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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第二章 魔城デストロイヤーズ
44/97

01 アバン・序説・プロローグ

>>証明開始


 提示:証拠材料『虚構の狭間』

 仮定:火楽祈朱/カグライリス/かぐらイリス/etc…

 世界線:XXXXX XXXX

 座標:月界線の社

 時刻:黄昏暦603.12/XX

 活動履歴(ロードデータ)参照元:以下

 構築仮説:虚構理論


 錬成開始(アルス・マグナ):【■の理】


 実説構築。情報記録開始。顕現完了。


>>EXISTENCE:Q.E.D.


     ⛩


 意識()を覚ますと、まだ微かに充足感と達成感が残っていた。

 目蓋を開ける。脳の稼働に五感が鮮明になっていく。畳の匂いがする。冷たい空気が肺に入っていく。──六畳間の私室だ、と現状を把握する。


「……ふ、ふ、くくく……」


 昨晩成し遂げたことを思い出して声が漏れる。

 机に突っ伏したまま意識が落ちていたらしいがお構いなしだ。最高に気分がいい。


 そう──やった! 遂にボクは成し遂げたのだ! 錬金術の知識を()()()()()()()の十余年、机上の空論として未完成だった、史上最高の錬成物をッッ!! 錬成!! したのだ────!!


「は、は、はは、はっはははははははは……!!」


「────何してるんです弟先輩? いつもの発狂ですか」


 は、と笑い声が止む。

 我を取り戻して辺りを見ると、いつの間にか自室から廊下に出て、両手を広げながら外に哄笑していた。


 ──まぁ。

 テンションが最高潮になると、よくあることだ。寝起きだったしね?


 後は目撃者を消すだけで、今の醜態は虚無に還すことが可能だが──


「……オハヨウ、バイト君。いま何時?」


 右横の気配に向き直ると、そこには最近、ちょくちょく社で見かけるようになった若者が立っている。


「七時ッス。超健康的生活周期ですね。弟先輩といい姉先輩といい、紅蓮先輩といい、この世界の人たちって体調管理、上手すぎません?」


 ──校舎でもないのに()()()()()()()()()、下に着込んだパーカーのフードを被った青年が、そう肩をすくめる。

 金髪銀目で、歳は十七から十九くらい。棒付きキャンディをくわえたまま、器用に話しやがっている。


(オレ)は今から夜食の予定ですけど、一緒にいかがです?」


「なにその極悪食生活。遠慮するよ。君もやしろさんに健康管理された方がいいんじゃない?」


「やー。あの美人さんは最高ですけど、それはちょっと。感情(バグ)でも起こしてくれたら考えますケドネー」


 それは永遠に無い可能性だ。天地が裏返ってもあり得ない。


「ところで弟先輩、さっきなんで笑っ──あ、いいっス。その笑顔だけで察せました。観測(みな)かったコトにするんで勘弁してくださーい」


「賢明だね。夜食はお断りだけど、ボクも今起きたトコだ。途中まで一緒に行こうよ」


 了解ッスー、と空気に溶け込むような抜けた声。

 横並びで廊下を歩き出しつつ、そっとボクはこの青年を盗み見る。

 平和という概念、学生という存在情報が凝縮したような彼は、いつ見てもこの世界とマッチしない。……それも当然の話だが。


「つーか今日の気温設定、寒くないすか? 雪でも降らせるつもりなのかなぁ、やしろさん」


「そろそろ冬らしいからね。外界は季節概念が消失してるけど、境内(ココ)だけはそういうの、ランダムに再現するんだってさ」


 『月界線の社』──ラグナ大陸の座標にありながら、独立した空間地帯。異空間、と言い換えてもいい。

 ここはその屋敷本館の裏手、霧の奥にある多層塔の一つだ。ボクの部屋は現在、地上からおよそ百メートルの高所にあるが、この()()()()()()()()()()()()。住み着いているボクでさえ、未だに社の構造と仕組みの全貌は把握しきれていない。


 そんな建築物や設備、境内の気候から風景まで、その全てを管理しているのがあの真っ白な機械人形──封社(ふうしゃ)やしろという巫女である。


「多機能だなぁ。でも(オレ)はやっぱ夏が好きっすね! 夏! 青い空、澄み渡る青空、クッソ五月蠅(うるせ)ぇセミの声! こっちじゃ聞けないから寂しいナー」


 同じことを二回言ってるような気がするけどスルー。


「……セミってなに。虫?」


「ですです、ご名答。あ、先輩たちって虫の声とか聞こえるのかなぁ。育った環境に応じて、聞こえるモンが違うって話ありますけど」


「脳の使い方が違うんじゃないの。こっちは色んな言語があるし、聞こうと思えば聞こえるかもね」


 ト、タ、タ、と軽い足音が木造の回廊に響く。

 適当な雑談で移動時間を浪費しながら、ボクたちは階段を下り、廊下を歩き、階段を下って──辿り着いた、直近の空き部屋の襖を開いた。

 そのまま二人して中に踏み入り、戸を閉める。


「「本館」」


 移動の呪文を唱える。

 途端、ごぅん、と部屋の外が動いたような音がすると、三秒ほど置いて、入ってきた襖がシュパッと自動で開く。


 部屋から出て広がった景色は──庭だ。

 裏手の棟から、本館の一階へ。部屋が上下に動いたわけではない、座標そのものが入れ替わったのだ。それこそワープ装置みたいに。


 社の屋敷は、テクスチャだけは古っぽいのに、中身の文明レベルがおかしい。普通に外界のソレを超えている。ここだけSFの世界である。


「あーァ、もう地上は雪が積もってるじゃないですか。冬ですねコレは冬。道理で寒いワケですよ」


 自称後輩の言う通り、地上の庭は白に染め上がっていた。

 ボクの服装は白いパーカーに白羽織、白髪ときているので、飛び込んだら保護色になりそうだ。


「弟先輩はショタっ子なので紛れたら見えなくなりそうですねぇ」


「これでも十八なんだけどね?」


「マジかよ合法ショタ。え、身長の呪いとか気にするタイプですか?」


「自覚がなきゃ年中短パンなんかはいてないよ」


「ひ、開き直ってるんだ……いや弟先輩の場合、そういう風に細胞を管理して……の線もありえそうですよね……」


「その辺はご想像にお任せするよ」


 見た目は十二歳、中身は十八歳。ひとまずボクに関しては、この情報だけ覚えてもらえれば結構だ。なんなら短パンの情報だけ覚えてもらえれば結構だ。


「弟先輩って、自分の視点を悪用して胡乱な情報ばっかり提示しそうですよね」


「なにバイト君。消えたいの?」


「じ、地の文の濫用だ! 次の行まで(オレ)、生き残れますか!?」


 ──とかまぁ後輩をからかっているのも面白かったが、メタ的反則を抜きに、そこで彼とは進行ルートを別にしたので別れたのだった。



 ちなみに。

 三人称から一人称に視点が変わっただけで、別にボクは主人公じゃないのでそこは安心してほしい。


     ⛩


 自己紹介。或いは自己概要の振り返りと確認。


 ボクの名前はイリス。火楽(かぐら)祈朱(イリス)

 別でノーヴェルシュタインという名前も使ってるけど、本名としては「火楽」になる。悪魔としての真名も持っているけど、それはおいおい。


 もはや説明不要の少年(コドモ)外見。恰好をつけるつもりはないけど、白紙のように白い存在(ヤツ)、とでも思ってほしい。


 だってボクの存在は嘘だからね。


 しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこは守らないと、ボクは存在できない。

 虚構は現実あってのものだ。ボクは世界を詐欺にかけるが、目撃した世界を騙ることはできない。


 それもまぁ、結局は、(ボク)を認めてくれる、信じてくれる観測者様がた次第なんだけど。


 ともあれ貴方はもうボクの話を見た。読んだ。目撃した。

 だったら、ボクがいるという証明になる。存在を成立させるには十分な材料だ。


 ならばボクは──語ろう。これから起こる、ちょっとした騒動を。



「──ん」


 廊下の曲がり角で、足を止める。

 視界の端に見えた気配に、視線を動かす。


 白く降り積もった庭の向こう。

 そこに一点。黒い靄のような、シミのような「黒」が。


「……狼……?」


 漆黒のソレを見た。

 思わず一度、瞬いてしまう。次に見えた白い視界には、生物の残り香すら存在しなかった。


 幻か見間違いか白昼夢か。

 どれもありえそうだったが、どれもボクが見るには酔狂すぎた。となると、今のは現実だったんだろう。


 黒い狼。

 さて、さっぱり心当たりがない。境内に入って来られるということは、害のないモノか、それともこの次元より高次な存在(モノ)か……


「……まぁ、面白そうだし」


 見なかったことにしよっと!


     ⛩


 黄昏暦六〇三年、冬。

 彼らが異邦に迷い込んだ事件から、一月後の話。


 それは終末戦争(ラグナロク)以来の、黄昏の大陸を揺るがしかねなかった大戦争の断片。

 或いは「神殺し」に間に合わなかった、本筋から零れ落ちてきた者たちによる逆襲劇。


 さぁ──あまりにも遅すぎた、ボクたちの最強決定戦を始めよう。


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