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Logic Tale《剣豪神子は最強無双するより帰りたい》  作者: 時杜 境
第一章 境界トワイライト
21/97

20 大遺生物

「総員退避ィ──!!」


 地響きが大地を爆裂させた。

 地中深くから起き上がってきたソレは、戦場にいた兵士たちの思考を凍りつかせる。


【□□□□□□────!!】


 高さ()()()()()()はある巨体だった。ヴァンがまず理解したのはそれだけだった。

 岩盤を突き破って現れたのは、牛を思わせる体格の結晶。頭部は二本の大角をはやした山羊のような形状で、四本足の偶蹄類だ。


「……ッッ!!」


 ゴぉッッ!! と業風が吹き荒れた。地表が薙ぎ払われ、木々がたやすく宙を舞って雨になる。見えたのは、尾。二十メートルほどの長さのソレが、地上に影を落としている。


 恐怖することさえ馬鹿らしい。動く大地の化身が、そこにいた。


「おいヴァン、アレが第四位か?」


「いや、違う! 俺が三年前に見たのはもっと樹に似ていた──ガルドラさん、なんですかねアレ!」


「エリアボスかなァ……」


 軽口を叩きながらも、スケールの違う怪物を前にガルドラも険しい顔をしていた。

 殲滅戦線、南部。他の方角と異なり、ここだけはいくら遺生物を狩り続けても、まるでその姿が途絶えることはなかった。二日前に建設が完了した砦がなければ、長期間の戦闘は不可能だっただろう。──建設を命じた指揮官(アガサ)の戦略眼には舌を巻く。


『エメルよ。後方部隊、聞こえる?』


『こちらヴァン。なにかありましたか』


『デカブツのせいで前線部隊が散り散りになりかけてるわ。なんとかルシウスが戦線を維持しているけど、このままだと各部隊、潰されちゃうわよ』


『──各員、退避優先で。残っている遺生物は捨ててください。ひとまず合流しましょう』


『了解したわ』


 念話が途切れる。眼前の巨体が、尾をこちらに振り下ろしてくる。


「【反射結界】」


 札を二枚消費する。瞬間的に展開した結界が、尾を大きく弾き飛ばす中、ヴァンは周囲にいる兵士たちへ声がけする。


「時間を稼ぐ! ガルドラさんは隙を見て攻撃を!!」


「よしきた」


 ガルドラの持つ魔導書が光を放ち、彼の周囲から、不可視の斬撃が繰り出された。

 目にも止まらぬ高速斬撃。黒のような、白のような、銀のような一閃が、巨大遺生物へと矢継ぎ早に叩きこまれる。


「【術式・竜嵐斬(テンペスト)】!」


 斬撃が着弾した刹那、抉るような暴風が発生する。巨体の一部を砕いたソレらの姿が一瞬だけ具現する。黒、白、銀──そんな鱗の色をした、細い形状の巨大な龍の三体が、遺生物の図体にからみついていた。


 まるで怪獣映画だな、とヴァンは内心だけで呟く。


「チ──再生が早ぇな」


 ガルドラの悪態通り、ヴァンも目撃する。確かに一瞬前に砕いた個所が、みるみる内に復元している。


「俺も加勢しますか?」


「いや、ヴァンは防御に集中しろ。テメェの結界がねぇとここにいる半数は吹き飛ぶぞ──、!」


 その時、魔力の収束があった。身構える隙もなく攻撃が放たれる。

 閃光だった。

 落雷──無数の落雷が、周囲一帯に降り注ぐ。大地に亀裂を入れ、枯れた地上を蹂躙し、焼き払うように全てを覆い尽くす。


 果たして光が収まった頃、


あっぶねぇなオイ(【遮断結界】)!!」


「本当にお前がいて良かったと思うわ、ウン」


 その場にいた騎士団、魔術師団の部隊は無傷のまま立っていた。ヴァンの手からは、四枚の札が消えていく。


『エメルさん、そっちは無事ですか。……エメルさん?』


 返答がない。声は、ない。

 今ので致命的なダメージを受けたのか。いや、或いは。


「……念話が、通じなくなってる……?」


     ◇


『アレ? なんかヴァン君たちの反応が消えたんだけど』


「この状況でですか──!? 師匠──!?」


 サクラたちは囲まれていた。

 見渡す限り、遺生物、遺生物、遺生物。連日と同じ手順で狩っていたのだが、今日は集まってくる数が桁違いに多い。

 地脈の要所に近い位置なので、いたずらに理を展開することもできず、シンシアと共に仕事にまい進していたのだが。


「さ、サクラさん! どうしますか!? こう、一気にバーッと斬れる理論があるなら、ここで作るべきですよ!!」


 背後で杖を構えているシンシアが叫ぶ。

 周りの遺生物たちは、十メートルほどの距離を保ったまま、じっと動かない。攻撃してこないのは──サクラの存在故だろう。


(……流石に連日狩られ続ければ、どっちが強者か学習したようですね……問題は、動物と違って、本能で解っていても、積極的にこちらを排除しにくる点ですけど……)


 遺生物が本当に生物なら、サクラという存在がこの土地からいなくなるまで身を隠すのがベターだろう。

 だが、違う。遺生物は超抜存在の眷属だ。天敵がいると分かったのなら、それを排除するために、幾度だって刺客を送りこむ。──たかが人類一人、一度殺せさえすれば、それで終わりなのだから。


「ジェスター。合流ポイントまであとどれくらいだ?」


『三キロは先だね。転移で移動してもいいと思うけど……その場合、この場の遺生物たちを逃がすことになるかなぁ』


「──シンシアさん、アガサに送る残骸の目標量は、もう達成しているよな?」


「は、はい! それは昨日の時点で終わりました! まぁ、『素材は多くて困らない』という返答をいただきましたけど……」


「じゃあ収穫祭はここまでだ。今から道を開くから、ついてきてくれ」


「え? サクラさん、何を──?」


 シンシアが声を上げた時、

 次の彼の動きに、遺生物たちが一斉に動き出そうとし──


「“残照”」


 瞬間、景色を塗りつぶす黄金の一閃。それが全てを灼き滅ぼした。

 焔に似た、黄昏色の光。刀身の軌跡が刹那にして周囲を巻き込み、全ての遺生物が金色の地獄の中で融け尽くす。光の発生は一瞬だったが、その一瞬で結晶たちは残骸残らずそこから消えた。


「え……ッ、……ええ!?」


『なになになに!? 新しい理論作った、サクラ君!?』


「全然違う。急ぐぞ」


 再び遠くに見えた遺生物に光の斬撃を放ちつつ、鳥居を出した彼は残りのルートを進み始める。その背を、慌ててシンシアとドローンが追いかけた。


     ◇


「気張れェテメェら!! ここが正念場だぞ!!」


 ガルドラの合図に、魔術師団が大遺生物へ魔術を注ぎこむ。火や水や雷や風や土や闇や光、数多の攻撃魔術・妨害魔術が一斉に発生する色合いは、凄惨なれど鮮やかでさえある。

 だが──足りない。


「ッ、来るぞ! 騎士団、斬撃用意!」


 尾の一薙ぎが地表に叩きつけられる。その動きを狙って、剣を構えた騎士たちが、一度にその根元へ向けて斬撃魔術を放つ。すると長大な尾は、ザグリと力任せに切り離された。


 ドッッと地響きを立てて質量の一部が落ちる。だが──


「……!?」


【□□□□──ッ】


 切られた尾から、結晶が蠢く。

 遺生物だ。

 みるみるうちに形を作り、新たに生まれ出でてくる。


「おいおいおい、まさかマジか? このデケェのが、連中の母体だってのかよッ!?」


「消します! 【術式・(アナイア)──】」


 遺生物たちに、消滅の魔術は放たれなかった。それより先に大遺生物が大きく足を振り下ろし、足場を乱す。続けざまに頭部──口から、炎のブレスが吐き出された。


「【遮断結界】……!」


「野郎、真似事を……! 【ギン】!!」


 遮断の結界が展開される。召喚された銀鱗の龍が、大遺生物へからみつく。

 即座に大遺生物は紫電をまとい、銀龍を焼き焦がす。それでもなお離れなかった銀龍は、消えかけの身で大遺生物の足の一本を噛み砕いた。


 巨躯のバランスが、崩れる。


「よくやったァァ──!」


「【術式・崩壊魔砲(アナイアレイト)】──!!」


 極大の、最高火力の必殺が発動する。

 たちまち場に満ちる消滅の光。白い魔法陣が大遺生物の身を包み、粒子のレベルから分解される。

 ──消滅の光が収まっていく。対象を例外なく滅してきた、ヴァンが持つ最高度の攻撃魔術は──


【──□□□□□□□□!!】


(っ……!? なんだこの手応え、弾かれた──いや、再生速度だけで押し切られたのか……!?)


 巨体は健在。「消滅」という事象から蘇生したソレは雄たけびを上げる。

 先ほど奪った支えの足がみるみる内に復元していく。加えて尾まで再生するときた。


 ぞく、とヴァンは直感的に次の相手の動きを予感した。


(雷撃──)


 今度は、伝達する間も、結界を差し込む間もなかった。

 全員の視界が光で塗り潰される。再び戦場全体に、広範囲の落雷が発生し──



「術式七十二番、発射」



 ──黒電の一射が、大遺生物の頭部を抉り抜いた。

 次元を裂く絶殺の一弾。黒い軌跡はしばらく中空に残存し、その威力とおぞましさを語る。

 大遺生物の動きが停止する。直後、フィールドに銀色が塗り足された。


「‶我が灰塵と散れ〟──【術式・銀庭殺刃スーサイド・グレイガーデン】」


 広がるは銀の庭。上から、銀鎧を着込んだ三つ編みの青年が一閃しながら降りてくる。すると部隊を襲っていた遺生物らが、瞬きの間に灰となって消えた。

 その姿、その魔術で、ヴァンたちは状況を把握した。


「アルトリウス!」


「遅参しました。総員、無事か」


「騎士団長……!!」


 銀の団長の姿に、兵士たちが沸く。ヴァンも思わず安堵の息をもらした時、新たな気配を感じた。


「あら、どうやら美味しいところは先に持っていかれたようね」


「おー、無事だったかエメル」


 間延びした声のガルドラに、宙を漂う金髪の少女は冷たい眼差しを向ける。その後ろからは、前線部隊を引き連れたルシウスがやってきていた。


「合流完了、ですね。負傷兵は少なく抑えましたが、いずれ前線から残りの遺生物がやってくるでしょう。迎え撃つ人員がほしいのですが──」


「ああ……、いや、それは不要だろう」


 アルトリウスが言葉を放った直後、銃声が轟いた。


 顔を上げた上空には、百を優に超える黒い銃身の大群。

 形は、曰くガトリングガン。全ての銃身が回転し、ゴガガガガガガガガ!! と遠くから迫っていた遺生物らを蒸発させる。


「──、」


 あまりの凄まじい音に、ルシウスは耳を抑えたくなる。我慢した。

 やがて、次に大遺生物の影から黒い鎖の束が飛び出し、足元を拘束していく。頭部を復元中だった威容の怪物が、軋みをあげた。


「雑魚雑魚雑魚雑魚遺生物は素材価値のある雑魚雑魚雑魚雑魚」


「……発狂者ですか?」


「いや、指揮官なのだ」


 ゆらぁり、と場に黒い悪魔が現れる。殲滅続きで土に汚れた黒コートをはためかせ、爆風で乱れっぱなしの黒髪が幽鬼のように揺れている。髪の隙間から覗く赤眼は、ギラギラとした享楽さに満ちていた。──言うのもなんだが、敵の将かなにかにしか見えなかった。


「アガサ殿、南部の部隊と合流しましたよ」


「あ゛―……サクラは?」


「まだ来ていませんね」


「念話」


「さっきから繋がらないわね。アレのせいかしら」


 エメルの視線の先には、大遺生物がいる。ギチギチと鎖がまだ動きを縛っているが、すぐに動き出すだろう。


「ああ? あー……そっか。ってことは()()()()()()()()()()()。じゃあマジでアレ倒せば作戦終了だな」


「……?」


 不可解な物言いが混ざっていたが、分かりやすい勝利条件に、ヴァンはひとまず疑問を脇に置く。


「じゃあこっから騎士団は団長の指揮下でアレを相手しろ。宮廷魔術師組は適宜全体強化(バフ)しながら騎士団合同で魔術師団動かして。ヴァンは私と行動。やってくる雑魚のついでにデカいのを削る」


「逆だろ……いや、指揮官了解」


「拝承しました。ルシウス」


「はっ。当部隊、団長の指揮に従います」


「エメル、おれちょっと魔力使ったから全体攻勢のとき任せるわ」


「いいわよ。その分、防衛に動いてちょうだい。やっぱり護るのは慣れないわ」


 かくして殲滅も終盤戦。

 アガサは眼前の大遺生物へ向き直る。巨体を縛り上げていた鎖が、今、砕け散った。


「命がけの時間稼ぎだ。総員、作戦開始」


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