……先手を打たれた、だとッ!?

 嘘でしょグレン、そんな、人生を二回やり直しても言わなそうなコトを、そんな淀みなく堂々と!? 虚言に一家言あるボクでもビックリだ! 今の、呼吸とほとんど変わらなかったよ!?


「イ、イリスさんにそのような方が? 初耳ですね……」


「そりゃあ、グレンのコトは学院では言う機会ありませんでしたし。だいたいこのヒト、錬金術師じゃないですからね」


 そしてそれに鮮やかに便乗するその道のプロフェッショナル、すなわちボクです。

 近所の兄貴分? 結構結構、その設定を存分に利用させてもらうとしよう。


「それで先生、こんなところで何やってるんですか? っていうか魔境にこんな町、ありましたっけ?」


「いえ、ここは町の様相をしていますが、厳密には()()()()()のようなものです。つい昨日、魔境から逃れてきた錬金術師たちで組み上げたのですよ」


 ああ、道理で。

 ハリボテとまでは言わないけれど、嵐でも来たら更地になるだろう建物の作りこみの甘さに合点がいった。初めから即席、畳むために錬成されたものなら納得だ。


「現在の魔境は異常といえるほどの活性状態です。魔王軍の魔物も統制がとれておらず、先のような単独行動をする個体まで出る始末。(ワタクシ)はある事情で、さる方を探しに参ったのですよ」


「さる方……?」


「ええ。まぁ見つけはしたのですが、厄介な状況になっておりましてね。ここらで立ち往生していたところ、ちょうどイリスさんたちと出くわせた、というワケですよ」


 ……暗に協力してくれませんかね? って言われてるなコレ。

 ちらとグレンを見ると、一つ頷かれる。必要な寄り道だろう、と判断したらしい。


「……分かりました。先生には学院時代お世話になりましたし、そのお返しに協力させてください」


「それはありがたい! いやぁ、やはり持つべきものは頼りがいのある弟子デスネェ」


 もうなんか、にじみ出る邪悪性を隠しもしないなこの人。根っからの悪魔だから仕方ないんだろうケド。



『──警報──! 警報──! 総員、今すぐ避難しろ! ()()()()()()()()()()──!!』



 突如として響き渡るは、サイレンとそんな警戒放送。

 町にいた錬金術師たちはにわかに慌ただしくなり、建造物を畳み始める。


「これは……いけませんネ」


「え、動く魔王城なんてありましたっけ?」


「それが最近出来たのですよ。というかそれが今、(ワタクシ)の頭痛の種と申しましょうか──」


 ズシン、とそこで大地が大きく揺れた。

 判断が早い錬金術師たちはそこで撤収作業を取りやめ、逃亡を開始する。魔境慣れしている動きだ、生存の秘訣を心得ている。


「ボクらも移動しよっか。グレン、ここから真っすぐ行っちゃって。先生も──」


「いや、来る。乗れイリス」


 へ、と呆けた声を出す間もなく首根っこをつかまれ、ボクはバイクに乗せられた。

 素早くグレンもハンドルを握り、エンジンを稼働させる。次の瞬間、大型バイクは車輪を回転させ始め、


「えっ──」


 視界を、影が覆った。

 すぐ頭上。

 巨大な城が、今まさに、ボクらのいるこのキャンプ地に落ちようとしているところだった。


「……ッ!!」


 既にバイクは発進した。おそらく今、この地上で最も早いスピードで、ボクたちは落ちてきた巨影から抜け出す。すぐ後ろでは城が粉塵と破壊をもたらしながら落下し、憩いのキャンプ地は用途通りの更地となっていく。


 ──いや、落ちてきた……というか、あの角度、どこからか吹っ飛ばされてきたんだろうか? 大質量の居城を撃ち飛ばすって一体……


「──って、先生! カリオストロ先生──」


「肝が冷えましたネ。城が降ってくる、なんて天気予想は滅多にありませんよ」


 普通に並走してるッ!?

 いつも通りの優雅な顔で、良いランニングポーズで走る老紳士。このバイクに追従できるってアンタどんだけだよ。前から思ってたけど、本当にただの教授なのかこのヒト!?


「先生! なんなの、あの魔王城!?」


「『汎用蜘蛛式移動要塞・キリカキャッスル』、だそうです」


 名前ダサッ!? いやそっちじゃなくて!


「正確に言いますと、アレは元・魔王城の成れの果てです。管理する魔王は討伐されており、その後に住み着いた者が、ああして魔改造したのデスヨ」


 魔改造──と聞いて、ボクはもう一度、後ろの巨城を見る。

 ……光学迷彩でなにか隠されてるな。

 光に干渉して、視界を調整する。そうしてよく凝らして見ると、城の真下には、可動部……蜘蛛の足を思わせるパーツがついていた。蜘蛛式ってそういう。


「その魔改造したのが、先生の探し人ってこと!?」


「Exactly. 流石イリスさん、話がお早い。(ワタクシ)の使命は、あの城主を無事に唯一国へ連れ帰ることです。今の落下の衝撃で、停止してくれることを祈りますが──」


「──……待て。キリカって──」


 グレンが何かを呟いた時だった。

 ガゴン!! と再び大地が揺れ、倒れこんでいた魔王城──可動部の脚を含めて四十エートルはある巨大建造物が、ガシャンガシャンと音を立てながら立ち上がる。


 六本の脚を地面に食い込ませ、蜘蛛の本体の代わりに城がどーんと置かれたその様は、造形美が終末を迎えていた。


『──まったくもー! イキナリ砲撃とかナイと思うんだけど! 転んじゃったじゃない、もう!』


 空気に伝わる声は、あの魔王城からのものだろうか。

 声質からして少女と分かる。まるで城が喋ってるみたいで非常にシュールだが。


 充分な距離をとったところで、バイクと先生が止まる。振り返った先にキャンプ地は跡形もなく、城と蜘蛛の融合体だけが荒野の中にみえた。こえー。


「俺たちはアレを破壊すればいいのか?」


「そうですネェ……お嬢様には申し訳ありませんが、あんなものを乗り回すのは淑女としてどうかと思いますし……」


 淑女っていうか、あの造形は錬金術師的になんとかしてほしい。魔王城らしいといえばらしいが、魔改造はプライドを持って行ってほしいものだ。



「──対象残骸(スクラップ)、存在を確認──指示に従い、これより塵処理を開始します」



 ん? とボクらは顔を上げた。

 蜘蛛型魔王城の正面、その上空。

 そこに、新たな人影を見たからだ。


 視覚を魔力で強化する。一言でいうと、それはやたらファンシーな服装をした美少女だった。

 赤をベースにした、フリルの多い少女服。年頃は十四歳ほどだろうか……白髪に薄青がかかったセミロングで、左右の側頭部には赤いリボンをつけている。

 右手には白い長杖を持っており、アレだけなんか服装に見合わず、ガチ兵器だった。


「……カリオストロ先生。彼女、知ってる?」


「……エエ。存じ上げております」


 次の瞬間、少女の周囲の大気に変化が起こった。

 莫大な魔力の収束。構えた杖の先は、真っすぐにあのキリカキャッスルに向けられている。

 バチバチバチ、と空間を照らすプラズマ。あーこれ余波がこっちにも来るなぁ、と予感したボクは、自分たちの周囲に防壁を錬成する。


『ちょっ──!? ちょっと待ってぇ!? ヤバッ、ヤバイヤバイヤバイ、もしかして私死ぬぅ────ッ!?!?』


 絶体絶命の危地を悟ったか、魔王城からは悲鳴が上がる。

 助け? 入れるワケがない。少女が放とうとしているエネルギーは純粋魔力だ。異邦の大陸では、「神気」とも呼ばれる、魔法使いたちしか操れないハズの原質魔力──


「曰く、『黄昏に舞い降りた理想天使(マイエンジェル)』、或いは『撃震の機動砲台リトル・デストロイヤー』──」


 教授紳士の声は講義のように平坦だ。

 それを横で聞きつつ、ボクらは目の前で繰り広げられるだろう驚異の光景を、ただ見届けることしかできない。


魔力限界突破充電(オーバーチャージ)──未踏次元到達(エクスフォース)


 カッ、と光が瞬く。

 黄昏さえも眩む極光は、まさに星の爆発か。


星塵と散れ次元破壊砲サテライトオーバーブレイカー


「少女型決戦兵器・魔砲少女テレーゼ、だそうです」


 どこの錬金術師(バカ)が作ったんだよ……というボクの所感も置き去りに。

 次の瞬間、全てが破壊の白に染まった。


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