表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
46/97

03 Setup

 黄金の朝焼けが地上を照らす──といっても、ボクはこの黄昏空以外、見たことないが。


 文字通り、境内を時空震が揺らした日から、二日後。

 ボクの精神は最高に爽やかだった。あの真っ黒な姉がいねーためである。


 社にもたらされた平穏の空気は素晴らしい。こうして、棟の回廊から見えるいつもの景色が輝かしく見える程度には。


「あ、グレン!」


 鼻歌を歌いながら地上を眺めていると、見えた紅蓮色の影に声が跳ねる。

 瞬間、ボクは手すりから向こうへ身を投げた。なお今日の高さは、地上まで軽く八十メートル(エートル)ちょい。流石のボクでも、このままでは落下死を避けられないので、


「空間連結」


 飛び降りた真下の空間に、白い虚が現れる。重力に任せてそこへ飛び込むと、シュタッ、とボクは地上に着地した。

 目の前には、紅蓮羽織を着た目的の人物が、


「……え? どこから?」


 不思議そうに棟を仰ぎ見る。いきなりボクが目の前に来て驚いたらしい。落下するまでの空間距離をカットしたのが、ちょっとしたサプライズになったようだ。


 しかし、ボクは彼の姿の方が意外だった。

 が、すぐに原因に思い当たる。


「あ、稽古の直後だった? 大丈夫?」


 グレンの羽織はあちこち焦げてボロボロだった。そんな事ができる存在は、この社に一人、いや一機しかいない。

 封社やしろだ。

 まさに死闘帰り。疲弊していないのが不思議だ。怪我がないから、回復されながら鍛錬したのだろうか。


「まあ、そんなところだ。昨日は全敗だったが今日は八日ぶりに一本取れた」


「……それって何戦中?」


「千」


 千……


「……ちゃんと鍛錬してるの、偉いね。もう終末戦争(ラグナロク)は終わったのに」


「いや、正直言うと面倒くさい。いい加減に解放してほしい」


 超本音。やっぱり疲れているのだろうか。


「自分でもこれ以上、伸ばせる能力がないのは分かってるからな。細かい技術ツリーを見直して確認するだけの作業となりつつある。はぁ……」


 肩を落としながら、彼は拝殿のある方へ歩き出す。

 その横に並びつつ、ボクは言葉を返す。


「やしろさんの強さの限界、どこにあるんだろうね……」


「取っ払ってるんじゃないのか、そういう概念。俺から見てもアレはオーパーツだ。どこからかの未来物としか思えない。……けどアレ、ちゃんと()()()()があるんだよな」


「あるの!?」


「あるよ。五十年に一度、内部データを引き継いで機体を変えてる。今のアレは三年前に交替したばかりの代物だ」


 ……そ、そんな新事実が。

 封社やしろ。この境内の土地の管理人にして、ボクらが認める、()()()()()

 この世のありとあらゆる賛美賞賛の言葉は、全てのあの一体のためにあるんじゃないかと思うくらいのオーバーウェポン。一体誰が、どんな酔狂であんなのを創ったのやら。


「グレン、今日は朝、食べるの?」


「パフェ」


「極悪食生活、ここにも!?」


 君、境内では食事も要らない存在だっていうのに!

 朝飯がデザートとかどんだけだよ。アルクス大陸に行って舌が馬鹿になったんだろうか。前は水すら不要とか言ってたクセにさ!


「イリスも食べるだろ?」


「……そりゃあね。お腹空いたし。でもパフェは食べないよ。朝はやっぱりステーキでしょ」


「……」


 なにその釈然としなさそうな顔。

 ステーキは万能の食品だ。朝、昼、夕、晩、いつ食べても栄養が摂れるスグレ物である。


「……お前って好物とかあったっけ」


「いや、特には。ステーキが一番食事した気分になれるってだけ。食べごたえあるし」


「イリスが一番食生活を管理された方がいいんじゃないの……」


 そんな殺生な。

 やしろさんの手にかかったら、毎日サラダとおかゆ生活である。修行僧を目指してるワケでもなし、冗談でも止めてほしい。


「──、ん」


 拝殿が見えてきた頃、グレンが足を止める。

 その理由は問うまでもなかった。ボクだって立ち止まった。


 賽銭箱の前。そこに、見知らぬ参拝者がいたからだ。


「──訪問者は待ち人に恵まれた」


 それが第一声。


 しわがれた声だ(老年か?)。焦げ茶のケープ、ローブ、コートが重なった外套(凄い厚着だ)。同じ色の大きな三角帽子の存在感(茸みたい)。帽子からはピンと立った、細い二本の獣耳が突き出ている(ロバかな?)。外套の隙間からは大きい黒毛の尻尾が覗いていた(ふさふさ)。顔は黒いベールで覆っている(見づらい)。その口元には立派な髭があった(長老! 長老だ!)。


 しっかりしたT字の杖先が、コン、と石畳を叩く。明らかに獣人なのに、指は人のように五本ある。


 いや、ていうかアレ、本当に人かな?


「トモダチ?」


 とか、横のグレンが呑気に問うてくる。

 目の前の絶対にヤバそうな老人に危機感を覚えていない……いや、する必要がないのだ。

 ここは境内。彼の領域にして縄張り。ここではあらゆる戦闘行動、殺生行為は却下される。


 入れるのは──ただの参拝者だけだ。


「知らないよ。お客さんじゃない?」


 ……三角帽とかいうミエミエの恰好で、正体には見当がつくけれど。


「来訪者は肯定する。我、『神殺し』に依頼したい」


「依頼?」


 嫌そうにグレンは眉をひそめる。

 構わずに客人は言葉を続ける。


「二度、我らが眠りの闇に身を浸す前。魔境にて、魔の知己が危機に陥った。城と(ふね)は主を失い、閉ざされた。闘争の声、猛り。黄昏の底は魔の物たちの血潮に染められるだろう」


 へえ。

 たった二日で、なんか面白そうなコトになってるなあ。


「……イリス、翻訳してくれ」


「ん? だから二日前の時空震の原因だよ。魔境でこの人の知り合いがなんかやらかして、魔境全体が活性化してるみたい。このままだと魔物たちで殺し合って大変だねー、って」


 確認するように視線を向けると、コクリと獣人のお爺さんは頷いていた。


「依頼は、かつて結んだ同盟のもとに在る。魔の知己の元へ、“神殺し”を送りたい」


「お爺さんの友達をグレンに助けて欲しいんだってさ。同盟っていうのはボク、分からないけど……」


「……社と、()()使()()たちの間に取り決められた、不可侵の条約だな」


 苦々しい、そんなグレンの説明にボクも現状を正確に把握した。


 魔法使い。それは、理を従える者たちの呼称である。

 世界のルールを捻じ曲げる力を持つ超越者。彼らは率直にいって、ボクや姉、グレンといった、「理持ち」を操ることができる、()()()()()()だ。


 そんな魔法使いからの依頼、となると──


「……ぐ、グレン。これって、脅しなんじゃ」


 そう、お爺さんが暗に言いたいことはこうだ。

 依頼を引き受けなければ、不可侵の条約無視して操るゾ☆ である。


「はぁ~~……」


 見上げた彼の顔色は諦めに満ちていた。

 仕事したくねぇ外出たくねぇ。

 そう、心底から世の理不尽性を蔑む表情だった。


 だけどそれも数瞬のことで、


「……同盟に基づく一件だというなら」


 じろり、と紫眼が魔法使いを見つめる。


「そっちも援軍くらい寄越せ。(やしろ)は貴方の知己に協力するのではなく、()()()協力するものとする。故にこれは共同作戦だ。知己を助け抜くか、中途で見捨てるかは全てそちらの判断に委ねる。その程度の判断もできないなら、この話はここで終わりだ」


 ……まぁ、当然の返しだろう。

 言い出した側なんだから、友人への対応、最終決定はお爺さんが決めるべきだ。協力関係だからって、その辺を曖昧にちゃあいけない。


 すると獣人のお爺さん──魔法使いは、カツ、と杖を鋭く鳴らして、


「──委細承知したものとする。(ともづれ)には我が番犬を使うがいい」


 今までの、まるで「語り手」じみた口調ではなく────

 その一瞬、そこには歴史という過去を積み重ねた、一人の老爺が立っていた。


「アオーン」


 あ、と思った。

 遠吠えと共に、魔法使いの足元に現れたのは、いつか庭に見かけた黒狼だったからだ。



「我が知己の名を、ルシファー。魔王ルシファー。狂乱と狂騒の劇の立役者が一席、その助力となることを期待する」



 つい最近、とても聞き覚えのある名前を口にして。

 それきり、魔法使いは境内を後にしていった。


     ■


「行きたくねぇえ──……」


 お爺さんが去った後、拝殿の階段に座り込んだグレンが開口一番そう言った。

 先ほどまでの毅然とした態度はどこにもない。外界には面倒事しかないと分かっているからだろう。


 それを、彼はもうアルクス大陸の一件で身に染みて味わっているのだから。


「報告。本日の累計参拝者数は一名です」


 と、カウントを伝えながらやしろさんが現れた。さっすがオーパーツ、一見しただけでボクらに何があったかを正確に読み取ったらしい。まあ、この土地の管理者はやしろさんだから、魔法使いのお爺さんが来たことは感知していたのだろうが。


「やしろさん。さっきのアレ、結局誰だったの?」


「データーベース検索。回答します。『ストーリーテラー』と呼称される、『懐旧』の魔法使いです」


 カイキュウ……懐旧? 呼び名といい異名といい、また能力が想像しづらい魔法使いだ。

 しかしストーリーテラー、という名はしっくりくる。狂言回し顔負けの、あの語り口調の会話は、まさにそれとしか言いようがない。


「じゃあ……あっちの狼の種族はなに?」


 ボクは拝殿前、石畳の隅っこで待機している黒狼を指さした。

 金色の目は鋭い。モフい真っ黒な毛並みは闇そのもの。体長は……その、十二歳体型のボクより少し大きいというか、ボク一人くらいなら乗れるくらいの大きさがある。


 正直超乗ってみたい。生命的、存在的上位階級を感じるから、あんまり馴れ馴れしくするの、ためらうけど。


「質問意図、不明。存在を感知できません」


「えっ」


 やしろさんの目には映らないってコト!? 機械……文明の敵対者か対立者にあたる存在なの、アレ!?


「現状数値より正体を推測します。予測該当データ、『カドの煙狼(えんろう)』を提示します」


「えんろう……煙のオオカミ?」


 そういえば確かに、出現するとき、少し煙っていたような。


「……使い魔にとんでもないものを置いていくな、あの魔法使い……」


 はあ、とグレンが白い息を吐き出す。流石はやしろさんの英才教育を受けた身だ、ああいう存在に関する知識は叩き込まれているのだろう。


「怖い動物なの?」


「……個体によるだろう。清浄なものを嫌い、悪性なモノをよく好むと聞く」


 なんだ。それじゃあ悪魔のボクはセーフだ。

 そろそろと歩み寄り、黒狼の前にしゃがみ込んで右手を差し出す。


「よろしくお願いします!」


「……」


 フイ、とそっぽを向かれた。

 ──むぅ、コミュニケーション失敗。全然認めてくれていないようだ。というか対応からしてこの黒狼、さては相当に気位(きぐらい)の高い個体だな?


「それじゃあ、さっさと行くか。仕事は早く終わらせてしまうに限る」


「えっ、朝ごはんは?」


 おもむろに立ち上がったグレンは、反射的に放ったボクの言葉に動きを止める。


「……食べた方がいいか?」


「当たり前でしょ。パフェでもなんでも、一日はなにか食べてから始まるものなんだよ」


「そうなのか……」


 今ボクがテキトーに言ったことを、グレンはあっさり信じたようだ。

 いつもの慎重性はどこに行ったんだよ。君、ボクの真名忘れてない……?


 それはともかくとして、いったん屋敷に入ってからボクたちは朝食タイムとした。

 もちろんグレンはやしろさんに再現させたパフェ三杯を(!?)、ボクは自前で錬成したステーキ一皿を。

 ごちそうさまでした、まで済ませると、グレンは別室に引っ込んだ。その間、手持ち無沙汰に拝殿前で待機していると、やがて、


「……うん? イリスもついてくるのか?」


「そりゃグレンが行くならとうぜ──ふぉお!?」


 そこに現れたのは白髪になったグレンだった。髪もすっきりと後ろで一つ結びにしている。

 服装は茶鼠色のコートにベスト、胸元に赤いリボンが留められたシャツ、黒ズボンに黒革靴。それから指ぬきグローブまで。


 ──神子度、ゼロ! どこの異世界人かな!?


「ど、どうしたの、その恰好……」


「変装。あの正装、目立つからな」


 ……その変装ファッションも、別の意味で注目を集めそうだけど。

 刀は? と聞いたらコートの中から出してきた。社式収納術なのか、そうなのか。まぁオーバーテクノロジってるしね、ここ。


「移動手段は? やっぱり転移? それとも徒歩で?」


「魔境の近くに転移する。そこからは──」


「報告。移動手段の生成、完了しました」


 生成って言った今? と思いながら、やしろさんの声がした方向を見た。


「──な」


 瞬間、ボクの中で時が停まった。

 境内には、ででーんと、景観に合わぬ黒塗りの自動二輪車(オートバイ)が!

 ──しかし。


「……ねえグレン、ちょっとこれ、大型にしてみない?」


「なんで」


「やしろさん、お願い。コレ、大型バイクにして!」


「命令を拝受しました。オブジェクトAを再生成します」


 え゛、というグレンの声がした気がしたが気のせいだ。

 やしろさんがバイクに手をかざすと、たちまち形が変容し、そこには黒い大型の自動二輪車が、どどーんと出現していた。


「うわー! カッコいーぃ!」


「えぇー……」


 なぜかグレンのテンションは下がり気味。

 バイクとか錬成(つく)ろうとも思ったことなかったけど、こうして実物を見ると錬成意欲がわいてくる。……見た感じ、コレは錬金術で創れそうなレベルを超えたスペックを感じるけど。


「あ、このままじゃ煙狼が乗れないから、サイドカー──」


「……」


 その時、やってきた黒狼が、ぬるっとバイクの影に溶け込んだ。いや潜り込んだ。

 ……。

 ……さらっと移動手段、人質に取られた……


「伝達。追加荷物の携帯を推奨します」


「へ? なにこれ?」


 横にやってきたやしろさんが、ボクに一つの灰色トランクを押し付けてくる。重そうに見えたが、持ってみると空っぽのように軽い。なにが入っているんだろう?


「生命危機のポイントで自動開封します。火楽祈朱がお持ち下さい」


 ……死にかけるってこと? ボク……

 ま、まあ! 魔境が物騒なのは今に始まったことじゃないし、有難く受け取っておこう! 念のためにね!


 ──なんて虚勢を張っても、やしろさんの未来演算の確度は驚異的だ。生命危機、ぜひとも詳細をここで教えてもらいたいし、訊けば教えてくれるだろうが、それで今のボクの気が変わるのも嫌だ。下手したら狂言回しの座を投げ捨てかねない。


 とりあえずトランクはバイクの後ろに積んで、錬金術で固定する。

 バイク用のゴーグルをかけたグレンがハンドルを握り、その後ろにボクがつく。

 エンジンが、重い音を響かせて稼働した。


「座標転移、開始します。──行ってらっしゃいませ」


 そんなやしろさんの声を最後に、ボクたちのいた空間は白い閃光に満たされた。

 カッと視界が眩んだ直後──そこは、もう境内ではなかった。


「うわっ……!」


 ごおっと強風が顔を撫でつける。

 目蓋を開けた視界いっぱいに広がったのは、黄昏の陽光。それから、地平線のどこまでも続く──荒廃した、岩と砂でできた終末の大地。


 ……っていうかアレ、足元がなんか安定してないっていうかコレ、バイクごと空から落ちてないかコレェ────!?!?


 ──初手落下死。ラグナ大陸、そういうことだってある。


「ちょちょちょ──! グレンッ!!」


 ボクが叫んだ時だった。


「Guruaaaaaaaaaa────!!」


 ドゴァッ!! とバイクの真下──すなわち地中から、巨大な、細長い管状の魔物──砂竜が飛び出してきた。

 そう、竜、である。あくまでも。竜のような頭部に黄色い鱗、確か短い四本の手足があると文献で見たが──うん、流石にこの状況じゃ確認はできないね!


 ボクたちを乗せたバイクは、綺麗にその背へ着地。華麗に束の間の宙の旅路を体験し、道が途切れた直後、


「抜刀理論・空斬説」


「錬成式:白刃掃射!」


 グレンの一太刀が竜の頭部を斬り落とし、

 虚空から放ったボクの錬成弾が、刃を模した弾丸の雨となって砂竜の身体を撃ち抉った。


 落ちていたバイクはそのまま、無事に着陸。背後では、一瞬にして蜂の巣となって絶命した大型魔物が、地響きを上げながら失墜していった。


「っあ~~、もう! 死ぬかと思ったぁ!!」


嘘つけ(ダウト)。しっかり捕まっていろ」


 はぁい、とボクはおとなしくその背にしがみつく。


 ──停止した落陽が荒野を照らす。

 地平の向こうから感じ取れる、強大な気配たちに、知らず、口角が上がる。


 黄昏のラグナ大陸。ボクらの故郷であり、魑魅魍魎がはびこる地獄の土地。

 終末を超えた先に何が待っているのか、確かめる時がきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ