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夢見る冒険者(仮)  作者: I.D.E.I.
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糧を求めて生み出された害悪  後編

 山田功二の意見で、四機のポットは街の周りを歩き出した。


 そして各門ごとにポットの残骸と大きくなった内臓型プルートーを見つけ、蹴飛ばし、燃やし続けると言う作業に追われた。


 都合五つの門を巡り、五つ目ではプルートーは平原のイトミミズだけだったので引き返す事にした。


 そして元の門まで再確認しながら戻り、門の横にポットを並べて仰向けに寝かせてから生身で外に出る。


 「もったいねぇなぁ。このまま乗って帰っちまいたい」


 「全くもってその通りなんだが、もしこの世界にウチのクラスのヤツらが来た場合、犯罪者の仲間として何されるか判らねぇからな」


 「ゲームの場合でも、犯罪に手を染めた時には違うルートってなる場合もあるらしいしね」


 「悪因悪果」


 貰うなら、正規の手続きで真っ当に譲り受けたい。その方針は初めに決めていた。陽平や佐藤一などは、悪業ルートも場合によっては仕方ないと言っていたが、出来るだけそれは避ける方針だ。


 裏の本音はもちろんある。


 犯罪に手を染めて好き勝手やった挙句に殺された場合、クラスの他のメンバーが復活のために努力してくれるかどうか? と言う事もあるし、常にコソコソしなければならない状況が冒険をするのに面白く無いと言うのもある。


 実際には死なないが、記憶を失うという死はある。そんな命がけの冒険を心から楽しみたい、と言うのが本音の中の本音だ。


 だが、その本音は、こう言う他の世界で真っ当に生きている人間には知られたくない。


 この地で真剣に、本当に命がけで生きている人たちを、遊び感覚で冒険している自分たちが馬鹿にしているような立場になるからだ。


 実際、それは否定出来ない。


 だからこそ、真っ当に付き合おうと考えた。


 田中啓一ら四人は外に出るために使った通用口を通り街の中に入った。


 相変わらず野外に人はいない。皆、家の中で終わりの合図を待っているのだろう。


 「どうする? 家の戸を叩いて教えて回るか?」


 「それより…、あ、鐘だ」


 「鐘をゆっくり鳴らせば良いのかな?」


 「終了報告?」


 「とりあえずやってみるか」


 四人は再び通用口に入り、鐘がありそうな場所を探す。おそらく外壁の上の見張り台にあるだろうと予測し、そういった場所への階段探しがメインになった。


 そして見つけた鐘は、ベルのような形では無く、お寺の鐘に近い形だった。


 それを備え付けのハンマーでゆっくりと叩く。


 カーン…、カーン…、カーン…、カーン…。


 四回叩き、少し間を開けてもう一度四回叩く。


 見張り台から街の中を見ると、遠目にも窓を開ける様子が見て取れた。


 「これで外に出てくれるかな?」


 「なら、街の連中に話しを聞きに行こう。街に兵士がほとんどいない原因とか」


 「隠れているなら良いけど、街の中のどこかで死んでるとかは拙いよね」


 「本来なら隠れてるってのも悪いんだが、それでも死んでるよりは良いか」


 外壁の見張り台から降り、四人は街の中に戻った。


 「誰に聞いてみる?」


 「兵隊関係の人が一番だけど、判らないからハンターギルドかな」


 「だな」


 まだ家の外には出来ていないが、窓は開けられ、人の喧騒が微かに聞こえてきた街の中を四人は進んだ。


 「あ、あんたたちかい。随分早いね」


 ハンターギルドでは受付の女性が迎え入れてくれた。


 「聞きたい事がある」


 「いいよぉ。でも少し待っておくれ。直ぐに詰め所からの知らせが届くはずだから。他の連中ももうすぐ集まるはずだしね」


 そう言うやいなや、次々にハンターが入ってくる。今まで各自の家でやり過ごしていたのだろう。


 田中啓一ら四人も詰め所からの報告と言う物を聞きたいので、大人しく部屋の隅で立ったまま待つ事にした。


 部屋の中にはいくつかのテーブルと椅子が置いてあるが、通例として新人は座れないモノだ。


 時間は既に夕方。朝から始まった騒動で、家に閉じ籠もっていたとは言え、日中の八時間近くを怯えながら過ごすというのも疲れるモノだ。ベテランハンターたちにも精神的な疲労が見える。


 「大変だ! 詰め所に兵士が一人もいない!」


 二人一組で詰め所に向かっていたハンターが飛び込んできて叫んだ。


 「落ち着け」


 「落ち着いている! 本当にもぬけの殻だったんだ」


 「じゃ、誰が鐘を鳴らしたって言うんだ」


 「あ、それ、俺らです」


 ハンター同士で叫ぶように言い合っていた所に山田功二があっさりと言う。


 一瞬だけシンと静まる。


 「どう言う事だ!」


 代表格のようなベテランっぽいハンターが聞いてきた。もしも遊びや悪戯で鐘を鳴らしたとかなら承知しないぞ、と言う目で睨み付けてくる。


 「説明する。まず、外のプラークは、デカくなったのは全て焼いてきた。当面は安全に行き来出来るだろう。もっとも、俺たちは二日前に此処に来たばかりなんで、一掃したプラークがどの程度で再襲撃してくるのか知らない。とりあえず今は地面の下にしかいない状況だ」


 「焼いてきたぁ?」


 「ああ、外を見回ってるデカ物、ポットだったか。それが倒され、中身が食われて転がってた。それを拝借して燃やしてきた」


 「どう言う事だ?」


 ハンターの代表格は、今度は落ち着いた声で聞いてきた。


 「初めから説明する」


 そして山田功二は荒事を生業とするハンターというイメージで、今朝から経験した出来事を話していった。


 「…つまり、鐘が鳴った時には兵士たちが逃げ出してた、って事か」


 「おそらくデカ物が倒されて、中身が食われてから逃げ出したんだろう。その最後の最後に鐘を鳴らして門を閉めたのかもな」


 「おいっ! 誰か! 他の門の詰め所とギルドを見てこい。それと、街の指揮所にも馬を回せ」


 ハンター代表格の指示で六人のハンターが走って出ていった。


 「新人! お前らには門の外まで付き合って貰う」


 「構わない」


 ハンター代表格と五人のハンターと共に田中啓一らは門に到着。山田功二が通用口は開いていた、と言う言葉で通用口から外に出た。


 そして未だに燃えて煙を上げている内臓型プルートーだった物や、横たわった四機のポットの壊れ具合を見て呆然とする。


 「ポットが半壊してるな。コレをやったのはどんなプルートーだった?」


 「直接は見ていない。俺たちが来た時にははらわたを適当に繋いだようなプルートーがのさばっていた。おそらくポットの中の人間を喰らったんだろう。しかもポットの魔石も一緒に喰らって、俺たちの背丈よりもデカくなっていた」


 「はらわた? …キーチャか」


 「キーチャと言うのか? 俺たちは内臓型プルートーと呼んでいた」


 「内臓…、まぁ、呼び方はそれぞれだな。で、お前たちがポットに乗り込んだワケか」


 「それはハンターギルドで言った通りだな。乗り込んで、炎槍で焼いていった」


 「そうか。だが、キーチャは素早い。良く焼き潰す事が出来たな」


 「ああ、幸いと言って良いのかは疑問だが、既にポットの魔石は食われた後だったからな。キーチャにとっては襲う価値の無い存在に見られていたようだ」


 「おい! 今のはどう言う事だ?」


 ハンター代表格が驚いて聞いてくる。


 「気付いていなかったのか? プルートーは活性化している魔石を求めて襲ってくる。地面の下にいるイトミミズ程度のヤツは人間や魔獣の魔力に引き寄せられるけどな」


 「おい。何だよそれは…」


 「魔石の状態で持っていても襲っては来ない。生きている魔獣や、ポットで丸ごと使っている状態だと反応するみたいだな」


 「本当か? それは!」


 「俺たちの経験だ。だから多少は違うかもしれん。場合によっては全く外れている可能性もある。だがかなり正解に近いとは考えている」


 「そ、そうか…」


 ハンター代表格と、一緒に来た五人のハンターも黙り込み、何かを考えている様子だ。


 「どうする? 向こうの門も確認するか?」


 「あっ、いや、良い、お前たちの言う事は確認出来た」


 「あっ」


 ハンター代表格の言葉を、一緒に来た五人の内の一人が遮った。


 「どうした?」


 「す、すんません。魔石が無かったから襲われなかったって、その、魔石が無くて、どうやってポットを動かしたんだ? って」


 「あ」


 ハンターのセリフに代表格も思い出したように驚きを見せた。


 「ああ、動かす魔石が無かったから、俺たちの魔力を直接流した」


 「「「はぁ?」」」


 「はぁ? って。いや、自前の魔力を使って動かしただけだが?」


 「ま、魔力って使えるのか?」


 「魔獣は魔法を使ってるぞ? 人にも魔力があるんだから、媒体さえあれば魔法を使えるだろう? 現に炎槍は魔法の杖みたいなモンだし」


 「…………知らなかった」


 「魔具工房が情報を隠してたのか」


 「そう…かもな」


 半分魂が抜けかけているハンター六人を連れて街に戻る。それから門を開けるか話したが、もう日が暮れると言う事で門は閉めたままにすることにした。


 そしてハンターギルド。


 「戻ったかい。疲れてるトコ悪いが、良くない知らせがある」


 受付の女性が切り出して、ハンター代表格が答える。


 「外は本当にケリがついてたから問題無いが、兵士が一人もいなかった。それについて何か判ったのか?」


 「ああ、指揮所ももぬけの殻。文士さえもいなかった」


 「つまり、兵士と街を治める者たちが街を逃げ出したというワケか」


 「だね。そういう噂は前から言われてたから、驚く程でも無いけど、このタイミングだとねぇ」


 「このタイミングだからだろう。逃げた先は判るか?」


 「プルートーの襲撃が西からだったから、東なんじゃ無いか?」


 「東に他の街なんてあったか?」


 「あたしゃ知らないねぇ。誰か知ってるかい?」


 受付の女性の問いにハンターは誰も答えなかった。


 「ま、そっちはどうでも良い。問題は俺たちだ。俺たちも街を脱出するか、この街に残るか、だが」


 「行く当てなんて無いのに? 街を逃げ出してきました、なんて言って街の連中が全員押しかけても、何処も受け入れてくれないだろ?」


 「ああ、数人程度なら流れとして受け入れて貰えるだろうが、数千、いや、百単位でも門前払いだろう」


 「数人…、流れ…」


 そこで受付の女性が田中啓一らを見た。


 「すまないね。あんたらはこの状況で、どうするのが良いと思う?」


 「まず現状把握だろう。街にハンターがどのくらい残っているのか、周囲にいつもと違うプルートーがどの程度いるのか、街に残った武器はどのくらいあるのか、街の食料はどのくらい余裕があるのか。そういう所が判らなければどう動いて良いか判らん」


 「ん、確かに」


 「もう夜になるし、明日、此処を中心に他のハンターギルドと連絡を取って、ハンターに兵士の代わりをして貰らい、街として落ち着くのが第一だと思う」


 「なるほど。それをすれば現状把握する余裕が作れるね。それでも、今夜はどうする?」


 「流石に今夜は襲撃はないだろうが、今夜は俺たち四人が街の四隅に散って一晩中警護する」


 「あんたら、昼いっぱい、ずっと戦ってたんだろ? 大丈夫かい?」


 「問題無い。俺たちより、明日以降の夜警の方が大変になるだろ。とにかく明日の昼の内に街の警備体制を整えてくれれば良い」


 「そうか。悪いがあんたらに頼り切ってしまうね、でも四人だけで?」


 「ポットを使わせて貰う。魔石を使わなければヤツらをおびき寄せることも無いだろうしな。もし心苦しいと思うなら特別報酬を用意してくれれば良い」


 「報酬ね。どのくらい欲しいんだい?」


 「ポットが欲しい。四人分、四機」


 「ポットを報酬…、って出来るのかい?」


 受付の女性はハンター代表格の男を見る。


 「元は街の物だが、それを使う兵士が逃げ出したからな。全部寄こせと言われると今後が危ういが、四機だけなら良いんじゃ無いか? 襲撃を防いでくれた借りもあるしな」


 そこで一旦お開きになった。


 ハンターたちには明日一番でギルドに集まって貰い、街に残った有力者たちの協力を取り付ける事に。

 田中啓一らはポットに乗って門の外に出ることになった、


 「散る前に試したいことがある」


 ポットに乗り込む直前に井上智久が三人に対して言った。


 それはスマホのグループ通話機能。この夢見の街で手に入れたスマホにその機能があるかは判らなかったが、試すだけ試そうと提案した。


 そして田中啓一から井上智久に通話し、通話が繋がった所で画面に『通話を追加』という項目が出てきた。そこで追加を選択してリストから山田功二を選択。更に追加で清水咲恵を追加した。


 「出来たな」「「「出来たな」」」


 井上智久が言うと、少し遅れて三人のスマホから井上智久の声が重なって聞こえてきた。


 「あとはこのまま通話しっぱなしの状態が続くか、って所だな」


 操作や会話が無ければ自動で通話が切れる場合がある。放置した時などは便利な機能だが、そういった機能が夢見の街のスマホにあるのかどうかも実は判っていなかった。


 「それは試して見るしかないな」


 「設定画面もけっこう適当だしなぁ」


 そしてスピーカーモードにしたまま胸ポケットに入れる。


 「じゃ、ばらけよう。寝ちゃいけないとなれば、寝ないですむとは思うが、適当な会話をするのは有りだと思う。警備しながら、今後のことも話していこう」


 井上智久の話が終わった後に昼間に使った半壊ポットに乗り込み、四方へと別れる。一番遠くは山田功二の担当になったので走って向かう。


 『こちら山田。東門前に到着。立哨を開始』


 田中啓一たちがメインに使う門は西門だ。そこは清水咲恵が担当し、北は田中啓一、南は井上智久が担当した。


 そして何処かがプルートーの襲撃を受けたら、誰か一人だけが応援に行き、残り二人は手薄になった方面をカバーする、となった。

 具体的には、例えば北が襲われた時、東の山田功二か清水咲恵のどちらかが応援に向かう。もし東の山田功二が応援に向かった場合、南の井上智久が南東方向に移動して東方面と南方面の監視を行う。西の清水咲恵も南西に移動して、南と西の監視を行う、と言う感じだ。


 四人しかおらず、襲撃の可能性が低いからこそ出来る配置だ。


 そして何も無い、静かな夜が続いた。


 『サーチライトとか欲しくなるな』


 かなり飽きた所で井上智久が誰にとも無しに話し始める。


 『明かりの魔道具はしょぼかったけどなぁ』


 『魔石を多く使ったら、プルートーを呼んじゃいそうだよねぇ』


 『軽率短慮』


 三人からの返事は直ぐに来た。皆、眠くは無いが暇していたらしい。


 『ドラム缶みたいなのにイトミミズ突っ込んで、こいつの火炎放射器で火をつけたら篝火にならないかな?』


 『良さそうだな。このデカ物にスコップ持たせれば、一発で燃料補給出来そうだ』


 『金属資源が少なそうだし、どのくらい作れそうかな』


 『資源枯渇』


 『その問題もあったかぁ』


 『それより、俺たちはどのぐらい此処にいる?』


 『どう言う意味だ?』


 『一応、このポットを貰ったと言う体は取ったよね。後は後腐れ無く別れられれば良いんだけど…』


 『今の状況で逃げ出すのも後味悪いよな』


 『じゃ、魔法と魔力の鍛え方を教えていくか?』


 『それが、この世界にどのくらいの影響を与えるか…』


 『元々魔法は有ったんだし、問題無いと思うぞ?』


 『確かに、このポットも火炎放射器も魔法の道具だしな』


 『あーそうだった。魔道具とか魔石もあったんだった』


 『問題は鍛え方、だが…』


 『魔法の杖渡して、コツ教えるだけで良いんじゃネ?』


 『俺らもそれで覚えたし、それ以外の鍛え方を知ってるわけじゃ無いしね』


 その後、陽平に対する悪口や佐藤一に対するからかい混じりの文句など、とりとめの無い話で時間を潰していく。


 現実であるなら、身体を休めたいとか、話す内容を探す事に疲れる等、肉体的、精神的に休息を取りたくなって、無言で監視を続ける事になったりする。だが田中啓一ら四人は夢の中限定ではあるが経験値を取得してレベルが上がり、体力がかなりついた事になっている。体力だけでは無く、敏捷、耐久、そして精神、知能も上がっている。


 そのため、暗闇の中、立哨しながらの会話に疲労は感じず、他にすることが無いと言うのも相まって、無駄話に花が咲いた。


 日が昇り、更に昼過ぎになって漸く門が開き、交代要員が来た頃には、現実世界での授業の内容まで話題になっていた。夢に入る前にしっかりと授業内容を復習していたのでしっかりと覚えているし、レベルアップで知能が上がったせいで鮮明に思い出せる。


 田中啓一はこのステータスを現実に持ち越せないかと真剣に悩んだ程だ。


 「陽平の話だと、体力は持ち越せなくても、身体の動かし方の効率化は出来ているんじゃないかって言ってたよね」


 「教室で飛び上がったヤツな」


 「だからこっちで頭使ってれば、頭の使い方の効率化は出来るんじゃないのかな?」


 「なるほど。レベルアップの恩恵は現実にも少しは持って行けるってワケだ」


 「死んで忘れちゃったら、どうなるか判らないけど」


 「お、おう」


 見張りの交代を告げてくれたハンターに案内されながらの経験値談義。向かう先は指揮所と呼ばれている所らしい。


 そこで案内のハンターに山田功二が質問した。


 「今から向かう指揮所ってのはどんな所なんだ?」


 「ん、この街の代表がいた、兵士への指示をする所だ。あと、税金なんかもそこに一旦は集められるらしい」


 「なるほど。この街の行政府と言う感じか」


 「ぎょうせい…と言うのはよく判らんが、俺たちは兵士への命令を出す所だと思っていた」


 「ああ、元々は兵隊への指揮をとる所だったから指揮所なんだな。で、税金を取って管理するのも兵隊だから、同じ場所でやるようになったって感じか」


 「俺にはよく判らんが、そんな感じの話を聞いたことがある」


 ハンターは兵士の世話にはならないし、税金もギルドでの天引きなので関わりが無かったのだろう。


 「判った」


 このハンターからはこれ以上の情報は望めそうも無いと感じて切り上げる。


 そして指揮所に到着。案内された部屋は喧々諤諤の様相を呈していた。


 指揮所の中央はホールになっており、そこに臨時でテーブルを幾つも出して数人が書類を作り、そこに別の者たちが報告に走るという感じだ。


 その中に田中啓一らが世話になったハンターギルドのメンバーと受付の女性を見つけて近くに寄る。


 「状況はどうなっている?」


 受付の女性に聞いてみるが、答えは誰でも良いという感じで声を掛けた。


 「ああ、あんたらか。一晩中見張ってくれてたんだろ? 帰って寝ないで良いのかい?」


 「落ち着いて寝てられそうも無いからな。で?」


 「まず、そうだね、街の代表が取り巻きと兵士を連れて街から逃げた。兵士の家族も一緒にだ」


 「それは…、けっこうな人数なんじゃないか?」


 「大凡だが五百ぐらいだそうだ。で、ここにある金や武器もあらかた持って行っちまった。ポットも二十機ぐらいは持っていったらしい」


 「ポットは残ってるんだな?」


 「ああ、だが魔石が足り無かったらしくて、空のポットは残ったままだ」


 「どのくらい残ってる?」


 「えっと、おい! ポットはどのくらい残ってる?」


 数は把握していなかったらしく、他のハンターに聞く。


 「ああ、まともなのは全部合わせて二十機らしい。外に転がってるのも使えるかは判らないそうだ」


 「そうか。で、残ったハンターギルドの数とメンバーの総数は出たか?」


 「総数は判らないね。ギルドは一応四つ全部が此処に代表を寄こしてる」


 「ギルドは東西南北、四方向を担当してるのか?」


 「ああ、担当はしているが、ハンターの数はまちまちで、門の警備に回す調整が難しいってなってる」


 「で、ここで混乱している原因で一番デカいのは?」


 「門とその周辺の警備だ。兵士代わりをさせたいんだが、報酬をどうするかで揉めてる。此処が貯めてるはずの税金も全部持って行かれたからね」


 「なら臨時政府を立ち上げるしか無いな」


 「臨時せいふ?」


 「期間限定で代表者を決めて、その指揮の下に街を運営する事だ。そしてハンターは兵士として雇用し、後で給料を支払うと言う形式にする」


 「なるほど。だが、誰を代表にするか」


 「四つのハンターギルドをそれぞれ取り仕切っている者がいるだろう? その中で一番長く取り仕切っているのは誰だ?」


 「それは南のレックスだね」


 「ならそいつだな。とりあえずハンター全体をそいつに取り仕切って貰おう」


 「そうだね。ギルドの代表を集めて話そう。悪いがあんたらも来ておくれ」


 そして四人代表が一人か二人の補佐を伴って指揮所の部屋の一つに集まった。


 「で、俺にこの街の代表者になれってか?」


 壮年の域に達した厳ついハンターが腕を組んで言う。


 「あんたが一番長くギルドをまとめてきた実績があるからな。とりあえず落ち着くまででいい。落ち着いたら四つのギルドで話し合って決めてくれ。とにかく落ち着くのが先決だ」


 山田功二が答える。その言葉に他の三つのギルドは特に異論を挟んで来なかった。


 「次に、一番多くのハンターを抱えているのは何処のギルドだ?」


 「それも南だな」


 南のレックスが腕を組んだまま言う。


 「ならその次に多いのは?」


 「西だろう」


 「なら西に門を守る兵隊の指揮をとって貰う。ハンター全ての管理は南の代表だが、その内で門に回せる分を南に決めて貰い、西はその指揮をとってくれ。三交代になるのか? その交代とか割り振りとかだな」


 「なるほど、判った」


 西のギルドの代表は、田中啓一らと門の外を回った代表格の男だった。


 「東のギルドは兵隊を使って、街にいる一般人の把握を頼みたい。税金を取るためにも必要だし、逃げた連中の残った資産を没収するのにも必要だから厳密にやって貰いたい」


 「税金を直ぐに接収するのか?」


 東のギルドはもうすぐ壮年と言う感じで、南のギルド代表よりも少し若いという感じの男だった。


 「没収以外は暫く待とう。税も人頭税以外は廃止して簡略化を図った方が良さそうだが、税率その他は代表全員で相談して決めてくれ」


 「面倒だが仕方ないな」


 「そして北は、魔具工房や魔道具の店を回って貰うのと、街に金属資源がどのくらい残っているのかを調べて欲しい。最終的には武器の製造と管理を担って貰いたい」


 「判った」


 北の代表はオヤジと言う言葉が似合う男だ。山田功二の印象では先を見る目がありそうな感じがした。


 「これは当面の割り振りで、必要になりそうな部署があったら、南の代表が決めて人員とかを割り振ってくれ。そして報告は全て南の代表に入れて、南の代表が指示を出す、と言う形で頼む。街全体の行方とかは南が中心になって、四人の代表の話し合いで決めてくれ」


 「ま、手っ取り早く落ち着かせるなら、そんな所だな。だが、問題がある」


 南の代表が山田功二を睨む。


 「問題は山積みだが、早急に決めておかなければならないのは?」


 「プルートーだ。今回は撃退できたが、次は? 今回よりも大規模な進行が起きたら、ハンターが兵士の真似事をしているだけのこの街は持つのか? ハンターだけじゃねぇ。街の住民が皆そんな不安を抱えてる」


 「それについて答えは二つある。しっかりと聞いてくれ。まずこの街から逃げようと思っても何処に行くかだ。逃げだした先でプルートーに襲われれば、街にいる時よりも危険だと言うことは当然だな。それに受け入れ先も無いだろうし、あったとしても扱いは最低だろう。余所の街でゴミをあさる生活をするか? ハンターならプルートーを狩るための囮として使い潰されるかも知れないしな」


 「それは…」


 その場にいる全員が何も言えなくなった。


 「逃げるより此処に留まって戦う方が、まだマシだろう。そして二つ目は、プルートーとの戦い方だ。プルートーは魔力を求める。魔力を持たない獣はプルートーに襲われず森で普通に生きている。おかげで街の住民は獣の肉を食えるワケだが、もし獣も襲われていたら人は絶滅していただろうな」


 「それは偶々逃げ延びて生き残ったからじゃないのか?」


 「二日前だが、俺たちは魔力を持たない獣と、プルートーが擬態した獣の両方に、同時に襲われた。おそらく、コレと同じ目に合ったハンターも多いと思う」


 「あ、ああ…」


 「結論から言ってしまうと、プルートーは魔力を求める。人にも魔力があるし、魔獣には強い魔力と魔石がある。魔獣を取り込んだプルートーが獣型プルートーだ。そして獣型プルートーが更に人を喰らえば、キーチャになる」


 「! !」


 「此処までは知っているギルドもいたようだな」


 南のギルド代表の様子から山田功二は言うが、それ以上は詮索しない。


 「つまりプルートーは強い魔力を求める。特に強い魔力を内包している魔石を求め、それを存在の中心として取り込む。だが、魔石だけじゃ反応しない。魔石が生きた魔獣の中に有る状態や、ポットなんかの魔道具に利用されて動いている状態、つまり活性化している状態じゃないと反応しない」


 「待ってくれ。街じゃいろんな魔道具に魔石が使われている!」


 その言葉に山田功二は一つ頷く。


 「欠片だから、反応は鈍い。だが街全体で使っている量を考えると、ジッとしているよりも街に向かう方が美味しそうだと感じるのだろう」


 「……」


 「コンロの魔道具に魔石一つを丸々入れて起動させ、暴走状態にすればプルートーをおびき出せると予想している。ただ、コスパ…、いや、魔道具と魔石の消耗が割に合わないから現実的では無いとは思うが」


 「ちょっ、ちょっと待ってくれ。つ、つまり、俺たちゃ、プルートーをおびき寄せながら、プルートーに怯えていたってワケか?」


 北の代表が信じられないと言う顔で言ってくる。山田功二は、この北の代表の聡明さに感心した。


 「そうだ。だが、だからと言って魔石を利用しないと言う道は無い」


 「あ、ああ」


 森はドンドンと減り、遠くに行かないと木材を得ることが出来なくなってきている。なのに街の住民が煮炊きや明かりのために薪を使うとしたら、森はあっという間に消えて無くなるだろう。


 「だが、やり方次第でプルートーから襲われにくくする事は出来る」


 「そんな方法があるのか?」


 今度は西の代表が聞いてくる。此処までは西の代表には先に話していたので、立ち直りも早かったようだ。


 「魔法を使う」


 「「……」」


 「あ、あー、すまん。そんな、魔法のような話しがあるのか?」


 北の代表が訝しげに聞いてくる。日本だったら唾を眉につけているだろう。


 「魔道具があるんだから、魔法ぐらいあるだろう?」


 「魔獣が魔法を使うらしいってのはあるが、人が魔法を使うとかは聞いたことが無いな」


 「魔法と言うモノでは無くとも、魔道具でも良い。現にポットの使う炎槍も魔道具だしな。ただし炎槍は魔石を使っていない。あれは魔法の杖だ」


 「魔法の杖、ってのがよく判らんが、それも魔道具だろ?」


 ここで山田功二は後ろを向き、田中啓一と井上智久の二人に指を二本見せ、二人をそれぞれ指す。そして直ぐに指を四本にする。それを見た二人がマジックバッグから夢見の街で購入した魔法の杖を二本ずつ取りだした。田中啓一が水と風、井上智久が火と土だ。


 「この四本は魔法の杖だ。魔石は無い。人の持つ魔力で魔法を出す。確かに言ってしまえばコレも魔道具だ。だが、俺たちは魔法の練習用教材とも考えている。なぜなら、コレでしっかりと熟練すれば、この杖無しでも魔法が撃てるらしいからだ。まだまだ、俺たちにも出来てはいないけどな」


 「「「「…」」」」


 「北の代表。どれでも良いから一本、持って見てくれ」


 「判った」


 どれが何の魔法かも教えていない。おそらくどれも同じ魔法だと思って適当に選んだのだろう。


 「南、東、西の代表も一本選んで握ってくれ。試しに持ってもらうだけだから、適当で良い」


 「お、おう」


 それぞれの代表が魔法の杖を持つ。


 「持ってもらったのは、火、水、風、土の魔法の杖だ。部屋の中なんで、撃つのはやめて貰うが、展開するだけなら出来るはずだ」


 山田功二はそう言い、自分も土の魔法の杖を取りだして掲げる。


 「自分の中の魔力を注ぎ込むと、杖の先から魔法陣が構成される。それで魔力というモノを強引に認識させる役割を持っているのがこの魔法の杖だ」


 魔道具は使ってはいても、一度も魔法を使った事が無いと認識出来ない魔力。山田功二の掲げる杖の先に魔法陣が描かれていても、四人の代表には見えなかった。


 しかし、魔法の杖を握って『魔力』と言うモノを注ぎ込め、と言われて意識していると、確かに身体の中から何かの力が動いているのが判り、山田功二の掲げる杖の先に光で描かれたような図形が見え始めた。


 田中啓一、井上智久、山田功二、清水咲恵には四人の代表の魔法の杖の状況から、どの程度出来ているかが見えていた。一度でも魔法を発動する事が出来れば、魔力を感知するのはたやすい。おそらくこの四人の代表も同じようになるだろう。


 「目標を定めて出せ! と命じれば魔法が放たれるが、此処ではやめてくれ」


 山田功二が再度念を押す。


 どれも部屋の中で使うモノでは無い。


 「出した魔力で図形を描くと魔法が出る、と言うのは体感したと思う」


 「ああ、凄い経験だな…」


 「この魔力を注ぎ込む、と言う魔力操作が出来れば、魔石が無くともポットを動かす事が出来る。実際、俺たちはそれでポットを動かし、キーチャを焼いて回った」


 「魔石が無くとも…」


 「そうだ。魔石が無かったから、キーチャは積極的に襲っては来なかった。細かいのは絡みつこうとしていたみたいだが、歩くだけで潰れていたから良く見ていなかったな」


 「は、はは」


 「実は、魔具工房はこの魔法の杖と同じ物を作れる可能性がある」


 「なに?」


 「可能性で有り、証拠は無い。だが、炎槍と呼ばれる物は火の魔法の杖だ。魔具工房は調べたか?」


 山田功二は西の代表に顔を向ける。


 「あそこももぬけの殻だった」


 「そこも接収して、使えそうなモノを探すしか無いな」


 「ちっ。ヤツら、街を見捨てやがって」


 「逃げた連中が更に逃げ戻ってくる可能性が高いが、その時は街に入れずに野垂れ死ねと言ってやれば良い。その状況を街の住民にしっかり伝えれば、ここのハンターたちによる臨時的な統治も納得してくれるだろう」


 街の財産を奪って見捨てて逃げたのだ。この後の街にはキツい緊縮財政が待ち構えている。それには多大な不満が出るだろうが、恥ずかしげも無く戻って来た連中に厳しく当たることで、街の住民の不満を和らげ、一致団結する方向に持って行きやすくなる。


 「ああ、そろそろ街の住民に全てを話すか?」


 「おそらく噂は流れているだろう? なら早い方が良い。その采配は全て任せる。それと、近く、俺たちもこの街を出る」


 「「なんだって?!」」


 特に西の代表の反応が強かった。


 「実はいつまでいられるかは俺たち自身にも判らない。明日か、十日後か百日後か。今この瞬間かも知れない。しかもどんな方法で移動させられるかも判らない。いきなり皆の前で消えるかも知れない。どこかに扉が開いて吸い込まれるかも知れない。なにも判らない状態だ」


 「そんな事がありえるのか?」


 「この街に来たのも同じ経緯だ。実はプルートーなんていない所から来た。コレが俺たちのいた所の魔石だ」


 そう言って草原の熊から取りだした心臓の魔石をテーブルの上に置く。それは赤い鉱石の様に見える石で、プルートーの魔石とは明らかに違う。ただ魔石という事は感覚的に理解出来る。


 「お前たちの恰好から、よほど遠いトコから来たとは思ったが…」


 「おそらく想像しているよりももっと遠いと思うぞ」


 田中啓一らの恰好は、アーミージャケットにブーツとリュックだ。似たような物はあるだろうが、細かい縫製やベルトの留め具である樹脂製のバックルは見たことの無い物だろう。


 「んー、正直言って信じられんが、信じる必要は無いって事か?」


 「そうだ。一番大事なことは、俺たち、たった四人がいなくなっても、この状況を打破して、街をしっかり運営していくことだろう」


 「ま、当たり前と言えば当たり前だな。だが、あんたらに期待していた部分はある」


 「その気持ちは判る。だから、俺たちは、俺たちがいる間に魔法の杖の使い方を出来るだけ多くの者に教えるつもりだ」


 「んー、それしか無いか。いなくなるあんたらに責任者になれとも言えんしな」


 「話を戻すと、つまりは魔法を取得すればポットの持っている炎槍と似たような物を個人で持ってプルートーを焼ける。細かいのは今まで通り踏み潰さなくてはならないが、今までよりはプルートーは脅威になり得ないと考える」


 「確かにな」


 「魔具工房の跡地を使って魔法の杖…は無理でも、炎槍の小型版を量産できれば、プルートーに怯えることも少なくなると考える」


 此処で四人のハンター代表は押し黙った。しかし、口元にはうっすら笑みがこぼれている。


 「ま、やるしかねぇか」


 「では、南の代表。臨時の長として指示を頼む。最終的に余剰の人員が出たら、それを俺たちが指導する魔法の特訓に回してくれ」


 「判った」


 そして臨時政府が動き出した。


 田中啓一ら四人とハンター代表四人が話し合っていた部屋は総合司令部となり、そこから指示が出されるようになっていく。

 初めは代表自身が行ったり来たりしていたが、それぞれの代表が連絡係や記録係、補佐官などを置くようになって、連携がスムーズになっていった。


 そして田中啓一らの下に数名のハンターたちが集まるようになり、次々と魔法の杖で魔法の実践を行った。


 場所は兵士の指揮所の隣に設置された簡易訓練所。


 撃ち込み用の岩が置かれているので、それに向かって実際に魔法を放って貰ったり、継続的に魔法を出し続ける訓練を順繰りに行う。


 前に決めていたのは十六本の魔法の杖の内、四本を提供というつもりではあったが、訓練で必要になって十二本の提供になってしまった。四本残したのは帰り道の安全確保のために仕方なくだ。


 次々にやってくるハンターたちに魔法を体感して貰い、休憩して魔力が戻ったら魔石を外したままになっているポットに乗り込んでもらう。


 魔石の無いポットを自前の魔力で手足のように動かせたら訓練終了。


 一番始めに訓練を終了したグループには明日以降の訓練を監督する役割を担って貰う。二番目以降のグループは現場に配置で、四方向の門に配置し終わったら、訓練の監督と現場配置をローテーションで持ち回りして貰う。


 そして日が暮れる。


 多くの人数の訓練は出来なかった。なので現場に出るのは明日以降にして貰うように調整。夜の門の警備は、魔法訓練を未だ受けていないハンターが生身で外壁の上で警邏し、前日に引き続いて田中啓一らがポットで東西南北を夕べと同じ配置で担う事にした。


 都合、四十八時間連続勤務だが、田中啓一らは何の疲労も感じなかった。ハンターたちの方が恐縮してしまい気を遣ってくる程だ。


 「夜食があるのですが、一旦休憩しませんか?」


 「俺は手持ちの保存食があるから大丈夫だ。そっちでやってくれ、ありがとな」


 外壁の上から声を掛けてくれたハンターに礼を言って、田中啓一はポットを歩かせて外壁から少しだけ離れる。


 「ふう。そりゃ、何も食わない、眠らない、ってのは不自然だよなぁ」


 『こっちでも言われたぞ。何も食ってないなんて知られたら魔物扱いかもな』


 田中啓一の呟きに井上智久の声がスマホのスピーカーから答えた。


 この時点では田中啓一らは陽平が聞いた『食事が出来る』と言う情報は届いていない。


 次の日の昼、前日にポットの起動まで出来た第一陣が監督した第二陣グループが実戦配備としてポットに乗ってやって来た。


 前日、初めてポットに乗り、初めて魔法を撃った、と言うほぼ素人だが、ハンターとしてはしっかりと仕事をしてきた経験から現場での度胸はある。魔法という飛び道具の活用や戦術的利用法などは全く判らないだろうが、単に火炎放射器として炎槍を使用する事は既に知っているから戸惑うことは無いだろう。


 なので安心して警備の交代を任せる。


 「これで仮眠無しの二徹。流石に寝ているのを見せないと不気味がられるよな」


 「俺たち自身も不気味だぜ」


 「でも、何も変化が無くて、何も考えなくても良い時って、なんか意識がはっきりしていなかった気がするんだけど?」


 「あ、ああ、あった、あった。現実とかだと、ああいう経験は無かったよな」


 「マラソンとかでボーっとしてくると、似たような感じになる時とか、無いか?」


 「あれよりももっとボーっとした感じだったような? それでいて、直ぐに復帰できる様な、けっこう都合の良い感じだったような」


 「そう、そう。そんな感じ。しっかり起きてるのに、眠っているような、一時停止しておいて時間だけが過ぎ去って行ってるような…」


 「意識が一時停止、ってのは言えてるな。もしくは早送りをぼーっと眺めているような?」


 「時間は別に短くは感じなかった気がするけど」


 「あ、ああ。うん、確かに、今思い出しても、十五時間の時間経過は感じてたな。だけど、早く日が昇れ、とか、早く交代要員来い、とか考えてイライラするとかはなかったな」


 「そう、確かに見えてるし、聞こえているんだけど、それ以外の機能が止まってた感じかな。必要な時には直ぐにスイッチが入るけど」


 「「「それ」」」


 山田功二の意見に三人が反射的に同意した。


 「やっぱ、俺たちには都合の良い夢、って事なんだなぁ。此処の連中にとっては命がけの現実なんだろうけど」


 井上智久の総括的な意見に他の三人も無言で頷くしか無かった。


 四人はこれからぐっすり眠るから、次の指導は明日になると言う報告を入れに指揮所に向かう。


 時刻は間もなく昼。


 街の通りには食い物を売る屋台や道具類を売る屋台が出回っている。奥様たちの井戸端会議、子供たちは駆け回りながら泣き笑い、男達は仕事の手を休めて情報交換という名のサボりを満喫している。


 「思ったよりも落ち着いてるな」


 「上の連中が街を見捨てて逃げたって事より、今日のメシが大事って事だな」


 「皆、この世界でしっかり生きてるんだねぇ」


 「試食」


 「「「やめとけ」」」


 少ししんみりした空気が一瞬で台無しになった。


 指揮所に入ると、多くの人たちが忙しく走り回っていた。これは混乱しているのでは無く、作業としての流れがしっかりと出来上がっている忙しさに見えた。


 「流石はハンターたちの代表者って事かな」


 「人をまとめるってのは経験が必要だって言うしな」


 四人のハンター代表の手腕に感心していると、横からハンターの一人が話しかけてきた。


 「少しいいか?」


 「構わない。何か問題が?」


 「俺は良く判らんのだが、魔具工房を調べている連中が、あんたらに見て欲しいって言ってるんだ」


 「魔具工房か、なるほど。直ぐに向かおう。俺たちは魔具工房の場所を知らないから、案内を頼むな」


 「ああ、いいぜ」


 「あ、少し待ってくれ。工房へ行く前に代表に一言言ってくる」


 「行く前だったか。すまん。なら俺は此処で待ってる」


 何事も報連相は大事、と言う事で指揮所の中でも司令室になっている部屋に向かおうとした所。


 「あの、お父さんを知りませんか?」


 と、田中啓一らと同年代か、少しだけ年下感がある少女に声を掛けられた。


 少女に焦った感じは無く、単にお使いで来たと言う雰囲気だ。おそらく指揮所にいるハンターの事を聞きたいんだろうとは判る。しかしこの街の住民なら、この少女が言うお父さんに心当たりがあるだろうが、あいにくと田中啓一ら四人にはこの街での知り合いは数える程しかいない。


 「知ってる」


 意外にも答えたのは清水咲恵だった。


 「お父さん。父親。子供にとっての男の保護者をさす呼称。女の保護者の場合はお母さんと呼ばれる。法解釈に用いる正式名称では無い」


 答えた清水咲恵は、えっへん、と言う声が聞こえそうな程のどや顔をしている。


 「言葉の意味を聞いたんじゃ無いと思うぞ?」


 「!」


 「いや、そんな馬鹿なー! って顔されてもな」


 「あー、君、お父さんはどんな人?」


 名前を聞いても判らないと思い、井上智久はどんな人物なのか聞く事にした。


 「えっと、ハンターギルドの代表なんですが…」


 「ああ、それなら、あそこの部屋に四人程いるから、今なら選び放題だよ」


 「俺たちもそこに行くから一緒に行って、二、三人、見繕ってあげようか?」


 「に…」


 「どれも濃ゆいから、二人以上とかは流石に鬱陶しいか」


 「そう思います…、って、違くて、うちのお父さんはグレイブです」


 「「「「グレイブ? ………誰?」」」」


 田中啓一ら四人は揃って首を傾げた。


 「え? え? え? ベナン街区とノート街区のギルドですが?」


 「「「「…何処?」」」」


 四人は再び首を傾げた。まるで打ち合わせをしたかのように綺麗に揃って。


 それに対して少女は逆に焦りを感じてきた。おそらく、質問してはいけない人と関わってしまったのかも、と言う焦りだ。


 「あ、あの、お父さんは、東の…」


 少女は何とか声を出した。


 「「なんだ東の代表かぁ」」


 「東の代表ってグレイブって名前なんだ…」


 「意外にもネームドキャラだった」


 とても失礼な四人だった。まぁ、当然巫山戯て言っているだけだが。


 ちなみに、魔具工房へと案内する予定のハンターは、蹲って笑いを堪えて震えている。


 少女を司令室へと案内し、自分たちは魔具工房に行ってから休むと伝える。その際、「休んでいなかったのかよ」とは西の代表の言葉だ。


 そして案内された先。魔具工房は、指令所と呼ばれる場所からほど近い場所に在る大きな工場だった。


 この街で工場として機能している場所は此処しか無いようで、街で唯一の溶鉱炉があるのも特徴だ。田中啓一らから見ると簡易版としか見えないが、それでも熱源には魔道具を使っているらしい。


 薬のカプセルに似た形の物を人が入り込める程に大きくし、そこに手足をくっつけたようなロボットであるポットも此処で製作している様だ。


 当然、ポットが携帯する火炎放射器の機能を持つ炎槍も此処で製作している。


 「炎槍ってヤツか。コレが問題なのか?」


 田中啓一ら四人の目の前には、大きなテーブルに、長さ二メートル程の金属の棒が横たわっている。田中啓一らもポットに乗った時に利用した炎槍だ。


 「こいつ自体は問題無い。作り方の書類も残ってた。新しい物は持って行っちまったのか、倉庫の奥に残った古い物だがな。その書類がコレだ」


 この場所まで案内してくれたハンターとは別のハンターが説明担当のようだ。案内してくれたハンターは大きな倉庫の方へと言ってしまった。このハンターはいかにも頭脳労働担当という感じでヒョロイ。


 このヒョロイハンターが見せてくれた書類は図面で、説明書きと色々な図形が描かれていた。


 それを見せた後、ヒョロイハンターは二メートルの炎槍を弄って、表層の鉄板を剥がした。その本体は木材で出来た角材の棒だった。


 そこには書類の図形と同じ物が、炎槍の本体らしき棒状のモノに描かれていた。


 「うん。書類と同じ図形だな。これがどうした?」


 「いや、これ自体は良いんだ。だが、俺たちがここに残ってた資材で同じ物を作ろうとしたんだが、同じように刻んでも火が出なかったんだ」


 つまり現存する物しか使えない、と言う事になってしまう。


 「ハンターたちで再現した物を見せてくれるか?」


 この魔具工房には鉄や木材などが大量に保管されている。その内の鉄に関しては、溶鉱炉で出来た鉄を叩いて板状にしているそうだ。


 その板状の鉄を切り出し、部品を作るのは鋼で作った工具だ。


 鉄と炭を一緒に鋳つぶして作るという乱暴な方法だが、鉄を加工するための材質としては充分に使える物になるそうだ。ただし、その鋼をキッチリと加工する道具は鋼よりも固い物で無くてはならず、その様な物が無い現状では型に流し込んだ後に同じ鋼で削り合わせて加工するという時間のかかる作業になる。


 そのためか、金鋸などは存在せず、ヘラとノミが合わさったような物を鉄を切断する道具として使っている。鋼のヤスリは型から鋳造出来るので、金鋸代わりに使ったりもするそうだ。


 そんな苦労の結晶である模倣炎槍を二人のハンターたちが抱えて持ってきた。


 そして念のため、置き去りにされていた魔具工房の作った炎槍に触って魔力を通してみる。


 火炎放射器である炎槍に魔力を通すが、実際にはその直前で魔力を停滞させるという、かなり慣れが必要な行為も今では慣れ子になっている。


 次にハンターたちが作った模倣炎槍に触れる。


 「ん。確かにコレじゃ炎は出ていかないな」


 山田功二は触れて直ぐに結論を出した。直ぐ次に田中啓一、井上智久、清水咲恵が続いて触れて、納得している。


 「何が悪いんだ?」


 ヒョロイハンターがすがる表情で聞いてくる。


 「魔法は確かに発動する兆候があった。ただ、詰まってる感じが強かったな」


 山田功二の言葉に他の三人も頷いている。


 「やっぱりか。こっちでも使った奴が似たような事を言ってた。で、何処が悪いと思う?」


 「同じように作ったんだよな? なら直ぐには判らん。とりあえず、魔具工房のと比べてみよう」


 そして二つを並べて見比べてみるが、違いは判らない。


 試しにと、表層の鉄板を剥がして魔力を流してみる。


 「あ、判った」


 「なんだ?」


 「鉄板の方だ。本体の角材の方は同じだが、表層を剥がしてみたら魔具工房の方も同じ感じで詰まった。つまり回りの鉄板が違うって事だ」


 魔具工房の作った炎槍の角材の本体には星形の図形が縦に三つ描かれている。その先には放出という意味のこの世界の文字が書かれていたが、それ自体はハンターたちには読めないようだ。星の図形の手前側には魔力入と書かれている。コレもハンターたちには読めないが、書類にも置き去りの炎槍にも書かれており、忠実に再現されていた。


 「(俺たちには読めるけど、此処の連中には読めないって事は、俺たちに施された言語系チートってヤツかな)」


 山田功二はそう思うが、声には出さない。おそらく読めなくとも効果があるのだろう。もしくは書いて無くとも効果は変わらないのかも知れない。


 「そう言うが、鉄板の外装には特に何も無いぞ?」


 「まぁ、調べてみよう」


 そう言い、山田功二は使える方の炎槍の外装を持ち上げ、じっくり見て、撫で回してみる。それも単純に眺めるのと、魔力を流しながらの二つのパターンで行う。


 その作業だけでは山田功二には判らなかったが、清水咲恵はそのわずかな違いに気付いた。


 「一方通行」


 「「「え?」」」


 言われてから田中啓一たちも再確認する。


 「なるほど、一方通行か」


 山田功二が魔力を流して納得する。単なる鉄製の外装だと思ったが、魔力が一方向へと流れる仕組みが施されている様だ。


 さらに魔力を流しながらゆっくりと外装を撫でていくと、ある地点で指先に違和感を感じた。そこを魔法を観る感覚で見てみる。


 「外装の三カ所に、くさび形が三つ並んだ記号が書かれている。くさび形は計九つって事だな。鉄板に掘られているワケじゃ無く、何かで書かれているだけだ」


 この世界の筆記用具は木の板や皮に、からす口に近いペンでボールペンのインクのような粘り気のあるインクを乗せていく、と言うモノだ。


 木の板や皮などが貴重であるため、自然と文字を書くこと自体が敬遠されている。それでも役職を持つ者たちには記録を残すことが義務なので教育はされているが、さらに資材が不足していく状況が続けば、読み書き出来る者が途絶える危険もある。


 それは一つの文明が途絶える直前と同義になる。


 それはともかく、木の板や皮にも書き残せるインクなので、鉄板にもインクを乗せることは出来る。だが、同じようにハンターが作った炎槍の外装にも描いたが、効果は見られなかった。


 「単純に外装だけでも魔力に流れを感じなかった」


 「鉄板には他にも何か仕込まれているって事か?」


 「それは違う感じがするな。単にインクでくさび形を描いても意味が無い、って感じだった。角材に星を描いて火の属性を持たせることは出来たが、鉄板だと同じにはならないのかも。そうだとしても、魔具工房の方は出来ているからもしかしたら……インクか?」


 そこで工房の中を再び漁ってみる作業が再開される。今度は書類や道具類では無く、何でも良いから集めて検分という雑な方法に切り替わった。


 その中に一つの本を発見した。


 珍しく保存状態の良い植物繊維の紙を使用した表紙が装丁された本だ。


 しかし誰も読める者がなく、それ故保留され続けた物だった。だが田中啓一らは読める。その文字は炎槍に刻まれた文字と同じモノだった。


 そこで清水咲恵が読み込む事にして、他の者たちは残された物の検分に専念した。


 検分の結果、残ったのは一つの薬研だった。


 この世界のパン屋に相当する店にも置いてあり、古い家だと台所に置いてある場合もあるそうだ。それは押しつぶして粉にする道具。日本の時代劇でも医者が薬を作る時にゴリゴリと小さな車輪の様な物を前後させて草や木の美等を粉にしている道具だ。


 腹筋ローラーでは無い。


 特にあって不思議という感じはしないが、工房には炉はあっても竈は無い。炉を竈代わりに、と言うのはあり得るだろうが、此処で働く人数的に一つだけ、と言うのは納得出来ない。他は脱出の時に持って行った、と言う可能性もあるが、荷物を減らしたい移動で工房の者がわざわざ持って行く物だろうか?


 聞けば石臼も存在するそうで、よほど細かくする必要が無ければ石臼を使うのが一般的らしい。


 納得出来ない思いを持ちつつ、山田功二は指先で薬研の底を撫でてみる。食品や薬関係で使ったのならしっかり洗ってるのが普通だが、指先にざらつく感触を感じだ。


 合成ゴムに滑り止めの加工が施されたグローブをつけたままだったが、それを挟んだとしてもしっかりと感じる程だった。


 もう一度、今度はグローブを外して指先で撫でてみる。


 今度もしっかりざらつく。その粉が指先についたまま、と言う感触もしっかりある。


 山田功二はその指先を舐めてみる。まるで味を感じない。噛めば味が出るかと思い奥歯で噛んでみる。ジャリ。まるで砂を噛んだ様な不快な感じと音がした様な感じがした。


 直ぐに吐き出して、口の中の唾液も何度も吐き出す。


 「どうした?」


 「砂を噛んだ様だった。植物系の物じゃなく、石とかを砕いていたのかも」


 井上智久の問いに答える。


 「染料とかは鉱物を細かく砕いて使うらしいからな」


 そこで何を砕いていたかをハンターに聞く。聞かれたヒョロイハンターも山田功二と同じように舐めてみたが、それだけでは断定出来ず、他のハンターにも聞きに行った。


 少し時間が空くな、と思っていたら、打ちひしがれる清水咲恵の姿が目に入った。


 「清水さん? どうした?」


 「食欲減退」


 それだけを言って本を渡してくる。


 田中啓一と井上智久も内容が気になったので、山田功二は声に出して読み始めた。


 内容は、推定で百年前後の昔。今よりも魔法が発達した文明があった。この本はその終焉間近に書かれた物で、著者は人の愚かしさに嘆きつつ、未来への謝罪を綴っていた。

 『これを読む者が未来に存在するのかどうかも判らぬが、先ずは謝罪しよう。我らの欲望と選択は間違っていた』

 そんな出だしで始まる手記だった。

 魔法は昔から存在した。主に超能力と呼ばれるモノで、個人の資質が強く影響する不可思議で不安定な力だった。だがある時を境に誰もが使える可能性があるモノだと判明した。それは特定の材料で図形を描き、それに力を流し込めば欲する力を得られる、と言うモノだった。

 人々は研究を重ね、自在に力を振るうことが出来るまでになった。

 土の力で土地を均し、火と水の力で快適な生活を築き、風の力で物流を発展させた。

 人々の生活は安定した。

 それ故に人々は贅沢を欲した。それ故に食糧不足と治安が悪化した。

 豊かになった方が、人の心は荒んでいくモノだと、筆者はかなり皮肉っていた。

 それらを解決するために取られた政策は拡大主義。次々に開拓し、食料生産と物資の製造を繰り返す。それでも人々の欲望は尽きることが無かった。

 その結果生まれたモノの一つが、食料供給源となる獣を生み出す方式。魔法により性質変化させた食用家畜の製造だ。しかしそれはある程度成功はしたが、致命的な欠陥を持った獣も生み出すことになった。それは人を襲い、人の魔力を喰らい、人の血肉で増えていく『魔獣』。

 初めは管理すれば問題無い、と言っていた者たちもいたが、彼らは一番初めの犠牲者になった。そのため問題の発覚と対処が遅れた。

 多くの人々が犠牲になり、人の生活は縮小する事を余儀なくされた。

 しかし贅沢に慣れた人々からは不満が上がり、それに対処するために魔獣の研究を続けざるを得なかった。

 魔獣への対処と新たなる食料源の確保が命題となった。

 そして繊維状の魔法生物で、魔獣の持つ魔石を与えるとその魔獣に擬態すると言う疑似魔獣が生み出された。食用の魔獣を解体し、得られた魔石でもう一度食用魔獣を得られる。その繊維状の魔法生物は土の中に含まれる油分で育ち、増えるので大規模農場での飼育となった。

 しかしコレも直ぐに破綻する。

 故意か偶然かは不明だが、人を襲う魔獣の魔石がこの繊維状の魔法生物へと与えられてしまった。

 さらに、人を襲う魔獣へと擬態した繊維状魔法生物が人を襲った。

 本来は二つ以上の魔石を与えても生態的に強い方の擬態を選択する魔法生物だったが、魔石が無いのに魔法を使う人を取り込んだことにより生態が変化した。

 巨大化と取り込み速度の上昇。

 人を襲う魔獣は経口摂取で人の血肉を喰らう。しかし繊維状魔法生物は全体的に取り込み、同化する事により全てを奪う。その速度が巨大化により上がった。

 一般的な成人男性でも触手に絡め取られ、引きずられて取り込まれると百を数える間もなく完全吸収された。

 見た目も獣では無く、内臓器官を模した様な生物的にあり得ない形状をしている。しかし繊維状魔法生物の特徴も強く持っているので、本来の性質に戻っただけとの見方も出来た。

 それは直接魔石を砕くか、高温の炎以外の弱点が無かった。

 かつては人同士で戦争を行い、人と人とが命を奪い合う醜い闘争を繰り返した歴史はあった。しかし魔法の出現により主力は遠距離殺戮兵器に移っていた。近距離についてはゴーレムが主流になり、個人が直接戦う事はなくなっていた。

 そしてそのゴーレムが繊維状魔法生物に対しては役に立たなかった。

 火炎放射器を持たせて焼き払う戦い方をさせたが、街中では被害を拡大させるだけだった。街の被害を無視したとしても、人を取り込んだ魔法生物をゴーレムは人と認識し、攻撃できなくなってしまう不具合も発覚した。

 一つ一つの事例毎に人が指示を出せば、ゴーレムは攻撃する事が可能だった。しかし『人は攻撃するな。魔法生物に人が取り込まれたら攻撃しろ』と言う命令は理解出来ないらしい。元々敵対する人は攻撃対象にするゴーレムだったが、味方から敵に切り替わった時の変化を認識出来なかったようだ。

 ゴーレムの認識の仕方に問題があるとして、人間が搭乗して判断能力を担う、身体だけのゴーレムが開発された。

 ゴーレムボディと呼ばれたそれに高温の炎を噴射する杖を持たせ、人が搭乗して戦う。

 実質的には有効な戦略だった。しかし時既に遅く、その戦法にて成果を上げる戦士が足り無くなっていたし、物資も枯渇していた。


 ここで手記は終わる。さらに結の年五十八年に書写、と言う記述があって終わっている。


 全てを読み終わり、山田功二は本を開いたままテーブルに置いた。その時には戻って来たヒョロイハンターや倉庫を整理していたハンターも戻ってきていて、山田功二の朗読を聞いていた。


 「プルートーは食用魔獣だったワケか」


 「うん。なるほど、食欲は失せるな」


 「やっぱり人を取り込むとキーチャになるらしいな」


 「ゴーレムボディってポットの事?」


 田中啓一、井上智久、山田功二、清水咲恵がそれぞれ感想を言う。


 「おい。今の、その本に書かれてたのか?」


 この工房までの案内をした後に倉庫の整理に行っていたハンターが問いかける。


 「ああ。随分昔の文字で書かれていて、此処の連中は読めなかったらしいな」


 「そうだ。悪いが後で書き写すから、読み上げるのを頼んで良いか?」


 「それは構わない。それでインクか染料は見つかったのか?」


 「インクと言って良いのか? 箱の中にこいつがあった」


 ハンターが見せたのは二種類の半透明の茶色の瓶。一つには粉が入っているらしく、もう一つには液体が入っている様だ。


 「一つは魔石を粉にした物。もう一つは魔獣の血に香木の樹液を入れた物、って書いてあった」


 「香木の樹液?」


 「干し肉を作る時に入れると、少しだけ日持ちするって、昔から使われてる物だ」


 「なるほど(保存料か)」


 ハンターの答えに山田功二は納得する。


 「それで、この二つはこう言う工房にあるのはおかしいって品物か?」


 「それは判らねぇ。此処が何を使って、どんな物を作ってたかは判らねぇからな。まぁ、魔道具を作ってたワケだから、魔石があるのは判るが、粉って言うのがな」


 「試して見れば判るか。何か小皿はあるか? そこに二つを混ぜて、筆で書いてみよう」


 山田功二の案で実際に試して見ることになった。


 そしてハンターたちが試作した炎槍は完成形になった。


 「やったぜ。これで炎槍が作れる!」


 「人が持つ大きさの炎槍ってのは出来るか、試してくれないか?」


 「確かに構造的には出来そうだが、今まで工房の連中がやって来なかった事だろ?」


 「今までは人が直接魔法を撃っていなかったからな」


 「あ、あー。魔法はポットが使うモノという先入観ってヤツか」


 「それも有るし、実質的に魔力操作の体験をしないと判らないモンだしな」


 「まぁ、判った。とりあえず半分のサイズで作ってみる」


 少し半信半疑という感じは残してはいたが、試作する事は了承してくれた。これが上手く行けば、ハンター全員が魔法の杖を持つのと同じ事になる。


 その後は山田功二が先ほど読んだ手記の朗読を行い、ハンターの一人が書き写すと言う作業と、田中啓一と清水咲恵が火の魔法以外の杖を作成してみる実験に携わることになり、井上智久がゴーレムボディについてレクチャーを受ける事になった。


 そして手記の書き写しが終わる頃には、水、風、土の魔法の杖が出来上がっていた。これはこの世界に渡る時に描かれていた四つの図形をそのまま利用したに過ぎない。


 「象徴する図形が判っているのは有り難かったな」


 「試行錯誤不要。最短経路」


 この世界に渡る扉を出現させるために四つの石に田中啓一たち四人が触って起動させたが、その時は得意な魔法の属性が決まっていた。土魔法の得意な山田功二が水の図形が書かれた石を触っても、反応はするが、起動には至らなかった。田中啓一は火、清水咲恵は水の石でしか起動で出来なかった。

 しかし今回作った魔法の杖に当たる炎槍の属性違いは、どの属性でも誰でも使える様だ。


 もっとも、田中啓一以外も火炎放射器として使える炎槍を使っていたので、初めから判ってはいた事だが。


 だが、他の属性の炎槍を作ってみても、それがプルートー殲滅に使えるかは微妙だった。


 風は空気を動かすだけのモノだが、その空気を生み出すことや消すことも出来る。片方で空気を生み出し、片方で空気を消せば、その間で空気が動き、風が生まれる。突風を生み出すことや局所的だが真空を生み出すことも出来る。

 だが真空でも突風でも物を切る事は出来ない。ウォータージェットの様に高圧で吹き出させる、と言う方法でなら可能性はあるが、拡散性が高く、労力に見合う効果は得られないと言わざるを得ない。


 田中啓一らも含めたクラス内での検証でも、風は液体や気体を吹き飛ばしたり、瞬間的、もしくは断続的に衝撃を生み出して相手のバランス感覚を奪う、牽制という効果がもっとも効果的と言う判断になっている。さらには飛んでいった矢の軌道を変えたり等も可能だが、それらは矢の威力を損なうのであまり推奨されていない。

 風の魔法に親和性が高ければ、飛んで行った矢が風にどのくらい影響を受けるか等も認識出来る様になるが、あくまで特定の親和性の高い者、と言う限定条件が付く。


 水も風と同様の事が言える。


 水は風よりも重く、物質として存在しているので、動かす、生み出す、消す等の効率は悪い。その反面、ウォータージェットの様に高圧に収束させて物を切る事が可能だ。ただし切る事が出来る程の高圧を掛けるのはかなりの精神的労力が必要で有り、労力に対する効果としては低いと言える。

 水の魔法で木を切り倒そうと思って魔法を放つのと、斧で木を切るのと比べたら圧倒的に斧の方が楽になる。


 土は尚更だ。動かす、発生させる、消し去る、全てにおいて水よりも大きな力が必要になる。さらに砂、土、石の順で難易度が上がる傾向がある。それ故に攻撃的な威力としては使えないと感じる使用者が多い。


 もちろん魔力量が上がり魔力操作が熟達すれば肉体的な労力とは比べられない力を発揮するが、かなりの熟練期間が必要な上、魔法自体を初めて発動できた連中には無理な話だろう。


 魔法が熟達して行くと、ある地点で肉体的に労力を掛けるよりも少ない精神的疲労で事を成せる様になるポイントがある。そこからは熟達スピードが上がる傾向があるので、そこからが本当の『魔法使い』と言えるだろう。


 それらのポイントは既にハンターたちへ教えてあるので、教育と体験が広まれば魔力増強の練習は土魔法で、魔力制御は水魔法で、威力制御は風魔法で、そして実戦では火魔法でと使い分ければ効率的に熟達して行くだろう。


 そのための道具も、今、量産の目処がたった。


 「指揮所に頼んで、此処の人員を増やして貰って、小型炎槍の量産を始めてくれ。土水風の槍も一緒に量産して欲しいが、三対一の割合ぐらいで良い。炎槍に携わる者が三人だとしたら土水風の槍は一人ぐらいの感じで」


 「炎は判るが、土とか要るか?」


 「火で練習するより安全だろ?」


 「あ、確かに」


 「それにー」


 ついでに土魔法からの練習方法も伝えておく。


 田中啓一たちの、魔具工房での要件は終わったと判断する。他にも無い事も無いだろうが、それは体制が整った後の時間的余裕が出来た後で構わないだろう。


 ヒョロイハンターと案内ハンター、そして集まってきた三人のハンターたちに挨拶して魔具工房を出る。ハンターたちも魔具工房で田中啓一たちを確保しておきたかったが、自分たちに生じた仕事を片付ける算段をつけるのに忙しくなりそうだと感じて諦め、別れの挨拶をした。


 既に丸二日半は起きて活動している状態だ。眠気や疲労は感じてはいないが、表向きだけでも休んだ振りはしておきたいと、西のハンターギルド裏の借りた家へと戻ろうと歩き出した。


 「あ、ポットの話しを聞くのを忘れてた」


 と山田功二。それに井上智久が答える。


 「ゴーレムボディってヤツか。せめて作り方ぐらい残っていればなぁ」


 「皆無?」


 清水咲恵の質問に井上智久が再び答える。


 「俺が見た所、書類では残って無かったな。たぶん持ち逃げしたんだろ」


 「写しとか、作業用の手順書とかも無いとか、工房でも極秘事項だったって事か?」


 と田中啓一。


 「そうなんだろうねぇ」


 「ハンターたちに再現出来るかねぇ?」


 「ポットが無くなったとしても、手持ちの炎槍があればなんとかなるんじゃないか?」


 「これから魔法レベルが上がって威力が増せば、充分かも?」


 最後に山田功二が締めくくった。


 外的脅威に対する問題は無いだろう。問題は内向きの体制だ。


 今まで街はハンターたちを毛嫌いする傾向にあった。その最たるモノが元街の代表たちだったそうだ。その下につく兵士たちもその傾向が高かったが、現場を知っている兵士たちからは普通に接して貰っていた。


 しかし『上』が毛嫌いすれば『下』も毛嫌いする。


 元街の代表らの影響で、代表に近しい街の住民たちはハンターたちを目の敵にする感じだった。


 それが、元街の代表たちが逃げ出した。


 残された街の住民には、何を信じれば良いのか判らなくなっているだろう。


 今の混乱が収まって来るまでにハンターたちの統治体制がしっかりと確立されなければ内乱と言う事にもなりかねない。


 「そこまでは面倒見切れないな」


 井上智久の答えは四人全員の意見でもあった。


 そろそろ借りた家が見える頃となった時、遠くから激しく早い鐘の音が鳴った。


 どこかの門の外に、プルートーの大群が現れたのだろう。


 「なぁ、俺たちか、この街か、どっちが呪われてると思う?」


 うんざりした感じで井上智久が聞く。


 「両方に一票」


 「同じく」


 「同意」


 「「「「……」」」」


 「しゃーねぇ。もう一踏ん張りするか」


 田中啓一の号令で四人は鐘のなる方向へと走り出した。


 鐘が鳴ったのは東の門だ。田中啓一たちが夜の警備で使っていたポットはまとめて西の門の前に横たえてある。なので今回はポット無しで対応と言う事になりそうだ。


 しかし、東の門に到着した時には、既に討伐は終了していた。


 今回は大型キーチャが三体。ゆっくり近づいてきたが、魔石を持たないポットに乗ったハンターの炎槍であっさり焼き払われたそうだ。


 今回の配置は一機のポットのみだったが、あまり大きな抵抗も無く、簡単だったと担当したハンターは語った。


 「プルートーは活性状態の魔石を狙う、と言うのが照明されたな」


 「今回の配置は門に対して一機のみだったけど、門に二機ずつとか配置できれば、警備の人数を減らせるみたいだね」


 そこまで話した所で、再び遠くから鐘の音が聞こえた。


 「今度は東か」


 「行かないワケには行かないか」


 再び走った。


 背中に大きなリュックを担いではいるが、肩のハーネス以外にも胸の高さの位置と腹の位置にもハーネスが有り、揺れることは少ない。なので走りやすいとは言え、街の中を一般的な成人のハンターよりも早く走るのは拙いだろうと、抑え気味にしながらの速度だったが、それでも成人の短距離全速力と同じ程度の速度は出ていた。


 本人たちは充分に抑えたつもりだったが。


 鐘の鳴った北門へと到着。


 此処でも襲撃は終わっていた。


 この門もポットは一機。襲ってきたのは大型化したキーチャ二体。ゆっくり近づいてくるキーチャを、じっくりこんがりと燃やし尽くしたそうだ。


 「キーチャ三体までだったら、ポット一機でも問題無いから、鐘は鳴らさなくても構わない、としておくべきか?」


 「キーチャの性質が変わらなければそれでも良いとは思うが…」


 「突然変異とか、何らかの外的要因で襲ってくる様になったら、と言う事だね」


 「ポット二機ずつなら安泰?」


 「せめて、体当たりされてもひしゃげ無い強度が欲しいよな」


 「資材不足だからなぁ…」


 現在の進捗状況が知りたいと、指揮所に聞きに行くことにした。


 しかし、指揮所の中のさらに司令室に行っても、どの代表もいなかった。


 「代表たちは休憩に入ってます」


 司令室で書類整理をしていた女性から伝えられた。


 「まぁ、わざわざ代表に聞かなければならない話でも無いしな。とりあえず、門の警備がポット二機体制になるのはどのくらいになるか、判るか?」


 「え? えっと、すみません。私じゃそういう事は…」


 「ああ、そっか、そまん。なら出直すことにする」


 現在はタイミングが悪かった様で、四人の代表も四人それぞれの副代表もいない。おそらく、本当にタイミングが悪かったのだろう。


 「どうする?」


 「一機体制じゃ、いちいち鐘が鳴らされるだろうから、俺たちが四カ所にばらけて、強引に二機体制に持って行くか? 二機なら三匹程度のキーチャなら鐘を鳴らす必要は無い、と門の警備にも言えるだろう?」


 「鐘が鳴ったら走って向かうとかよりはマシだな」


 「二機体制が整ったら、直ぐにさよならした方が良さそうだね」


 「同意」


 そして一旦西の門へ行き、そこに置いてある田中啓一たちのポットに乗り込む。


 元正規兵が乗り込んでいて、プルートーに襲われたままの機体だ。上半分は吹き飛ばされて、搭乗者が丸見えの状態になっている。


 破損していない通常のポットは、搭乗者が乗り込む部分がカプセル状になっており、頭部も丸いドームで覆われている。そのカプセルの搭乗者の頭の高さにスリットが数本切られており、中から外が見える様になっているが、視界はかなり悪い。


 その視界の悪さを嫌って、田中啓一たちは破損していないポットへ乗り換えることをしなかった。


 もしも雨が降ったら、ポットの尻に穴でも開けて排水するしか無いと思っていた程だ。


 この田中啓一たちの言動は、ハンターたちへ影響を与えた。


 ポットの搭乗担当になったハンターが、視界確保のスリットを切り開いて、大きな窓にする様に要請を出していた。中には田中啓一たちと同じように上半分を無くせと言う者まで現れた。


 ポットとはこう言うモノだ、と言う概念を持たないハンターたちも、様式よりも利便性の方が大事と言う事だろう。


 だが単純に切るだけ、とは言え、人手不足の現状では細かい要請には応えられないと後回しにされている。しかし落ち着いた後にはポットの頭部形状が大きく変わる可能性もありそうだ。


 そして夜の警備に出てきたポットは、スリット部分が取り払われ、横長の窓が開いているポットだった。良く見ると窓の両端はギザギザになっており、素人作業でスリットの根元を断ち切ってきた、と言うのがよく判った。


 しっかりと視界を確保してあるハンターの準備状況に満足し、門の上で警備するハンターにキーチャ三匹までなら鐘を鳴らす必要は無い、と伝える。

 ポットに乗ったハンターも無駄に住民を不安がらせる必要は無いと同意してくれた。


 そして門を中心に二手に分かれ、二機で門の警備を開始した。


 これは四つの門、それぞれで同じように行われた。


 相棒となるハンターのポットから距離をとったので、スマホをグループ通話で開く。


 「今までは単独で警備してたが、これからは二機になるから、勝手が違うのは注意しろよ」


 「こう話しているのも聞かれるかな」


 「夜だしねぇ。意外にいろんな音が聞こえるけど、どの音も遠いから、話し声は聞かれやすいかな」


 「何か聞かれたら、眠気覚ましに状況生理を声に出してやってた、とか言い訳するしか無いか」


 「それは使えそうだな」


 「あ、今気付いたんだけど」


 「なんだ?」


 「単独だと気付かなかったんだけど、もう一機ポットがいると、何処にいるか判らないよね?」


 「あ、ああ、回りは真っ暗だしな」


 「門と外壁にある明かりの魔道具で、近場はなんとか判るけど、門から離れると判り難いよね」


 「ポットの腹の位置に、下を照らす明かりを装備させるか?」


 「遠距離短距離近距離、三種必要」


 「明かりの魔道具に魔石を使うと、おびき寄せちゃうかな?」


 「魔石の欠片じゃぼんやりとしか明るくならなかったからなぁ」


 「あ、明かりの魔法具にも俺らの魔力を流してみる、と言う実験をしてなかったよな?」


 「今、道具屋で買った明かりの魔道具を持ってるのは誰だっけ?」


 「あたし」


 「清水か。ならどのくらい明るくなるか、どれだけ魔力を使うか、試してみないか?」


 「あ、清水さん。ちゃんと回りにやることを言ってからね」


 「了解」


 そして通話からはごそごそと音がして、遠くで誰かと話している子rが聞こえる。暫くの後。


 「実験開始……わっ…」


 「清水? どうした!」


 「返事をしろ! 清水!」


 「眩しい…」


 「あぁ、眩しかっただけ?」


 「驚いた」


 「驚いたのはこっちだ!」


 「うん。焦った」


 「このランプ。魔石を使わなければ凄く効率が良い。筒をつけるだけでサーチライトになる」


 「マジか」


 「魔具工房に持って行く案件だな」


 「清水さんは回りのハンターたちに話して、魔法の杖での練習が終わってる人がいたら、街に戻ってランプを調達して貰って。門の警備に役立つかも」


 「伝達了承」


 「こっちも言っておくか」


 そして四つの門の上で、明るい光が明滅を繰り返すという怪現象が起こりまくった。しかし住民はしっかりと窓を閉め切って寝ていたので、それに気付いた者はいなかった。


 結局、その晩の襲撃は一件も無かった。


 通常でも襲撃は十日に一度、あるかないかという頻度だったので、連続である方がおかしい。なので襲撃が無いのは珍しく無い。決して、妖しい光で恐れを成した、と言う事ではない。


 一晩明け、門の上のハンターたちに交代要員が来た。ポットの交代要員はもう暫く先になる。そこで、交代して休む門の上のハンターたちに明かりの魔道具でのサーチライト作りの言付けを頼む。


 もう一つ。ポットでの警備体制について、昼は一機でも良いが、夜は二機体制にする様、調整を急ぐという提案は、交代が来たら直接代表たちに言う事にした。


 代表たちも無い袖は振れないだろうし。


 それが整うまで、夜の警備に田中啓一たちも参加する方向で話し合っていた。


 そして日がしっかりと上がり、朝という時間では無くなってきた頃に交代要員を乗せたポットが来た。


 「さて、代表たちに提案に行くか」


 カンカンカンカンカンカン。


 ポットから降りた田中啓一が背伸びをしつつ提案した直後に、緊急を知らせる鐘の音が遠くから響いた。


 「…この呪い、深刻だな」


 田中啓一の横で同じようにのびをしようとした井上智久がうんざりした顔で呟く。


 場所は西門前。どうやら鐘は東門の様だ。よりによって一番遠い。


 「街の中を突っ切るのが一番早いが、それは流石に拙そうだよな」


 「今まで一度も街の中でポットとか見てないから、ポットを使うのなら外から回り込まないと」


 「なら生身で走るか?」


 「行っても、既に終わりました、って話しになりそうだしなぁ」


 「それな」


 「とりあえず、指揮所に歩いて行ってみる?」


 「そうだな。ポットが必要そうなら、現場で借りるとかしよう」


 そして四人は歩き出すが、少しして津他旅早鐘が遠くから響く。それも直ぐに終わり、四人は歩き続けるが、暫くしてまた早鐘が響く。


 鐘の場所は一番遠い東の門なのは変わり無い。


 四人は無言で歩いていたが、更に鐘の音が響くと、走り出していた。


 「状況を教えてくれ!」


 指揮所に入るなり山田功二は怒鳴って聞く。


 「東の門に、プルートーの大群! そ、その、逃げ出した連中が取り込まれて、こっちに戻ってきた様です」


 書類を抱えたハンターの一人が答えてから、再び走り出して行ってしまった。


 「司令室に行っても似た様な内容しか無いと思うな」


 「俺もそう思う」


 リアルタイムの情報伝達手段の無い世界だ。今の情報も急いだとしても時間が空いたモノだろう。


 「現場に行った方が早いだろうけど、総合指揮の邪魔になるかな?」


 「そこまで綿密な采配はしてないだろ。行った方が被害は少なく済ませられるんじゃ無いか?」


 「同意」


 「良し、行くぞ!」


 田中啓一の号令で四人は東の門へと走った。


 街の中を走り抜ける。約十メートルの距離を一歩の間隔で、走ると言うよりも十メートルを連続で跳ぶと言う感じになった。ただし放物線を描く跳び方では無いので、地面を滑る様に移動している様に見える。


 既に人間の走り方では無い。しかし構わず走り続けた。


 幸いなことに鐘が鳴っているので一般人は家に閉じ籠もって締め切っているので目撃者はいなかった。


 そして約二キロの距離を二分弱で踏破した。


 門が近づいてから徐々に速度を落として行ったので、全行程を全力というワケでは無かったが、速度で言えば秒速十メートル。オリンピックの百メートル世界記録に近い速度だ。ただし百メートルでは無く二キロというのが人間離れしている。


 ちなみに二千メートルの世界記録は四分四十五秒をわずかに切ったぐらいだったりする。


 だが流石に四人も息が荒れている。暫く話しをする事も出来ないぐらいだが、急に全身から力を抜く危険も判っているので、身体を動かし続ける。


 息を整えながら歩いて門へと向かう。門はガッチリと閉じているが、勝手知ったる通用口があるのでそこから入る。


 状況を知るために階段を上り、外壁の上も通路に出る。


 そこから外壁の外を眺めると、プルートーの大群が見えた。殆どがキーチャと呼ばれる、動物の内臓を無作為にくっつけただけに見える不定型な塊だ。だが、この塊の方が曲者だ。


 魔獣の形を模したプルートーは実際の魔獣よりも脆い傾向がある。それに対してキーチャの方は大きさによって頑丈さが変わる。小さなキーチャは脆く、大きなキーチャは固い。


 固いと言っても地球の象やサイの皮膚の固さでは無いが、通常の野生動物の肉ほどの固さは持つ。それが大きくなると、その質量だけでも充分な武器になる。


 その大型キーチャと警備のポットが戦っていた。


 既に五体のキーチャは倒したのか、不定型な塊が地面に小さな山を作って燃えていた。


 そしてポットは増援が来たのか、二機で戦っている。


 相手は三体のキーチャ。


 二機のポットはかなり戦い慣れたのか、軽快に躱して炎槍で焼くと言う戦法を繰り返している。


 だが数が多い。


 今は三体を相手にしているが、その後ろに三体のキーチャがゆっくりと迫っている。


 さらにその後ろにもキーチャが見える。さらにその後ろにも。


 「増援はどうした!」


 山田功二は門の真上にある見張り台にいたハンターに詰めかける。


 「わ、判りません! 鐘は鳴らしているし、使いは出したんですが」


 「予備のポットは?」


 「二機配備されてます。あっ」


 見張りのハンターが外壁の内側に気付いた。山田功二もそちらに目をやると、その予備のポットが手を振り、門を開けて外に出せと言ってきている。


 「今のうちに出させろ!」


 山田功二はそう叫び、田中啓一たちの元に戻る。


 「此処はもう暫くは保つだろう。ポットを取りに行く余裕はあると思う」


 三人も頷き、急いで階段を降り始めた。


 完全に二度手間だ。鐘の音を聞いた時にポットに乗って東の門へと移動していれば良かった、と、無駄な後悔をしながら走った。


 今度もオリンピック記録ぶっちぎりの全力走だ。


 到着した時は、四人ともフラフラだ。


 筋力のレベルアップに呼吸器系のレベルアップが追いついていない印象があった。実際、夢の中の冒険でここまで呼吸が苦しくなる程走った事が無かったせいでもある。


 それでも四人は軽い体操をして身体を動かしていく。


 呼吸が荒くなった時は過呼吸の危険がある。多くの酸素を取り込もうと呼吸器系が張り切った時、いきなり身体の動きを止めて酸素が必要では無い状態になれば、呼吸器系が混乱して息が出来ない状態になったり、身体が酸素を必要としている感覚が消えなくなってしまう等の症状が現れる場合がある。

 身体を動かして、多少なりとも酸素を体内で消費させてやれば収まる現象だが、呼吸という生命に直結する器官の不具合はトラウマになりやすい傾向がある。もしもトラウマになってしまったら、呼吸が荒くなりそうだと言う状況で過呼吸の症状と苦しさだけが直ぐに出てくる場合もある。そうなったら克服するまで運動は出来ない状態になったりするので、激しい運動の後はしっかりとしたクールダウンが必須だ。


 なお、過呼吸については状況により様々で有り、此処に書いた事以外の原因、症状があるので、病状の素人判断はしないことを願う。


 四人はしっかりとしたクールダウンを行いつつ、それぞれのポットに乗り込む。


 そして二手に分かれ、南回りと北回りで東の門を目指すことにした。もしも途中でこぼれ落ちたプルートーがいたら、念のために狩っておくためだ。


 そして走った。


 ポットのため、人間の身体を動かすのとは勝手が違うので同じようには動かせないので独特な走法になった。


 元々腰の自由度が全く無いので、歩く度に身体全体が左右に揺れる。それが、走る事で余計に激しく揺れることになる。そうなると人の身では耐えられなくなると言うのもあるが、視界を確保することも不可能になる。それを防ぐため、結局落ち着いたのは両足ジャンプだった。


 他にもあるのかも知れないが、手っ取り早く距離と速度を稼ぐには、両足で前方にジャンプを繰り返す方法しか思いつかなかった。


 しかし豊富な魔力で大出力を出せる四人のため、一回のジャンプでかなりの距離を稼げる。しかも低く飛んで速度を殺さない様に着地できれば、片足ずつ走るのと近い速度も出せた。


 そして四人共に東の門に到着。


 現場では四機のポットが戦っていたはずだが、二機が大破して外壁のそばに倒れている。戦っているのは二機だけだが、その内の一機も胴体部分のカプセルが大きく凹んでいた。


 「門の前は今いる二機に任せて、俺たちは奥のヤツらを叩く!」


 奥からのキーチャが減れば、二機も多少は休めるだろう。それ以上の情報は今は必要無いだろうと切り捨てて、田中啓一は殲滅を叫ぶ。


 東の門の前も他の門の前と同様に荒れ地と草原が入り交じった見通しの言い平原だ。元は樹木が有ったのだろうが、伐採が進みすぎて灌木さえ見られない。その奥から、ぞろぞろと内臓型プルートーであるキーチャが迫ってくる。


 「やるぞ! まずは火炎、一斉放射!」


 四機のポットが炎槍を構え、一方向に炎を吹き出させる。


 「徐々に火力を上げろ!」


 いきなり魔力を多く流すと炎槍は暴発する。なので限度を見極めながら、炎の勢いと温度を上げていく。


 一般のハンターが扱う炎槍の炎は明るいオレンジ色だ。四人の炎槍は始めは同じような色合いの炎を吹き出した。しかし、時間と共にオレンジから黄色、そして白に近い明るい色になっていく。


 そして一瞬の後、炎は消えた。


 高温になりすぎて、ポットに乗っている田中啓一たちが耐えられなくなったせいだ。


 「あっちー!」


 田中啓一が叫びながらポットを後退させる。他の三人も同様だ。


 「魔法の炎は、術者には影響を与えないと思ってた」


 「暖められた回りの地面や空気自体が牙を剥いたって事だろ」


 「だからこの程度で済んだんだねぇ」


 「自業自得」


 清水咲恵は自分の魔法の杖を取りだし、水を噴出させて四人のポットにシャワーの様に振りまいていく。始めは熱を持った蒸気が出たが、直ぐに冷えた。


 田中啓一たちが乗るポットは破損していて、搭乗者の上半身を守る装甲が欠落しているからこそ出来る芸当だ。


 「サンク。とにかく今のでどれぐらい倒せた?」


 「えっと、五匹ぐらいかな?」


 「しょぼ」


 「集まってきていない、ばらけたままの状況だったしねぇ」


 「あー、無駄こいた! まぁ良い! このまま押すぞ!」


 四機のポットで五匹のキーチャでは、パフォーマンスが悪いと田中啓一は憤ったが、後ろで見ている門を守るハンターたちには安心感を与える頼もしい光景に写っていた。


 そして四機は前に進み、さらに門から距離を取っていく。


 それから暫くは、淡々とキーチャを焼いていく作業が続いた。


 ハンターたちは手こずったが、魔法については一日の長がある田中啓一たちの火力の前にキーチャは雑魚化していた。


 ハンターたちにとっては時間が解決してくれる問題なのだが、その時間を田中啓一たちが稼ぐと言うスタンスで行動している。


 「山! 門の増援は来たか?」


 「えっと、二機、増えたかな」


 「二機か、よし、下がるぞ」


 「どうするんだ?」


 「その二機にも経験値を稼いで貰う」


 「レベルアップ制かどうかは判らないが、実戦を体験して貰うのは悪い事じゃないよな」


 「サポート必須」


 清水咲恵の言う様に、実戦を経験出来て、危険そうなら田中啓一たちがフォロー出来ると言う状況は、かなり貴重だろう。


 「なら、俺と田中が此処に残るから、山と清水は迎えに行ってくれ」


 せっかく門から引き離したのに、わざわざ門に近づけるのはもったいないと、井上智久が提案する。


 「「了解」」


 そして魔法初心者の二機を真ん中、田中啓一と井上智久が両脇、後ろに山田功二と清水咲恵が控えるという構成で経験値稼ぎが始まった。


 真正面の敵だけ炎槍で焼き尽くせば良いと言う単純な作業だ。そして魔力が尽きれば田中啓一と井上智久が前に出て、山田功二と清水咲恵が左右を守るという配置になる。魔力が回復したら元の配置に戻り、再び炎槍で焼き払う、と言う繰り返しだ。


 完全に魔法とは縁の無いハンターたちだったが、始めは一匹、次は二匹と回数を繰り返す毎に魔力量と制御能力が上がってきた。

 元々プルートを狩るハンターたちなので戦う事に対する覚悟は持っていた。なので現場で臆すると言う事も無く、田中啓一たちの指示も素直に受け入れてくれた。


 そしてハンターたちが疲れ切った所で、ポットごと下がらせて、中身を交代してもらう。


 かなりのスパルタだが、ハンターたちは自分たちが疲れ切っても平然としている田中啓一らに敬服していた。


 魔力は限界まで使うと精神的疲労から来る肉体的な疲労感を強く感じる。


 実際に肉体が疲れていなくとも、倦怠感が強く、身体を動かしたくないと強く感じてしまう。魔力が回復すればそれも消えていくが、短時間で何度も繰り返すと肉体的な疲労感が抜けなくなってくる。


 なのでハンターたちは普段よりも疲労感を感じやすくなっているが、魔力に余裕がある田中啓一たちは元々疲労は感じていなかった、と言うのが真実だったりする。


 これは後々、ハンターたちが後輩を育てる時に同じ経験をするまでは実感出来ない事なので、今は田中啓一たちの精神力と体力が自分たちとは段違いなのだ、と言う勘違いを正す者はいなかった。


 そして三組目のハンターたちの経験値稼ぎをしていた時に、とうとうキーチャが尽きた。


 一キロ程先から山になっているので、その先は見えにくいが、見渡す限りプルートーの姿は無かった。


 時刻は大凡午後三時頃。太陽は夕方の暗さは無いが、昼間の明るさも無いと言う微妙な傾き加減だ。


 「終わったか?」


 「とりあえずは見えないな」


 「えっと、全部でどのくらいだった?」


 「俺たちが来る前にも何匹も倒してた見たいだしなぁ」


 「推定百から二百」


 「大雑把過ぎるだろ」


 「えっと、ハンター二人一組で、十八匹ぐらいずつ? それが三組で五十匹から六十匹かな? そして俺たちで二十から三十、その前に門のハンターが二十弱? だとしたら多くて百二十ぐらいかな? 少なくとも八十ぐらいは確実って所かな」


 「そんな感じだろうな。確か逃げ出した前代表たちって五百近い人数だったはずだよな?」


 「全部があれになってるとは思わねぇが、それにしても少ないって感じか?」


 「判らん。どうする? あの山の向こうまで見てくるか?」


 「もうすぐ日も暮れる、って所で危ない橋を渡るってのもなぁ」


 「一旦戻って代表たちの意見を聞いた方が良くない?」


 「そうだな」


 そして田中啓一たち四人と魔法初心者だったハンターのポット二機は東の門へと戻って行った。


 「「「「すまねぇ!」」」」


 指揮所の中の司令室で、田中啓一たち四人に対して四つのハンターギルド代表は揃って頭を下げた。


 殆ど田中啓一たち四人に頼り切っている体制を謝罪した言葉だ。


 「俺たちはもうすぐいなくなる。その前に使い潰すつもりで利用して貰った方が、俺たちにとっても後腐れが無いから問題は無い」


 四人を代表して山田功二が言う。


 「あ、ああ、すまねぇ。感謝する」


 「それで、街の治安体制の方はどんな感じだ?」


 そこで四人の代表それぞれから現状を語って貰った。


 まず逃げ出した元代表たちがプルートーに喰われてキーチャになったと言う話しが、既に出回っているそうだ。そのため、変に騒ぎを起こす連中もいなくなったらしい。もしかしてワザとその噂を流したのかも知れないが、それは追求してないでおく。

 魔具工房の方は、街の魔道具を売る店などにも協力を仰ぎ、小型炎槍や明かりの魔道具を使ったサーチライトの製作も順調だそうだ。

 食料もかなり持って行かれたが、それでも街一つ分は持って行けなかったので、それなりに残ったままだ。畑も手つかずなので、当面の食糧事情は厳しいが余裕が無いワケでは無い。

 そして魔法の教練もハンターの半数以上が終えて、残り三割という感じらしい。後々、ハンター以外にも教えるかは議題として残してあるそうだ。


 そういった事から、魔法が使えるハンターを門の警備に回す余裕が今晩から本格始動する。昼、夜、共に二機のポットを常駐させて、生身だが小型炎槍を持つハンターも常時三人以上いる体制にできる様になった。

 サーチライトも出来上がり次第、各門に配備して行っている。門に備え付けのサーチライトが行き渡ったら、ポットに装着出来るタイプのサーチライトの製作を始めるそうだ。


 「此処までは基本体制の準備が出来上がった、って話しだが、問題は非常態勢についてだ。正直、大量発生なんぞあっても、そこに投入できる戦力の余裕が無い。いや、出来上がっていない」


 「どのくらいで出来上がる?」


 「それが読めん。正直人手不足でな。此処で書類整理をして貰ってた連中にも魔法教練に回した程だ」


 「戦う気概の無い連中に武器持たせても、危険なだけだしなぁ」


 「ああ、その通りだ。元々が書類整理のためにハンターという名目を背負ってたのもいるからなぁ」


 「一般からの役人の雇用ってのは出来ないのか?」


 「それをやらなきゃいけねぇだろうなぁ、って話しはしてた」


 南の代表は、心底嫌そうに言った。一般人とかなりの確執を経験しているようだ。それでも街のために働いてくれているのは、ハンターという身内のためでもあるのだろう。


 「どうせ人は増やさないとやっていけないだろう。ハンター募集の告知でもやっておいてくれ」


 「ああ、そうする」


 「それで逃げた連中の成れの果てなんだが」


 「西の門の警備を一機体制にして、東を三機体制にしようと思う」


 「危険じゃ無いのか? 昨日あたりから襲撃が続いたのは、東で発生したモノが回り込んで来たと考えたんだが?」


 「ああ、確かにな。この発生状況から、その可能性は高いか。だが、極簡単に倒せたと聞いているが?」


 「簡単に倒せても、一機で一晩中というのは負担が大きすぎるだろう。一カ所に負担を強いるやり方は破綻するぞ?」


 「それは判るんだがな。正直回せるブツが無い」


 「なら俺たちだろう。俺たちを使い潰せ」


 そして数日間限定だが、東の門の夜の警備を田中啓一たち四人が担当する事にして、昼間の警備をハンター四人という体制で行う事にした。東以外の門は通常通りの二機体制なのは変わらない。


 さらに、夜警を行うポットの腹の部分にサーチライトを取り付ける事も付け加えられた。


 「なんか、余計な事を背負っちゃったかな」


 ポットにサーチライトを取り付ける作業を待っている間、四人だけになった所で山田功二が三人に詫びる様に言った。


 「良いんじゃねぇの? これがこの世界で最後の戦いって気がするしな」


 「俺が交渉してても似た様な感じになったと思うぞ。お前は良くやったって」


 「当然の帰結」


 そして工房から出てきたポットには、腹にサーチライトとその覆いが取り付けられ、破損してギザギザだったカプセル部分はしっかりと丸くヤスリがけされていた。


 工房に頼む時、カプセル部分もしっかり直すか? と聞かれたが、四人は搭乗者が外から丸見えの状態で構わないと言っておいた。なので、ならばせめてと、ヤスリがけをしてくれた様だ。


 四人もギザギザだと、縁に手を掛ける事を躊躇っていたのでこれは有り難いと思った。たとえギザギザでも、グローブをつけているので手が切れる事は無いのだが、やはりギザギザのままなのは落ち着かないと思っていた。


 このカプセル部分。驚く程薄い。鉄製だ。鋼では無く鉄。その鉄を薄く鉄板にした物を丸く叩いて作られている。一応鉄なので、人の手では細かい造形は不可能だ。なので数人がかりで叩いて叩いて叩きまくってカプセルの様な形にしている。

 そのための丸い金床もあるそうだ。

 もしも薄い鉄板でなければ、加工が不可能だった、と言う事情もある。さらに、そのカプセルに手足を取り付け立ち上がらせて歩かさなければならない。しかも人を乗せて、である。


 重ければ歩けない。


 その事情があり、鉄板は出来る限り薄く作られる様になった。


 そのために、キーチャの全力体当たりで裂けてしまうのは、本末転倒だが。


 通常の獣型プルートーであれば多少は凹む場合もあるが、搭乗者の守りは充分に出来る。なのでそれがポットの標準になった。


 金属資源が少ないと言うのも理由にあったが。


 だが、その認識は大きく覆る事になった。


 人が魔法を使える存在だと知らされたからだ。


 元は魔石を使い、魔石の力を分け与える事で手足を動かしていた。それが当たり前になっていたが、人が魔法力を鍛え、人から魔力を供給する方が魔石よりも効率良く動かす事が出来る。それは力強さにも影響する。つまり重さの制限が無くなった。


 より魔力が豊富な者が操るならば、ポットはもっと頑丈に重くできる。


 キーチャの体当たりで弾け飛ぶ物では無く、びくともしないポットが出来る事が判った。


 無いよりはマシ。そんな扱いだったポットだが、これからは人々の希望という扱いに変わるかも知れない。


 田中啓一たち四人は、そんな思いを込められたポットに乗り込んだ。


 ポットを人間の体型に当てはめるとしたら、ポットの腰、人間のズボンのベルトぐらいの位置に一本の帯が取り付けられた。そしてその帯にサーチライトが設置されている。


 ポットが直立した時、その十五メートル程前までを照らす様に、やや前傾で設置されている。


 あまり上向きにしてしまうと、ポット同士で向かい合った時に、搭乗者を照らしてしまう事を考慮した結果だ。暗闇の中、ライトで顔を照らされてしまうと目が眩んで、暫くは夜目が利かなくなってしまう事がある。それを防ぐため、通常ではポットの搭乗者の顔を照らさない様にと言う配慮だ。


 これは初めはハンターたちにはよく判らない話しだった。


 この街には弱い光りを出す魔道具しか無かったのだから、そんな経験をした者がほとんどいなかった。太陽を見ると目が眩む、と言う話しは判るが、ほとんどの者がそこまでだった。


 明かりの魔道具に金属製の筒を被せるのも判らなかった。


 明かりの魔道具が明るくなったから、それで良いじゃないか。


 と、そこまでだ。明るすぎる光を見ると、他が暗く見える、と言う事の経験が無い者ばかりだった。


 それを一つ一つ説明し、実際に実演して見せて、やっと理解された。


 このサーチライトはその苦労の成果でもあった。


 ただしオンオフスイッチはまだ無い。乗り込んで魔力を流すと必ず点灯してしまう。


 「(人が動かしているというパイロットランプだと思えばいいか)」


 と四人は考える事にして、それ以上考えるのをやめた。


 そして煌々と腹を光らせながら配置につく。


 田中啓一は手を放し、ポケットからスマホを取りだしてグループ通話を始める。


 「どうした?」


 繋がった井上智久からの開口一番の問いだった。


 「あ? なんだ?」


 「今、お前のポットの光りが消えたから何かあったのかと思ってな」


 「って、今、お前も消えてるぞ」


 「え? これって、手を放すと消える?」


 「あ、当然と言えば当然……か?」


 「う、うわぁ、これは改良しないとなぁ」


 スマホを取り出すために手を放しただけでサーチライトが消えた。幸いな事に外壁や門には背を向けていたので、他の者たちは気付かなかったようだ。


 田中啓一は慌ててレバーに手を掛けると、サーチライトは光って地面を照らした。


 試しに片手を放してみる。点いている。別の手にしてみる。点いている。


 「片手でも付けて魔力を流しておけば点いたままになる様だな」


 「魔力を流せば、か。流し続けてどのくらい保つ?」


 「俺の感覚では回復量の方が大きそうだ」


 「それぐらいじゃ無いとポット自体を動かせなくなりそうだからなぁ」


 「魔力量はともかく、両手放しても使えないと拙そうだな」


 そして片手で操作して、山田功二と清水咲恵の二人とも繋ぎ、その経緯を説明する。


 「手を放しても大丈夫そうな手段とかあるか?」


 「手もそうだけど、こう言う会話も魔道具でどうにか出来ないのかな?」


 「そうだよなぁ。俺たちはこう言うチートなスマホがあるから良いが、此処の連中にも、せめてポット同士で会話できる手段は必要だよな」


 「通話が出来れば、ヘッドセットを魔力伝達線にして魔力供給出来そうだけどね」


 「ああ、ヘルメットとかも有りか」


 「朝になったら提案しておくか」


 「そうだな」


 「通話…」


 「ん? どうした? 清水?」


 「通話が出来れば、アレが出来るかも」


 「アレ?」


 「敵同士で仲良くお話し」


 「ああ、『何で人間同士で殺し合わなくちゃいけないんだ!』『それが業というモノだよ坊や』とか?」


 「そう『悟空!』『残念、それは三蔵だ』とかも」


 それから四人の間でくだらない話しが盛り上がった。お約束である。


 しかし気軽なおしゃべりの時間は続かなかった。


 「お客さんのご到着だ」


 田中啓一が気付く。ライトの先にぼんやりと動くモノが見える。


 そこで田中啓一はポットをのけぞらそうと苦労する。


 「よっ、っと、おっと、バランスが難しいな…」


 「何をしてるんだ?」


 「サーチライトを前に向けようと、思って、なっ!」


 「ふぅ。こうしろって」


 井上智久は溜息を吐いた後、ポットが持っている炎槍を空に向けさせる。そして高温では無いが大きく炎を吹き出させる。


 それは大きなたいまつとなって、周囲を照らした。


 「なるほど」


 井上智久の炎槍たいまつに照らされた平原には、三匹のキーチャが蠢いていた。


 「山! 清水! 俺たち二人が直接叩くから、お前たちは交代で照らしておいてくれ」


 「判った!」「了解」


 大きく左右に展開した山田功二と清水咲恵が炎槍たいまつを掲げる。すると周囲はそこそこ見える様になった。サーチライトだと、見える範囲が限定的になってしまう。だからと言ってライトの覆いを取って周囲全体を照らすと拡散してぼんやりとしてしまう。とかく、暗闇の中の警備は難しいモノだと四人は再認識する。


 ぼんやりとだが、しっかりとキーチャの姿を捉えた中で、時折、二機の炎槍が眩しく光り、キーチャを炙って燃やしていく。


 そして三匹のキーチャのと羽×は時間を掛ける事無く終了した。


 「山、清水、もう良いぞ」


 「明かりが無くなると真っ暗だな」


 「炎の明かりに目が慣れちまうと、暗闇が尚更暗く感じるからな」


 四人は再び外壁前の定位置に戻る。そして暗闇をぼんやり眺めて夜目を取り戻そうとした。


 「回りを照らすのに炎槍を使うのはいいんだが、目の前のキーチャを倒すのに炎槍を使うと目がやられるのがなぁ…」


 「ああ、焼くとかなり簡単なんだが、キーチャの持ってる魔石もボロボロになって使えなくなるしな」


 「このポットの腕や足にナックルガードとかすね当てとか付けられねぇのかな?」


 「関節とかフレームに負担が掛かりそうなのは拙いだろ。それより爆散する様な投擲武器じゃネ?」


 「剣とか槍はあまり役に立ちそうにないよね」


 「魔石をえぐり出す道具?」


 「それなんだが、魔石の位置も微妙にずれてそうだしなぁ」


 「チェーンソーとかは?」


 「飛散らかすのはもっと拙いだろ」


 「せいぜい斧ぐらいか? 刃物は切ると脂がこびりついて切れなくなるしな」


 「レーザーとかビームとか? そういう高温で焼き切る物があれば良いんだが、魔法でも実現は難しいだろうな」


 結局良いアイデアは出なかった。


 「それより、山、清水。さっきたいまつ係やって、魔力の方はどうだった?」


 「元々魔石駆動でもそこそこの炎を出す炎槍だしね。サーチライトよりはほんの少しだけ使うけど、それほど負担でもなかったよ」


 「効率有能」


 「それと、もっと高温にすれば明るさが増すと思えるけど、そうすると周囲を高温にしちゃうから、俺たちも使ってられないかな」


 「そっか。つまり使うのに負担はそれほどでも無いが、明るさはさっきのが限度、ってワケだな。なら班を二つにして、たいまつ係と戦闘係で分け、戦闘係が疲れたら係の交代とするか?」


 井上智久の提案は全員に了承された。


 それから約二時間程は静かな時間が過ぎた。その後は一匹、二匹のみの、単発での襲来があったので、気を休める暇は無かったが、それでもキーチャ自体は簡単に倒せた。


 そんな休めないが、それほど大変でも無い、と言う微妙な時間が続いた。


 「逆に疲れるな、コレ」


 既に空は黒から青に変わり始めている。後一時間もすれば太陽が見え始めるだろう。こう言う時間帯は、見えるが輪郭がぼんやりして区別がつき難いという微妙な時間帯だ。


 夕方であれば人通りもそこそこあるので、アレは誰だ? と言う意味の『誰そ彼』たそかれ、と言う言い方も出来る状況だろう。あいにく朝方だと、外を歩いている人は特定の人のみという状況が普通なので、あまりアレは誰だ、とは言わない様だ。


 実際は朝方も黄昏時と言っても構わないが、通例的に夕方のぼんやりした時間帯を挿す言葉として利用されているようだ。


 そんな微妙な時間帯で、集中力が途切れがちになっていた事から発見が微妙に遅れた。


 キーチャの倍はありそうな塊がゆっくり近づいてきていた。


 「なんか来てるか?」


 「んー、それっぽい?」


 「まぁ、イトミミズの親戚だろ」


 「確認実行」


 清水咲恵はポットを十歩ほど歩かせると炎槍たいまつを掲げた。


 その光の中に浮かんだのは、ドロドロに汚れたポットと、その搭乗者の乗る位置に鎮座するキーチャだった。


 「「「!」」」


 三人も驚きつつも前に出て、戦闘態勢を取る。山田功二はたいまつ係をするか迷ったが、戦いに直接参加する方を選んだ。


 「キーチャってのがポットを乗っ取ったのか?」


 「ポットに乗ってるのを取り込んだんだろうが、ポットを動かしている状態で取り込んだって感じか?」


 人の姿は見えない。確実では無いか、欠片も残さず取り込まれたと見て良いだろう。なら、ポットを動かしているのはキーチャだ。


 「まぁ、元々擬態生物だしな」


 「しかも魔法で作られた、っていうオマケ付きだ」


 「とにかく、燃やせ! 燃やせ!」


 三人は炎槍を構え、ポットごと炎に包み込もうとした。


 しかしキーチャに乗っ取られたポットは素早く後退して避けた。


 炎が晴れた時、少し距離を取ったポットを見て三人が驚愕する。


 炎槍から炎を吹き出させると、炎と明るさで対象がはっきり見えなくなる。なので避けられた瞬間は見えていなかった。


 「何があった?」


 「キポットが下がっただけ。けっこう素早く」


 横から見ていた清水咲恵が解説した。


 「キーチャの乗るポットだからキポット、ってのはまあ良い。ここまで歩いてくるのは遅かったが、攻撃を避けるのは素早いってか?」


 「学習、したのかな?」


 「とにかく倒すのは変わらん!」


 田中啓一は自らのポットを前傾姿勢にさせて飛び出す。そして炎槍を棍棒代わりにしてポットのキーチャを狙って叩き付けようとした。


 その振り下ろしも避けられた。


 更に横薙ぎに振る。しかしそれも避けられた。


 「避ける事しかしてないな」


 「だけど学習してるとしたら、拙くない?」


 田中啓一の戦いを眺める井上智久と山田功二が話す。


 その会話の間も田中啓一は攻撃を続け、そしてついにキーチャのみを叩き潰す事に成功した。だがキーチャは潰されたぐらいでは終わらない。再び形を取り戻そうと蠢いている最中に、一歩引いた田中啓一のポットは、炎槍を向けて炎を吹き出させた。


 そしてポットの搭乗者席で燃えていくキーチャを眺める。


 「単純に避けるだけだったから、フェイントで簡単に潰せた」


 「避ける動作は学習できたが、それを繋げる動きとかフェイントは学習出来なかったか」


 「キーチャの学習能力って、個別かな? それとも種族で共有?」


 「共有知識なんておとぎ話だとは思うが、魔法生物だからなぁ」


 「ポットを乗っ取るなんて、そうそう無いだろ?」


 「残念」


 炎槍たいまつを終了させた清水咲恵が近づいてきて簡単に告げる。


 一瞬、キポットと戦えなかったのを残念がったのかと思ったが、そうでも無かった様だ。


 清水咲恵の見ている方を見ると、二機のポットが歩いてくるのを見つけた。操縦はキーチャだ。


 「二連続か。山と清水はサポートを頼む。行くぞ井上!」


 「応!」


 未だ太陽は見えていないが、空はかなり明るくなってきている。もうたいまつは要らないだろうと、清水咲恵にもフォローを頼む。


 そして二機のキポットに向かって二機のポットが突っ込む。


 田中啓一たちの攻撃は同じように炎槍を棍棒代わりにした振り回しだ。フェイントが効くと判っているので、振り当てる様に持って行き、途中で突きに変えたり、振り切った後に強引に戻す等の戦法も取り入れる。


 しかしキポットは避ける時は紙一重では無く、大きく後退する様に避けるため、なかなかフェイントが成立しない。

 その分、こちらが攻撃される心配は無いが、フェイントに持って行くのに時間が掛かる。


 「ちっ、面倒だ! 田中ぁ! 挟むぞ!」


 「応よ!」


 二機は左右に大きく広がり、二機のキポットを挟む位置についた。そして攻撃を繰り返し、距離を狭めていく。二機が背中合わせに止まるのも良い、行き違うのでも良い。


 そしてキポット二機は互い違いに避けるか、と思った所で互いにぶつかって転けた。


 「だーっ! 間抜けめっ!」


 フェイントを掛ける戦略で追い詰めたのに、互いにぶつかって転けたキポットに腹を立てる。


 「は、はは」


 井上智久は気の抜けた笑いを浮かべながら炎槍を向け、そして燃やした。田中啓一もそれに続く。


 「二機の連携は学習してないって事か」


 「このポット、どうする?」


 「これでも貴重な資源になるんじゃ無いのか?」


 「なるだろう」


 「なら清水、しっかり洗って壁の所まで持って行ってくれないか?」


 「了承」


 「あ、手伝う」


 そして山田功二の手伝いで清水咲恵はポットから乗り出す恰好で水の魔法を繰り出し、焼けたポットからイトミミズの残骸を洗い流していく。


 洗い終わったら引きずって門の横の、外壁の前に横たえていく。


 三期目のポットを運び終わった所で、田中啓一と井上智久が新たに現れたキポットと戦っていた。


 「井上! 同じ手が通用するか、試すぞ!」


 田中啓一の提案で二機が分かれて挟み込む。そして追い詰めるが、今度はしっかりと互いが避けた。


 驚きつつも、こちらに背を向けているキポットを叩き、バランスを崩した所で追い打ちを掛けて叩き、転げさせる。あとは炎槍で焼くだけだ。


 「こいつら、学習してやがる」


 「ああ、学習量は微々たるモノだが、コレが続くと危ういな」


 田中啓一と同じようにキポットを倒した井上智久も同意する。


 既に太陽は昇っている。街としても活動を始めているだろう。門の上のハンターたちも忙しく行き交い、何かを指示している。おそらく夜の報告とポットの回収についてだろう。


 その手前。門から少し離れた位置で山田功二と清水咲恵が二機のポットを洗っていた。


 そちらは任せるとして、田中啓一は井上智久と相談する。


 「これ以上学習させるのは、俺たちはともかく、街の連中にとってはヤバイよな?」


 「かと言って倒さないという選択肢も無いしなぁ」


 「倒さないと拙い。倒せば倒した方法を学習される、かぁ」


 「…単純な学習の内に倒してしまうのがいいのかもな」


 「いいのか?」


 「逃げ出した連中のポットが乗っ取られたんだろ? なら使えるポットが無くなればそれ以上は考えなくていいんじゃネ?」


 「ポットが無ければ今まで通りのキーチャって事か」


 「ポットが無ければ学習した効果を発揮出来ないみたいだしな」


 「うん。行けそうか。それで行ってみるか」


 「それで、どうする?」


 「何が?」


 「俺たち、そろそろ交代の時間だろ?」


 「あ、ああ。あー、どうすっかー」


 そこで山田功二と清水咲恵にも相談に加わって貰う。


 結論として、なんとか説得してこのまま続ける事になった。


 実は外壁の上からハンターたちがずっと見ていて、戦いの経緯は理解されていた。戦闘に関しては実戦を経験してきたハンターだ。ポットが奪われ、徐々に学習されていったのも見えていた。そして生身ならともかく、ポットを使った戦闘では魔法初心者のハンターでは対応し難いというのも。


 ハンターたちも、時間を掛けて経験を積めば対応出来ると言うのは理解している。


 そのために必要なのは時間だ。


 その時間を稼ぐために田中啓一たちが戦うと言われれば、反論が出来なかった。


 結果、東の門前に通常の二機が配備され、もしもの時に田中啓一たちをフォローするために控える事になった。あくまで控えで有り、基本的に田中啓一たちの戦闘には参加しない。


 その代わり、倒したポットの洗浄と回収は担当する。


 そして、体制が整った頃に、次のキポットが現れた。


 「いきなり四機か」


 「送り出してくる数をコントロールしているヤツがいそうな感じだな」


 「マジか?」


 「あくまで感じがするってだけだ」


 「まぁいい、やっつけるぞ。一人一体な」


 普通に考えれば、此処でも田中啓一と井上智久の二人で対応し、山田功二と清水咲恵はフォローに徹すれば問題は無いはずだった。

 だが、田中啓一は山田功二と清水咲恵の戦いの勘が鈍るのを警戒し、さらにキポットの学習を混乱させるつもりで多様な戦いを展開するために二人にも戦いを促した。


 例えばだが、右に避けたら倒された。なら左に避ける。と言う学習をするとしよう。そこに左に避けたら倒された、と言う実体験も加えたいと考えた。さらに別の誰かが、後ろに避けたら倒された、と言う戦闘方法を展開してくれれば、学習している存在は混乱するだろう、と言う考えだ。


 もちろん、現在の単純な学習方法を取っている今限定の方法だが。


 そして四機で四機のキポットを取り囲む。


 「炎槍!」


 山田功二が叫んだ。


 それから炎槍をキポットに向け炎を吹き出させる。


 その炎は直ぐに収まった。だがその次の瞬間には三機が飛び出していた。


 炎槍は炎を吹き出すので出した本人も炎で前が見え難くなる。だから使うのは一瞬か、じっくりと焼く時だけだ。


 その炎が来ると学習していたキポットは一斉に後退しようとしたが、四機のポットに取り囲まれていたので後ろが無い状態で動けなかった。さらに他のキポットの動きを阻害しない様に動く、と言う学習から尚更動けないでいた。


 そこに三機のポットが突っ込んで行った。


 止まっていれば炎槍を槍として使い、キーチャ本体を貫くだけだ。


 そして三機のキーチャは一瞬で穴を開けられ、その次の瞬間には三人の炎槍で焼かれ始めた。


 唯一、山田功二の方面の一機だけが残ったが、一拍遅れの炎槍の槍で貫かれ、その後直ぐに焼かれる事になった。


 キポットが動く時に、他のキポットの動きを阻害しない、と言う学習を逆手にとった戦略だった。


 「あっさり行ったなぁ」


 「山の作戦勝ちだな」


 「逃げた代表ってポットをどのくらい持って行ったんだっけ?」


 「確か二十ぐらいだったか?」


 「詳しい事は判らないけど、大体そのくらいって予想だったよね」


 「なら残りは十機ぐらいか?」


 「全部が全部、乗っ取られてたとしても、そんなモンだろうな」


 「お? また来たぜ」


 今度は一機だけだった。今までのキポットは搭乗者を守るカプセル部分が大きく破損していて、操っているキーチャが丸見えだった。だが、今度のキポットは背面は破られているが、前面の装甲は残ったままだ。これでは普通に炎槍から炎を吹き出させても、直ぐには焼き潰すと言う方法が取れなくなる事も懸念される。


 しかも。


 「炎槍を持ってやがる」


 「キーチャに炎槍が使えるのか?」


 井上智久の問いかけに答えたワケでは無いだろうが、キポットは炎槍を構えて田中啓一たちの方へと向け炎を吹き出させた。


 一瞬で飛び退る四機のポット。


 だが炎は届かず、放射したキポットから五メートルぐらいの所で消えていた。その炎自体も直ぐに消える。


 「ギリギリ炎を出せる、って所か」


 「俺がやる。下がってくれ」


 田中啓一がポットを進ませる。


 その田中啓一のポットに向けてキポットが炎槍を向けると炎を出す。引きつけて炎の射程距離に入ったら放出する、と言う単純な手法も持た無いようだ。


 その炎も直ぐに収まる。豊富な魔力を持つ田中啓一たちならば炎を出しっぱなしに出来るが、このキポットは魔力の余裕がほとんど無いと見て良い。おそらく次が撃てる様になるまでは少し時間が掛かるだろう。


 そう判断して田中啓一は突っ込む。


 が、炎槍を持ったキポットは、まるで田中啓一たちの様に炎槍を振り回した。


 驚きつつも、田中啓一は自分のポットが持つ炎槍を打ち当てて回避した。


 打ち合った時の衝撃に半ば痺れる。


 見た目以上にキポットは力を込めて動いているようだ。


 「こいつ、力加減が判らないから、全身に全力を注ぎ込んでいる状態なのかも知れん」


 人の身体だと、力を入れたまま早く動かす事は出来るが、直ぐにスタミナが尽きてしまうので必要以外の場所は力を抜いて調節していたりする。


 その『必要な場所』の選択が状況により様々だ。


 それには経験が必要だが、目の前のキーチャはその学習が足り無いのは目に見えてはっきりしている。これでは直ぐにエネルギー切れを起こすだろうが、果たして、元々のエネルギー量はどの程度なのだろう。


 高温で炙ればしっかりと燃え出す脂の塊であるキーチャだ。エネルギー量としては多くのモノを持っている可能性もある。肉体の持つカロリーと魔力の関係は判らないのではっきりはしないが。


 「こんなんのといちいち力比べなんかやってられっか!」


 キポットの炎槍を直接掴んで強引に引っ張る。その力に抵抗したと思った瞬間にポットでキポットに体当たりを入れて蹴飛ばす。


 それでキポットは仰向けに倒れた。


 田中啓一は直ぐにポットを操って、キーチャが乗り込んでいるだろう場所目掛けて、そのカプセルを踏み潰した。


 そして潰れたまま動かないキポットに向かって炎槍を突きつけ、炎を放出する。


 暫く炎を出しっぱなしにして炙り続け、一分程で炙るのをやめた。


 「あー、面倒くさかった」


 潰れたカプセルの内側から煙が上がり続けている。おそらく中では未だ燃え続けているのだろう。こうなればキーチャと言えど活動停止と言って良い。


 一息ついた田中啓一。その目は次のキポットを捉えていた。


 「もう来やがった」


 「今度は俺がやる」


 次は井上智久が単独で倒すと宣言。


 今度のキポットも一機だが、両手に炎槍を持っていた。それで交互に炎を出している。


 そこで井上智久も、今、田中啓一が倒したキポットが持っていた炎槍を拾い上げて両手に一本ずつ持つ。


 「あっ、ずるいぞ」


 とは田中啓一。ちょっと格好良いと思ったようだ。


 そして井上智久は両方の炎槍から炎を同時に放射。大きな炎が二機を視界から隠した。


 互いの位置が判らなくなった瞬間、井上智久はポットを前傾姿勢にさせて低く走らせる。右回りに遠回りの進路をとり、キポットの真横から迫った。


 直前でキポットも気付いて炎槍を向ける。


 それを井上智久は炎槍で弾き飛ばす。それだけでは走ってきたポットの慣性は消せない。ほぼ走った速度そのままにポットはキポットに体当たりした。


 その時、二本目の炎槍がキポットのカプセルの下半身部分を貫いていた。


 勢いがありすぎて、炎槍がキーチャは元より、カプセル自体を貫通していたのはご愛敬だろうか。


 だが貫通されただけではキーチャは倒せない。


 体当たりの衝撃と貫通で一時的に活動停止状態にはなった。そこで井上智久はポットを立ち上がらせる時に炎槍を引き抜きつつ、炎を放出した。


 キポットのカプセルの、破損部分から炎があふれ出す。それに構わず井上智久は炎槍に魔力を長し続けた。


 井上智久も、一分程炎を放出し続けると納得して炎槍を止めた。


 「ふぅ。流石に堪えてくるなぁ」


 「交代する?」


 「いや。そうも言ってられないようだ」


 井上智久の向いた先には、五体のキポットがいた。正確には四体のキポットと、それを操るキポット、と言う感じだろうか。


 一番奥。五体目のキポットは様子が違う。四体のキポットは二本の炎槍を持ったモノが二体。炎槍一本が二体と、先ほどまでと似たようなモノだった。だが、五体目は、ポットの形自体は同じで、カプセルの上半分は吹き飛ばされていると言う共通点があるが、乗っているキーチャが異様だった。


 脳みそだ。


 キーチャは腸や内臓を適当にかき集めた、と言う印象なのだが、そいつは皺が折り込まれている脳みそそのモノだ。見えていない下の部分がどうなっているのかは不明だが、わざわざ確認したいとも思えない。


 「学習能力のご本尊様がおいでなすったかな?」


 「あー、それっぽいなぁ」


 「ラスボスみたいだね」


 「実はボスが一番弱いとか?」


 「ありそう」


 「まぁ、やってみれば判るさ」


 注意すべき点は、街への被害。街の外壁には極力近づけない様に処理しなければならない。


 山田功二が外壁を見ると、外壁の頂上に設けられた通路に多くのハンターたちがいた。その中には見知った顔もある。


 「あれ? ハンターギルドの代表たちが来てる」


 「見学か?」


 「もしもの場合の対応が素早く出来そうだが、トップが現場に来るってのはどうなんだろうな」


 「他が落ち着いてるって事かもな」


 「なら、此処をやっつければ一段落ってか?」


 「だと良いねぇ」


 気楽なおしゃべりも此処までだった。


 五体のキポットの内の、近き方のモノが炎槍から炎を噴出させた。


 それを戦闘開始の合図とばかりに田中啓一たち四機のポットが突っ込んで行く。


 一人一体。今まで通りに半ば無気力的なキーチャならば楽に倒せる相手だったが、目の前にいるキーチャの乗ったポットは活動的で素早い動きをしてきた。


 学習した動きは素早く出来るが、どうとでも出来る状況だと鈍かったキポットだが、まるで人を相手に戦っているみたいに素早い。


 「こいつら早いぞ! 気をつけろ!」


 炎槍を棍棒代わりに振り回しながら田中啓一が叫ぶ。それに対するキポットも素早く避け、更に炎槍を槍代わりに突いて来たりしている。


 「あの脳みそが目の前にいるから?」


 「遠隔操作が直接操縦に変わったって事か?」


 「なら、脳みそを先に叩くか?」


 「それも良いが、ちょっと待て」


 井上智久は目の前のキポットに炎を吹き出させて牽制した後、出来た隙で脳みそのキポットへ向けて炎槍の炎を伸ばした。


 距離が少し有り、無理矢理伸ばしたので焼く程の熱量は持たせられない、見た目だけの炎が脳みそキポットへ掠るかどうか、と言うお粗末さだったが、四機のキポットが一斉に脳みそキポットを守る位置に移動した。


 「は、はは。脳みそさんは臆病だったようだ」


 「当然と言えば当然だけど、これは使えそうだね」


 井上智久の呆れ声に山田功二が提案する。もしも劣勢になった時、四人の内の誰かが脳みそキポットを攻撃すれば大きな隙を作れると言う事だ。


 「拙そうな時、脳みそを攻撃する時は、脳みそ! って叫んでくれ」


 そして戦闘再開。


 四対四の戦いは脳みそキポットを中心に、放射状に広がって行く。


 両方に炎槍があるせいで回避距離が大きくなり、回避速度も増した。互いに近づけず、離し難い。炎槍から出る炎の強さには差があるが、装備も動きも似たような相手だ。


 「ちょこまかちょこまかと…」


 田中啓一が焦れている。


 攻撃を繰り出すとキポットは大きく回避行動を取る。当然の事だが、回避して攻撃に繋げるつもりが無い動きなので追いかけようと迫ると炎槍の炎が来る。炎を避けようと勢いが弱ると反撃に転じてくる。


 ポットはカプセル状の搭乗者保護カバーに手足が付いただけの恰好だ。腹や腰に可変部分は無いし、手足も最低限の機能しか無い。


 人が行う格闘術であれば、基本は踵を浮かせてつま先立ちになり足首を十全に使う方法になる。もちろん力を入れる時などは踵をしっかりとつけたりするのであくまで基本だが。


 だがポットはつま先で身体全体を支える力を考慮されていない。せいぜい走る時、地面を蹴る瞬間に身体を押す、と言う役割しか設計に入っていないのだろう。もしくは、歩いている時に後ろに下げた足を前に持ってくる時につま先を上げて地面に触れるのを少しだけ回避する、ぐらいだろうか。


 そのため充分な強さの軸を持っていない。


 田中啓一の乗るポットは、早々にこの軸を破壊してしまった。


 壊れたと言っても無くなったワケじゃ無く、単に力が入らなくなっただけだ。元々べた足で動き回る様に作られているので動けなくなる程では無いが、足首で身体全体を回転させて避けたり攻撃したりの行動に若干だが力が乗らない状態になっている。


 動きの悪いポットなので、本当に若干の差なのだが、田中啓一には焦れる大きな原因になっていた。


 で、切れた。


 「ダーッ!」


 ポットの右腕に持たせた炎槍を掲げ、投げ槍にしてキポットに向けて投げた。


 考え無しの投擲だし、さほど力も入っていないので簡単に弾かれた。弾かれた炎槍が激しく回転しながら井上智久の乗るポットに迫った。


 寸でで気付いた井上智久はポットを横に大きく動かして避けたが、一度地面に弾かれて、今度は清水咲恵のポットに迫った。


 運が悪かった。


 キポットの炎攻撃を避けて丁度後ろを向いていた背中に跳んできた炎槍が衝突した。


 距離が有り、一度地面で弾んでいるので勢いは少なかったのでポットのカプセルを破る程では無かったが、清水咲恵のポットはバランスを崩して転がった。


 「何?」


 いきなり後ろから叩かれ、訳がわからない清水咲恵。


 「てめぇ! 何やってやがる!」


 怒鳴る井上智久。


 ちょっとしたパニックになった。


 「す、すまん!」


 井上智久が清水咲恵のフォローに回り、その井上智久をキポットから守るために田中啓一が回り込む。結果だが、山田功二が二機のキポットを相手する事になった。


 二から三撃。


 田中啓一が山田功二の援軍に向かうために、井上智久の場所で状況維持するために必要な最低限度の手数だ。


 その攻撃を受けたり凌いだりしないと井上智久が危険だ。


 田中啓一の前にいたキポットが炎槍を向けて炎を出す。


 「だりゃー!」


 ほとんど倒れていると言っても良い程の前傾姿勢でキポットに突っ込み、直前で手をついて回し蹴りに切り替える。


 狙うはキポットの足。そのために自分の乗るポットの足を回し蹴りでぶつける。


 既につま先に力が入らないため、どうせなら壊れてもいいと言う判断だ。ただし乗り換える余裕は無さそうなので、この戦いが終わるまで引きずる事になるが、これも自分に課したペナルティだと考えた。


 先ずは自らが招いた窮地を切り抜ける。


 必死に押した。そしてチャンスを掴んで炎槍を突き刺す。


 炎槍から高温の炎を噴出させて、キーチャを焼き尽くす。


 ここで適当に処理すると、終わったと思った機体が動き出す事になって後々の障害になる。それは最悪の結果を招く事になる。


 だから我慢した。


 早く山田功二のフォローに回りたいが、我慢して確実にトドメを刺す。


 「良し!」


 破裂したカプセルの隙間からわずかに見えているキーチャの半分以上が燃え尽きた事を確認し、田中啓一はポットを立たせた。


 するとポットの足がくの字に曲がっていた。


 折れるかと思ったが、曲がっていても残っているのなら杖代わりにはなる。


 田中啓一は片足が短く、動かなくなったままのポットを強引に走らせた。


 「待たせた!」


 「だ、大丈夫!」


 山田功二は素早いキポット二機の攻撃をひたすら避けていた。玉突きのように清水咲恵のフォローに回った三人がしっかりと立て直せるように、三人から離れる方向に移動しようとしていた。実際に出来たのは十数メートル程度だが、田中啓一には充分に余裕ができた。


 攻撃に転じる余裕は無かったが、時間稼ぎをすれば良いと割り切れば、難しい作業では無かったが、それでも疲れる事は疲れた。


 息を吐いて田中啓一の復帰を喜ぶ。田中啓一はポットの足を犠牲にしていたが、数は四対三になっているので状況的な差し引きはプラスだろう。


 そこで山田功二は二機のキポットを田中啓一のポットとで挟み込み、田中啓一の方へと誘い込む形式をとる事にした。


 手順としては田中啓一と井上智久で二機を挟み込んだ、先ほどの戦法と同じだ。同じ対応をとってくれるなら、こちらも予測がつきやすいと考えた。


 山田功二はポットを両足跳びさせて横に移動し、二機のキポットを挟む位置に来た。ここで田中啓一も山田功二の戦法に予想がつく。


 気に掛ける部分は、前回田中啓一らが挟み込んだ時は、キポットは炎槍を使ってこなかった事だ。


 だが山田功二は動いて炎を躱す手段を除外した。田中啓一のポットの移動力が落ちているためだ。なので炎に対抗する手段として炎を当てる事にした。


 案の定、キポットは射程距離をギリギリ外れている位置から炎を噴出させてきた。それに対し、山田功二も炎をだす。キポットの炎よりも強く距離のある炎だ。


 そしてキポットが炎を収めたら山田功二も炎を収める。炎を出してきたら炎を出す、と言う事を数回繰り返した。


 これをキポットは学習した。


 山田功二のポットが迫っても炎を出す事をやめたのだ。


 これは間違った学習なのだが、その間違いを学習させてやる暇は与えない。


 炎槍を棍棒代わりにするように大上段に構えてキポットに迫る。おそらくキポットは振り降ろされると学習しているだろう。その軌道から逃れるために大きく後退する。


 背中を向けたまま、田中啓一の方へと。


 その横には田中啓一と相対していたキポットの背中が見える。その背中を攻撃しようとしても、そのキポットは横に逃げるだろう。そう学習しているはずだ、なのでその逃げる方向へ攻撃を掛ける。


 その攻撃は見事に決まった。


 山田功二の攻撃はキポットのカプセル部分を大きく凹ませ、中のキーチャもかなり削ったようだ。


 その一瞬、山田功二は横目で田中啓一の方面に向かったキポットを見る。そちらは田中啓一が炎槍を薙ぎ払ってキポットの足をへし折っていた。


 キポットへトドメを刺す時間を田中啓一が稼いでくれた。


 燃やし尽くすには時間が掛かるため、その間は無防備に近くなる。そこを攻撃されないように田中啓一がしっかりフォローしてくれていた。


 なのでしっかりと燃やし尽くす。


 それが終わったら田中啓一に足を折られたポットの方だ。


 既に田中啓一に炎槍を弾き飛ばされ、タコ殴りにされていた。そこへ炎槍を突き立て、炎を放出する。


 念入りにじっくりと燃やし尽くし、井上智久と清水咲恵の方へと目を向けると、既にキポットのキーチャを燃やし尽くした後だった。そちらも二対一だったのであっさり終わったようだ。


 残りはほとんど動いていなかった脳みそキーチャの乗るポット一機。


 山田功二のポットが大回りで脳みそキポットの背面に回り、あまり動けない田中啓一のポットはそのままに四機で四方を取り囲んだ。


 「一瞬で終われば良いんだが、なんか嫌な感じがするんだよな」


 「俺もそれを感じている」


 「気のせいだといいんだけど…」


 「慢心注意」


 四人共に動かない脳みそキポットに不気味さを感じていた。


 「やるしか無いか」


 まず井上智久が地面に落ちていた曲がった炎槍を拾い、脳みそキポットに向かって投げる。


 手足のように動かせるポットだが、人体構造を簡略化させてあるので細かい力加減は感覚がズレやすい。さらに全力を入れて投げる等の行為は、握ったモノを放すタイミングと力加減の経験が不足しているのでほぼ上手くは出来ない。


 当然、井上智久が投げた炎槍も山なりの軌道で力がさほど入っていないモノだった。


 様子見でどう対応してくるか見るためだったので、それはそれで構わないのだが、その投げられた炎槍を脳みそキポットは手で受け止めた。


 しっかりと握っている。


 その動きに驚愕して、一瞬呆ける。


 次の瞬間、脳みそキポットは握った炎槍を思い切り投げ返してきた。


 「どわぁぁぁ!」


 反射的に井上智久は真後ろに倒れた。そのカプセルの腹の部分を掠めて炎槍が通り抜ける。一瞬でも遅れていたら直撃だっただろう。


 井上智久の無事を確認する前に他の三人は動いていた。


 田中啓一は炎槍から強めの炎を吹き出させる。山田功二と清水咲恵は突っ込んで息ながら炎槍から炎を出す。


 だが脳みそキポットは田中啓一の方へと突進する進路をとった。そして姿勢を低くしてから回し蹴りを田中啓一のポットに浴びせようとする。


 田中啓一は持っていた炎槍を上から突き刺すように振り下ろしながら、下半身を浮かせるように軽くジャンプ。脳みそキポットの回し蹴りが当たってもダメージが低くなるようにした。


 が、脳みそキポットの勢いで田中啓一のポットは弾かれる。


 地面に落ちた田中啓一のポットは、そのままワザと地面を転がり、脳みそキポットから距離をとる。脳みそキポットは中途半端な回し蹴りが不発だったので地面に横たわっている。


 そこに山田功二と清水咲恵のポットが炎を浴びせかける。


 キーチャを燃やし尽くすには時間が掛かる。


 充分に熱を持って一度火がつけば燃え続けるが、そこまで持って行くにはなかなかの熱量が必要になる。プルートーの脂は弱点で有り、直ぐには燃え出さないという利点でもあった。


 脳みそキポットはごく普通に起き上がると二人の炎槍の炎の中に飛び込み、山田功二のポットへと体当たり攻撃を入れた。


 カプセル部分の前面が大きく凹んで弾き飛ばされた。


 体当たりの反動を受けている脳みそキポットに清水咲恵が炎槍を真っ直ぐ突き立てる。


 それを脳みそキポットは身体をワザと倒して避けた。


 後退する清水咲恵、起き上がる脳みそキポット。


 次の瞬間、脳みそキポットは清水咲恵に迫るとその炎槍を握り、奪おうとでもしているのか、強引に引っ張った。


 炎槍を奪われないように抵抗する清水咲恵。すると次の瞬間、脳みそキポットは清水咲恵のポットと握っていた炎槍を思い切り突き飛ばした。


 仰向けに倒れる清水咲恵のポット。


 追い打ちを掛けようとする脳みそキポットに井上智久と山田功二のポットが迫る。二人の炎槍の振り下ろしを避けて脳みそキポットは大きく後退、向かったのは立ち上がって炎槍を構える田中啓一の方向だった。


 田中啓一のポットに体当たりを入れようとする脳みそキポット。


 ここで田中啓一は、倒れ込んででも大きく避けるしか方法が無い。


 はずだった。


 だが田中啓一はその体当たりをワザと受けた。


 軽自動車で大型トラック衝突を受けたような衝撃が田中啓一のポットを襲う。


 が、田中啓一はポットの腕で、脳みそキポットのボディをしっかりと掴んで放さなかった。


 「捕まえた!」


 衝突の影響で目眩がするが、しっかりと掴んだ腕は放さない。


 「やれっ!」


 他の言葉は必要無い。ただそれだけの言葉を叫ぶ。


 逃れようとジタバタする脳みそキポットに、まず井上智久が炎槍を脳みそ部分に叩き付ける。清水咲恵。山田功二と続く。


 三人の炎槍の打撃を受けて、表面上はグチャグチャに見える。だが終わっていない。


 井上智久が手を貸して田中啓一のポットを脳みそキポットから離す。


 そして四人で一斉に燃やし始めた。


 残りの魔力を全て注ぎ込む様に、強く焼く。


 暫くの後。


 真っ黒にすすけたポットだけが残った。


 「ぷはっ! はぁはぁはぁ…」


 破裂したかのように息を吐き、荒い息を繰り返す。最低限の呼吸しかしていなかったようだ。本人としては自分は呼吸をしていたのか? と疑問に思う程に。


 「終わった……よな?」


 「終わって欲しい…」


 「きつかったぁ…」


 「学習は脅威」


 脳みそキポットは動きが素早かった。それはポットに指令を出すだけなのだから、情報処理能力があれば可能なはずだ。見た目から鈍そうだと予想する方が愚かだ。そして、脳みそキポットの動きは、田中啓一たちの戦いの動きを学習した結果だった。


 多少の違いはあるが、ほとんどが田中啓一たちの行動と一致した。しかも、使う状況も的確だった。


 「もっと学習されてたら、勝てたかどうか判らなかったねぇ」


 「そうなったら、玉砕戦法とか、新しい武器を開発するしかないとか、嫌な未来しか無いなぁ」


 そしてその場に暫く佇んで待つ。しかしあたらなプルートーが現れる気配は無かった。


 「一旦戻って修理してもらうか」


 「だね」


 夢見の街へ持ち帰るつもりのポットもボロボロだった。


 井上智久のポットと山田功二のポットが田中啓一のポットに手を貸し、清水咲恵のポットが四人分の炎槍を抱えて門へと歩く。


 ギー、ギーと悲鳴を上げるポットの関節に、良く最後まで一緒に戦ってくれたと感謝の気持ちがわき上がる。


 しかし、その感謝の気持ちも長続きしなかった。


 門の前には、小型炎槍を構えたハンターたちが四機を取り囲むように配置され、四人のハンターギルド代表たちが正面に並んでいた。


 まるで脅威に対する、武力による制圧のように。


 「どう言う事だ?」


 山田功二がポットから身を乗り出し、ハンターたちに対する言葉遣いで強く聞く。


 ポットの大きさ的に、一般家屋の二階の窓から身を乗り出して、外の人に話しかけている様な感じだ。


 「ああ、先ずは討伐、ご苦労だった。こちらとしては感謝しか無い」


 南の代表が言う。


 「感謝って感じじゃ無いようだが?」


 「感謝しているよ。それは、もう。君たちを手放したくは無い程に」


 「ああ、なるほど」


 既に田中啓一たちはこの街を離れると言ってある。予告も無く、いきなり街を去るよりは良いと言う判断だったが、今回の戦いで田中啓一たちの存在感を強く感じすぎたのだろう。


 「どうする?」


 井上智久が聞く。


 「俺は山の判断に任せる」


 田中啓一が言う。


 「同意。完全委任」


 清水咲恵が言う。


 「ん、そうだな、山、お前の好きにして良いぞ」


 井上智久が言う。


 「逃げよう」


 そして山田功二が結論を出す。


 此処の連中を鍛え上げるまで暫く残る選択もあっただろう。恩を仇で返すのかと暴れる選択もあっただろう。協力する振りしてポットを修理だけして貰って逃げる、と言う選択もあっただろう。


 いろいろある選択の中で、山田功二が選んだのは単純に今から逃げる、と言う事だった。


 「判った」「了解」「逃亡了承」


 三人が答えた。


 山田功二は代表たちに向かって再び身を乗り出す。


 「じゃ、俺たちは行きます」


 それだけだ。頑張ってください、とか、勝手に死んでくれ、とか、何の言葉も残さない。全てはこの街の人たちが決める事。


 何かの言葉を残す役割さえ、山田功二には無いと感じた。


 「待ってください!」


 代表たちの後ろから女性の声が叫ぶ。


 見ると、指揮所で出会った、東のハンターギルド代表の娘と言った少女だった。


 少女は四人の代表の前に出ると、ジッと田中啓一たちを見上げた。


 「あ、あの、あの…」


 どんな言葉を出そうか迷っているようだ。そして。


 「あの、あ、ありがとうございました!」


 そう叫んで頭を下げた。


 それだけだ。それ以上の言葉は無い。


 山田功二は口角を上げて、ポットの中から手を振った。


 そして無言でポットを動かす。


 田中啓一の乗るポットの介助をしながら後ろ向きにすると、そこにはこの世界に来る時に通った門があった。


 いつの間にかそこにあった。現れた現象を何も感じなかった。


 だが、なんとなくそんなモンだと納得する。


 そして四人、四機は門をくぐった。

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