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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第一章 境界トワイライト
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23 修復班

「さぁ──お集まりいただいた生徒諸君、錬金術の時間だ」


 広々とした中央棟の講義室の黒板前で、アガサがそう宣言した。

 階段状になっている聴衆席の最前列には、二人の人物が座っている。


「れ、錬金術……ですか?」


「ほほーう。受けて立とうじゃないか」


 状況を飲み込めていない様子の少女シンシア。

 早速状況を楽しみ始めた白衣の男ジェスター。


 そんな二名の後ろの席に、とりあえずサクラとヴァンも着席していた。

 困惑顔のヴァンが怪訝な目を向けてくる。


「……あの、これどういう……? まさか俺たちも?」


「いや、俺とお前はただの見物人だ。ヴァンはシンシアの師匠だし、黙って変な技術の知識を教えるのはまずいだろうと──サリエルが」


 そこでガラッと教室の戸が開き、その当人の悪魔──サリエルが入ってくる。

 シンシアが思わず席から立ち上がった。


「きょ、教授!?」


「ふむ、揃っているか。トワイライトもいるな」


「あのー、サリエルさん。これはどういう……錬金術の講義でもするんですか?」


「そのとおーり!!」


 テンション高めなアガサがチョークを弾く。


「今! この時から! 私、サリエル先生、シンシア弟子、ドクタージェスターは──!」


 カカカカカッ、と黒板に文字列が書かれていく。

 そこには魔族(アルクス)語で、


『魔剣Auto9lair修復班!!』


「になった!!」


 文字列を理解した瞬間、今度はヴァンがガタリと席を立つ。


「オートクレー……って、ええ!? 修復!? できるんですか!?」


 シンシアが、ゆっくりと師の方を振り返る。


「……()()()()、ですよね?」


「……やっぱり兵装保有者(レリックホルダー)だったのか……」


 第四位を単独で相手取ったなら、納得の事実ではあるが。

 半目になるサクラに、ああまぁ、とヴァンが肩をすくめる。


「元々、俺の家で受け継がれてきた家宝だよ。ザカリーの代からの、な。俺が三年前にヘマやっちまったせいで、ぶっ壊れたんだが……」


「それで今も第四位を封じられてるんだから御の字だろ。だが今回はそこから更に勝つ!! 使用不能になったレリックを修復、復活させ! きたる第四位本決戦に挑む! それがこの人材育成の目的だ!!」


 再度、確かめるようにジェスターが笑って言う。


「……できるのかい?」


()()()()()()()()()()


 ドヤ顔でアガサは言い切る。錬金術師たちの常套句だ、とサクラは知っている。


「素材は先日の殲滅作戦で溜めに溜めた、遺生物! またの名を『霊結晶』!! しかーしいくら私でも単独で人理兵装の修復はハード! と認める! せめてあと二人か三人は補助役がほしい……ってところで、見込みありそ~なお前らを集めた。な、サリエル先生?」


「私はもう錬金術に関する知識を頭に入れている。そこで、これを短期間で熟練した段階にまで持っていける才を持つ者を考えた結果……君を含んだ、ということだ。ドクター」


「今の僕は所詮、派遣労働者だからねぇ。王国の命令には従うまでさ。けどいいのかい? 帝国に異邦の知識なんて持ち帰ったら僕、いよいよマッドサイエンティスト道を歩まされそうなんだけど」


「ああ、事が終わったら、君たち二人からは錬金術の記憶は消去させてもらう。王国にとってもこの知識は、魔術の立場を脅かしかねない代物だからな……」


「か、完全に禁忌の知恵じゃないですか……」


 震えながら座りなおしたヴァンに、まーねとアガサが応える。


「錬金術は第一位の眷属に対抗できる、オーバーインテリジェンスだ。そもそも技術の始まりからして積み上げた歴史が長い。終末戦争(ラグナロク)の影響もあるけど、それ以前から、錬金術は大陸中が夢中になる、『深淵の学問』だ」


「し、深淵って……」


 師と同じく震えながら、シンシアも席に戻る。


「──『錬金術、万象を解するに至れり』。つまり学べば学ぶほど、()()()()()()()ようになる夢の技術ってワケだ。術者の演算能力に強く依存するけどな」


 パチン、とアガサが指鳴らしをすると、シンシアとジェスターの席の机上の影が揺らめく。

 そこから出てきたのは分厚い二冊の白い本。あぁアレか、とサクラは表紙の色だけでその著者の名前を思い出す。

 教書を受け取ったシンシアが、共通語で書かれているそれを読み上げる。


「『葦でもわかる錬金術入門書 著者:イリス・ノーヴェルシュタイン』……?」


「業腹だけど、それが一番の初心者向けだ。学院でも使われてる終末のベストセラーだよ」


「試験は三日後だ。両名、心してかかるように」


「「三日ッ!?」」


 さらっと告げられたサリエルの無茶ぶりに新米錬金術師たちが悲鳴を上げる。

 悲惨だなぁ、とサクラは憐れな犠牲者たちに同情の念を覚えた。


「あ、あのぅ……ラグナ大陸出身なら、サクラさんの方が適任なんじゃあ……」


 おそるおそるこちらを見上げてきたシンシアに、いや、とサクラはかぶりを振る。


「俺には無理だ。というか、使えていたら戦闘にも導入してる。……発動する理屈こそ理解しているけどな、千を超える公式を常に意識するとか、脳がいくつあっても足りないぞ」


「ゲ。そんなにハードなのかい、錬金術って……」


 錬金術は確かに夢のある技術だ。されど、そこに求められる才能も技量も高ハードル。ラグナ大陸の人類の七割強は錬金術を学び、モノにしているという人材揃いだが──サクラはどうやっても、どう学んでも習得はできなかった。それこそ、別世界の言語を宙に描くようなもの、というのが彼の錬金術への結論だ。


「そういうのを実行可能にする頭の使い方っていうのも、錬金術師の基礎教養だよ。サクラの場合はアレだろ、特殊な訓練受けすぎて、今更そんな習慣を身に着けるスキルスロット空いてないんでしょ」


 あ~……、と心当たりにシンシアとジェスターは納得の声を上げた。

 無意識的に理論を生産する才能の無駄遣い。それが彼なりに洗練された結果なら、そこに錬金術という後付けの機能など、本当に余分でしかないのだろう。


「……大丈夫か、シンシア? 嫌なら断っても……」


「! いいえ師匠、お気になさらず! 私にできることなら是非、やります!!」


「そ、そうか……?」


 弟子の謎のやる気にヴァンはおののく。……元より知識欲、向上心が高い彼女なりに、錬金術を学んでみたいのかもしれない、と師らしい解釈でそのやり取りを終える。

 ……傍から見れば分かるそのすれ違いを、観衆たちはあえて黙して見過ごす。健気な弟子にささやかなエールを送りつつ。


「お前ら二人は最終的に、『上級』までの錬金術を習得してもらう。これは人類軍入隊に求められる最低限の階級だ。錬金術の要には私とサリエル先生、二人はその補助役……ってところだな」


「話は以上だ。各自、よく修練するように」


「それじゃ、こっちは魔剣の錬成工程とか考えとくから! サクラ、そいつらの監督役よろしく~」


「呼びつけたのはそのためか……」


 ぼやきに構わず、笑顔を見せてからアガサはサリエルと共に部屋を出て行ってしまう。

 残された生徒たちはというと、


「……うわぁ、ご丁寧に共通語で書いてある……シンシア君、いけるかい?」


「愚問ですよジェスターさん。何がなんでもやるんです……ッ!」


「弟子心に火がついてるぅー……」


 すでに教書を開き、学習に入っていた。期待の新人だな、とサクラは他人事にその光景を眺める。監督するといっても、彼らほど頭の良い人材なら指導の必要はないだろう。


「その……俺が言うのも変な話だが、よろしくな?」


 と横から声がけしてくるのはヴァン。

 ……別に変な話ではない。自身のかつての愛剣の復活がかかっているのだ、期待は当然のものだろう。


 王国側の思惑とはともかく、人理兵装がもう一つあれば、戦況が優位になるのは確かだ。

 魔剣オートクレール。その修復に向けた日々は、こうして始まった。


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