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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第一章 境界トワイライト
33/97

32 前哨戦Ⅰ

 砦の西方、約四百メートル付近。

 空間ごと強制転移させられた二人は、互いに距離をとりながら着地した。


 ──周囲一帯には、無駄な外敵の気配がない。

 初めからその位置が定められていたかのように、そこは静けさに満ちた無人の空間だった。


「【新月の理】」


 ──青空は赤空へ。

 禍々しい、魔を許さぬ新月が、騎士の魔力を奪い去る。


「抜刀理論・空斬説」


 途端、黒騎士の目前の地表が()()()()()()()

 スライスされた大地は、壁か、もしくは蓋のようになって鎧騎士へと斬り飛ぶ。質量に任せた無茶苦茶な障害は、他に観る者がいれば唖然とさせていただろう。


【──、】


 黒騎士動じず。この盛大な目くらましを大剣の一撃で粉砕し、無機質に天敵の気配を追い、


【──!!】


 衝突の亀裂が空気を割った。

 真上からの黄金斬撃。それを黒騎士は受け止め、殺しきれなかった余波が大地を砕く。


【是、強敵ト見タリ】


 黒兜の奥から、そんな声。まるで無機質な機械音声。低さからして男性のものだ。この存在に性別の有無があるかは疑問だが、おそらく元となった騎士の影響だろう。


 それにサクラはわずかに目を細める。


「……結界が言葉を()るか」


 大剣が刀を弾き飛ばす。弾かれながら、紅蓮の剣士は敵へ斬撃を発生させる。


「斬殺一閃」


【既知】


 ──それを、この黒騎士は斬り飛ばした。

 現象として発生した、絶対不可避の一閃を、はっきりと認識して。


「【神殺す黄昏の刃(レイヴァテイン)】」


 それを読み切ったサクラが、着地と同時に絶殺の一撃を送る。赤空に黄昏が入り混じり、(ソラ)が禍々しく染まり上がる。


千地聖黒(Knight’s )(of)■■両断(Lord)


 ──絶死に対抗できるなら、其はやはり英雄か。

 焔のような黄昏の刃を、騎士の頂点を具現した聖剣が撃ち返す。

 青炎をまとった黒剣は、奇しくも落陽を帯びた宿刀とどこか似通っていた。


「【神殺す黄昏の刃(レイヴァテイン)】」


 次弾装填、必殺連撃。

 再び黄金の軌跡が大気に(はし)る。火柱のように吹き上がった灼熱の光は黒騎士に直撃し、その姿を跡形もなく消し飛ばした。


「【神殺す(レイ)──」


 確実に斬った感覚を持ちつつも、一切の手を抜かず、サクラが再び刀身に黄金を集約させた時、


()()()()()()()()()()


「──黄昏の刃(ヴァテイン)】」


 当然のように死の運命から飛び出してきた黒騎士へ、黄昏の斬撃が突き刺さる。

 二度目の手ごたえ。だが黒い影は止まらず、紅蓮の剣士に肉薄する。


【“千の大地(Thousand)(Dis)(conne)(ction)”】


却下だ(空斬説)


 技の発動直前に刃を差し込み、斬り払う。そこからは剣のぶつかり合いが始まり、互いに一歩も、一手として譲らず、剣撃の嵐が荒野に木霊する。


(こいつに核があるのは確実だ。なんせ二度も斬った。なのに生きている。……となると、!)


 黒騎士が()()()()()を飛ばしてくる。それを回避すれば襲ってくるのは、まともに剣の軌道も目視できぬ高速連撃。刃を交わす、というより、互いがいる座標の空間を斬り刻もうとする剣戟は、傍から見れば剣舞の暴風にしか映らない。


(……魔力だと? 理の範囲内だぞ)


 相手の謎と手札が徐々に見えてくる。

 昨晩の模倣体との戦闘では、王城だったこともあり、理の展開は控えていた。けれども今は違う。ここはもう、魔力を消し去る環境下のハズだ。


(──こちらの理が作動している以上、魔力による蘇生はありえない。ならもっと高次元の方法……()()()()()にある別のコアをこっちに引っ張ってきている……か? それなら何度『斬る』運命を用意しても、『斬られなかった』結末を継ぎ()ぎされていくだけか)


 面倒だな、と思いながらサクラは刃を振るう。

 それでもこの黒騎士とは、今、ここで決着をつけなければならなかった。


「──仕方ない。じゃあ、裏技で終わらせるか」


 一言の決断。

 それは、この戦いの終着を意味していた。


     ◇


 西方で、二度、三度と空が黄昏に塗り重ねられる。

 これほど遠くにいても感じ取れる現地の戦闘の苛烈さに、砦の兵士、魔術師たちは生物、生命としての本能から、冷や汗を流す。


 ──()()()()()()()()()()()()


 その強さの異常さ、異質さ、異端さ──超越性。

 ここにきて、はっきりとかの羽織剣士と自分たちの違いを実感した原因は、サクラと黒騎士が砦から消えてから間もなくして襲来した、「たった一人」の存在に他ならない。


おはよう(morning)こんにちは(afternoon)こんばんわ(evening)はじめ(nice to)まして(meet you)──さようなら(good bye)


 枯れ広がっていた野原が緑に潤う。乾いていた大気は海のような魔力の濃度に歓喜する。

 その魔術師がいる半径百メートルに渡って現れた草原は、遺生物が出現する前の、太古の王国領土そのものの景色だった。


『念話の遮断、確認した! 敵の大規模魔術掃射──来るぞ!!』


 左手の通信機(トランシーバー)からガルドラの報告が届く。


 ……事前に連絡手段を渡しておいたのが幸いした。次元式トランシーバー。それは大気にあるエーテルを通信網にして通話を可能とする、ラグナ大陸の人類軍で主に使われる連絡機器である。


 砦屋上に出たアガサは、正面、三百メートル向こうの上空に浮かぶ敵を目視した。


【久し振りだね。(Do you)覚えて(remember)いるかな?】


 数十──どころではない、六百規模の紫の魔弾が、星空の如く展開される。

 魔力を圧縮したソレらは、一弾一弾が彼方の漂流物──隕石に等しい威力を持つ。並んだ魔弾は互いの磁気に大気を歪ませ、周囲に嵐の稲妻を起こし始めた。


 発射は直後に。地上を壊す脅威として飛来する。


前哨戦だ。(錬成術式:)遊んでやる(殲滅黒銃アルスラグナ)


 そんな空の魔弾が落とした影から覗くは、黒の銃口群。

 迎撃銃の数は魔弾の二倍強(一二〇〇)。装填されるは、あらゆる神秘を砕くだけの破壊砲弾。


「術式三十番、大規模展開。──()ぇッ!!」


 大地で轟く暗黒の殲滅合唱。天空から降り注ぐ流星群。

 中空で衝突し合って発生する閃光、音、煙。

 弾幕を逃れて着弾した魔弾はない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()魔弾の雨が、第二波となって襲いかかる。


「【境界結界】」


 砦から離れた位置で、一つの詠唱があった。

 砦を中心に、ドーム状に展開される不可視の壁。ズレた座標に展開された、文字通りの「境界の壁」は、第二波の魔弾嵐を完全に防ぎきる。

 そして。


「【人理裁定(レリック・アーツ)】」


 空の敵性魔術師の、更に頭上。

 たった今転移によって顕れた騎士が、その詠唱を紡いだ。


()()真説顕現──【次元断つ裁きの剣(オートクレール)】ッ!!」


 魔剣の力が呼び醒まされ、

 九番目と冠する兵装の()が、世に現出する。


【──】


 ソレが気配に振り返った時、刃は振り落ろされていた。

 雷光のように瞬く眩耀(げんよう)の一撃。浮かんでいた魔術師は地上へ叩き落とされ、展開しかかっていた次の魔弾たちが霧散していく。


(──チ、手応えがねぇ)


 敵を追って、ヴァンも自身を地上へ転移し直した。相手の落下で起こった粉塵から二十メートルほどの距離をとり、魔剣に魔力を込める。


【ここはい(I)(love)(this)(country.)は気に入ったよ】


「……?」


 当然のように粉塵を払いながら現れた、紫の敵影の言葉に眉をひそめる。

 相手の声は二重になっており、別々の言語が同時に空気に響いている。詠唱ですらない、ただの「声」だ。意味は分かるが、こちらに話しかけたようにも思えない。


【■■■■──!!】


「ッ、な──!?」


 瞬間、右横から顕れ出でた気配に目を見開く。

 草原と化しているこのフィールド。その地中から、木の根が絡み合ってできた植物体の獣が、続々と生まれていた。


 ザザ、とその時、ローブの内側に入れていた通信機から声が聞こえた。シンシアとエメルのものだ。


『──報告! 地上に異変あり! 大地からなにか──遺生物!? じゃない、なんか樹の動物みたいなのが! 数百規模で生成、前進を開始しています!』


『草原地帯が敵の領域になってるみたいね。魔術師団、総員撃滅準備よ。前の七日間を思い出しなさい。今の貴方たちは害獣狩りのプロフェッショナルでしょう?』


「ッ、待て……!」


【■■■■■!!】


 植物でできた四足獣が突貫してくる。その攻撃をかわしつつも、ヴァンは人理結界の方から視線を外さない。

 ふわ、と敵魔術師は地上を離れて浮遊しようとする。ここで逃せばまたあの魔弾の雨が襲ってくる。それにこの植物獣。周囲から目に見えて増え始めている。目視だけでまだ十数体規模だが、二分もすれば百を超えて王都へ侵攻し始めるだろう。


「敵将はっけーん」


「!?」


 直後、植物獣たちが黒い閃光に消し飛んだ。


「〝天よ縛れ〟──【暗黒星の(グラウンド)地上(グラビティ)】」


 間髪入れず、その場に魔力が満ちる。地上から稲妻が走り、浮遊しようとしていた魔術師が落下し、そのまま大地に繋ぎとめられる。

 重力魔術だ、とヴァンが思い至った時、敵の顔が此方を向いた。


君は(Who)どちらさま(are you)?】


「【術式・(オーバーロード・)竜黒斬舞(テンペスト)】」


 声に応えるは不可視の竜刃。斬刀の嵐が叩きつけられるが、魔術師の周囲に光が奔り、完全に弾かれる。


「──どうなってんだありゃ。攻撃が届かねーぞ」


「空間の壁、かしらね。こっちで術式を解析するわ。貴方は周囲の(ごみ)掃除でもしていなさい」


「いや、そっちは私の弾幕と騎士軍でなんとかできる。古今東西、圧倒的実力差のある相手に対しては、複数人でかかるのが礼儀だ。──そうだろ?」


「……援軍にしちゃ血の気が多くて何より」


 敵──恐らくは大魔術師ザカリーを模倣したソレから目を離さぬまま、ヴァンは言葉を放つ。


 空に、隣に、共に、地上に並び立つ人影は四つ。

 魔女が右腕を伸ばす。

 龍人が魔導書を開く。

 悪魔が指揮刀を振る。

 騎士が魔剣を構える。

 現代の強者たちが──過去の英雄と向かい合う。


「よう、ご先祖。悪いが邪魔なんで死んでくれ──!」


 挨拶、恨み言は簡潔に。

 もう一つの戦場で、もう一つの前哨戦がここに始まった。


     ◇


「──むぅ、騒がしい」


 むくり、とリュエは仮眠室のベッドから起き上がった。

 彼女は今朝の内に砦へ移動し、出番まで軽く仮眠をとっていたのだが、竜の聴覚は嫌でも外界の騒ぎを捉えていた。


「炎竜様ー! 起きてますか!? 起きてなくても起きてください!」


 バタン! と部屋の扉が開かれる。入ってきたのは、水色髪の少女、シンシアだった。


「おー、水精霊(ウンディーネ)の末裔っ子よ。おはようだな」


「もう開戦してますよっ! ほら起きて起きて!」


 ぐいぐいと手を引かれ、リュエは部屋の外へと連れ出される。

 正直まだ眠りにまどろんではいたかったが、精霊の末裔たっての頼みとあらば、素直に従う始祖竜(リュエ)だった。


「ふぁ~あ……で、戦況はどうなっておる? 気配的に第四位はまだ、らしいが」


「サクラさんと師匠が人理結界と戦ってます。私はアガサさんに炎竜様を連れてこいと言われてきました。……本当に、こんな時でも寝てらっしゃるとは思いませんでしたが……」


 じっ、とシンシアは非難の目を向ける。しかして竜は、そんな視線に気づかない。

 なので、今一番気になっていることを問うた。


「──それで? ()()()()かは決めたのか?」


「え? やるって……何をですか?」


「第四位への()()()に決まっておろう。……なんだ、まだなのか。しかしこういうのは先んじて決めておいた方がよいぞ」


「ええと……炎竜様が戦果を得たい、というなら──」


 竜だし獲物は自分で倒したいのかな、──という少女の淡い予想は大きく外れる。


「──まさか。そんなの、冗談でも遠慮するわ。()()()()わ。ま、誰だって嫌だろうがな、第四位を打倒すると汝らが決定した時点で、これは嫌でも決めねばならんことだ」


「そ……それ、どういう意味、ですか……?」


 悪い予感がしたシンシアは更に問いを重ねる。

 会話が遮られることはない。

 言葉が途切れることはない。

 炎竜は快く、少女の疑問に、懇切丁寧に答えてやった。


 超抜存在と相対する意味。対決した後に辿る、決して変えられぬ結末を。


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