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第二話 幼馴染は悲観的なご主人様

「ねぇ、ヴィクトール。今度は誰が私を奪うと思っているの?」

「認めたんだね。だと思ったよ。君が父親と一緒に来るって事は君に僕よりももっといい縁談が持ち込まれたんだって事に決まってるからね」

「もしそうだとしたらヴィクトールは私が奪われていくのを指を咥えて見ているだけなの?」


 私の言葉に冷たい氷の様に鈍く光っていた銀色の瞳に生気が蘇る。


「僕の可愛いナターシャを知らないやつに奪われてたまるか」


 そう言ってヴィクトールは立ち上がって私の背後に立つ。


「誰にも渡さない」


 そう言うと、椅子ごと私を強く抱きしめて肩に頭を預ける。


「ヴィクトール。嫁入り前のお嬢さんになんて事をしているんだ」


 怒りを孕んだ冷たい声が聞こえて、抱きしめられたまま顔を向けると私たちの父親が揃って立っていた。


()()婚約者です」

()()婚約者だから注意をしているんだろう。リンデン卿。愚息が大切なご息女に無礼を働いて申し訳ない。ヴィクトールには二度としない様に言って聞かせる。ナターシャ嬢も許してはもらえないか?」


 ヴィクトールのお父様は私とお父様に頭を下げる。


()()()? 父上はリンデン卿の申し出を受け入れたんですか⁉︎」

「申し出? なにを言っている」

「……はぐらかすおつもりですか? 父上達が決断しようが、ナターシャがそれを受け入れようが、僕は納得しませんから!」

「お前の意見も聞くが、結婚は家と家の契約だ。お前の自由にはならない」

「意見を言っても自由にならないのであれば、意見を聞く気がないのと一緒です!」


 ヴィクトールの剣幕にヴィクトールのお父様はため息をついて、持っていた紙の束を机の上に置く。


「意見があるなら言え。聞いてやる」


 テーブルにつき、慌てて紙の束をめくりはじめたヴィクトールの手が止まる。


「これは……」

「先程リンデン卿と打ち合わせたお前達の結婚式の招待客リストだ。誰か呼んでは困るような相手でもいるのか? このリストに上がっているのは取引などで付き合いのある人物ばかりだ。呼びたくなくてもお前の意見を認められない場合もあるからな」


 ようやく自分の勘違いに気がついたヴィクトールの顔が赤くなる。


「皆さまお呼びいただいて大丈夫です……」


 髪の束をめくり終わり上辺だけの確認を終えて力なくそう言ったヴィクトールは私の顔を盗むように見る。


「ナターシャ、知ってたの?」

「もちろんよ。ヴィクトールが私の話を聞いてくれないんだもの」

「ヴィクトール! コソコソと何を話している! では、このリストに従って招待状を送る。いいな?」

「はい」

()()婚約者なのだから、節度を持ったつきあいをしろ」

「はい」


 私たちの結婚式に呼ぶ招待客の確認にお父様は訪れただけという真実にようやく辿り着けたヴィクトールは肩身が狭そうに小言を聞いている。


 家柄がよくて優秀で眉目秀麗で、なのにそれを鼻にかけるようなことは一切せず、常に穏やかで周りの信頼の篤い……みんなが羨む私の婚約者であるヴィクトール。

 そんなヴィクトールが私のことになると視野が狭くなってしまう。

 私から離れみんなの思い描いているヴィクトールでいられた方がヴィクトールにとって幸せな未来だってわかっているけれど……


 ヴィクトールが私を好きになるように、私を愛するように、私に執着するように、ヴィクトールが私なしでは生きていけないように……

 そうやってヴィクトールと人生を歩んできた私は、ヴィクトールを手から離したらすぐに朽ち果ててしまう。


 だから私は二度とこの手を離してなんてあげない。


 私は慰めるフリをしてヴィクトールの手をとり握りしめて微笑んだ。




ー完ー

お読みいただきありがとうございました。


他の連載も読んでいただけると嬉しいです。


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