ふと巨人になりたいと思った
巨人になりたい。誰もが1度は思ったことがあることだろう。なりたい理由は人それぞれだと思うが、だいたい同じような理由だと思う。今回はそんなお話をしていこうじゃないの。
私は今日数年ぶりに巨人になりたいと思ったわけだが、そう思ったきっかけは「服を着なくていいから」という理由だった。身長が10000メートルもあったら服なんか着れるはずがないのだ。
私は服を作る技術を持っていないから、あなた方小人のみなさんに作ってもらうことになるのだが、恐らく作れたとしても数億円はくだらない服になるだろう。いくら私が巨人でも服にそんなに金をかけるわけにはいかないので、私はこれから全裸で過ごすことになるだろう。
とりあえず立っているのも疲れたのでどこかに腰掛けよう。そうだ、富士山がいい。富士山に腰掛けよう。尻のほうからいくつかの断末魔が聞こえるが、私もずっと立っているわけにもいかないし、まあ勘弁してくださいよ。
巨人になると人を殺すことになるんだな、と思った。誰も殺さずに10000メートルの巨人として生きることなど出来るのだろうか。いや、恐らく巨大化した時点ですでに足もとで何人も死んでいるので不可能だろう。
巨人になりたい少年たちよ、これが現実だ。巨人になるということは、人の命を奪うということなのだ。それがどう問題なのかは自分で考えてみてほしい。私も考えてみる。
罪のない人が死ぬのはかわいそうな気がする。いや、でもそれは悲しい事件とかを見ているからこそ出てくる感想であって、自分が殺した側になった場合はどうなのだろうか。
もし自分がわけも分からずいきなり巨大化して死者が出たとして、その死者達に対してかわいそうという感情を抱くだろうか。犯人は裁かれるべき! と思うだろうか。私は思わないだろう。その時私が思うのは、捕まるのか捕まらないのかということだけだ。
しかし、10000メートルの巨人を警察が捕まえることなど出来るのだろうか。刑務所に私を入れることが出来るのだろうか。否、どちらも不可能である。ならば私は私のせいで人が死ぬことを気にする必要がなくなるわけだ。ということはこのまま巨人を続行することが出来るということになる。ありがとう。ありがとう? ありがとうって何だ?
気を持ち直した私は、さっきまで悩んでいたせいで喉が渇いたので、世界最大の滝であるイグアスの滝へ向かった。
数分かけて到着した私は落胆した。こんなのただのちいちゃい水たまりではないか。部活中に蛇口で水分補給するようなイメージをしていたのに、膝をついて水たまりをすすることになるとは。巨人になってから何も飲んでいなかったからとても美味しかった。
次に私は世界で最も高いビルであるブルジュ・ハリファに行った。しかしこれもただの小さな棒であった。私が大きくなりすぎたのだ。人間の世界では最も大きくとも、私からすればDSのタッチペンほどにしか感じられないのである。肝心のDSもないのでただの棒である。
ここで思い出したのだが、私のいとこは昔DSのタッチペンによく座っていた。先を上向きにし、尻と床で挟んで立たせるのだ。これを読んでいる諸君は「バカだろ」と思っているだろうが、これはプロでないと出来ない芸当なのである。バランスも大事で、力加減も必要なのだ。少しでも気が緩むと体重によりタッチペンがズボンを突き破り、そのままタッチペンが刺さった状態で尻もちをつくだろう。だろう、というか実際そうだ。いとこは1度そうなっているのだ。「うぎゃぁぁぁぁああああ」と今まで聞いたことのない悲鳴を上げていた。面白すぎた。
これを読んでいる読者諸君は「結局バカだろ」と思っていることだろう。そう、結局バカだ。確かにプロでないと出来ないような芸当だが、バカだ。
私は懐かしみながらブルジュ・ハリファに腰を下ろした。ふーっ⋯⋯やばい、あああ!
尻に激痛が走った。完全に刺さった。どうしよう、お尻のお医者さんやってるかな、ていうか10000メートルの巨人の尻なんて誰が治せるんだ?
完全に見誤っていた。プロでないと出来ないとか言っていながら、心の中では「いとこが出来るんだから私も出来るっしょ」と思っていたのだ。しゃがめばいいと思っていた。しかし、違った。しゃがむ体勢よりもう少し尻を後ろにやらなければならず、空気椅子の倍ほどの難易度の体勢をとることになる。
私は尻にブルジュ・ハリファが刺さったまま東京タワーへ向かった。そう、リベンジである。私は東京タワーに腰を下ろした。すぐにズブリという感覚と激痛が私を襲った。
完全に見誤っていた。ブルジュ・ハリファよりだいぶ小さいんだから余裕だろうと思っていた。しかし実際はブルジュ・ハリファの時よりも腰を深く落とさなければならず、よりキツい体勢を強いられることとなり、今の状態に至った。
次のところに行ってリベンジすることも考えたが、このまま失敗が続けばそのうち口からブルジュ・ハリファが出てきて私はロケットえんぴつのようになってしまうだろう。ここまでが限度だ、と自分に言い聞かせ挑戦を諦めた。
「ふぁあ〜〜〜っ」
私のあくびがサイレンのように響き渡る。眠い、またあくびが出そうだ。
「ふぁあ〜〜〜あぐっ!」
口の中になにか入ってきた。喉に刺さった気がする、なんだろうか。
指を突っ込んで取り出そうとしたが、オエッ! となってげーげを吐いてしまった。3回吐きながらも私は必死に喉を探り、ついに取ることが出来た。
飛行機だ。そうか、10000メートルと言ったら飛行機だな。ブーンとおもちゃの要領で遊ぼうとも思ったが、小さすぎるしゲボついてるし、なんか嫌だったので琵琶湖で少し洗って空に逃がしてやった。元気に飛んでいった。大きくなれよ。うん。
3ヶ月ほど経ったある日、髪が邪魔になってきた。床屋に行くわけにもいかないし、自分で切れるような大きさのハサミもないし、どうしよう⋯⋯
顔を触ってみると、髭もだいぶ伸びていることに気がついた。そうか、髭とか髪が伸び放題なのは深刻だな。巨人やめるか⋯⋯
ということで、私の巨人になりたいという妄想は幕になった。みんなも巨人になりたいと思ってると思うけど、巨人になったっていいことなんてないよ。そのまま人間でいるのが1番だ!
だからさ、考え直してくれよ! 思いとどまってくれよ! あーっ! こんだけ忠告したのに! なんで巨大化すんのよさ! もうしやないかーね! もうろうちゅゆこともできないんらかやね! ちぇんちぇーのばか!
みんなの巨人だった頃のエピソードも聞きたいな! 聞かせてね!
よく考えたらズボンもパンツもなしで生尻なわけだから、ブルジュ・ハリファが刺さるのは当たり前だった。括約筋だけで対抗することになるんだもん。そら無理よな。