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夢見る冒険者(仮)  作者: I.D.E.I.
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アップデート

 目の覚めた陽平はいつものルーチンをこなして学校へと向かった。


 「で、どうよ?」


 「シャケの切り身と夕べの残りの筑前煮、そして味噌汁とお新香だ」


 朝一番で聞いてくる佐藤に定番の返しをする陽平。


 「そうか、俺は寿司とピザ、のチラシを見ながらコーンフレークだ。どうだ、羨ましいだろう?」


 「羨ましいから、俺が早弁用に買ってきた焼きそばパンをやろう」


 「情けが身に染みるぜ。む? コレにはスライスした茹で卵とウインナーとポテトサラダが挟まっていないぞ!」


 「お前の言っているのはスペシャルサンドだろう。それは焼きそばパンだ」


 「くっ。俺とお前の友情はそんなモンだったのかぁ」


 「文句があるなら返せ!」


 「友情と食材に感謝を!」


 返せと手を伸ばした手を躱して包みを切り、パンを頬張る。


 「ふぇ? ふうふぇふぁふぉうふぁっふぁ?」


 「夕べも行けたぞ。それと、他のプレイヤーとも会った」


 「ふぁふのふぉふぁいふぁー? ふぉふぇっふぇ、ふぇん、ゴクン、実の人間か?」


 途中でパンを飲み込んでから、極当たり前の様に話を続ける佐藤。


 「夕べだから確かめてはいない。でもまぁ、普通に会話してたぞ」


 「お前の知ってる人間ふぁっふぁのふぁ?」


 再び焼きそばパンの残りを頬張る佐藤。


 「一応知ってる? のか? とりあえずその場で名前を聞いたがな」


 「ふぁうふぁ、ゴクン、言い方だな。で、なんて名前だ?」


 「それは確認してからだな。俺の夢に出てきた夢の中に人物でした、って落ちだとみっともない」


 「ふぉれふぁ、ふぁしふぁに、ゴクン」


 残りの焼きそばパンを飲み込んだ。


 教室では朝の登校で皆が集まりつつあった。その中の一人の女生徒が入ってくると、陽平をじっと見つめる。


 何かを感じたのか、陽平も見返す。そして二人とも暫く動かなかったのを佐藤が気付く。


 「どうした陽平? ん? 鈴木さんと何かあったのか? まっ、まさか青春か?」


 佐藤から鈴木さんの名前を聞き、陽平は意を決して右手を鈴木さんに指差すように突き出す。左手はその右手首を握る。形としては拳銃を両手持ちしているように見える。


 そして。


 「バンッ!」


 と口で拳銃の発射音を言って、指差した右手を跳ね上げさせる。


 何をやってるんだ? と言う顔を佐藤が向けるが、鈴木さんは陽平に両手を銃の形にして陽平に向かって「バン、バン」と返した。


 「だから二丁拳銃は止めろって。それに二丁拳銃の構えはそれじゃ無い」


 「え? 違うの?」


 「バレル型の拳銃ならそれで良いが、グロックとかの自動拳銃はこうだ」


 そう言って陽平は両手を突き出し、右手は普通に指差し、親指は上を向く、左手は横に倒し、親指が右手を差す方向に向く。


 「打ち終わった後の薬莢が排出されるだろ? 真っ直ぐ構えてたら左手の銃の排莢が右手に当たっちまう」


 「あ。そっか」


 実際に排莢が右後方に飛び出しているのを見ている鈴木千佳はそれに納得する。それは今までは銃に興味が無かったために考えた事が無かっただけだが。


 「なぁ、陽平? なんで鈴木さんと銃談義になってるんだ?」


 「鈴木さんはガンナーだからな」


 「ま、まさか!」


 「ああ、鈴木さんとは一晩一緒にいた仲だ」


 「なんだってー!」


 「陽平。言い方。言い方。小泉さんもいたでしょう」


 陽平と佐藤のおふざけに鈴木千佳が呆れたように付け足す。


 「はい? 私が?」


 そこにタイミング良く小泉澪が登校してきた。前後の会話を聞いていなかったので小首を傾けている。


 「ああ、アタシと小泉さんと陽平の三人で、一晩中、体験した事の無い激しい一夜を過ごしたと言う話」


 鈴木千佳までもおふざけに乗った。


 「あー、初めての体験でした」


 小泉澪までも。


 「…、さて、陽平。取り調べを行おうか」


 佐藤が真顔で陽平に迫る。


 「ムラムラしてやった。後悔はしていない!」


 収拾は着きそうも無かった。


 結局佐藤一の涙ぐましい努力のかいがあってなんとか判った事は、陽平、鈴木千佳、小泉澪の三人は同じ夢を共有した事実だった。


 「つまり、夢の中でゲームが出来るってのは現実として考えても良いって事だな」


 「夢なのに現実、って言い方はどうかと思うが、同じ経験を共有したってのは確かだな」


 「はたして経験だけか? 陽平、お前はレベルいくつになった?」


 「レベルは判らん。あそこで自分のステータスを知る方法は判ってないからな」


 「判らんのか? 掲示板情報だと、役所みたいな所で登録するとステータスプレートを発行して貰えるって話だが?」


 「そうなのか? それらしい建物はあったかなぁ…」


 「とにかくお前の体感的に言って、どのくらいだと思う?」


 「RPGだと、まだ始まりの町の周りをグルグルしてる段階だから、良くて一桁の後半に差し掛かったぐらいじゃないかな」


 「まだそんなモンか。まぁ、商業目的のゲームじゃ無さそうだから、そんな感じなのかもな。ま、良い。陽平、そこに立って垂直跳びしてみてくれ」


 「あ? ここでか?」


 「ああ」


 佐藤に強要され、仕方なく飛んでみる事にした。しかし机が邪魔で全力は出せそうも無い。諦めた陽平はお茶を濁す事にして、適当に跳ねてみた。


 そう。軽く跳ねてみただけだった。


 陽平は身体を伸ばしたまま垂直に跳ねた。その足の下が生徒が使っている机の天板を少しだけ超した。


 日本人男性の垂直跳びの平均は六十センチ前後。そして生徒用の机は高さが八十センチある。以前の陽平でも飛び上がって机に載る事は出来た。しかし、それには飛び上がった後に両膝を胸元まで引き寄せる必要があった。


 「ぜ、全力か?」


 「いや、手抜きのつもりだったが…」


 「レベル一桁…だったよな?」


 「たぶん」


 既にほとんどのクラスメイトが登校してきていて、佐藤と陽平のやり取りに注目していた。タイミング悪く見逃した者も直ぐ近くの者から詳細を聞いている。


 「陽平! もう一度だ。今度は本気出せ」


 「お、おう。ちょっと机どけてくれ」


 再度挑戦した時には、身体を伸ばしたままでも学校の机の上にすんなりと立てる程、高く上がったと誰にも明確に判った。


 それを見た他の生徒が自分の高さを見るためにドンドンと飛び上がったが、余裕があるのは椅子の上に立てるぐらいで、身体を伸ばしたまま机の上まで飛べる者は一人もいなかった。中学からバスケットボールをして来た山口敦がもう少しで届くか、と言う感じだった。


 ちなみに、アメリカプロバスケットボールの有名選手は百センチ前後の垂直跳びの記録を持つ。それでも平均は七十センチほどなので、陽平はそれを上回った事になる。陽平を除けば、山口敦がなかなかの者と言っても良い程だ。

 蛇足だが、マイケルジョーダン氏の垂直跳びの記録に百二十二センチというのもある。


 閑話休題。


 「つまり、夢の中だけど、レベルを上げれば現実世界の肉体もレベルアップすると言う事でいいか?」


 佐藤がまとめるように陽平に聞く。


 「まだはっきりしないな。夢の中で現実離れした動きをしているから、それに釣られて制御能力が上がっただけ、とかもまだ可能性はある」


 「ああ、なるほど。だが、最低でも肉体制御能力は上がるって事だよな」


 「上がっても、肉体が鍛えられなければ直ぐに頭打ちだろ」


 「ふむ。とにかく陽平はもっとレベルアップしろ。そして俺もそれに続くぞ! と言う事で鈴木さん、小泉さん、辿ったサイトとか詳しい事教えてくれ」


 それから騒がしい休み時間と退屈な授業時間が交互に続き、いつもの日常が暮れた。


 家に帰った陽平は早い内から予習と訳文の課題をこなし、夕食と風呂を終えると早々にベッドへと潜り込んだ。

 既に明日の用意は全て終えている。風呂上がりのホカホカした身体に寝間着代わりのスエットを纏い、スマホを起動させると直ぐに意識が暗闇に沈んだ。


  ○★△■


 陽平が次に意識を取り戻したのは、夢の中のホームセンターの一角だった。


 「ここは、装備を揃え終わって、三人で遠出してみるかと話し合ってた場所だったな」


 陽平が周囲を確認し終わった時、直ぐ近くに強いプレッシャーを感じた。それは一瞬で膨らむと、人型の塊のような存在感を持ち、次の瞬間には小泉澪の姿になった。


 その小泉澪が目を開け、キョロキョロした後に陽平を見つける。


 「あ、陽平君。学校ぶり」


 「学校ぶりと言うのは初めて聞いたが、五時間ぶりくらいか」


 「え? 七時間は経ってますよね?」


 「ちょっと待て。そう言えば小泉さんは何時に寝た?」


 「早く寝ようと、十時ちょっと過ぎくらいだったと思います」


 「俺は九時少し前だったはずだ」


 一時間以上開きがあるはずなのに、この世界に現れた時間がほぼ同じだった。それについてさらに確認しようとした所で二人の目の前に鈴木千佳が小泉澪と同じように現れた。


 「あ。アタシが一番最後か。出遅れちゃった」


 「鈴木さんは何時に寝た?」


 陽平よりも小泉澪が先に質問した。


 「九時半だったかな? ワクワクして早く寝たんだけど、先を越されちゃった」


 「「………」」


 「え? 何?」


 沈黙で答えた二人の雰囲気にビビる鈴木千佳であった。


 その後、三人で情報を共有して、鈴木千佳も頭を抱える事になった。


 「つまり、どう言う事?」


 「この夢の中の世界は、現実とは時間の流れが違うって事だな。現実で一時間しか寝なくとも、六時間寝たとしても、同じだけの時間を共有出来る可能性があるってワケだ」


 「あ、もしかして。寝ている時間の一時間だけ、こっちに来ている、とかもあるのかも知れませんね」


 「うん。それが当たりかも。だけど一時間じゃ無く一秒かも知れないし。三時間なのかも知れない、ってそこら辺はこっちに来ている俺たちには検証しようも無いな」


 寝ている最中の脳波を測るとか、時間を決めて寝ている所を無理に起こすなど、外部に協力を仰がないと計測は無理だろう。


 「まぁ良いんじゃ無い? アタシたちが楽しめてれば」


 「それが正解なのかも知れないけど、落とし穴があったとしたら、って考えるとなぁ…」


 「でも、最悪でもゲームの経験を忘れる、って事だけですよね?」


 「現実の時間を消費しているワケじゃないし、実質的な損は無さそうだしな。まぁ、考えて備えるのは悪い事じゃない。考えつつも、ゲームを楽しむか」


 「そうですね」「うん、うん」


 そしてホームセンターから出て、いつもの活動範囲を巡ってから範囲を広げる方向で行動する方針を決めた。


 ホームセンター周りは敵モンスターが一匹ずつ出てくるエリアだ。なので攻撃するのはローテーションで一人ずつにした。もちろん他の二人はフォローに全力を尽くす。周辺警戒や仲間の攻撃の失敗をフォローするために仲間の動きや敵の動きをしっかり観察するのも良い経験になる。


 そんな感じで進んでいくと、騒がしい数人の声を聞いた。


 三人で互いの顔を見る。そして頷くと声の方向へと走り出した。


 そこには佐藤一、加藤孝史、武藤寛太の三人がいた。そして一匹のすねこすり相手にそれぞれが逃げ回っている。


 「あ、お茶会トリオだ」


 三人を見た陽平が思わず呟く。


 「よ、陽平!? な、なんとかしてくれ!」


 「そいつは妖怪すねこすり。脛を擦られるとごっそりHPを削られるから慎重にな。良し、アドバイス終了。いや~、友達を助けるのもなかなか大変だね~」


 かいてもいない汗を拭う陽平。


 「よ、ようへ~!」


 「仕方ないなぁ。ほら、蹴飛ばせ! 足の甲で跳ね上げろ! サッカーだと思えば良いんだ。妖怪でも生き物の形をしているモノに攻撃を加えられない、ってのなら、死んでゲームの事を忘れた方が良いぞ?」


 「お? おお…」


 陽平の言葉で覚悟を決める佐藤一。


 そして走ってくるすねこすりに狙いを合わせて蹴り上げた。


 「にゃんこが~」


 「にゃんこじゃ無い! 妖怪だ! しっかり区別しろ!」


 涙目の佐藤一を陽平が叱咤する。


 蹴り上げられたすねこすりが身をねじって綺麗に足から着地する。しかし蹴られたダメージは残っている様で足下はフラついている。それでもすねこすりは佐藤一に向かって突進を再開した。


 それを今度は横薙ぎに蹴る。流石に足から着地とはならず、アスファルトの上を転がっていく。


 「佐藤! 追撃してトドメだ!」


 「お、おう、ってトドメ?」


 「すねこすりの頭に、お前の全体重を乗せて踏み砕け!」


 「え?」


 陽平の言葉に佐藤の身体が硬直する。


 「出来なきゃここまでだ。やめてしまえ!」


 「………」


 陽平の一言に冷や汗がにじみ出てくるのを佐藤一は認識した。自分の覚悟はこの程度だったのかと。


 その間にもすねこすりは立ち上がり、再び佐藤一に向かって走り出す。しかし初撃のような速度は無く、足を引きずっている様にも見える。


 それを佐藤一は容赦なく踏みつけた。


 「俺は、戦うんだ!」


 踏み下ろした足はすねこすりの首元を直撃し、頸椎を砕いたようだ。動かなくなったすねこすりは、暫くすると消えて小さな金のインゴットに変わった。


 「まぁ、見てください奥様! あの方、いたいけなネコちゃんを足蹴にして踏み殺しましたわよ」


 佐藤一が感慨にふける間もなく、陽平が巫山戯た調子で隣の鈴木千佳に語りかける。


 「見ましたざます。動物虐待ざますね!」


 「ネコちゃん可哀想~」


 鈴木千佳と小泉澪も陽平に乗っかり巫山戯る。


 「やーい、動物虐た~い!」


 「テメェ! 人が真剣に戦ってるのを茶化すんじゃ無ぇ!」


 実は一瞬の差で佐藤一がトラウマを持つきっかけを陽平が潰した事を知る者はいなかった。陽平としても佐藤一がトラウマになったかどうかもはっきりしないので、その事に触れるつもりは一切無かった。


 「よし! お茶会トリオの残りも行ってみようか!」


 陽平は佐藤一に続いて、加藤孝史と武藤寛太にも勧める。


 「あ、ああ。やっぱ、やらないとダメ…、何だろうなぁ」


 「よ、良し、俺が行く!」


 夢に入る前はゲームだと思っていたが、実際には現実と変わり無いヴァーチャルリアリティな世界だったため、加藤孝史は焦っていた。

 武藤寛太は佐藤一の行動を見て、一気に覚悟が出来たようだ。


 「あ、待て待て。お前ら、チュートリアルは受けたよな?」


 「受けたぞ。って言うか、受けないとここまで来れないだろ?」


 「確かに。まぁそれで、チュートリアルの最後で実際に倒す事もしただろ? 何をどうやって倒した?」


 「ああ、俺は毛羽毛現を斧でたたき切った」


 まず佐藤一が答える。続いて加藤孝史と武藤寛太が答える。


 「僕はコンクリートみたいな色をした鶏を弓矢で撃ったよ」


 「俺は蛇みたいな動きをする布の長いの……、アレは帯か? それをこぶしぐらいの大きさの石を投げて倒したな」


 「なるほど。先ずは加藤。お前はコレを使って見ろ」


 そう言うと胸に固定してあったホルスターをベルトごと外して加藤孝史に渡す。


 「武藤はコレを使え」


 武藤寛太には初級の炎の杖だ。


 「銃? 僕、銃なんか撃った事無いよ?」


 「銃かぁ。俺も銃は撃ってみたいぞ?」


 弱気になる加藤孝史とは裏腹に、佐藤一と武藤寛太は銃に興味を持つ。


 「試し撃ちならホームセンターでいくらでも出来るし、資金に余裕が出来たらサブのサブぐらいの位置づけで全員が持つようにしろ。チュートリアルで弓を使ったって事は、こう言う遠隔射撃武器に適性が高いって事だと思う」


 「じゃあ、俺は?」


 「石を投げたってのは投擲武器かも知れないが、コッチの小泉さんも石を投げたって事で、魔法に適性があるのかも知れん。先ずは使って見てくれ」


 そして、獲物を探して少し歩き、先ずは赤へるを加藤孝史が銃で撃ち取った。

 次に武藤寛太がすねこすりに火の魔法を放って一撃で倒した。


 「撃っちゃった…」


 「凄ぇ! 凄ぇ! 魔法だ! 魔法!」


 「銃と杖は貸してやるから、資金を貯めて自分のモノを買ったら俺に返せよ」


 「なぁ、俺は?」


 「佐藤は俺みたいに鉄パイプで序盤を凌ぐか、柄の長い斧という感じのバルディッシュと言う武器が良いかも知れん。ホームセンターで加藤と武藤から資金を分けて貰って買ってみろ。何にしろ、始まって直ぐは装備を調えるための準備期間って事だろうから、じっくり金稼ぎした方が良いぞ」


 「ああ、そうだな。加藤、武藤、それで良いか?」


 「うん」


 「それで良いぞ」


 ホームセンターに行き、それぞれの服装と装備を調える。特に同じ物を揃える必要は無いはずだと陽平が進言したが、佐藤たち三人もアーミージャケットとカーゴパンツ、ジャングルブーツ、サブ武器として剣鉈を持つという同じスタイルになった。本当は革鎧などを装備したかった様だが、資金面で諦めたそうだ。


 序盤を越えれば個人の趣味が反映されてくるのだろう。


 装備が整った後は当然のように銃の試射場に鈴木千佳と共に入り浸っているのを引きずって回収。


 陽平が槍、小泉澪が魔法、鈴木千佳が銃で、佐藤一、加藤孝史、武藤寛太を役割が被るので、陽平と佐藤一とで二つの組に分かれる事になった。


 「さて、中断したが、昨日の複数の敵モンスターが出てくるエリアで経験値稼ぎを続けるか」


 佐藤一たちと分かれた陽平たち三人は前回河童に遭遇した地点に来ていた。


 そして再び河童と遭遇。


 今回も三人の連携で極簡単に倒す事が出来た。


 特に陽平が鉄パイプから槍に変更した事で、単に受けるだけだった河童の突進を突き刺してダメージを与える方式になった事で、一気に片がついた。


 鈴木千佳も総弾数十七発という銃に変更したので、一匹だけの敵モンスターなら残弾を気にせずに引き金を引ける事に気持ち的な余裕が感じられた。さらに替えの弾倉もあるし、もう一丁同じ銃を持っているので、連射し過ぎて銃身が熱を持っても銃自体を交換できると言う余裕は大きかった。


 小泉澪だけは前回と同じだったが、他の属性の魔法を試して見るか、それとも今まで通りの火の魔法を極めるかで悩んでいた。


 「風の魔法も伸ばしたいのですが、このまま火の魔法を伸ばした方がお得でしょうか?」


 「風は向かってくる攻撃を逸らせたり、毒霧攻撃を霧散させるとかのサポート系になるだろうから、とっておいて損は無い技術だろうな」


 「あ、あれ、カマイタチって風の魔法じゃ無かったっけ?」


 「鈴木さんがどんな漫画を見たのかは知らないけど、真空で物を切るとかって無理だから」


 「え~! カマイタチって真空が原因って良く言うじゃん!」


 「私もそう聞いてました。違うんですか?」


 「人が生活出来る一気圧の中で自然現象として真空なんて出来ないよ。もしも偶然が重なって出来たとしてもホンの一瞬。コンマゼロ何秒という世界だろうな。そのホンの刹那の瞬間に人の手足が有る場所と重なるなんてほとんどあり得ない。もしカマイタチという現象が起こっていたとしたら、もの凄く小さい何かが凄い勢いで掠めていった、と言う可能性の方が真空よりはあり得るんじゃ無いかな」


 「ぶ~、理屈は判るけどぉ。それはちょっと面白く無い、って感じ」


 「『魔法』なんだから、自然現象に準ずるとかは確かに面白くないですよねぇ」


 「そうでも無い。例えば土魔法とかで固くて細かい砂粒を生み出して、風で勢いよく吹き付けるとか、回転ノコギリのようにすれば削るとか切るとかも出来るはずだ。火の魔法と組み合わせれば炎の勢いを強くする事も出来そうだしな。そういう自然現象に準じた使い方も出来るはずだ」


 「サポートとしては優秀なんですね」


 「だけど、二つの魔法を同時に出す魔力量と技量が必要なのがネックだな」


 「そのためには、とにかくレベルって事なんですねぇ」


 「なんか堂々巡りみたい」


 「まぁ、始めの一撃を風で巻き上げるように放って、直ぐに火にスイッチするってやり方が良いかな?」


 そして戦いながら歩く事暫し、とある建物を見つけた。


 それはオフィスビルの一種。雑居ビルのように一つのビルにいくつもの企業や店などが間借りしているビルでは無く、一つのビルが丸まる一つの企業の事務関連を担うと言うタイプのビルだ。さらに大きな道案内の様な看板も出ている。


 【夢役所】


 「どこかの企業ビルとか思ったけど役所か。佐藤の話だとここでステータスカードを発行して貰えるとか言ってたな」


 貰っておいて損は無いと言う事で三人で役所の中に入る。


 広めのロビーは大きな銀行の様であり、案内所と書かれた一角には人もいなければモニターなども無く、【ステータスカード発行・変更】、【パーティ・ギルド申請・変更】、【住居・店舗登録・変更】、【苦情申し立て(未実装)】【復活(未実装)】などと書かれた各ブースの案内図が置いてあるだけだった。


 本来ならば多くの人が出入りする場所なのか、各ブースには並んで列を作るためのロープが張られており、並ぶ人もいないのに大きく蛇行する必要があった。


 「ショートカットすれば良いだけなのに、なぜか道順に沿って長く歩くルートを取るのは日本人のサガなのだろうか」


 なんとも言えない気分でロープで作られたルートを進み、ステータスカードを発行するブースまで到着。


 ブースには六つの窓口があり、それぞれに椅子が置いてある。混雑時には六人同時に処理できる仕様なのだろうが、陽平が一つの席に着くと、小泉澪と鈴木千佳は陽平の後ろについて様子を伺っていた。


 (まぁ、人柱なのは仕方ない)


 そう考えて後ろの二人にもよく見えるような姿勢を取って申請に臨んだ。


 カウンターテーブルには大きめのタブレットが一つだけ置いてある。その画面に手の平を模した図柄が描かれているので陽平はその図に自分の手の平を乗せた。


 すると画面が変わり、【未登録 新規作成? はい いいえ】と出てくる。

 【はい】を指先で軽く押すとさらに画面が変わり【呼称】と出て四角い点滅するカーソルと文字入力用のキーボードが画面に出てきた。


 「呼称は本名じゃ無く、ゲーム内でのアバター名って事か。ここで変な名前を登録したら、後々後悔するとかありそうだから、一番無難な方が良いな。と言う事で『陽平』っと」


 【入力完了】キーを押すと【審査中】と出て、暫く後に【この名で登録しますか? はい いいえ】と出て【はい】を押した。


 【登録中】と言う表示が暫く続き、それが消えた瞬間、操作していた大きなタブレットの右横に、一つのスマホが現れた。


 スマホには【陽平 レベル7】の文字がデカデカと表示され、その下に【S】【℡】【カメラ】【マップ】【設定】の五つのアイコンがある。


 スマホを取って【S】を押すと陽平のHP、MP、力、素早さ、耐久、器用、精神などの項目が表示され、0~45などが表示された。これらの数字はあまりアテには出来ない、とチュートリアルで聞いていたので特に気にしない事にした。


 「なるほど。スマホがラノベのギルドカードみたいな役割をするのか。フレンド通信が電話で出来て、後は…」


 【カメラ】を押すと【撮影】【鑑定】と出て、画面の半分以上がスマホのカメラが写す映像に変わった。


 「画像は、この世界の中だけで参照するのか。それと鑑定がコレで出来るのか」


 カメラ機能は閉じて、さらにマップを開く。表示されたのは陽平が実際に歩いて、視界に入れた場所だけだった。


 「ま、ありがちな感じだな。まぁ、こんなモンか」


 陽平がスマホを自分の胸ポケットに入れて後ろの二人にも作成するように勧めようと振り返ったが、二人は既に左右のブースに行って登録を始めていた。


 ブースから出て二人を待つ事数分。登録を終えた二人が陽平の元にやってくる。


 「二人は登録名は何にしたんだ?」


 「私も単純に『澪』にしました」


 「アタシも『千佳』」


 「そうか、じゃ一応電話帳に登録してみるか」


 陽平が電話機能を立ち上げ、電話帳から登録を選ぶと、登録可能な二人の名前が表示された。先ずは【澪】の名を押すと【登録申請しますか? はい いいえ】と出て、【はい】を選択すると澪のスマホが登録の許可をするかどうかを澪に聞いてくる。【澪】が許可を出すと相互に登録が完了した。同じように【千佳】とも登録する。


 暫く互いに電話をし合うテストを続けて感触を掴む。


 「まぁ、俺たちの間で使う事はほとんど無いだろうけど、そのうちバラけたり、他のパーティとの連絡とかも必要になったら使うから、一応使用感は知っておかないとな」


 「私たち、バラけるんですか?」


 「先の事は判らないが、もしクラスメートが大挙して参加してきたら、知り合いとかの指導をする必要も出てくるだろうし、相性もあるからな。逆に今の状態に固執してしまうと頭打ちになる可能性もある。まぁ先の事だ」


 「だよねぇ。アタシの連れとかもゲームは良く知らないみたいだし、こっちに来ても同じ組で一緒に行動するってのは難しそうだし」


 「鈴木さん。彼氏がいるんですか?」


 「やだ、違う違う。女友達。中村とか吉田だよ」


 「ああ、クラスでもいつも一緒にいますね」


 「小泉こそ小林と小野とかと連んでるだろ?」


 「あの二人は私よりもヘビーなゲーマーだから…」


 「あれ? そうなの? だとしたらアタシたちよりも上手くやれそう?」


 「それはどうだかは判りません」


 「どう言う事?」


 「ああ、小泉さんが言いたいのは、一般のゲームの場合、死ぬ事もゲームプレイの一環にしてるから、それ前提で遊んでたのが、死ねなくなった場合にも遊べるかは判らないって意味だな」


 「はい。私自身、戸惑ってますから」


 「ゲームの中で死んでも実際の身体が死ぬわけじゃ無いけど、ゲームの中身は忘れて二度とゲームできなくなる、ってのは酷いと思う」


 「そう言えば、役所の中に【復活(未実装)】ってのがあったな」


 念のため、と言う事でそのブースに行ってみたが、ステータス登録のブースと変わりは無かった。未実装だから問題も起こらないだろうと、陽平はタブレットに触れてみる。


 【現在使用出来ません】


 単純にそう表示された。しかし暫くすると【予定】として復活の条件が表示された。


 それによると、ゲーム内で一度死んだ場合、プレイヤーはゲーム内で体験した事を忘れ、このゲームに関心も向けなくなる。しかし、この復活窓口でフレンド登録している他のプレイヤーが申請すれば、記憶を取り戻し、再びログイン出来る様になる。


 その申請に必要なのは、復活させるプレイヤーのレベル×百万。


 レベル二十のプレイヤーを復活させるには二千万が必要となる。


 「これは荒れそうなシステムだなぁ」


 「友達に二千万を預けておいて、もしもの時はそれで復活させてくれ、と言うのではダメなんですか?」


 「預ける相手が同じパーティだと難しいだろ? だとするとフレンド登録してある他のパーティと言う事になる。預かっておいてバックレるとかもありそうだ。どうせ依頼した方は記憶がなくなっているんだし」


 「同じパーティだと、一緒に戦っているのだから、一人が死んだら戦力低下でパーティ自体が共倒れですね。確かに別行動しているパーティじゃないと実行不可能ですね」


 「ああ、なるほどぉ」


 「これは自動振り込みとか、保険屋的なシステムがないと詐欺がまかり通りそうだ」


 「でも、そうすると死に戻りプレイが横行する事になって、このゲームの趣旨とは変わってきそうな気もしますね」


 「ああ。死に戻りが出来ないんじゃ面白く無い、とか言う意見もあるだろうけどな。だから未実装なのかも知れない。もしかしたら永遠に未実装なのかも知れないな」


 「そうですね」


 小泉澪が同意した時、ロビーに電子音が鳴り響いた。


 ピン、ポン、パン、ポーン♪


 ロビーにアナウンスが流れるかも、と耳を澄ませて待ち構えていた三人だが、ロビーには何も流れなかった。


 「アナウンスじゃ無かったのか?」


 「あ、陽平! コレ、表示が変わってる」


 鈴木千佳に促されて見ると、タブレットに表示されていた復活条件が変わっていた。


 【三日以内に取得した三つのアイテムを添えて申請 アイテムは復活させるプレイヤーにより異なる(未実装)】


 「なんか金で復活じゃ無くなったな」


 「コレって、友情が無ければ復活できない、って事ですよね?」


 「俺もそう思う。逆に言えば迷惑プレイヤーの排除も目的にしてるのかも」


 「迷惑プレイヤー…、いますかね?」


 「ゲームなんだから、夢なんだからって言って、好き勝手するヤツはいるだろうな」


 「ですよねぇ」


 「迷惑プレイヤー同士も連んでるだろうけど、レベルが上がれば復活の難易度も上がるだろうし、迷惑プレイヤーがそこまで苦労して他人を復活させるか? と考えれば良いシステムかも知れないな」


 陽平の感想に二人もなるほどと感心する。


 「それにしても、偶々変更するタイミングだったのか? それとも俺たちの話を聞いていたのか? と言う疑問が出てきたな」


 「聞いていたに一票入れます」


 「え? 今もアタシたちの話を聞いてるの?」


 「俺もそう思う。そもそも、プライバシーを遵守する、と言う規定も無かったしな」


 「うわ~、って二人とも妙に落ち着いてるのは何故?」


 「このゲーム。単に俺たちを遊ばせてくれるために存在しているワケじゃ無いだろうしな。たぶん、何かの目的があるはずだ」


 「そうですね。商業目的でも無いのは確実ですし、こんなに大規模なシステムを構築する手間を考えたら、遊ぶだけというのは考えられません」


 「アタシたちって、ヤバイ状況?」


 「俺個人の予想だと、俺たちの魂を寄こせ、とかってのは無いと踏んでる。強い魂が欲しい、とかってのも、夢のシステムを使えばもっと効率良く狩れると思うしな」


 「そもそも魂に強いとか清いとか、あるのかも不明ですしね」


 「じゃあ、目的って何だと思う?」


 「ある程度以上に経験を積ませて、何かをさせたいんだと思うが、それも不明だな。俺がチュートリアルでゲーム上の目的を聞いたら、それはゲームの中で調べてくれ、とか言う意味の事を言われたから、プレイを進めていけば判ると思ってる」


 「単に私たちがプレイするだけで叶う何かを期待している、と言う路線もありますよね」


 「う~、難しくなってきた。つまり?」


 「監視カメラのついた公園で遊んでる、ってつもりでいれば良いんじゃないかな」


 「復活、と言うシステムを取り入れたいみたいですし、取り返しのつかない何かの事態になる、と言う可能性も低いですしね」


 「気にせず好きに遊べば良い、って事だよね?」


 一応の結論が出た所で、再び経験値稼ぎを続行する事にした。


 役所から出たが、とりあえずマップを完成させておこうということで役所周辺をぐるっと回ってから佐藤一たちと合流する方針で歩く。


 その間にも敵モンスターは襲ってくるが、ほとんどがルーティンワークと化した戦闘で対応していく。


 小泉澪は初撃を風魔法にした事により、初めの内は怯ませるだけに留まったが、回数をこなすにつれて押しとどめるから巻き上げるに変わり、落下ダメージを与えるまでになった。


 空中に巻き上げられ、落ちてきた所を鈴木千佳が銃で打ち倒すと言う方式になったため、陽平の出番がぐっと減った。しかし二人とも遠隔攻撃専用なので、接近された場合の対処として陽平が必要不可欠なので離れるワケにもいかない。陽平自身もその状況に納得しているし不満は無かった。


 そして佐藤一たちと合流した地点に到着した所で時間切れとなった。

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