表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る冒険者(仮)  作者: I.D.E.I.
22/23

糧を求めて生み出された害悪  前編

 田中啓一、井上智久、山田功二、清水咲恵の四人は二列で四角形を作る様な形で歩いていた。


 四人はそれぞれ同じリュックを背負っている。それは前日までの経験から、弱肉強食の世界で生き残るために覚悟を改めた結果だった。


 リュックには薬などの医療品、弾薬、解体用具、タイヤと骨組みだけにしたキャリーバッグ、防寒着、そしてテント一式が四人が背負っているリュックそれぞれに入っている。


 四人それぞれの武器も共有出来るように拳銃、ショットガン、ナイフは同じ物を持っている。


 腰のウェストバッグ型のマジックバッグには武器だけが収められていて、銃、ナイフ、鉄パイプの先に一回り小さい鉄パイプを注射針のように尖らせた短針を装着した槍は四人の共通装備として入れてある。

 他には個別装備として、田中啓一ならメリケンサックやハンドアックス。井上智久なら予備の銃や弓矢。山田功二と清水咲恵なら魔法の杖各種と言う具合に、それぞれの得意武器が収められ、各自が直ぐに取り出せるようにと少し長く練習もした。


 マジックバッグはともかく、リュックには詰め込みすぎてやや重くなった感があるが、戦う事がしっかりとした意味を持つようにしないと、命を奪う行為が心に悪い影響を与えそうだと感じた結果だった。


 簡単に言うと、得るものを得ないと、単なる殺戮者に成り下がる。と言う事に尽きる。


 なので戦闘経験はしっかり得て生き残り、素材も無駄にしない、と言う単純な方針からの装備品となった。


 重く嵩張れば動きに影響を与えそうだが、戦闘時にはリュックをその場に投げ捨ててから行動に移り、もしもの時は全てを捨てて撤退も基本として徹底してある。


 本物の命がけの探索ならば当たり前の基本なのだが、何処かゲーム感覚だったために軽く見ていた現実感だ。第一に命。第二に戦闘経験。第三に素材。皆が目指しているのと同じだが、一番真摯に向き合っているとも言える。


 「伏せろ!」


 前列の田中啓一が小声で指示する。同時に四人がしゃがみ、草原の草の影に隠れる。


 草原はほとんどが二十センチ程の芝生の様な草が生い茂っている状態だが、所々に島のように一メートルから二メートルの群生地も点在している。


 百メートルの距離があれば、しゃがみ込めば身を隠せる。ただ、こちらからも見えなくなる。


 「十一時の方向。四つ足の獣。見えたのは一匹。人間じゃ無い。人間が獲物を背負っている状況でも無かった。やるぞ」


 田中啓一が見えた状況を伝え、行動方針を示す。それに対して三人が無言で頷き、リュックを下ろしてそれぞれの得物を手に取る。


 まずは井上智久がライフル銃を取り出し、立ち上がって構える。


 陽平たちにより他の皆はショットガンを推奨されているが、あえて井上智久はライフル銃を選択している。個人的に射撃を極める方針だ。もちろんショットガンも所持しているが、それは短距離の打撃武器として使い、長距離はライフルで狙う形式にしている。

 コレは戦略的に当たり前と言えてしまう方法だが、長距離射撃はかなりの熟練が必要なため、銃を握って一週間足らずの素人連中では弾の無駄にしかならないし、奇襲のチャンスを自らふいにしてしまうようなものだ。


 だが井上智久は自分の性格の短所である短気を直そうと、仲間の三人に頼んで遠距離攻撃担当にして貰った。


 最前線でいつもキレている状態が続くと、短気である事に慣れてしまうと考えた。それは自分自身は元より仲間を危険にさらす愚かな行為だ。だが戦いの場に身を置いておき、少し距離をとった位置で冷静に判断する立ち位置ならば心の鍛錬になるのでは無いかと考えた。


 これは井上智久が相談した、田中啓一、山田功二、清水咲恵の意見を総合したモノだったので、三人には快く承諾して貰い、戦いが無駄に危険になる場合があっても構わないと言う了承の元に実行している。


 弾が外れて、こちらの位置が知られても構わない。


 それを前提条件に井上智久はライフルを構えてスコープを覗き込む。金銭的な理由でライフルは狩猟用のボルトアクション。スコープは一番簡易な物を選択せざるを得なかったが、狙って一撃を打ち込むという特性は井上智久の気性にマッチしていた。


 スコープの中に目標を入れピントを合わせる。


 「情報通り、熊一頭だけだ、あっ」


 超長距離を狙撃する物では無いので、それほど影響は無いのだが、まだ初心者の域を出ない井上智久にとっては標準を合わせたまましゃべる事は難しかった。なのでしゃべった途端にスコープから目標が消えた。


 「どうした?」


 「声に出したら照準がずれた」


 「ああ、なるほど。なら井上のタイミングで撃て。撃ったら俺たちは走る」


 「応」


 田中啓一の指示で方針が決まる。


 スコープを覗いているのは効き目の右目だ。スコープを覗いている最中も左目も開けてはいる。だが意識は完全に右目に写るスコープの画像だけだった。気を取り直し、左目で見ている全体像から熊の位置を再確認し、スコープの中に熊を収める。


 コンピューターゲームなら、息を止めると言うボタンを押せば短時間だけ照準が揺れ動かなくなったりする。しかし現実は腕や胴体や足が微妙に動いて姿勢を整えていたりして、意識していない動きが多くある。


 一度気になってしまうと、気にしない様にしようと思っていてもなかなか無視できなくなってくる。


 スコープの中の熊も銃身が微妙に動くせいでグラグラと動き回っている。


 ならば、と、照準がぴったりと合うのを待つのは諦める。照準が合ったその瞬間に引き金を引く事に専念する。


 狙いは後ろ足。


 だがぴったり狙うのは難しそうなので下半身全体を目標とする。


 「(今!)」


 照準の中で動き回る動きがゆっくりになった瞬間、ほぼ反射神経だけで引き金を引いた。


 ダーン!


 ライフル銃が跳ね上がったために井上智久自身には結果が判らなかった。しかし田中啓一たちは既に走り出していた。


 慌ててライフル銃をマジックバッグに突っ込むと、更に手を押し込んでショットガンを探して取り出す。一度ポンプアクションしてから井上智久も熊の元に走り出した。


 結果は、井上智久が到着する前にけりがついていた。


 田中啓一の話によると、井上智久の弾は腰の骨に見事命中したようで、熊は下半身がほとんど動かせない状態だった。後ろ足で立てないので、前足での打ち払いもほとんど無効状態。田中啓一の金属パイプを改造した槍で、着脱式の注射針のようになった槍先を三本撃ち込んで倒す事が出来た。


 山田功二も清水咲恵も魔法で援護する必要も無く、周辺を警戒しつつも見守るだけで終わったと言っていた。


 「じゃ、心臓抜きは俺がやるよ」


 山田功二が魔法の杖をマジックバッグに収納し、コンバットナイフを取り出しながら言う。そこで周辺警戒は清水咲恵に任せて、田中啓一と井上智久は四人分のリュックを取りに戻った。


 「魔石になった」


 山田功二が血まみれで右手を突き出す。そこにペットボトルの水を盛大に掛けながら魔石を受け取る田中啓一。山田功二は清水咲恵からタオルを受け取り、先ずは顔を拭う。


 「これで今日は魔石五個か。けっこうやれてるね」


 「安定。されど、ドロップは無し」


 「心臓以外にも剥ぎ取り素材があれば良いんだけどなぁ」


 「おっと、掃除屋さんのご出勤だ。此処を離れよう」


 山田功二、清水咲恵、田中啓一、井上智久が口を開くが、辺りは血まみれで普段よりも早く掃除屋と言われる蟻やスライムが現れる。


 「あの槍先は効率的なんだが、辺りが血まみれになるのが欠点だよな」


 リュックを背負いながら田中啓一。


 「大型の四つ足限定だけどな。その内対応出来ない敵ってのも出てくるかもな」


 「ああ、固いのとか、小さくて素早いのは難しいか」


 「良し、少し走るか」


 全員がリュックを背負ったのを確認し、田中啓一が掃除屋の数が手薄な方へと走り出す。それに続く三人。


 蟻やスライムが見えなくなった所で足を止め、前方だけでは無く、周囲全体の警戒を始める。


 「まだ他の動物さん達のエリアじゃ無いみたいだな」


 「あれって何だろ?」


 井上智久の言葉のあと、山田功二が草原の中に違和感を感じる場所を見つけた。


 「どこら辺だ?」


 「あっち、あの、窪地になってる所」


 山田功二の背中側に寄った田中啓一に指を指して示す。それを見て他の二人も草原に目をこらす。


 「なんか、石が並んでるな」


 「ストーンヘンジ?」


 「行ってみるか」


 起伏はあるが見晴らしの良い草原。周囲に獣などは見当たらないので、田中啓一は二百メートル程先に有る窪地へと行く事を決める。特に目的地を決めていない探索なので他の皆も素直に従う。


 そして到着。


 ほとんどが雑草に隠されているが、近くに来ると人の頭ほどの大きさの石が等間隔で並べられているのが判る。


 「ストーンヘンジ? ストーンサークル? どっちだったっけ?」


 「確か、同じ物だったんじゃなかったか?」


 「ストーンヘンジがストーンサークルの一種。ほぼ同じ意味で間違い無い」


 田中啓一と井上智久の会話に清水咲恵がトドメを刺す。


 「あ、もしかしたら違うかも」


 しゃがみ込んで石の一つを見ていた山田功二が違うと声を掛けた。


 「何が違うんだ?」


 「石の一つ一つに文字みたいなモノや記号が彫り込まれている。もしかしたら魔法的な何か、かも」


 「へぇ。もしかしたら魔法陣かも、ってワケか。なんかイベント臭いな」


 「ボス級の魔獣が召喚される、とか?」


 「大規模魔法の可能性」


 それぞれが好き勝手な事を言う。


 「でも、どうやって動かすんだろ?」


 山田功二のセリフは盛り上がっていた三人に冷や水を浴びせた。


 と言う事で草原にポツンと置かれた魔法の仕組みを動かそうとなった。四人はこれが単なる悪戯とか宗教的儀式の置き土産とは考えていない。この草原自体が壮大な作り物と考えているので、このストーンヘンジにも大きな意味があるのだろうと思っている。


 まず土に親和性の高い山田功二が石の一個に手をついて魔力を流し込んでみる。


 すると手に触れていた石に掘られていた図形が微かに光ったが、それ以上の変化は無かった。

 触れる石が違ったのかも、と別の石を次々と触れていくと、一つの石だけが強い反応を示した。その石には十字を三角形で包んでいる図形が掘られていた。


 しかし強く光って他の石に向かって二本の光る線を伸ばしただけで、大きな変化は無かった。


 次に水に親和性の高い清水咲恵が石に触れる。


 結果は山田功二と同じだが、強い反応は六角形の対角同士を線で結んだ図形だった。


 次は井上智久。


 大凡の予想はついているので触れる石は二カ所。案の定の位置で、四角の中に二回り程小さい四角が四十五度傾いて描かれている。


 最後は田中啓一。


 石には星形が彫られており、四人が魔力を流し込むと光が四角形を描き、それまで弱い反応しか示さなかった他の図形も強く光り出す。さらに描かれていなかった図形まで浮かび上がり、ストーンヘンジ自体が魔力の光で輝き出す。


 「はっ、な、なんか、ヤバくない、か?」


 田中啓一が手をついたまま、光るストーンヘンジを見ながら呟く。


 実は、どんな魔獣が出てくるか楽しみな反面、怖さも感じ取っていた。しかし此処まで来てやめるわけにも行かない。


 だが、無情にも魔法は完成したようだ。


 そこには高さだけで十メートルを超え、横幅も十メートル近くはありそうな、巨大な扉が鎮座していた。


 四人は半ば呆けたように扉を見上げている。


 ただし、扉は田中啓一の方を向いており、井上智久と清水咲恵の方面は真横を向いている。山田功二には扉の背面しか見えないが、そこは真っ暗で光りさえ反射していないようにも見えた。


 何故か四人は同時に右回りに歩き出し、扉を一周して正面に集まった。


 「扉だね」


 山田功二。荘厳な壁に見えるが、中央が縦に割れている。そこに巨人用と思える程の取っ手がついており、そこから扉として開ける様式だと見て取れる。


 「夢の街とは違う感じだな」


 と井上智久。夢の街と外の草原を行き来する扉も荘厳だが、様式が違う印象を受けた。


 「開いたら、中から何が出てくるんだ?」


 田中啓一。日本の道路上を走る重機なら余裕で通れそうな扉だ。重機並みの魔獣が出てきたら、勝ち目は無いと予想した。


 「開ける、扉と書いてかいひと読む。開帳と同じ意味」


 清水咲恵が扉を開けろと促す。


 清水咲恵の言葉を聞いていたのかは不明だが、扉が軋んで扉の表面に縦に三本の線が走った。四人全員が身構える。


 扉は中央から左右に開くようだが、左右の扉は折り戸になっているようだ。それでも大人が両手を広げても届かない幅の扉板が左右に折り畳まれていく。


 そして、扉の向こうは白い景色だった。


 「あれ? 何もいない?」


 「出てくるとばかり思ってが、コレって俺たちに入れって事か?」


 「なんか冷たい印象のある景色だね」


 「世界に色が無い」


 「あ、白黒の、ネがポジ反転だ」


 四人にとっては写真とはデジタルデータからのプリントしか馴染みが無い。フイルムと言う物があり、反転画像から印画紙に焼き付けるという方法の知識はあるが、実物を見た事は無い。カメラを趣味にしているのなら見た事があるだろうが、あいにくとこの四人にそういった趣味は無かった。


 なので白黒画像の、さらに明暗が反転した画像は初めて見るので、扉の奥に見える景色に思い当たらなかった。


 「ネがポジ反転の世界に行けってか?」


 「どうだろう? もしかしたら、行った途端に通常に戻るのかも?」


 「おそらくそうだろうな。もし反転のままだったら、俺たちは役に立たないでやられっぱなしって状況になるしか無いよな。此処の運営はそれをやらないと思うぞ」


 「同意」


 「そっか、じゃ、行ってみるか? 一応賛否をとろう」


 「行く」「行く」「あ、行く」


 山田功二が一瞬出遅れただけで一瞬で可決した。


 そして田中啓一を先頭に歩き出し、四人は扉の中に入っていった。


 扉を抜けると、そこはまだ白黒の明暗の反転した風景だった。しかし四人が完全に扉を抜けると一瞬で世界が反転した。


 そこはごく普通に緑豊かな森の中だった。


 田中啓一たちが同時に振り返る。しかし、そこには扉は存在していなかった。


 「扉が消えてるな」


 「こうなるとは思ってたけどな」


 「こっちである程度過ごすか、何かイベントをこなさないと扉が出てこないって事だろうね」


 「想定内」


 「ま、いいか。とりあえず進もう」


 「この場所はしっかりと覚えておかないとならない、とは思うが、周りの状況が判らないと道しるべとして何を覚えておけば良いのか判らないな」


 進もうという田中啓一の言葉に井上智久が意見を言う。冷静な状態ならしっかりとした洞察が出来るのが井上智久だ。


 「そうなのか?」


 「あ、そっか。単に東西南北だけじゃ、全く同じ景色が続くようなら誤差が大きくなるね」


 井上智久の言葉が理解出来なかった田中啓一に今度は山田功二が解説する。


 「ああ、山の言うように同じ景色が続いたり、全く別の景色に変わる事が何度もあったりすると、まず見失うだろうな」


 「迷路」


 「なるほど。でもなぁ、GPSが判るわけでも無いし、地図を作るのも今は無理だろ?」


 GPSとは二つ以上の人工衛星から電波を受信し、その微妙な差異を計測して位置を求めるシステムだ。元は米軍専用のシステムだったが、西暦1993年に民生用に解放された。

 アメリカ合衆国が存在しない異世界では、GPS衛星も飛んではいないだろう。


 「だろうな。だから、迷わせるつもりがあるかも、ってのを前提に、全員で場所をしっかり覚えておこう、ってだけだ」


 井上智久が周りを見回しながら言う。


 回りは緑豊かな森。言い方を変えれば代わり映えのしない、何処にでもある景色だ。無作為に進んだ場合、草原よりも場所を見失い易い。


 「そうだな。じゃ、此処にも何か目印を作っておくか?」


 「どうする? 石を積み上げておくとかじゃ、残っている可能性も低いぞ?」


 「ああー、どうするか…」


 「あ、ロープを短く切って、木に縛り付けておく?」


 「いいな。この場所には木の幹に二重に捲いて、少し進んだら、此処を目指す方向の枝に捲く、とかなら判りやすいか?」


 山田功二のアイデアに井上智久も納得した。


 他にアイデアも出てこなかったので、その方法を選択し、五十メートル間隔で道しるべを作りながら進んだ。


 そして黙々と歩く事三十分程。


 森の中で比較的歩きやすい場所を選んで歩いてきたが、一キロ程度しか進めていない。五十メートル間隔で結ぶはずのロープも、四十を越え、間隔が三十メートルになっているが、本人たちは五十メートルと錯覚している。


 道があるわけでも無く、遠くを見通せない状態なので、距離感覚が大きくズレていた。


 しかし、不意に森が途切れた。


 単に開けた場所に出ただけだが、四人はその光景に大きく息を吐いた。


 「はぁ、一旦休憩にしよう」


 「ああ、肉体的にはそうでも無いって感じだが、精神的に疲れたな」


 田中啓一と井上智久の言葉は山田功二と清水咲恵にも強く同意できた。


 リュックは下ろさず、その場に尻をついて座り込む四人。


 肉体的に疲れていて、なおかつまだまだ進まなければならないと言う状況だと、座り込むのは悪手だ。足や身体から完全に力を抜いてしまうと、再び力を込める事に大きな労力を込める必要が出てくる。それは更に疲労を伴うため、結果的に見れば、足や身体の痛みを取るためだけに特化した休憩方法を取る事が、後々の苦労を減らしてくれる。

 だが理屈ではそうだが、実際に疲れて来るとコレを実践出来る者は少ない。


 四人も肉体的には疲れていないと言っていたが、実際にはそうでも無く、全身から力を抜いて休憩してしまっている。


 精神的な疲れも有り、それは気の緩みも生んだ。


 具体的には、目の前に現れるまで『敵』の接近に気づけなかった。


 それは突然目の前に現れた。


 四人はそれを見た時、それが何なのか判らなかった。


 たとえるのなら、動物の内臓だけを使って組み上げた高さ一メートルの新生物のオブジェ、だろうか。


 既に熊や鹿などの動物と戦い、倒し、心臓をえぐり出すという行為を何度も繰り返してきたので、今さら動物の内臓を見ても嫌悪感を抱くような事は無い。


 だが、目の前のそれには嫌悪感しか抱かなかった。


 不自然だ。訳がわからない。生き物とは考えられない。コレは一体何だ?


 四人全員がその疑問で頭がいっぱいになり、動く事を忘れた。


 周辺警戒も忘れ、座り込んで弛緩しきっていた身体は直ぐには動かなかった。


 謎の内臓オブジェは腸のような紐状のモノの先に肉塊のような臓器を絡みつかせて、それを田中啓一に向かって投げつけてきた。


 「ど、どわーっ!」


 寸での所でジャングルブーツで蹴り返す。


 そして慌てて立ち上がろうとするが、何度もばたついてしまう。


 内臓オブジェが迫る。


 そこで井上智久がショットガンを取り出し終えた。


 「避けろ!」


 そう叫んで内臓オブジェに向かってスラッグ弾を撃ち込む。


 ドンッ!


 「無茶言うな!」


 井上智久のショットガンの発する爆音で渇が入ったのか、田中啓一はしっかりと立ち上がり距離をとる事が出来た。


 スラッグ弾を受けた内臓オブジェは半分近くが飛び散っていたが、それでも痛がるそぶりは見せずに四人の方向に進もうとしていた。


 「何なんだ、こいつは」


 「詮索は後だ」


 高菜啓一もマジックバッグからショットガンを取り出しながら内臓オブジェについて疑問を呟く。井上智久は焦りながらも二発目のスラッグ弾を撃ち込む。


 二発目を受けた内臓オブジェは半分以下にはなったが、なんとなく平然としているように見えた。


 「効いたように思えるか?」


 三発目をポンプアクションでセットしながら聞く。


 「燃やしてみよう」


 山田功二が一歩前に出て火の魔法の杖を構えて、火の玉を撃ち出した。


 粘りつく炎。火のついた重油を振りかけ、燃えている油が相手の身体を濡らして燃えさかるイメージで炎を出す。つまりは火炎放射器を模倣する炎だ。


 その炎が内臓オブジェに纏わり付く。


 ここで初めて内臓オブジェに焦りが見えた。


 「効いてるな。だが、酷い匂いだ」


 「タンパク質が燃える匂いってヤツか」


 「…」


 田中啓一、井上智久、清水咲恵は腕で口元を押さえながら後退する。山田功二だけは攻撃している関係で口元を抑える事も出来ず、下がる事も出来ずに我慢するしか無かった。


 そして謎の内臓オブジェがボタリと横に倒れる。


 そこで山田功二は炎の魔法を止め、改めて謎の内臓オブジェを凝視する。


 「やったか?」


 わざとらしく田中啓一が言ってくる。


 「フラグにはなってないな。ってか、燃料になってるよなぁ」


 攻撃してから、やったか? と呟くと、大抵は効果があまりなかった、と言うオチが大半だという物語上の定番を匂わせていたが、謎の内臓オブジェは嫌な匂いをまき散らしながら燃え続けているだけだった。


 「えーと、それで、どうしよう?」


 「周辺警戒、状況分析、反省、行動方針」


 山田功二の問いかけに清水咲恵が淡々と述べる。


 「あ、そうだった。警戒!」


 田中啓一が叫ぶ。同時に四人がそれぞれ別方向を向いて周囲を見つめる。


 「敵も動くモノもいない」「異常なし」「だ、大丈夫」「クリア」


 田中啓一、井上智久、山田功二、清水咲恵の順で報告する。


 「良し、次は襲ってきたヤツについてだな」


 「まだ燃えてるな」


 田中啓一が燃え続けている謎の内臓オブジェを凝視する。


 「清水。水魔法で消してみてくれ」


 「了解」


 その田中啓一の指示で清水咲恵が魔法の杖から出した水の球をゆっくりとぶつける。


 パシャッ!


 燃えている部分は五十センチ程の塊になっているが、そこに一メートル程の水の球を落とした形になった。しかし火は一時的には弱くはなったが、直ぐに元の勢いに戻った。


 「ほとんど脂で出来てるんだな。内臓っぽく見えるが、実は違うのかな?」


 「続行?」


 「いや、このまま燃やし尽くそう。燃え尽きた後にドロップが出てくるかを知りたい」


 「了解」


 「井上。ショットガンで飛び散った欠片で、出来るだけデカいヤツを探してくれ。それが動くのか、それともしっかり死んでるのかを見たい」


 「ああ、なるほど」


 田中啓一が何を想像したのか予想が出来た。つまりは映画に出てくるクリーチャーのように、欠片でも動いて再生する可能性を確かめたいと言う事だと。


 そして清水咲恵を周辺警戒に残して、三人で飛び散った欠片を探して回った。


 結果、大きめの肉片はあったが、それは動く様子が無かった。燃えている肉片の真横に置いたら、暫くしてから火が燃え移り、同じように燃え始めた。


 「やっぱ脂の塊みたいなヤツなんだな。次に遭遇した時は、火の魔法で対処か?」


 「此処は開けた場所だったから良かったが、森の中だと拙いだろう?」


 「生きてる木はけっこう水を含んでるから、魔法の火の余波ぐらいだったら大丈夫なんだけど、落ちてる枯れ枝とか枯れ葉とかには燃え移るから、それが原因で燃え出す危険性はあるね。あのクリーチャーは脂で燃え続けるから、それも森が燃える原因になると思う」


 「やっぱ出会い頭に魔法の火、と言うワケには行かないか」


 「最初の遭遇が開けた所だったのは幸運だったな」


 「なぁ、とりあえず戦い方がはっきりするまで、此処で何度か戦う、ってのはどうだ?」


 「同じ物がこの場所に来るかも不明」


 「あ、そうか、ゲーム仕様ってワケじゃないか。ゲームならリポップするんだがなぁ」


 「火以外の弱点ってのが無ければ意味無いしな」


 「どんな弱点がありそうだ?」


 「脂って事は、凍らせればいいか?」


 「普通の生物は凍らせれば死ぬけどな」


 「…」


 「次は銃でバラバラに弾き飛ばしてみるか?」


 「ナイフとか槍はどうなんだ?」


 などなど意見は出たが、実際に試して見ないと、と言う所に落ちていく。


 「まずは全員ショットガン装備で進む、ってのはどうだ?」


 井上智久の提案が選択された。


 開けた場所から再び森に入る。それでも歩きやすい場所を選んでいるのだが、道があるわけでもないので歩きにくい。更に謎の内臓オブジェという敵が何時、何処から襲ってくるか判らないので緊張が続く。


 そして緊張の中、再び『敵』が襲って来た。


 前回とは違った形をしていたが、内臓オブジェと表現出来るのは同じだ。


 今回は筋肉繊維だけで出来た腕のような突起が四本突き出て、その先に子供の頭程の大きさの目玉がウネウネと蠢いている。胴体部分は腸の様な管がミミズ玉のように絡みついた塊で、脈動しながら蠢いていた。


 その形態でどうやって動いているのか謎だ。いや、そもそも生き物なのかも疑問だ。


 「展開!」


 田中啓一が叫ぶ。同時に四人は射線上に仲間が入らないように左右に広がる。


 同じタイミングで第二内臓オブジェからの攻撃が始まった。


 腕のような突起を突き出して来る。先には目玉があるので異様な光景だ。その目玉で突かれたらどんなダメージがあるのか不気味であった。


 「撃て!」


 狙われた井上智久がしっかりと避けたのを確認し、田中啓一が叫ぶ。


 同時に四発のスラッグ弾が第二内臓オブジェに当たり、グチャグチャな肉塊に変えて弾き飛ばす。ほとんどが胴体部分に当たったため、目玉の付いた腕が放り出されている。


 ショットガンを構えながら歩いて近づいた田中啓一は、試しにとその腕モドキを踏み潰してみた。


 ぐちゃっ!


 踏み潰した瞬間。腕のように見えた筋肉繊維が細かい糸のようなモノにほぐれて、田中啓一の足に絡みつこうとしてきた。


 慌てて足を引っ込め、後ずさりする。


 「げぇ! こいつ、イトミミズの塊だ!」


 実際はイトミミズとは別物ではあろうが、赤い肉で出来た糸の様な蠢くモノはそう表現するしか無いほど似通っていた。


 細かい糸の様な肉。ならばショットガンで弾き飛ばすのは拙いだろうと、皆が攻撃方法に躊躇いを示す。そこで山田功二がいち早く武器を火の魔法の杖に切り替える。


 「範囲を絞って燃やしてみる」


 高温の炎。されど狭い範囲で。


 それを強く意識して魔法の杖から炎を吹き出させる。塊にして投げ飛ばすと二次被害が出そうなので、理科の実験で使った事のあるガスバーナーをイメージしてみた。


 ジュー。ジリジリジリ…。


 青い炎に炙られたイトミミズは、水分が蒸発する音を立てた後に燃えだした。


 火の魔法を解いても肉塊だけで燃え続けている。


 「やっぱこいつも脂の塊か」


 「清水。たっぷりの水で消す準備をしておいてくれ」


 井上智久の言葉に頷き、清水咲恵が魔法の杖にスイッチして構える。


 「あっ、清水! 消せ! 消せ! 早く!」


 燃やして少しだけ経った所で田中啓一が叫ぶ。その声に急かされて、慌てて用意してあったイメージの水を発生させる。


 ジョボジョボとホースから連続して流れ出す水をイメージした。炎というのはほとんどは温度と酸素だ。燃えているモノの温度を下げてやるだけで勢いは衰えるし、酸素供給を途絶えさせるとほとんどの炎は燃える事が出来ない。大量の水を一瞬よりも、膜で包むぐらいの水を長くの方が効果的だし、魔力の節約にもなる。


 その水によってあっさりと炎は消えた。


 肉塊とその回りの草は燃えたが、まだ森が火事になる程は燃えていなかったので、田中啓一が火を止めさせた事に三人は疑問に思っていた。


 その田中啓一が肉塊の前に跪いて、抜いたナイフで炭化しかかった肉塊を突き刺してほぐしている。


 「あった」


 立ち上がった田中啓一の手には、ピンク色をした魔石のようなモノが握られていた。


 「魔石か?」


 「たぶんそうじぇね?」


 「アレも草原の獣と同じって事かな?」


 「いや、良く見て見ろ、ちょっと違うっぽいぞ」


 言われて田中啓一の手の平に載せられた塊を見てみると、ピンクの菱形をしていた。


 「草原のはいかにも小石、って感じだったが、これは宝石みたいな加工がされてる感じだな」


 「自然にこの形になったのか、それとも人工物なのかが判らないね」


 「不自然」


 「コレが人工物だとしたら、あの内臓の塊みたいな奴らも人工物ってなるな」


 「それは嫌だなぁ」


 田中啓一の感想は、全員の気持ちと同じだった。


 その後も森の中を進むと内臓オブジェが襲ってきて、都合五回撃退した後に森を抜けた。


 菱形の魔石も六個手に入った。


 「森を抜けた~」


 「とりあえず、この場所が判るようにロープを二、三本巻き付けとこう」


 「さて、どの方向に進むか…」


 山田功二と清水咲恵が木にロープを巻き付けている間に、田中啓一と井上智久が周囲を見て回る。


 森を抜けたが、回りは草木も生えない岩石地帯という感じだ。所々岩の山が視界を遮っている。岩の影や岩の上から襲われる事もありそうだが、それでも森よりは発見も容易で、炎の魔法も気兼ねなく使えるので楽にはなる。


 「おーい! 向こうに道があるぞ!」


 少し離れた位置まで見に行っていた田中啓一が走って戻って来た。


 田中啓一について行くと、岩石地帯から大きく開けた草原地帯に出た。そこに二本の草の生えていない列が二列続いている。


 「轍ってヤツか」


 「この世界って車があるって事かな?」


 「馬車かも知れないけどな」


 「轍が二列って事は上下線?」


 「道の使い方は判らねえな。そもそもコレだけ草原が広がってれば、何処走っても良さそうだしな」


 「ん? だとすると、草原の方にはみ出すと危ない、とか?」


 「有りそうだな。ちょっと試して見るか」


 田中啓一がショットガンを構えながら草原に分け入る。草は膝ぐらいまでの高さで、見通しは悪くは無いが歩きにくい。


 草を踏み倒しながら歩いて行くと、突然足を引っ張られて尻餅をついてしまう。


 「なっ!」


 足に何かが巻き付いて引っ張られる。その感触に、イトミミズに巻き付かれた事を思い出して、必死に足をばたつかせる。


 ふっと足が軽くなった感じがした所で身体を回してうつ伏せ状態になり、そこから起き上がろうとしてソレを見てしまった。


 草原の草が生えている地面の直ぐ下に、イトミミズ的な蠢く何かが敷き詰められているのを。


 「う、うわっ!」


 思わず飛び起き、皆のいる岩石地帯に走り戻る。


 そこまでどうやって援護して良いか迷っていた三人は狼狽えているだけだった。


 「田中! 大丈夫か?」


 「あ、ああ、少し足に絡みついてきただけだ」


 足下を見るとジャングルブーツに少しだけイトミミズがこびりついている。ソレを片方の足でこそぎ落とす。


 「こう言うブーツにしておいて本当に良かったぜ。陽平に感謝だな」


 「スニーカーだと、足首の所から中に入ってたか。ゾッとするなぁ」


 「マジヤバいぜ。こう言う場所だと、すれ違うからってはみ出す事も出来ないから、上下線が決まってるって感じなんだろうな」


 「あの草原にどうやって道作ったんだろう?」


 「砂利でも敷いたんじゃねえか?」


 「ソレっぽいね。土魔法は土は生み出せるけど、石は未だ無理みたいだから、そういう対処は出来そうも無いなぁ」


 と山田功二。山田功二は土魔法に適性を持っているため、熟練度を上げれば石も作れるはずだったが、この時点では熟練度が足り無かった。


 「じゃ、まず、どっちに進む?」


 道はほぼ左右に伸びている。右に進むか、左に進むかで運命が変わる。眺め回しても見た目では何も判断出来そうも無かった。


 「微かだが、右の方が元いた位置からは遠ざかるか?」


 「良し、右にしよう」


 と田中啓一。ノリだけで決めた感じだが、他の方法もまた運任せでしか無いと考えると、特に反対する意味は無いと諦め、田中啓一の決めた方へと歩き出す。


 それから二十分程。ただひたすら轍の道を歩くだけだとかなり飽きてくる。見通しの良い草原で回りは遠くに森や岩山が見える程度で基本的に代わり映えしない。しかし直ぐ横はイトミミズの巣窟だ。緊張を解くわけにもいかず、それでも代わり映えのしない風景と来れば、変なストレスがかかって疲労に繋がる。


 「あー、飽きたー。山ー。なんか面白い事言ってくれー」


 田中啓一が無理な注文を山田功二にする。


 「あー、じゃ、世にクダンという怪異有り。牛の身体に人間の頭という風体で牛から生まれ、生まれると直ぐにいくつかの予言を語って直ぐに死んでしまう。その魂は何処に行くのだろう? ここに一体のクダン有り。一言予言を伝え、直ぐに死んでしまったが、その魂は別の世界で別の生き物として生まれ変わった。なんと魔物がいて魔法の有る世界で一匹の粘性生物に生まれ変わってしまった。そう。転生したら……」


 「「「そこまで!」」」


 危ないので三人によって止められた。うん。危ない、危ない。


 「お? アレは?」


 井上智久が遠くに黒い煙が立ち上っているのに気付いた。


 「火事か?」


 「炎上?」


 「炎上はやめてくれ」


 「とりあえず様子見だな」


 まだ距離が有り、煙が見えているだけだ。しかし何らかの騒動や自然現象だとしたら今の四人にも影響があるかも知れない。


 だが待ちに待った『変化』でもあった。


 やや足早になりつつ轍の道を進む。


 そして煙の元で何かが動いているのを確認出来るようになる。


 それは巨人だった。


 卵形というか、カプセル状の胴体に手足が付いただけの簡単な造形ではあるが、確かに人型だ。


 その大きさは大凡で高さ六メートル前後。


 日本の一般的な二階建ての一軒家。その二階の窓の上辺ぐらいの高さだ。屋根まではいかないが、平屋の屋根よりは少し高いと感じる程度だ。


 だが人型というのが問題だ。


 この世界の人類は巨人なのだろうか? その疑問が湧く。


 「轍の間隔から見て、俺らと同じぐらいの大きさと見てたんだがなぁ」


 田中啓一が呟く。


 「俺もだ」


 「うん」


 「地球だと人体構造的に無茶。細胞組成から違う可能性」


 清水咲恵が言う無茶というのは、五メートルぐらいなら『生きる』事はできるが、生活する事は困難を要する、と言う意味で無茶と表現した。象やキリンという動物はいるが、常時二足歩行で生活する事は不可能だ。


 そう言える程に巨人の動きは二足歩行を上手くこなせている。


 人間形態ではあるが、地球の生物とは全くの別物だ。


 更に歩いて近づくと細かい所も見えてきた。


 腕には筒状の物を抱え、そこから黒い煙を上げる炎を吹き出している。


 焼いているのは地面だ。


 「アレって、イトミミズ退治とかしてんのか?」


 「なんかソレっぽいな」


 「なんだ。燃やして良いなら楽だったんじゃネ?」


 「計画的に燃やしてるのかも? 火が付けばなかなか消えないし、燃え広がるから計画的じゃ無いと危険だと思うし」


 「あー、それは有りそうだな」


 更に歩くと巨人の詳細が見えてくる。


 「アレって、ロボット?」


 「機械っぽいな」


 「もしかして人間が乗ってるのか?」


 「生物じゃ無くて良かったよ。あれとコミュニケーションとらないとならないかもと考えてた」


 「あの化け物の事もあるから判らねえぞ?」


 「うっ」


 田中啓一が山田功二をからかう。


 また暫く歩くと、田中啓一たちが歩く道に沿ってカプセルロボットが歩いてくるのと出くわした。


 いきなり近距離で出会うとは予想していなかったが、下手に驚いて見せたり逃げだそうとするのも不審がられると思って平常心を務めた。


 するとカプセルロボットが田中啓一たちに気付いた。


 足を止めて田中啓一たちを見ている様な姿勢をとる。カプセルロボットのほぼ足下をすれ違う位置なので細かい所までよく判る。


 カプセルの上半分に人が乗っていると予想出来た。二メートル半ほどのカプセルに人が入ってるとしたら、丁度人の頭があるだろう位置に幾つものスリットが入っていたのだから。


 「カメラの技術は無かったのか?」


 「全体の装甲も薄そうだな」


 「地球の戦車の方が強そうだね」


 「二足歩行にした理由が不明」


 「あの化け物対策じゃネ?」


 カプセルロボットを見上げながら好き勝手な事を言っていた。そんな田中啓一たちに向かってカプセルロボットの空いている方の腕を上げ、軽い挨拶という感じで手を振った。


 即座に四人も手を振り返す。


 ソレを見て安心したのか、カプセルロボットは姿勢を戻して歩き出した。


 「あービックリした」


 離れていくカプセルロボットを見送りながら田中啓一は息を吐く。


 「とりあえず、俺たちも人として認識されたんだろうね」


 「懸念の一つは解消されたが、今度は社会構造とかが問題だな」


 「そこは行き当たりばったりしか無いけどな」


 「不審者扱いならまだ良いけど、下手したら敵国の工作員とか思われて投獄、拷問なんてのもあるかも」


 「お? そんなのも、まぁ、国という体裁とってればあり得るか。どうする?」


 「捕まりそうになったら逃げる。誤解を解けばなとかなる、とかは夢物語だろうしな」


 「俺もそれが良いと思う」


 井上智久と山田功二の意見が一致した。


 二人の懸念には清水咲恵がいた。異世界に限らず、他の国でも人権に関する法や市民意識が低い場合が高確率で予想される。女の容疑者に対する扱いが酷い所だと取り返しが付かないと考えられるし、場合によっては有罪をでっち上げられ、処分したとして闇に葬られる可能性もある。


 ある意味、日本が異様に潔癖なのだと言う話しを聞いた事がある山田功二は、日本以外の司法は表向き以外は信用しない様にしようと考えている。


 「そっか、じゃ、そういう方針でいこう」


 「了解」


 田中啓一と清水咲恵の了承もとり、四人全員の行動方針が整った所で再出発。


 暫くして、カプセルロボットの出てきた街の壁が見えてきた。


 背の高い石造りの壁が左右に伸びている。右の方は岩山に隠れて先が見えないが、左の方は霞むぐらい長く壁が在るのが判る。

 壁には二百から三百メートル間隔で大小の門がセットで設けられており、四人に一番近い門の所にはカプセルロボット用と思える専用の門もあった。


 近くまで来ると門の様子も細かく見えてくる。


 大きな門は横幅は十メートルは無さそうだ。高さも十メートル程なのだが、高さの方が異様に目立つ。奥行きは三十メートル程で、門と言うよりもトンネルと表現したくなる程だった。


 大きな門の両側には門衛としての兵士が左右に三人ずついて、田中啓一たちが近づくまでは大きな荷馬車のチェックを行っていた。


 門の中には町があり、街に入るには門の所でチェックを受ける。


 田中啓一たちはそう予想した。


 「入るのに金とか身分証とか必要なのかな?」


 ラノベの異世界モノをいくつか読んだ事のある山田功二が呟く。


 「もしどっちも持ってなかったらどうなる?」


 呟きを聞いた井上智久が聞く。


 「入れないとなったら、素直に引き下がった方が良さそう、って感じかな」


 「ああ、そんな感じか」


 一番拙いのはごねて投獄される事。それは回避しないと、と言う。


 前に並んでいた大型の荷馬車のチェックが終わった。門衛に腕を振られ、荷馬車の御者が門衛に礼を言って乗り込み、手綱を操作して馬車を動かしていく。


 いよいよ田中啓一ら四人の順番だ。


 平然と、極当たり前の様に歩き出し、門衛の前に立つ。


 「ご苦労さん」


 門衛は動かなかった。


 逆に労いの言葉を掛けてきた。


 思わず驚いて立ち止まり、ジッと門衛を見つめる。


 「ん? どうした?」


 不思議そうに門衛が見てくる。何か返事を返さなければならない。


 そこで山田功二が声を上げた。


 「すまない。俺たちは田舎から出てきたモンで、この街は初めてなんだ」


 「ほう、そうなのか。どこら辺の出なんだ?」


 「…もう、ずっと、遠く…さ」


 「……そ、そうか、すまない。この街に住むつもりなのか?」


 嘘は言っていない。門衛は都合良く勘違いしてくれたようだ。


 「良い街そうならそのつもりだが、何か決まり事とかあるか?」


 「ハンターなら大歓迎だ。この間の大進行で数が減ったらしいしな。ワケを言ってハンターギルドに所属すれば、色々と都合つけてくれるはずだ」


 「ギルドの位置は何処だ?」


 「中央を行ってサーカスに出たら、そこから見える一番デカい建物がそうだが、そこで人に聞けば直ぐ判るだろう」


 「ありがと、行ってみる」


 「ガンバレよ」


 手を振り、四人は門を通り過ぎた。


 そして話しを聞かれる心配が無くなった所で。


 「すげー。山、良くあんな話しが出来たな」


 「そういう物語を読んだ事があるんだ」


 「ラノベ?」


 「うん、そう。まぁ、物語では身分証が無ければ金を払う、って話しだったけど」


 「此処は身分証も金も必要無いみたいだったな」


 「俺たちの前に並んでいた荷馬車はチェック受けてたよな?」


 「もしかして、だけど。アレってイトミミズのチェックだったんじゃないのかな?」


 「「あっ」」「なるほど」


 「此処の人たちにとってもイトミミズは脅威って事だよね」


 「あの門番が言ってた、ハンターってのは、イトミミズたちと戦う連中って事か」


 「面白そうだ。そのハンターってのに登録してみようぜ」


 「この街で活動するならソレが一番だと思うな」


 「うん。俺もソレがベストだと思う」


 「同意」


 四人は石畳になった道を歩き出した。


 「えっと、中央を行ってサーカスに出る、だったか? テントとか張ってるのか?」


 「ピエロのいるサーカスじゃ無くて、円形広場の事だと思う。馬車用の交差点だね」


 「交差点?」


 「信号という機械が無くても、交差点の交通を管理する方法だね。例えば円形広場では必ず時計回りに回る事を義務づけて、右折したければ円形広場を四分の三は回るように決める。円形広場に入る全ての馬車が時計回りに回って、自分の行きたい道で円形広場から抜ける、って言う仕組み。此処が時計回りか、反時計回りかは判らないけど」


 「へー、そんな方法があるのか。機械が要らないなら、何処でもそれにすれば良いのにな」


 「場所が大きく必要だし、交通量が多いと渋滞の元だしね。それに譲り合いとか色々出てくるから、利用者が多い所だとあまり現実的じゃ無いかも」


 山田功二が言っているのは円形交差点、ラウンドアバウトなどと言われ、ヨーロッパが発祥で日本の交差点の一部でも利用されている方式の事だ。

 だが、サーカスとは円形広場の事で有り、交通とは関係無い場合もある、と言うのはご愛敬としてあげてほしい。


 暫く歩くと円形の広場に出た。此処が門衛の言っていたサーカスだろうと言う事は直ぐに判ったが、山田功二の言うように馬車の交差点的では無かった。

 一応馬車も通る様だが、広場の外縁部には屋台が並び、人が行き交い、数台の馬車が中央付近に止まって買い物をいている様も見えた。


 「随分活気があるな。なんか売ってるみたいだが、買ってみるか?」


 「此処の金は持ってねぇって」


 「あ、そうか。どうする?」


 「イトミミズの魔石モドキは換金出来るかな?」


 「あー、どうだろ? ちょっと調べてみるか」


 井上智久はそう言ってからスマホを取り出す。そのカメラ機能から鑑定を呼び出す。


 「田中! イトミミズのヤツ、出してくれ」


 まとめて持っているのは田中啓一なので、そう声を掛ける。田中啓一も直ぐに取りだして、手の平に一つ乗せて、井上智久の目の前に突き出す。


 「ジッとしてろよ。良し、出た」


 【魔石(小) この世界特有の魔石 世界を巡るマナの流れが固まり結晶化した 擬態生物が取り込むと核として機能する ハンターギルド・両替所などで換金可能 五百ジェル 夢見の街価格二万五千円】


 「しょぼいな」


 「全部で六個有るから十五万かぁ」


 「ハンターの稼ぎとしてはどうなのかな? 安くない?」


 「金銭感覚の再考が必要」


 夢見の街を出た所にある草原で熊や牛を倒し、心臓をえぐり出すと心臓が魔石に変わる。ソレを夢見の街の店で売れば五万五千円になる。ソレを考えたら半分以下というのは効率としてはどうだろうとなった。


 「まぁ、熊に比べたらあっさり倒せたから、金額的にはこんなモンじゃネ?」


 「確かに」


 「それにしても擬態生物かぁ。元があのイトミミズで、魔石を取り込んでああいう形になるんだね」


 「火炎放射器で焼いてたのは、街の周りぐらいは綺麗にしておこうって事か」


 「森を焼いたせいでここら辺一体が何にも無い様に見えたんだな」


 「環境破壊」


 「環境破壊っつっても、俺だって燃やす方に一票入れるぜ」


 「街の近くに森があって、魔石の核を持ったイトミミズが沢山いるなんて、安心して眠れないだろうなぁ」


 「あ、そう言えば、此処の連中は薪とかはどうしてるんだ?」


 町並みは中世ヨーロッパに似ているような気がする。建物は石造りで、窓や扉などに木材が使われているのは見える。ガラスも無い様で、戸は木製で金属の補強が入ったモノがほとんどだ。しかも街の外には森が無い。昔はあったかも知れないが、今は燃やし尽くして草原か荒れ地になっている。


 「あ、煙突が無い」


 山田功二が建物の違和感に気付いた。


 「イトミミズに襲われた時に立てこもるためか?」


 「うん。けっこう隙間無く作られてるし、窓や出入り口も小さめだよね」


 「なかなかハードな世界だぜ」


 田中啓一は生物兵器が爆発的繁殖して文明が滅ぶと言う映画を思い出した。映画の中では主人公たちが対応策を模索するようなシーンもあったが、ここは既に対応策が確立して落ち着いた世界だと改めて納得した。


 「じゃ、火を使う用事はどうしてるんだろう?」


 「あ、あの屋台、暖かいスープを売ってる」


 井上智久の指摘で見つけた屋台は、木の箱を並べたテーブルの上に大鍋が一つ、湯気を立てて置かれていた。その横にはスープ皿がいくつかある。


 スープ皿は大して洗わずに使い回しをしている様な感じだが、ソレよりも湯気を立てている大鍋の下が気になる。


 火の通る穴があれば、下から炙っていると想像出来るが、そこには黒っぽい厚手の板があるだけだった。


 「アレって、いわゆる魔道具か?」


 「魔石って魔道具の材料になるって、言ってなかったっけ?」


 「燃やす木が無いから、魔道具が広まったって事か」


 「煙突が無いのも納得だな」


 「どうした? 清水?」


 田中啓一が静かにジッと屋台を見つめている清水咲恵に気付いた。


 「試食」


 「食ってみたいのか。やめとけ、あのスープ皿とかばっちぃぞ」


 「マイ皿とマイスプーンを用意」


 「皿だけじゃ無く、スープの方も怪しいって。腹壊すぞ」


 「むぅぅ」


 珍しく清水咲恵が我が儘を言っている事に少し驚く。


 「今は金も無いし、その内にな。それよりもギルドに行こうぜ」


 「う、了承」


 夢の中の冒険で飲食が出来るかは四人には謎のままだった。今まで通りに四人とも喉の渇きや空腹を感じていないので、飲食が必要無いのは理解している。同じ日に陽平が飲食が出来る様になったと言う情報は得ているが、この時点でこの四人には伝わっていない。


 しかし清水咲恵の食への挑戦へ掛ける情熱は、それを忘れさせる程のモノだったようだ。人、コレを食いしん坊と言う。


 道行く人にちょっと声を掛けて聞くと、ハンターギルドの場所は直ぐに判った。


 ここら辺で一番大きな建物らしいが、他もそこそこ大きいので比較は少し難しかった。


 「ここか」


 表からの見た目でも、学校の教室を縦に三つほど並べたぐらいの横幅がある。奥行きは見えないが、おそらく同じぐらいはありそうだ。高さは三階建てで、他の建物も三階建てまでしか無い。建築技術の限界かも知れないと予想した。


 この建物も窓や入り口は狭く、そして頑丈そうだ。狭いと言っても人が一人通るには充分すぎる幅があるが、建物の規模から言えば、地球の基準だと二、三人が並んで通れる出入り口があっても当たり前という感じだ。


 それらは非常時用の配慮なのだろう。今は扉も窓も開け放たれている。


 中に入るとホールになっており、意外に明るいと感じた。


 見ると窓際に白い石材で出来たテーブルが並んでいる。所々に植木鉢が並べられていておしゃれな感じだ。


 「なるほど。窓の光をテーブルで反射させて天井を照らしてるんだ」


 山田功二が気付いた。


 イトミミズ対策で窓を広くとれないための微かな対策という感じだろう。


 「照明って、魔道具でどうにかなるんじゃ無いのか?」


 「たぶん魔石も高いから、昼間は節約って感じじゃないかな」


 ホールの中はテーブルや椅子は多いが、人はいなかった。奥の執務机という感じの場所に一人の女性らしき人が座って、入ってきた田中啓一たちを見ていた。


 「見ない顔だね」


 四人が近づくとそう声を掛けてきた。田中啓一は山田功二を見て、一歩下がった。交渉は山田功二に任せると言う事だろう。


 「ついさっき、この街に来たばかりなんだ」


 「へぇ、流れか。この街にはなんで?」


 「故郷は、もう、な。腰を落ち着ける良さげな街を探してたんだ」


 「なるほど。歓迎するよ。で、腕はどれほどだい?」


 「この街の基準が判らないな。とりあえず、ここに来る途中で狩ったヤツを買い取ってくれるか?」


 そう言って山田功二は田中啓一を振り返る。一歩前に出た田中啓一が無言で六個の魔石を女のテーブルの上に置いた。


 「狩りぐらいは出来るってかい。いいだろ、一つ六百五十。六つで三千九百。色つけて四千で買い取るよ」


 「五百ぐらいだと思ってたが」


 「ああ、大進行でだいぶやられちまってねぇ。今はハンターの数が足りないんだ。おかげで魔石の値段が高くなっちまってね」


 「判った、それで頼む」


 「今日のこの街に来たって言ってたね。宿はどうする? こっちで世話するかい?」


 「どんな所だ?」


 「この裏にある一軒家が丸々空いてる。部屋は一階に二つと二階に二つ。一階の一つは流し場だ。コンロや明かりは買って貰わないとならないが、下水処理機は付いてる。始めの十日はこっちで持つが、それ以後は十日で五百だ。どうだ?」


 計算すると、三十日で一千五百。夢見の街のレートで計算すると七万五千円となる。三DKの一軒家を借りる値段としては安いと感じた。


 始めの十日がギルド持ち、と言うのは、金のないハンターが無理、無茶をして早死にしてしまうのを防ぐ意味と、十日以内に初心者ハンターが早死にする可能性が高いからだろう。


 「もしも他で家を借りるとしたら、相場はどれぐらいだ?」


 「似たようなもののはずだよ。ただ、商売するなら店の分の税金がかかる。売り上げの税金と店の税金、後は人頭税だな。ハンターならギルドで天引きだから、税金の事は考えなくてもやっていけるけどな」


 「なるほど。判った。その一軒家を世話してくれ。それと、武器を買える所を紹介してくれるか?」


 「あいよ。ちょっと待っておくれ。今、書類を作っちまうから」


 その後、手続きをしてくれた女性の案内で裏に回り、一軒家に案内して貰った。鍵は無く、表札らしきモノにはハンターギルドの名前が彫られているだけだ。


 家を空ける場合は貴重品は持ち歩くか、何処か、秘密の場所に個人的に隠すしか無いらしい。


 武器屋は大通りを越えた、一種の工場地帯と呼べる一角にあった。騒音がする仕事はまとめられた結果だそうだ。


 そこでギルドの女性と別れ、田中啓一たちは武器屋の中に入っていった。


 「ハンターか。どんなブツが良いんだ?」


 店に入ると店番らしき男が声を掛けてきた。壮年のガッシリとした身体の、いかにも肉体労働者と言える感じのオッサンだ。


 「どんな武器がある? まずは一般的なのを見せてくれ」


 「妙な言い方をするヤツだな。まぁ、よく売れるのはこの辺か」


 店の真ん中に広いテーブルが有り、店番はそこに青竜刀のような幅広の曲剣を置いた。


 「こいつにはどんな力が有るんだ?」


 「あぁ? 魔道具じゃ無いんだから、何か出来るって事は無いぞ?」


 「外で焼き払ってたデカ物が持ってた様なのは無いのか?」


 「ああ、そういうのは魔具工房の仕事だな。ウチじゃ扱ってねぇよ」


 「魔具工房なら手に入るのか」


 「まさかな。街の専属だからハンターの注文なんか聞いてくれねぇだろうぜ」


 「コンロの魔道具があるだろ? アレと剣を組み合わせて、高熱が出る剣とか作れねぇのか?」


 今までは山田功二が交渉に当たっていたが、此処で田中啓一が聞いてきた。


 「そんな高温なんか出したら、剣自体が直ぐにボロボロになるぞ。合わせる手間暇考えたら損にしかならねぇって」


 「そっかー。良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」


 「お前ら普段はどんな戦い方してるんだ?」


 「ほぼ力押しでバラしてる」


 「はー、ならこういうのはどうだ?」


 店番は一度溜息を吐いてからハンマーを持ってきた。柄が長く、握り拳を二つ並べた感じのハンマーとしての鉄塊が付いている。その叩く面。いわゆる平と呼ばれる部分に、目の粗い剣山の様なモノが装着されていた。


 「おー。突き刺すと同時に叩き潰す構造か。でも石なんかに当たったら一発でひしゃげ無いか?」


 「ああ、だから交換出来る様になってる」


 「こう言うのこそ、コンロと組み合わせるべきだよなぁ」


 「ああ、俺もそう思った。が、まぁ、魔具は扱いが難しいらしくってな。下手したら街の役人に目をつけられるって話も有る」


 「利権がらみかぁ。面倒だねぇ」


 「全くだ」


 武器屋の店番と田中啓一が意気投合している。山田功二は交渉の矢面に立たなくて楽だと思っているが、重要なキーワードも出てきているので気を抜けない状態が続いている。


 「で、どうするよ? 買ってくか?」


 「このハンマーいくらよ?」


 「こいつは二千五百だな。交換用の針先は一つ三百だ」


 「高っ!」


 「金属なんだからこんなモンだぞ?」


 「うわー。やっぱ鉄は品薄かぁ」


 「鉄だけじゃねぇ。木材、布、食料、何もかも品薄よぉ」


 「賑わってた様に見えたんだがなぁ」


 「賑わってたか?」


 「サーカスに屋台が出てて、人も多かった印象があるけど…」


 「ああ、税金が上がっちまって、店畳んで屋台にした連中だろ」


 「うわっ。世知辛ぇ」


 「で? どうするよ?」


 「今の俺らじゃ手が出ねぇ。もっと稼いでから出直すよ」


 「そっか。まぁ、ガンバレ」


 「応。生き残って買いに来るぜ」


 そして四人は店を出た。


 「でどうする? 魔具工房とかって所を覗いてみるか?」


 「いや、そろそろ日が暮れそうだ。家に戻って落ち着こう」


 井上智久の言葉で借りたばかりの家に帰宅する事になった。


 借りた家はギルドの裏なので、迷う事が無かったのは幸いだ。


 「げっ。ベッドが無い。石の床に雑魚寝するしか無いのか?」


 石造りの家でも、二階の床は木製というのは良くある。しかしこの家は二階の床も石造りだった。おそらく見えない所に金属か木で補強は入っているだろうが、全て石の板で構成されている場合もあり得た。これもこの街の特徴だろう。


 「清水はどうする? もう一つの部屋で寝るか?」


 「一緒で良い。襲撃禁止」


 「襲わねぇよ! 仲間内でそんな事したら、一生言われるじゃねぇか」


 現実世界で個人的に肉体関係を迫った場合、真剣に交際するから力ずくで口止めなど、いくつかの方法があるだろう。だが今は夢を見ている状態だ。実害があるのかどうかは不明だが、現実よりも害は少ない可能性もある。損害が現実よりも少なければ、口止めもあまり効果が無いと予想される。悪事千里を走る、と言う言葉もある。悪い噂や評判はあっという間に広まると言うことわざだ。同じクラス内なら一瞬だろう。


 「むぅ。魅力無い?」


 「面倒くさい事言わないでくれ!」


 などとほのぼのと時間は過ぎていく。


 予め買っておいた布に着替えの服を包み、簡単な座布団を作る。そしてリュックを壁に立てかけ、それを背もたれにすると、直接石に身体が触れないので冷える事は無くなった。


 「この夢の中で眠った事はねぇけど、俺たちって眠れるのか?」


 「時間経過の方も問題だな。此処で日を跨いだら、現実でも二日経ってる、ってのは勘弁だぜ」


 「夢の中で十六時間経過しても、現実では翌朝に目覚めたから、そこは大丈夫だと思う」


 「それよりも、此処の文明レベルが問題だな。ロボットとか、火炎放射器とか、魔具工房が独占してるみたいだしな。そして一般人には単なる剣とかハンマーしか無い」


 「俺らが持ってるショットガンとか、魔法の杖とかって、知られるとヤバイか?」


 「拘束。拷問」


 「ああ、拷問されたって、魔法の杖の作り方なんて知らねぇぞ。火薬は炭とか硫黄とか、後は硝石だっけ? 硝石ってのはどんな石なんだ?」


 「火薬もそうだし、夢の街の事もだね。俺たちから情報を引き出そうとしても無駄だろうけど、きっと諦めてくれないだろうから、廃人になる様な拷問も当たり前に続くかも」


 「ああ、此処の連中にとっては侵略者の情報って事になるのか」


 「ハンターとして活動する時は、槍とナイフだけで様子見か?」


 「それしか無いか」


 カーン、カーン、カーン、カーン。


 四人が話している時、外から鐘の音が聞こえてきた。急がせるような響きは無く、ゆっくりとした間隔で、落ち着いている音色に聞こえる。


 「なんだ?」


 田中啓一が開いている窓から外の様子を見る。すると、他の家の窓が次々と閉じられていくのが見えた。


 「なんか、皆、窓を閉めていくぜ?」


 「寝る時間って事じゃネ?」


 「イトミミズが出たからって感じでも無いよね」


 「窓閉めるのも、慌ててって感じじゃ無かったな」


 「じゃ。やっぱ、寝る時間って事か」


 「たぶん、街の門を閉じるんだろうね。警戒する人も減るから、一応締め切って安全確保って事かな」


 「壁の内側なら安心ってワケじゃ無いんだな」


 「俺らも寝るか」


 そして窓を閉め、暗闇になった中で四人は直ぐに寝息を立てた。


 それからどのくらい経過したのか判らなかったが、誰かがもぞもぞと動く気配に誰とも無く目が覚め始めた。


 横になれなかったので多少身体が固い感じがするが、身体を起こして手の平で顔を擦ると目が覚めてくる。


 カーン、カーン、カーン、カーン。


 外でゆっくりとした鐘の音がする。


 真っ暗な中、手探りで窓に行き開けると、まぶしい光が入ってきた。


 「う、眩し。朝かぁ」


 「なんか、ぐっすり寝たなぁ」


 あくびをしながら井上智久が呟く。


 「部屋の明かりを買っておかないとならないかな?」


 「ベッドが先じゃネ?」


 「ベッド。有るかなぁ?」


 「有っても木製だと高そうだよな」


 「マットレスとかも無いよねぇ」


 「布も品薄とか言ってたよな」


 「「「…」」」


 まだ快適な生活は過ごせそうも無いようだ。


 「さて、朝飯はどうする?」


 「腹減ってねぇし、食わなくても良いんじゃネ?」


 「お金もかかるし、この身体に悪影響があるかも、だしねぇ」


 「うぅ、試食ぅ」


 「清水、耐えろ。食うなら現実で起きてから食え」


 「うぅぅぅ」


 荷物をまとめてリュックを背負う。家を借りても、荷物を置いておけないと言うのは不条理を感じる四人だった。


 向かう先はハンターギルド。


 「遅かったな。他の連中はもう出ちまったぞ」


 ギルドの受け付けてくれた女性がそう声を掛けてきた。それに対して山田功二が答える。


 「旅の疲れが出たみたいだ。まぁ、二、三日は様子見のつもりだったしな」


 「無理をしないのは良い事だが、稼ぎも減るから気をつけるんだな」


 「判ってる。そんなに貯えも無いしな。で、大凡で良いんだが、此処ではどんな仕事を斡旋してるんだ?」


 「ああ、一番良いのは街の兵舎に行ってポットの手伝いってのがある。でもコレはコネが無いと紹介できない」


 「ポット?」


 「見て無いかい? 外でデカ物が歩いてたのを」


 「あの、丸いのに手足が着いたヤツか。アレがポット? 此処に来て初めて見たよ」


 「だろうね。此処じゃそこそこ使っているが、他には無いらしいからねぇ。街の兵隊がアレを動かして、その後ろで取りこぼしを始末する仕事が回ってくるのさ」


 「なるほど。じゃ、次に美味しいのは?」


 「他は似たり寄ったりだね。木こりの護衛や商人の護衛、街から指定された場所の討伐なんかもある。魔石を狩って金稼ぎってのは、此処の口利きの仕事じゃ無いが、買い取りはいつでも歓迎してる」


 「なるほど。で、護衛依頼は早朝に売り切れるワケか」


 「その通り。まぁ、あんたらじゃ、どのくらいやれるのか判らないからね。ギルドとしてもやり手が無い時ぐらいしか推せないよ」


 「ああ。無理に仕事を回せなんて言わない。少しの間は適当に回って魔石集めをするさ。おすすめの場所はあるか?」


 「ちょっと待ってな」


 受付の女性は席を立って、後ろの棚から大きめの紙の筒を取り出す。それを机の上で広げると、そこには周辺の地図が描かれていた。


 「此処が、このギルドから一番近い門。此処はポットの兵舎がある。判るか?」


 「このギルドはここら辺か?」


 「当たり。地図は読めるみたいだね。じゃ、この道を真っ直ぐ行くと岩山があるのは判るか?」


 「ああ、昨日見た。その奥に森があったな」


 「ん。しっかり判ってるな。じゃ、その森は近づかない方が良い。肝に銘じておきな」


 実は前日、田中啓一たち四人が出てきたのがその森だ。行くなと言われて不思議に思う。


 「何かあるのか?」


 「そこのプルートーは普通のプルートーとは違うのさ」


 プルートーという固有名詞に少し焦る。おそらくイトミミズの集合体の事だろうが、四人が見たのはその森のプルートーだけだ。


 「プルートーはプルートーだろう?」


 「そう思うだろうが、真面目な話し、本当に別物ってぐらいに違う。プルートーは四つ足の獣みたいな見た目になるが、その森のプルートーは獣のはらわたみたいな塊になる。見ているだけで気持ち悪くなる代物だ」


 もの凄く心当たりがあった。


 「倒し方も変わるのか?」


 「いや、バラして魔石を取れば細かくなる。それは変わらない。ただ動きが予想付かなくて、ベテランが何人もやられてる」


 「それは怖いな。判った、まだ様子見だしな、森には近づかない事にする」


 「それが良い。じゃ、このプルートーの原を抜けたここら辺の森が狩りには丁度いいかもな。三日程前に木こりが護衛連れて切り出しに行ったばかりだ。ほどよくプルートーが出来上がってると思う」


 「ありがと。じゃ、行ってみる」


 しっかりと地図を頭に入れてから、礼を言ってギルドを後にする。


 そして街の門を出て暫く。


 「アレって異常だったのかぁ!」


 周りに人がいないのを確認してから田中啓一が叫んだ。


 「確かに変な動きだったが、こっちのハンターにとっても変な動きだったとはなぁ」


 井上智久の言葉に、山田功二と清水咲恵も頷いている。


 「普通のプルートーってのがどんなのか気になるな。先ずは慎重に狩ってみないとね」


 「はらわたプルートーよりは倒しやすいんだろう?」


 「慣れの問題かも知れないから、油断は出来ねぇな」


 そんな事を話しながら歩を進める。そして轍の道とプルートーの原と言われた平原との間に一匹の狼のような獣を見つけた。


 「獣か? プルートーか?」


 マジックバッグから鉄パイプの槍を取り出しながら田中啓一が呟く。


 「リュックはどうしよう? 置いて戦う?」


 山田功二が少し狼狽えて聞く。夢の中の草原なら、夢見の街に戻れば道具類は補充できた。だから戦いの時には放り出して、終わったら拾うと言う余裕もあった。しかし今は簡単には補充できない貴重品だ。しかもプルートーの原というイトミミズの平原に置いておくのもはばかれる。


 「仕方ないな。魔法組で俺たち二人の荷物を持ってくれ。援護は魔法で」


 「ああ、それが良いな。肉弾戦は俺たちに任せろ」


 井上智久の案に田中啓一も乗る。井上智久は本来はガンナーなのだが、この世界では銃はあまり使いたくないのでそういう配分になるのは仕方ないと考えた。


 提案通りに山田功二と清水咲恵が田中啓一と井上智久のリュックを持つ。自分のリュックは背中に背負ったままだが、二つ目のリュックは鞄のように手に持った。

 二つ目のリュックは前面に抱えるように背負えば良さそうに思えたが、背中や肩にしっかりフィットするように形づけられているハーネスは、無理に背負うと動きを大幅に阻害するモノだった。


 空いた片手には魔法の杖を握る。山田功二が火の魔法で清水咲恵が水の魔法だ。


 そして田中啓一と井上智久が槍を持って狼モドキへと突っかかって行った。


 二人の持つ槍は、槍先が着脱式だ。着脱の仕組みがあるワケじゃなく、単にはめ込むのがキツいだけだ。なので振り回しただけでは抜けないが、突き刺した獲物の肉が締め付けてきた場合、槍先だけが突き刺さったまま残る事になる。


 槍先は注射針のように尖らせた鉄パイプだ。


 血液が流れる動物の場合は、かなりの出血を強いる事になる。


 だがプルートーは違った。


 突き刺しても筋肉が収縮しない。


 痛みを感じていないのだろうし、そもそもイトミミズの集合体だ。動くために形を作っているだけなので、切り裂き攻撃などは意味が無かった。


 「だー! こいつら切っても意味ねぇー!」


 「始めから判ってるだろー!」


 あまり意味のある攻撃が出来ていない事に二人が焦れ始めた。


 突き刺しても、叩き潰しても致命傷には至らない。全体の動きを止めたり、鈍らせる事は出来ても、それも直ぐに元通りになる。


 四つ足の獣状態のプルートーの動きは遅かった。日本の平均的な十歳児が全力で暴れて、噛みついてくる、と言う感じだ。もちろん油断すれば噛みつかれるだろうし、噛んだ所からイトミミズが侵入するかも知れない。だから油断できないが、それでも余裕が無いワケでも無い。


 なので鉄パイプを振り回しながら泣き言を言ったり出来ると言う状況だ。


 「二人とも! バラして魔石を取る! だよ!」


 山田功二が叫ぶ。


 「判ってるけどよぉ! 何処に魔石があるんだよ!」


 田中啓一も叫び返した。


 「あっ、心臓だ!」


 井上智久が思い出した。草原では熊の心臓を取り出すと魔石になった。


 「同じかは判らねぇが、草原の獣の魔石は心臓だった!」


 「そっか。なら狙ってみるか!」


 鉄パイプを振り回しながら田中啓一も答える。


 一度鉄パイプを真横に薙ぎ払う。その勢いを生かしたまま、大上段に持っていき、プルートーの頭を上から叩き潰す。潰したら、そのまま鉄パイプで押さえつけたままにする。


 「井上!」


 「応!」


 井上智久がうつ伏せ状に押さえつけられているプルートーの胸を横から突く。そこは四つ足の獣の心臓の位置だ。


 草原で何度も解体を行ったのでしっかりと判っている。


 ギンッ!


 鉄パイプが金属的な音を立てた。それを合図に鉄パイプで掻き出す。


 ポタ。


 イトミミズが数匹絡みついた魔石がこぼれ落ちた。


 同時に四つ足の獣の形をしたプルートーが動きを止め、徐々に細かくほぐれていった。


 「やったみたいだな」


 「ああ、熊よりも疲れた」


 息を整えている二人に代わって、清水咲恵が水魔法で小さな水の球を作り、魔石に絡みついたイトミミズを洗い流した。それを山田功二が手に取って魔石を入れる袋に入れた。


 「お疲れ様」


 と山田功二。


 「ホントだぜ。しかも終わってみればあっさり倒せる方法があったワケだからな。これは疲れる」


 「要領が判れば一人でも行けるか?」


 「どうだろ? 一人だと、やっぱ危ない賭けかも?」


 「今回のこいつの動きが特に遅かった、とかの可能性も未だあるしな。山ー。俺の槍を火で炙って消毒してくれねぇか?」


 「ああ、俺のも頼む」


 田中功二と井上智久の頼みで魔法を使い、炎をバーナーの様に吹き出させる。そこに二人は槍を突き出して炙っていく。


 ある程度納得出来た所で、タオルで拭いてからマジックバッグにしまい込んだ。そしてリュックを受け取って背負い直した。


 「槍はしまわなくても良かったんじゃ?」


 「次はナックルとナイフを使った格闘でやってみようと思ってな」


 「チャレンジャーだなぁ」


 元々田中啓一は格闘がメインだ。槍の戦いも楽しいが、やはり拳をぶつけないとフラストレーションが溜まると考える。


 そしてその機会は直ぐにやって来た。


 少しだけ歩いた先で、今度は二回り程大きなプルートーの獣型を発見した。


 「さっきのが狼型としたら、今度は熊型か」


 「くまがたって言い難いね。ウルフタイプとベアータイプとかは?」


 「どうでも良いって! やるぞ! リュックよろしく」


 田中啓一はリュックを放り出し、マジックバッグからメリケンサックを取りだして右手に構える。左手にはナイフだ。


 集中する。


 通常の獣としての熊は、その体重とそれを支える筋力が最大の武器だ。体当たり、前足での薙ぎ払い、噛みつき。それらがバイクの突進ぐらいの力で繰り出される。


 バイクにたとえたが、速度や排気量などはその時の熊の体勢や攻撃の繰り出し方、本気度などにより変わるので限定しない。ただ、人間を乗せて余裕で走り出す力を持つ機械と同等の力を生物が持っている、と言う脅威は伝わって欲しい。


 本来は熊のその武器を使わせない様に、離れた場所から銃で一方的に攻撃する、と言うのが確実な方法だ。


 草原で熊と戦った時も、四人は、いや、クラスメイトたちのほとんどは同じように遠距離から攻撃して生き残ってきた。


 その熊を相手に、田中啓一は拳とナイフで戦うと宣言した。


 本来なら無謀の一言に尽きる。


 しかし田中啓一は先ほどの狼型との戦いで、プルートーが擬態した獣は基本的に脆い構造をしていると考えた。


 槍で突き刺しても、槍先が肉に絡み取られることが無かった。機能を持った肉体構造では無く、単なる集合体だからだろう。ならば拳でもなんとかなる。殴った感触もそれなりにあるだろう、と期待した。


 そして突進して熊に迫る。先ずは突進力と体重を乗せた右ストレートだ。


 挨拶代わりの一撃を入れる。


 熊型プルートーは四つ足のまま、その一撃を額で受け止めた。


 そして拳はめり込み、手首まで入ってしまった。


 「でぇぇい! 脆い! 脆すぎる!」


 慌てて手を抜き、ナックルにこびりついた肉片状のイトミミズを払い落とす。


 「イトミミズの集合体だからねぇ」


 山田功二が何故がのほほんと呟く。


 「たぁぁっく! 骨のあるヤツはいねぇのかよぉ!」


 文句を言いながら回し蹴りを熊型プルートーに入れる。


 「なんか、動きが遅いな」


 槍を肩に担いで眺めていた井上智久が言う。


 「ああ。こいつ! 重すぎて動きが遅いんだ!」


 熊型プルートーの顎を下から蹴り上げながら田中啓一が言葉を返す。


 「あ、骨が無い、って事は無いから、実物よりも柔い骨しか形成出来なかったって事かぁ。だから動きが遅いんだ」


 山田功二が納得の言葉を漏らす。


 「余計ストレス溜まっちまう! 井上! 槍貸せぇ!」


 言われて井上智久は槍を熊型プルートーに向かって投げ、突き刺した。田中啓一はその槍を握って引き抜く。


 「往生せいやぁ!」


 熊の心臓目掛けて槍を突き刺し、斜めに傾けてから出来た隙間に腕を突っ込み、中から魔石を取り出す。


 槍をしっかりと握ったまま熊型プルートーの胴体を蹴って、田中啓一はその場から離れる。そして勢いよく、手に握ったイトミミズの肉片まみれの魔石を地面に叩き付けた。


 「だぁー。終わったー」


 田中啓一が肩の力を抜き、空を眺めながら大きく息を吐く。


 田中啓一は戦闘態勢を解除したが、他の三人はしっかりと周辺警戒を続けている。


 井上智久は熊型プルートーの残骸と周辺を。山田功二は後方を眺める。そして清水咲恵は地面に叩き付けられた魔石を水で洗い流している。


 「洗浄終了」


 清水咲恵が宣言して、他の二人も少しだけ警戒を緩めることが出来た。


 「お疲れー」


 山田功二が魔石を回収。槍は田中啓一と清水咲恵によって水洗いされ、井上智久に返された。


 「あー、もう、ここの奴らには手応えは期待できねぇな。次からはサクサク行く」


 田中啓一の宣言で、格闘戦闘はお蔵入りになった。


 更に進むと獣型プルートーが次々と出てくるが、どれも田中啓一と井上智久の槍で倒されていく。清水咲恵がそれを洗うために水を出す以外では魔法の出番は無かった。


 都合五体のプルートーを倒し、五個の魔石を得た所で、目的地である森の外縁に着いた。


 森の入り口には真新しい切り株が多く有り、此処で木々の伐採が行われていたことが判った。切り株の太さは大小様々だ。


 「なんか、森の周囲から手当たり次第伐採してるような感じだね」


 「森に入るのが怖いんだろ」


 「森の間伐とか植林とか、して無さそうだな」


 「余裕が無い世界での悪循環かぁ」


 山田功二が結論を言ってしまう。


 そもそも森に来ること自体が危険を伴い、間伐で大きくしっかりとした木に育つまで待つ、と言う時間的余裕も無いため、将来のことは無視して今の木材を得るために木を切り続けるしか無いのが現状だろう。


 日本にも『来年のことを言うと鬼が笑う』と言うことわざがある。明日の命も心配な時に、来年の事を心配しても意味はないだろう。と言う事で、余計なことを考えずに今をしっかりと生きろ、と言う言葉だ。


 そして目の前には、そのことわざの危うさが見えている。


 自分たちの命を大事にするのは良いが、無計画に森を切り続けた結果が見えている。


 「森が狭くなれば、森にいるのが溢れて出てくるよなぁ」


 田中啓一たちの目の前には、森から顔を出す獣たちの姿が映っていた。その数は十頭を超えているように見える。


 「あれはイトミミズかな? それとも森の動物さんたちかな?」


 「判らねぇが、手強い方で考えねぇとヤバイだろ」


 「野生動物の保護とかは…」


 「襲ってくるんだ。正当防衛だ」


 「ま、そんな保護団体はこの世界には無いだろうしな」


 「じゃ、ショットガン解禁だな」


 回りを見回して田中啓一が言う。場所は森の外縁。片方は森で片方は開けた平原だ。どちらも人の姿は見えない。


 リュックを背負ったまま、全員でショットガンを構える。森に対して扇型に展開し、互いの攻撃がかぶらないようにする。使う弾は一粒弾。イトミミズだったら爆散する効果が期待できる。


 そして。


 結果として二頭が野生の鹿みたいな動物だった。後の八頭はプルートーで、しっかり魔石を回収してある。


 「さてどうしよう」


 目の前に倒れている鹿を見ながら田中啓一が困ったをアピールする。


 野生動物だが、プルートーと近い位置で生きていた鹿だ。見た目は鹿でも中身の一部がプルートーに浸食されている可能性もある。浸食まで行かなくとも、寄生虫みたいに腹の中に巣くっている可能性もある。


 はたしてこの鹿を街に持ち込んでも大丈夫だろうか?


 更に、野生動物は保護して家畜として街で飼育する、と言う方針だった場合は? などの懸念もある。


 「俺は、持って帰って、詳しいことを門番のおっちゃんに相談するってのが一番だと思うな」


 「うん。何も知らない余所者のハンターなら、此処の流儀を知らない、ってのは言い訳にはなるか」


 「もし、街の人たちにとっても貴重なタンパク源だとしたら、持って帰りたいよね」


 「ご飯大事」


 と言う事で持ち帰ることになった。


 鉄パイプ二本を、槍先にした一回り小さい鉄パイプを軸にして繋ぎ、長い鉄パイプを作る。それに前後の足を縛った鹿を吊し、二人がかりで背負って運ぶ事にした。それを二頭分。四人で二頭を運ぶが、意外に苦労はそれほどでも無かった。


 「やっぱ、レベルが上がってるのか?」


 「夢の草原で獣を倒すより、こっちでイトミミズの塊を倒した方が、経験値高いんじゃネ?」


 「うん。そんな感じがする。俺なんか、直接戦って無いのに、レベル上がったみたいだしね」


 「ステータスチェック」


 肩に鹿を吊した鉄パイプが食い込んでいるが、苦も無く、片手操作でスマホが弄れる。


 そしてレベルは二十五まで上がっていた。


 「ここに来る前は十二とか十三ぐらいだったよな?」


 「こっちに来て倒したのって、イトミミズを二十体ぐらいだったか?」


 「効率良すぎるよね。もしかして、実はそれだけ危険な相手だったって事かな?」


 四人がそれぞれ驚愕する。そもそもこのスマホに表示されるレベル表記もあまりあてには出来ない。大凡の指針程度、と言う話しを陽平たちがしていたのを思い出す。それでもほぼ倍というのは大きな違いと感じる。


 「俺たちの力。ここに来る前の倍になってると思うか?」


 「そういう計算じゃ無いと思うけどな」


 「うん。初めて夢の街に来た時と比べれば、倍近くは強くなってる感じはするけど、街の外に出た時と比べるとそうでも無いと思う」


 「うーん。確かにそうだな」


 山田功二の言葉に、田中啓一が自分の手を握ったり開いたりしながらその感想を言う。


 帰り道では三体のプルートーと遭遇。三つの魔石を得た。そして街の門に到着。


 「やったじゃねぇか」


 昨日、ギルドへの道を教えてくれた門衛が鹿を見ながら褒めてきた。それを聞いてホッと胸をなで下ろす気持ちになる四人。


 「これって、このまま持ち込んでもいいのか?」


 「お? どう言う意味だ?」


 「こいつら、プルートーと同時に現れたんだ。腹の中が食われてねぇか心配でね」


 「知らねぇのか? ヤツら、人は食うくせに動物とかはあまり食わねぇんだ。一緒に出てきたのに食われてないって事なら、中も安全なはずだぜ」


 「へー。俺はプルートーと獣が一緒に出てくるのを見たのは今回が初めてだったから、そういうのは知らなかった」


 「ほう。そういう事もあるのかぁ」


 手を振り門衛と別れてギルドへ。


 ギルドでも褒めて貰えた。


 「コレは何処へ持っていったら良い? 仲介してくれるか?」


 「判った」


 ニコニコ顔の受付の女性に案内されて、中央通りを挟んだ反対側の建物に入る。受付の女性が声を掛け、奥から人を呼び、奥の解体場まで鹿を運んで下ろした。


 「どうする? 肉の一部は持って帰るかい?」


 「狩った者の特権ってヤツか。だが、今回は全部売る事にする」


 「良いのかい?」


 「顔と腕を売っときたいしな。あ、ああ、モモの肉を一塊貰おう。それはギルドで受け取ってくれ」


 「判ってるじゃねぇか」


 ギルドの受付の女性のニコニコ顔が更に破綻した様に見えた。


 やはり、肉はかなり貴重品なのだろう。


 借りている家に戻り荷物を下ろす。


 夕べと同じように着替えの服を布に包んだ座布団にリュックの背もたれで漸く一息着けた。


 「どう言う事だと思う?」


 井上智久が鹿がイトミミズに食われていないことを相談する。


 「たぶんだけど。魔力があるか、無いかじゃないかな?」


 「だから俺たちは良く襲われ、鹿は襲われなかった、って事か」


 伐採後の森でプルートー八体に襲われたことを話すとかなり驚かれた。伐採で溢れることはあっても、大進行でも無ければ二、三体がせいぜいらしい。逆に大進行の懸念を注意されて、少し問題になった程だ。


 「魔力があるから人が襲われる。魔力が無ければ襲われない。だから魔力の無い鹿は襲われなかった。じゃ、魔力のある獣は? …あ、そうか」


 「どうした?」


 「例え話だけど、魔力を持って魔法を使える獣がいたとして、レベルはそこそこ高くなるよね?」


 「まぁ、魔法の使えない獣は良い餌だろ?」


 「で、魔法が使えてもイトミミズはかなり手こずると思う」


 「火の魔法が使えるならそこそこ対抗出来そうだが、そうじゃ無ければ一方的にやられそうだな」


 「で、イトミミズはその獣を土台にして獣型のプルートーになる」


 「あぁ」


 「それを倒すと、経験値は倍以上あるんじゃないかな、って」


 「なるほど。俺たちの敵同士で共食いをした結果として、俺たちのレベルが上がったって事かぁ。一理はあるが、正直どうでも良い話しだな」


 「うん。俺も途中からそう思った」


 田中啓一と山田功二の会話は終わった。


 「そろそろ、俺たちの方針を考える頃じゃないか?」


 井上智久が言う。


 「単にハンターとして稼ぐためにこの世界に呼ばれた、ってワケじゃ無いよな」


 「この街の問題を俺たちが解決する、なんて感じでもないよな」


 「政治的な問題は人の意識まで変えないとならない場合があるから、かなり時間がかかるだろうしね」


 「俺はあのポットと呼ばれていたロボットが欲しい。アレがあればクラスの連中の探索もかなり進むんじゃないか?」


 「俺は此処の魔道具が気になる。コンロとか、明かりとか、下水処理機とか」


 「試食」


 「「「それはやめとけ」」」


 「うぐぅぅ」


 「とっかかりとしては魔具工房からか」


 「とりあえずそこそこ儲かったから魔道具の一つも買ってみるか」


 そして一度ギルドの受付の女性の元へと行き、適当な魔道具の店を聞く。その時はかなりホクホク顔で喜んで教えてくれた。


 此処での肉の魅力はかなり強いらしい。


 この街の店は基本的に民家と佇まいが同じで、看板や店名表示などは一切無い。扉を開けて中に入らなければ店なのか民家なのかさえ判らない。いや、入っても区別がつかない場合もある。


 此処の住民にとっては客と店はどちらも生まれた時から顔馴染みで、何処の家がどんな店なのかは知っていて当たり前だ。知らなくとも知り合いに聞けば紹介して貰えるので簡単に判る。

 新しい店などはそうそう出来ないし、店の規模が変わるぐらいなら直ぐに口コミが広がる。


 小規模な村なら当たり前の現象だが、そこそこの街に見える此処でもその慣習が残ったままなのは、新しい人間が入ってこない証拠だろう。


 それは閉鎖された社会で、新しい住民を受け入れる余裕がないと言う証拠でもある。


 ハンターギルドは、閉鎖社会の中であぶれた人間を受け入れる数少ない場所でもあるようだ。


 だがその所為で、ハンターはあまり一般の店では評判が悪いらしい。


 特に食品関係は顕著で、肉はハンターに頼るからニコニコ顔で買い取ってくれるが、野菜類は一見さんお断りを名目に売り渋りされるらしい。


 ハンターのおかげで街の安全が確保されているのだが、『それはそれ、これはこれ』と言う反応らしい。


 街が住民から取っている税金も、防衛費を名目に増税されているし、不満の矛先が街の兵隊よりも、民間のハンターに向くのも仕方ない事だと受付の女性は教えてくれた。


 それ故に、受付の女性が教えてくれた店以外に行くのは、当面はやめておいた方が良いと忠告された。


 本当なら、田中啓一たち四人にも街の住民からの洗礼を受けさせるつもりだった、と言われたので、肉を渡しておいて良かったと考える四人だった。


 案内された店で女性と別れ、四人だけで店に入る。


 「見ない顔だな」


 「ハンターギルドの紹介で来た」


 「そっか、何が欲しい?」


 店の中には大きめのテーブルの上にいくつかの道具類が置いてあるが、基本的に受注販売の様だ。


 対応してくれている男は痩せ型の壮年で、いかにも技術やと言う感じの、道具類を入れるポケットの付いた前掛けをしている。


 「この街に来たばかりなんだ。で、家を借りたんだが、明かりもなければコンロもないという状況でな。一通り便利そうなのを見せてくれるか?」


 「おう。先ずは明かりか」


 見せてくれた明かりの魔道具は、地球で言えば灯油を使ったランプに似た、傘の付いた吊り下げ型のランプだった。


 これは、かつては灯油などが使われていたのかも知れない。


 「此処を開いて、魔石の欠片を入れる。これぐらいの魔石で朝の鐘から、日が天辺に行くぐらいの間灯っている。夜だったら、日が赤くなってから寝るまでの間は充分持つ」


 見せてくれたのは砂利ほどの大きさの小さな欠片だった。


 「魔石の欠片は何処で手に入るんだ?」


 「ハンターだろう? 自分たちで砕かないのか?」


 「ああ、金が欲しくて全部売ってしまったんだ。だから明かりの分だけを買っておこうと思ってな」


 まさか自分たちで乱暴に砕けば良いとは考えていなかった。なので慌てて誤魔化す。


 「そうか? けっこう行き当たりばったりだな。まぁ、魔石は此処でも売ってる。この欠片が二十入った小袋で三百だ」


 夢見の街の換金レートで二万円ぐらいだ。現代日本ではなく、中世のような生活スタイルで家庭の光熱費としては高いと感じた。


 「高くないか?」


 「魔石も品薄なんだ。まぁ、何処の家でもこの小袋で六十日ぐらいは持たせてる。明かりだけじゃなくコンロとかも含めてな」


 「コンロだったらどのくらい使えるんだ?」


 「ん? 同じだぞ?」


 「そうなのか? 今まで魔石は別々に使ってたから気付かなかったな。ほとんど親に任せてたし」


 まさか単なる明かりと煮炊きのコンロが同じエネルギー効率とは思わなかった。この誤魔化しは通用するか不安に思いながら言う。


 「あー。まぁ、そうだろうなぁ。子供に任せたら無駄遣いしちまうか」


 「あんなことにならなければ、今頃は教わってただろうけどな」


 「あぁ…」


 意味深風に言うと、勝手に察してくれた。


 「このランプはいくらだ?」


 「この新品だと千二百ジェル。中古の整備品だと九百五十ジェルだ」


 「やっぱ高いなぁ」


 「金属は魔石よりも品薄なんだ。これでも儲けは無いも同然なんだぜ」


 「一般的なコンロの方も見せてくれるか? 値段次第だが両方欲しいと考えてる」


 「あいよ」


 出してきたのは、屋台で鍋を乗せていた四角いプレートと似たような物だった。地球的に言えばポータブルの一口IHコンロという感じだ。それよりはやや厚みがあるが、鍋を載せても安定感は損なわない厚さと言う程度。


 「こいつは新品で二千ジェル。中古はあいにく手持ちがないんでこれだけだ」


 プルートーが約四頭分。夢見の街の換金レートで十万。それで買えるのが一口のポータブルIHコンロ。現代日本の金銭感覚だと高く感じるだろう。


 「中古ってのは、どうやって手に入れるんだ?」


 「使うだけなら一生モンだしなぁ。長く使って調子が悪くなってもウチに持ってくれば掃除と手直し程度で直ぐ使える。だから、家の一家が全員おっ死んじまうとか、金が必要になって売りに出す、ってぐらいか。前の税金上がった時とか、大進行の時とかにいくつか出回ったな。今はそれもハケて落ち着いたがな」


 「直ぐに売り切れるモンなのか?」


 「店畳んで屋台にするヤツらが、外で使うのを欲しがったからな。だから中古が直ぐにハケた」


 「なるほど。税金が重くのし掛かるな」


 「ああ、あー、それは、あんまり大きな声で言わない方が良い。街の連中もピリピリしてて、いつ火が付くか判らねぇ。んで、兵隊たちもそういうのを取り締まりするって噂も出てきてる」


 「そういう事をしても意味ねぇし、抑え付けたら其の方が後々の反発が強いってモンなんだがなぁ」


 「だな。まぁ、プルートーを全滅出来れば解決なんだが、それが出来ないから悪あがきしてる、ってのは判るんだがなぁ」


 「それに尽きるか」


 街の住民の、ある程度の本音が聞けたので、情報収集はこの程度で良いかと切り上げる方向に変える。


 「わかった。コンロと明かり、両方とも新品でくれ。それと欠片を一袋」


 「まいど! 丁度三千五百だ」


 店主がテーブルの上に乗せてあったコンロとランプをツイと前に押し出す。その上に魔石の欠片が入った袋を乗せる。


 山田功二は田中啓一に合図をして、料金を出して貰う。


 この世界には、梱包も包装も店名が入ったシールも無い。なのでそのまま現物を持ち帰れば良いだけだ。


 「あ、そう言えば此処は魔道具の店だったよな」


 「お前ぇは今何を買ったんだ?」


 「いや、魔道具なら、外を歩いていたデカ物の事も知ってるんじゃ無いかと思ってな」


 「ああ、あれか。あれは魔具工房が独占してるから、俺ごときには判らねぇって」


 「あの、…ポット、だったか。あれって人が乗って動かしてるんだよな?」


 「らしいな。あれを動かすのに魔石を一つ丸ごと使うらしい。しかも、朝から夕まで動かすと二つは使い切っちまうって話しだ。そして中に入ったヤツが腕を動かそうと思うと、それだけで腕が動くって仕組みらしい。どうなってやがるんだか」


 「実際、あれでプルートをなんとか出来るのか?」


 「…大きな声じゃ言えねぇけどな。あれぐらいじゃ地面の下で眠ってるやつしか掃除出来ないらしい。街の近くで動き回るようなのが生まれるのは防いでくれているから、意味が無いとは言わねぇけどな」


 「普通にハンターたちで燃やして回った方が効率的なんじゃないか?」


 「あ? 知らねぇのか? ヤツらの脂は燃えるが、燃やそうと思ったらけっこうな量の薪が必要になっちまう。デカ物の持つ炎槍じゃないとなかなか燃えないぞ?」


 「え? そうなのか? デカ物は軽々と燃やしてたから、燃やす手段があるんだと思ってた」


 「人が持てる炎槍がありゃ良いんだがなぁ」


 「炎槍みたいな事が出来る魔法でもあればなぁ」


 「へっ。今時、魔道具にそこまでの夢見るヤツなんて、子供でもいないぜ」


 「俺は夢見るハンターなんだよ」


 「はっはは」


 受けたらしい。


 その後、買ったランプとコンロを持って、田中啓一たちは借りている家へと戻った。


 「高く付いたが、手に入ったし、山のおかげで色々判ったな」


 田中啓一がリュックを背もたれにして言う。


 「早速ランプをつけてみよう」


 井上智久がランプを開けて中に魔石の欠片を入れる。すると、ぼんやりとした明かりが灯った。


 「なんだこりゃ?」


 「真っ暗闇の中で使えばそれなりに使えそうだけど、ロウソクにも負けそうだな」


 「夜中にトイレに行く時ぐらいしか使い道無いって感じかな?」


 「夜は寝るのが基本」


 「お日様と共に起き出して、お日様と共に寝る、だっけか?」


 「どうだったか知らんが、昔は何処でも当たり前の生き方だったらしいな」


 「明かりは判った。コンロはどうだ?」


 そこでコンロを運んできた田中啓一が目の前の床に置いて、魔石を入れる蓋を開ける。そこに魔石の袋を持っていた井上智久が欠片を一粒入れる。


 すると何らかの力を感じるのだが、コンロ自体に変化は無かった。


 「動いてるのか?」


 田中啓一がてを出して触ってみようとする。


 「待て、触るな。IHみたいなモノだと、見た目では判らないかも知れん」


 「おっと、そうだな」


 慌てて引っ込める。


 「何かないかな」


 山田功二がリュックを漁り、中からメモ帳を取り出し一枚破く。


 その破いた一ページをコンロの上に乗せると、少し動いた後に燃えだした。


 「へぇ。原理は不明だが、一応高熱を発生させてるみたいだな」


 「高熱を発生させているのか、高熱にしているのか、ってのはあるが、まぁ、煮炊きには使えそうだな」


 「ん? どう違うんだ? 発生させているのと、高熱にしているのとって」


 「発生させてるってのは、電熱ヒーターとか、灯油や薪のストーブを想像してみろ。火が直接当たらなくとも、上に置いておくだけで燃え出すだろ。高熱にしているってのは電子レンジとかIHコンロとかだな。電磁波を使って対象物を高熱にする仕組みだ」


 「自分が燃えて熱を出すか、対象物が発熱するようにする違い、って事であってるか?」


 「大正解だな。だが、まぁ、俺が言った方法以外の理屈の可能性もあるけどな」


 「ああ、魔法の道具だもんな」


 田中啓一が納得した所で井上智久はコンロから魔石を取り出す。すると、コンロから出ていた妙な雰囲気も消えた。


 「なぁ、今、コンロから魔法の力みたいな、なんかの力っぽいのが出てなかったか?」


 「あ、やっぱそう? 俺も感じてた」


 井上智久の感じた事を山田功二も肯定した。


 「推定。魔法の杖と同様」


 「清水は魔法の杖も同じような力出してるのを感じたんだ?」


 「肯定」


 「じゃ、原理は魔法の杖と同じって事か?」


 「だとすると、俺たちの魔力でも起動するって事になるな」


 「やってみるか?」


 「物が高熱を出すコンロと光を出すランプしか無いからやめてくれ。ここで火事とか出すのは勘弁して欲しい」


 「ああ、借り物の家だしなぁ。じゃぁよぉ。草原で狩った熊の魔石を使って見る、ってのはどうだ?」


 「なんとなくだが、此処の魔石よりも強力な気がするのは俺だけか?」


 「俺もかなり危険だと思う」


 「同意。危うい」


 田中啓一の試みは全会一致で却下された。


 やるなら外で、出来るなら陽平のところの生産組に見て貰いながらやるべきだという話しに落ち着いた。


 「まぁ、とにかく、俺たちが使っている魔法の杖と原理的には違わないってワケだ。それなのに魔法の杖が無いのはどう言う事だ?」


 「あのデカ物…、ポットってのが使ってた炎槍? あの火炎放射器って魔法の杖なんじゃ無いかな?」


 山田功二の意見に皆が頷く。


 「無いワケじゃない。使ってはいるが、それが魔法の杖とは認識出来ていないって事か」


 「魔法の杖の場合、使ってる人のイメージで力とか性質が変わるから、そういうイメージが無かったとか?」


 「あり得るな。俺たちだって、それが魔法の杖だと言われて、映画とか物語の中で魔法の媒介として使われているのを参考に使ってるワケだしな」


 「うん。単なる棒を持たされて、何も言われなければ、棍棒代わりにしか使わないよね」


 「「確かに」」


 山田功二の意見に二人が納得。清水咲恵も感心していた。


 「どうする? それを此処の連中に教えるか?」


 「教える相手がなぁ…。魔具工房って、情報秘匿して利益独占してるんだろ?」


 「それ自体は悪いことじゃないけど、結局は街を危険に晒してるだけだしな」


 「そういうのって普通は街の長とか、領主とか、国王ってのが管理するモンじゃないのか?」


 「この街で住民から税金を取ってるヤツがいる、ってのは聞いてるが、国とか組織とかってのはぼんやりしてるよな。街の兵隊ってのはいるらしいが」


 田中啓一と井上智久の掛け合いはドンドンと核心を突いていく。それを山田功二がかなり鋭くまとめる。


 「俺たちが街と呼んでるのが、実は国なのかも。他の街を侵略して物資を奪う余裕が無くて、守り続ける事で成り立ってるとしたら?」


 「あのイトミミズがそこら中にいる世界だしなぁ。他の街を攻めようと外出たら全滅なんて、けっこう簡単に想像出来るな」


 「そんな中で、他の街との交流がなんとかなってきた、ってのがこの世界の現状か」


 「たぶん、他の街との交流も手探りの状態を出ないんだろうね」


 カーン、カーン、カーン、カーン。


 そこで街の鐘がゆっくりと鳴った。いつの間にか回りは暗くなっていた。


 「もうそんな時間か」


 井上智久がランプに魔石の欠片を入れる。それを見た田中啓一が窓を閉める。


 部屋は真っ暗になったが、ランプのおかげで部屋の輪郭と四人の様子はなんとかとわかる。


 「最低限の役割は果たしてるか」


 「寝る最後の準備だけなら充分そうだな」


 「じゃ、おやすみ」


 「就寝」


 四人はリュックに寄りかかって座った恰好のまま眠りについた。


 カーン、カーン、カーン、カーン。


 次の日も朝の鐘で目が覚めた。


 窓を開けると日が眩しい。


 「今日も鐘まで寝ちまったなぁ」


 「ハンターギルドはもう仕事を割り振っちゃった後だろうね」


 「この街の連中は、真っ暗にして、どうやって早起きしてるんだ?」


 「習慣なんだろ。ある意味命がけの習慣かもな」


 「普段からそんなギスギスしてたら早死にしそうだな」


 「今日死ぬよりも十年後に死ぬ方を選んでるだけだろ。ほら、荷物まとめろ」


 昨日買ったランプは清水咲恵のリュックに。コンロは山田功二のリュックにしまった。それ以外にも尻に敷いていた着替えを布にくるんだだけの座布団も各でしまわなければならない。だが出していた荷物はそれで全てだ。いつ元の世界に戻されるかも判らないし、街を逃げ出す可能性もあるので、全ての荷物は持ち歩くしかない。


 ちなみに四人とも、この世界に縛られて二度と元の世界に戻れない、と言う可能性は完全に無いと思っている。


 四人は前日同様リュックを背負いハンターギルドへと向かう。


 ハンターギルドには受付の女性しかいないと思っていたが、今日だけは他の男達が五人程いる。一人は受付の女性と話しをしている様だが、他の四人は少し離れたテーブルの所で椅子に座って寛いでいる。


 おそらく他のハンターなのだろうと推定し、そのハンターたちの装備や立ち振る舞いを眺めてみた。


 男達の服はそれぞれ違うが基本は作業着風だ。街の住民の服装も差異はあるが似たような感じなので、普段着を流用しているのだろう。それでも所々に補強として当て布が縫い付けられている。もしかしたら破れた所を縫っただけかも知れないが。


 得物は長い柄のハンマーと細身の長剣のようだ。鞘に収められているので詳しくは見えない。更に隠している武器が無いとも言えず、どのような戦闘スタイルになるのか興味を持った四人だった。


 とりあえずとして、山田功二が受付の方面に向かう。


 受付の女性とハンターの男が一人、打ち合わせを行っているその直ぐ後ろに立つ。


 「今日もまた森へ行くかい?」


 ハンターの男との会話を切って、山田功二に話しかけてきた。


 「向こうから出てきてくれないと狩れないぜ」


 「判ってるよぉ」


 と言ってもニコニコ。昨日の肉は美味しかったらしい。


 「ああ、そうだ。近いうちに此処のハンターを紹介してくれないか?」


 「ハンターを? 何をやる気だい?」


 「何をやるとかじゃ無くてな。此処のハンターにひっついて、一日の仕事の流れを見てみたいんだ」


 「なんだい、そりゃ?」


 「此処の流儀ってヤツがあるはずだろ? 此処の連中にとっては当たり前でも、俺たちからしたら何でそうなる? ってやり方もあるはずなんだ。おそらく此処の連中には気付かない違いかも知れないからな。一日張り付いてじっくり見ておきたいんだ」


 「妙な事気に掛けるねぇ。そんなヤツいるかい?」


 此処で受付の女性が、目の前にいたハンターを見上げる。するとそのハンターは両肩を上げて手を広げた。


 「確かに珍しいな。だが、言いたいことは判る。俺も元は流れて来た口だからな。だが、新人ならぶつかるのも経験なんじゃねぇか?」


 「それで良いなら、それで良いんだ。だが、下手にぶつかって、謝っても許して貰えない事態になるのがヤバそうだなって」


 「あるか? そんな事?」


 ハンターの男は受付の女性と顔を見合わせる。女性も首をひねって見せる。


 「例えば、街の兵隊と揉めるとか、魔具工房と揉めるような事になるとか」


 山田功二が例え話を出すと、二人は思い出したかのように納得の表情を見せた。


 「ああ、そうだった。基本的に俺たちは近づかねぇが、ああ、そうだな、知らずに近づいて揉めると拙いな」


 「そうだね。少し前から兵隊たちの雰囲気がおかしくなってきたから、あたしらは当たり前に避けてたよねぇ」


 「だな。まぁ、コネのあるヤツは仕事貰えるようだが、そうじゃ無いと関わるのは拙いな」


 「要は兵隊たちとは関わるなってのが第一なんだな? それは判ったが、少し前からって事は、前はまともだったのか?」


 山田功二が情報を引き出そうとする。


 「街が税金を上げ始めた頃から妙になってきたねぇ」


 「ありゃ、ケーネスが引退して息子が後を継いだって話しだ。だから息子が好き勝手やってるらしい」


 「そうなのかい? それは初めて聞いたよ」


 「兵隊たちも口止めされてるみたいだしな。俺はジルドに聞いた」


 「ああ、ジルドはポットの取りこぼしを始末するのに行ってるからねぇ」


 「でだ、その所為で兵士たちも不満を持ってるのと、喜んで従ってるので別れてるってよ。しかもケーネスの息子が従ってる連中を取り巻きにして集めてるって話しだ」


 「じゃ、こっちの門でポット使ってる兵隊は…」


 「ああ、兵隊の中でもあぶれた連中って事らしい。でもまぁ、兵隊は兵隊だしな。ピリピリしてんのは変わらねぇ。あぶれた腹いせにハンターに八つ当たりしてるのもいるって話しだし、関わらねぇ方が良いのは変わらねぇ」


 受付の女性とハンターの男のやり取りから詳しく状況が判った。おそらくだが、受付の女性が田中啓一ら四人にも判りやすい様に誘導してくれたのだろう。


 「なら俺たちは、落ち着くまで暫くは、地味に狩りだけを続けた方が良さそうだな」


 「だね。落ち着いたら教えるよ」


 「頼む」


 「なぁ、この話は他のハンターにも知らせて良いかい?」


 受付の女性がハンターに聞く。


 「来たばかりのヤツなら知らないだろうが、たいていは知ってるとは思うんだがなぁ…」


 ガガッ! ドーン。


 ハンターのセリフの途中で、大事を思わせる音が外に響いた。


 女性は驚き固まっていたが、ハンターの男は部屋の中を見回してから急いで外に出た。


 田中啓一らは驚いたがその音が、此処の住民にとって発生源の判っている音なのか、それとも未知の音なのかの判断ができない。なので女性が説明してくれるかどうかの判断待ちをする事にした。


 外に出たハンターの仲間たちが椅子から立ち上がり、女性の近くに歩いてくる。しかし何も言わないのは、外に出たハンターからの情報を待っているのだろう。


 「プルートーが押し寄せてる!」


 外を見てきたハンターがギルドに入るなり叫んだ。


 「何だって!? 大進行はこの間…」


 「規模はまだ判らねぇ! 他の門からの情報もまだ入ってねぇ。だが、此処の門のポットが弾き飛ばされたらしい」


 「も、門は?」


 「直ぐに閉まった。街には入られてねぇ。だが。と、とにかく……」


 カンカンカンカンカンカン。


 そこで連続の鐘の音が響き渡った。


 「漸く鐘が鳴ったか。とにかく締め切っとけ」


 そう言うとハンターは仲間も一緒に外を駆け出していった。


 「あ、あんたらも、家の戸締まりして、鐘が鳴るのを待ってな」


 焦りながらも受付の女性は田中啓一らにそう声を掛けた。


 「こういう時、ハンターは街を守るために動き、ハンターギルドはそれを支援するとかは無いのか?」


 「あ? ああ、それが理想っだって話しはあったね。だけど、戦うのは兵士の役目さ。そのために税金を払ってる。もちろん手慣れているハンターが戦うのは良いさ。だがそれで兵士の邪魔をしちゃ悪い結果になる場合もある。そんな事になりそうになったら、兵士から殺されることになるからね」


 「そうか。とりあえず家の戸締まりをしっかりとする事にする」


 「それが一番良い方法さ」


 田中啓一らはハンターギルドの建物から追い出された。女性は戸締まりのために走り出している。


 「さて、どうする?」


 「戸締まりはしっかりしてから出てきたしな」


 「街の中の様子を見てみようか?」


 「状況把握」


 四人はゆっくりと街の中を歩く。しかし既にほとんどの家は戸締まりを終えているようだ。野外には人は居らず閑散とした雰囲気が漂っている。


 「なんか、イトミミズの襲撃に慣れてるって感じだな」


 「襲撃されても、分厚い壁と頑丈な戸の奥で震えて、終わるのを待ってるってワケか」


 「襲撃、終わるのか?」


 「知らねぇ。だけど、地面が石畳だとイトミミズにとってはあまり良い環境じゃ無いのかもな」


 「獣型の歩き回るヤツは残るんだろうけど、それも待ってればいなくなるのか?」


 「そういうのを兵士が倒して回る、にしては、兵士の数が少ないような?」


 「あれ? そう言えば、ここまで兵士を一人も見ていない…」


 山田功二のセリフに他の三人も凍り付いた。


 「何処か、全景を見回せる高い場所とか無いか?」


 「家はそれぞれが皆閉め切ってるぞ」


 「外壁しかない?」


 「外壁はそれこそ兵士たちが戦ってる最前線だろう?」


 「それならそれで良いから、見に行った方が良くないか?」


 最後の井上智久のセリフで皆が頷き、全力で外壁へと走り出した。


 走る速度は田中啓一だけが一人突出しているが、先行して交差点ごとに立ち止まって周囲を確認してから走り出すので三人はしっかりとついて行けている。


 そして外壁に着いたが、門は閉じられており、通用口の戸も閉じられている。


 「なんか、静かじゃネ?」


 「イヤな予感しかしねぇ。どっか、入れるトコとかねぇか?」


 井上智久と田中啓一が外壁を見て呟く。


 山田功二は一応のつもりで通用口の戸を引いてみた。


 「あれ?」


 戸は簡単に開いた。


 中を覗くが、やはり無人だ。


 通用口の戸から中は二方向に通路が延びている。外壁の外へと向かう通路と、外壁に沿って進む横方向への通路だ。


 「上の方に行ける階段とか無いか?」


 山田功二の後ろから田中啓一が聞く。


 「ここからじゃ判らないけど、外に向かう方の通路に分岐があるみたい」


 「ならさっさと行ってみるか」


 四人は通用口から外壁の中に入り、通路を進んだ。山田功二が見た分岐は、通用口に詰める兵士の詰め所みたいな部屋だった。


 「こっちはハズレか。戻って、もう一方の通路を探すか」


 「待て。どうせここまで来たんだ。この先から外を覗いてみないか?」


 「ヤバイだろう?」


 「ヤバイが、どうせ遅かれ早かれだ」


 「ちっ、時間が惜しい、見るだけにしておけよ」


 無駄な口論の時間を惜しんで、田中啓一は決断した。だが全員でリスクを取る必要も無いと、覗くのは井上智久のみ。直ぐ後ろに田中啓一がサポートに着くが、山田功二と清水咲恵は少し離れた所で火と水の魔法の準備と言う事になった。


 いざという場合は二人を火で炙って、水で消火すると言う荒技だ。夢見の街で買った治療薬はあるが、どの程度効果があるのか不明のままなので行き当たりばったりな作戦だ。


 通路を進み、外壁の外へと出る戸に到着。一応かんぬきが掛かっているのでそれを外し、ゆっくりと戸を開ける。


 そこは未だ門の内側だった。


 外が見えないわけでは無いが、しっかりと外を確認するためには、通用口から出て、更に門の外に出ないと判らない。


 「ちっ」


 井上智久は舌打ちしてから通用口の戸を全開にし、状況を田中啓一にも見せる。そしてそのまま門の外側へと走っていく。


 そして井上智久は見た。


 獣型では無い、内臓型のプルートーの集団を。しかも内臓型プルートーは大きさも人間の背丈を超えるぐらいの高さになっている。


 外壁の外側はプルートーの平原になっている。基本的にイトミミズ状態のプルートーが地面の直ぐ下に巣くっていて、上を通りかかる生き物に襲いかかる。


 それは、内臓型プルートでも同じらしい。


 内臓型プルートーは触手を振り回しながら、地面から伸びるイトミミズと戦っていた。


 このまま放っておいても街は襲われないか?


 井上智久は都合の良い願望を想像した。しかし現実は非情なようだ。地面のイトミミズと戦っている内臓から伸びた触手は、地面のイトミミズを取り込んでいる。


 戦っているように見えたのは、生存競争では無く、主導権争いでしかないようだ。


 井上智久が見ている間も、取り込まれたイトミミズの分だけ、内臓型プルートーは大きくなっているようだ。


 最悪を想像すると、外壁を越える程に成長するかも?


 井上智久は背筋に氷を入れられたかのような震えを感じた。


 手を振り、田中啓一を呼ぶ。すると三人全員が走ってきた。田中啓一だけで良かったのだが、確認だけなら全員でした方が良いだろうと思い直す。


 そして三人にも見て貰う。


 「これ見て街の兵士は逃げ出したのか?」


 「まぁ、気持ちは判るな」


 「俺たちの魔法の炎なら駆除できるかな?」


 「あ、ああ、そう言えばデカ物が火炎放射器を持ってたよな?」


 「見えないか? ほら、あそこの地面のイトミミズを取り込んでる内臓の向こう側」


 井上智久の言った場所を見る。そこにはポットと呼ばれるカプセルロボットが半壊して横たわっていた。


 「カプセルの上半分が無くなってるな」


 「少し遠いからよく判らねぇが、あのカプセル、脆そうだな」


 「手足も構造が剥き出しだし、接近戦とか考えて無さそうだね」


 「移動砲台」


 「もったいない使い方だよな。いや、そういう使い方しか出来ない物って事か?」


 「あの火炎放射器、俺らに使えねぇか?」


 「他のポットはどうしたんだろ?」


 「良く見てみろ。他のも転がってるぞ」


 内臓型プルートーの足場になっていたり、地面のイトミミズ型プルートーに半分以上埋まっていたり、言われてしっかり見ると四機のポットが破壊されて横たわっていた。


 それは搭乗者四人の死を意味する。


 「四人の遺体とか見ることになるのかな?」


 「もっと最悪のことを考えろ」


 「え?」


 「魔法を使う獣をプルートーは襲って、獣型プルートーになる」


 「え? で、でも、人間に魔石は…」


 「魔石は無くとも、人間は魔法が使える」


 「更に、デカ物には魔石を丸ごと使うから、予備とかも持ってるだろうしな」


 「……」


 山田功二は、田中啓一と井上智久の想定に何も言えなくなってしまった。


 目の前で地面のイトミミズを取り込んでいる内臓型プルートーは、ポットの搭乗者の成れの果てと考えられた。


 「確か、ポットの後ろに控えて、ポットの火炎放射器の取りこぼしを始末するのにハンターが雇われてるって…」


 「しっかり逃げてりゃ良いんだがなぁ」


 田中啓一の投げやり的な言い方に絶望を感じた。


 「で、どうする?」


 「なにを?」


 「俺たちで戦いを挑むか? それとも逃げるか?」


 「…」


 田中啓一が一番考慮しなければいけない事を提起した。そして四人全員で黙り込む。


 「俺としては、まず、俺たちの力が通用するか試してみたいな」


 「俺も一当たりして、ヤバそうなら逃げる、に一票だな」


 井上智久が言い、田中啓一も賛成する。そして問題は二人だ、と言う顔で二人を見る。


 「俺は、この街の人たちに少しでも希望を上げたい」


 「全力戦闘上等。そのために此処に来ている」


 「お、おう…」


 山田功二の方は想像が付いたが、清水咲恵の戦闘狂なセリフは意外だった。いや、心のどこかで否定したかったのかも知れないと、田中啓一は思い直す。


 「清水は食いしん坊キャラじゃ無かったのか」


 井上智久が感心して言う。


 「食いしん坊キャラ…」


 言われた清水咲恵はその言葉を繰り返して考え込む。


 言った井上智久は、嫌がらせになってしまったのかと少し焦った。


 そして清水咲恵はにっこり笑ってサムズアップした。


 「「「いいのかよ!」」」


 清水咲恵のことがますます判らなくなる三人だった。


 戦うと言う方針が決まった。そして戦闘は火の魔法中心。しっかりと火が付けば勝手に燃え続けてはくれるが、それは四人にも危険な状態を作ってしまう。なので清水咲恵だけは水の魔法で消火担当となった。


 目標は動くポットを探す事と、長さ二メートルはありそうな火炎放射器が生身でも使えるか試す事。


 注意すべき点は、獣型よりも素早いだろうと言う点と、大きくなったために力も強くなったであろう、と言う二つ。


 「良し、しっかりと逃げろよ」


 田中啓一の合図で四人が飛び出す。


 先ずは一番手前で横たわっているポットが目標だ。そのためには、ポットの手前にいる内臓型プルートーを倒さなければならない。


 内臓型プルートーは血管が張り巡らされている腸や臓器の無秩序な塊だ。そこから細い腸の様な、血管の様な、神経の様な触手が伸びる。

 獣型プルートーは心臓の位置に魔石があり、魔石を壊したり取り出したりすれば形を維持できずにイトミミズ状態に戻る。しかし内臓型プルートーは無秩序な塊なので心臓の位置が判りにくい。


 目の前の内臓型プルートーは二メートルを超す大きさだが、腰ぐらいの高さのモノとは何度か戦ってきた経験がるので、なんとなく魔石の位置が判る。問題は肉厚になっているので、攻撃が届きにくいと言う事だろう。なので高温をイメージした火の魔法と言う事になった。


 三人が一斉に魔法を放つ。


 火の付いた重油が粘り着くイメージと、青から白になるぐらいに高温になった炎のイメージを重ねる。


 魔石がある位置を狙いたいが、触手が振り降ろされてくるので、それを迎撃しなければならない。だがそれで良い。大きな塊よりも、小さな塊の方が高温になりやすい。


 何度も振り降ろされる触手を火を噴き出す魔法の杖で弾き返す。炎が一種の目くらましになっているが、逆に自分たちからも内臓型プルートーが見え難くなる。そして炎の壁からいきなり触手が叩き付ける場合も増えた。


 ほとんどは杖や腕、肩で弾き飛ばすが、偶に弾き飛ばされて倒される。その時は近くにいる別の誰かがフォローに入るので、立て直す余裕はあった。


 そしてついに、内臓型プルートーの全身に火が回った。


 「後退!」


 田中啓一の合図で全員が下がる。


 プルートーは脂の塊だ。しかも低温では燃えにくいが、高温になればしっかりと燃える。


 人間を含めた動物はほとんどが水だ。脂もあるがそれを燃やそうと思っても、水分が蒸発するのでなかなか温度が上がらない。無理に燃やしていっても、脂が燃える前に完全に死んでしまうだろう。


 なので脂を燃やして殺そうなどと考えるのは無駄なことだ。


 だがプルートーは水分を持っているのかも不明なほど、脂が燃え出す温度に直ぐに到達する。


 後は連鎖的に燃え続ける規模まで火を広げるだけで死んでいく。


 暫く距離を取って、目の前の内臓型プルートーが行動不能になるのを待つ。その間は他の内臓型プルートーがこちらに来るのを警戒しなければならない。


 しかし、他の内臓型プルートーは足下のイトミミズとの戦いに忙しいのか、田中啓一ら四人に構っていられないようだ。


 「何故かは判らねぇが、こっちに来ないのなら都合が良い」


 田中啓一は急いで倒れているポットに近づき、中を覗く。


 人が乗り込むカプセルの上半分が吹き飛び、中には半壊した固定具と突き出た二本のレバーがあるだけだった。


 「こいつ、動くのか?」


 そう言いつつ身体を滑り込ませる。


 ポットは仰向けで倒れている状態なので、半壊した固定具に背中が当たる恰好だ。しかし田中啓一はリュックを背負ったままなので、それが丁度良いクッションになっている。さらに位置的にも田中啓一をポットの中央に合わせている。


 そして突き出している二本のレバーに両手を掛ける。


 「どうすりゃ良いんだ? 話しだと心に思った様に動くって事だったが」


 頭の中で動け、動けと念じるが、ポットは何の反応も返さなかった。


 「田中! どうだ?」


 井上智久が覗き込んで聞いてくる。


 「ちっとも動かねぇ。完全に壊れてるんじゃねぇのか?」


 「かも知れねぇが、魔石はどうだった?」


 「あれ、そう言えば何処に入れるんだ?」


 田中啓一はポットの中を見回してみるが、それらしい箇所は見当たらなかった。


 「入れるとこ自体がねぇ。吹っ飛んだか?」


 「それっぽいな。じゃ、こいつは駄目か。次のポットに行くぞ」


 「お、おう。ってちょっと待ってくれ。俺の魔力を流すとかしてみる」


 あまり期待せずに田中啓一は魔法の杖に魔力を流すのと同じ要領で手元のレバーに流してみた。


 すると横たわったポットと、そのポットの中で横になっている田中啓一の感覚が繋がった。


 「あ、う、動く! 動くぞ、井上! 離れてくれ」


 「おう。二人とも離れろ。動くぞ!」


 田中啓一に言われ、ポットから離れながら二人にも声を掛ける。


 そして、田中啓一が乗ったポットの腕が動いた。


 半壊したカプセルから伸びた腕が、上体を起き上がらせる。そして足を曲げ、ややがに股になりながら立ち上がる。


 高さとしては二階建ての家の窓ぐらいの位置に田中啓一の頭がある。田中啓一にとっては二階の窓から下を覗き見ているような感じだ。


 そして立ち上がった事で、ポットが人型をしている理由が判る。


 ポットは魔力とイメージで操作するのだ。故に人が想像出来ない形状だとイメージがしにくい。

 現代の地球にある様な戦車や重機を見て、知っている者ならば別だが、一度もそれらを見た事が無い者に、それの動きをイメージしろと言うのは不可能だ。ならば自分が巨人になったつもりで動かせ、と説明出来る形状であれば、訓練も少なく十全に活用出来るだろう。


 立ち上がったポットのバランスを取っているのは搭乗者である田中啓一だ。そしてバランスを取るためのセンサーは田中啓一の三半規管と肉体全て。


 身体が傾くと三半規管がそれを感知する。その時の行動方針がバランスを取って直立し続けろと言うモノなら、その様に脳が身体の各部位に指令を送る。そしてその時にどのぐらい各筋肉に力を入れたかを感知して、三半規管の情報を補完する。


 更に目で見た視覚情報、身体自体にかかる負荷、足の裏の感触などなど、様々な情報を得て直立する事ができる様になっている。


 それらの制御を田中啓一が請け負い、ポットは立ち上がった。


 だが直ぐに片膝を着いた状態になる。


 地面に放り出された火炎放射器を取り上げるためだ。


 ポットの腕を操作して、金属の筒状になった火炎放射器を握る。


 「うおっ。手の平の感触が少しだがある」


 火炎放射器を両腕で抱えるように持って、ポットを立ち上がらせる。その際、少しだけバランスを崩して前のめりになった。


 だがそれは急いで前に出した右足で事なきを得た。


 「おっと、倒れそうになった」


 田中啓一は自分の感覚で前に倒れそうだと認識し、その瞬間に足を出して踏ん張った。


 人間ならば当たり前の行動ではあるが、実際は赤ん坊の時からの経験が積み重なった知識を元にした条件反射だ。ポットはそれに遅れる事無く反応した。


 「ん?」


 ポットの反応速度に気付いた田中啓一は、ポットを軽くジャンプさせてみる。何度かステップを踏むようにジャンプさせた後、今度は踏ん張って正拳突きを左右交互に突き出してみる。その次は、軽くジャンプして、……そして地面に着地。


 「やっぱ出来ねぇか」


 田中啓一はジャンプした後に、身体をひねって真後ろへと向き直ろうとした。しかしポットには腹筋回りが存在せず、上半身だけ横を向く、などの動きは不可能だった。


 それらを他の三人に伝えようと地面を向くと、井上智久が右腕を横に突き出し叫んでいた。


 「来るぞ!」


 そして内臓型プルートーの体当たりを受けて吹き飛ばされた。


 大雑把に言うと、ドラム缶に入ったまま、時速二十キロの軽自動車に跳ね飛ばされたのと同じ衝撃を受けた事になる。


 それでも田中啓一は朦朧とする意識の中で、かろうじて受け身を取ろうとした。カプセル状の身体部分が地面に当たる前に左腕を先に着け、強引に身体を回転させて地面を転がる。


 三メートル以上の高さを持つポットなので、地面に倒れるだけでも二階の窓から放り出されたのと同じ衝撃を受ける事になる。受け身はとれたので緩和されたが、搭乗していた田中啓一は全身に衝撃を受けた状態で意識が飛んでいた。


 「田中ぁっ!」


 井上智久ら三人が体当たりをかました内臓型プルートーを魔法で焼く。しかし直ぐには燃え出さないし、その間にも触手を鞭にして攻撃してくる。更に別の内臓型プルートーもこちらをターゲットにしたようだ。


 「ちぃっ!」


 「山田ぁ! 清水ぅ! 下がれぇっ!」


 一人だけ横方向に走りながら火の魔法を撃ちつつ叫ぶ。誰かが生き残りさえすれば、生き返らせる事が出来るかも知れない。


 だがもちろん、田中啓一だけを置き去りにするつもりは無かった。


 三人で一人を復活させる労力と、二人で二人を復活させる労力は、前者の方が確実なのは判っている。だが、復活できるから見捨てる、と言う選択肢は無かった。


 それは山田功二と清水咲恵も同じらしい。


 下がれと言われたが、二人とも魔法を撃ちつつ倒れたポットから内臓型プルートーを引き剥がす事に全力を当てていた。


 「あー、俺、どのくらい寝てた?」


 そこで倒れていたポットが起き上がり始めた。


 「田中ぁ! 遅ぇよっ!」


 田中啓一はポットを立ち上がらせ、回りを見て状況を確認した。


 「油断しちまったな。埋め合わせはする!」


 田中啓一は燃えかかった内臓型プルートーを、持っていた火炎放射器をバットにして振り、叩いた。


 打たれた内臓型プルートーは十メートル程飛ばされたが、損傷は見られず、当たり前の様に立ち上がった。


 「固いな。皆、下がれ!」


 今度は火炎放射器を火炎放射器として構える。それが魔法の杖だという認識なので、片手に持って突き出してから魔力を流した。


 するとまるでもう一つの太陽が出現したかのような光が迸った。


 それと同時に弾き飛ばされる田中啓一の乗ったポット。


 尻もちをついた恰好になったポットの腕には、半分になった火炎放射器が握られていた。もう半分は溶けて消えたようだ。


 「なんだぁ?」


 田中啓一が火炎放射器で狙っていた内臓型プルートーは上半分が無くなっており、断面は燃え上がっていた。


 「暴発?」


 「あ、魔力過剰か」


 一部始終を見ていた山田功二が呟き、井上智久が答えに辿り着く。


 二人の声が聞こえたわけでは無いが、田中啓一は持っていた火炎放射器の成れの果てを内臓型プルートーに向かって思い切り投げつけた。


 それは内臓型プルートーの肉を抉り、大きな穴を開けた。そしてゆっくりとイトミミズに解けていく。どうやら魔石に当たったようだが、その内臓型プルートーにトドメを刺した事には気付かず、後で倒そうと心に決めてから他のプルートーへと向かった。


 田中啓一は先ずは近場の内臓型プルートーを遠ざけるために蹴りや拳を入れて行く。


 慣れないポットの操縦だが、格闘系の田中啓一にとってはやり甲斐もあった。そしてポットの人が乗り込むカプセルは脆かったが、手足は意外に丈夫だったのも運が良かったと考えた。


 既にカプセル部分は半壊している。そして正規の搭乗者はいなくなり、プルートーの集団の中に放置されていた。なら、壊れてしまってもそれはプルートーのせいだろう。


 そういう言い訳が通用しそうだと思ったので思い切りやる。出来ればどの程度無茶が出来るのかも知っておきたい。もちろん理想はポット自体を夢見の街に持って帰る事だが、まずは現状を落ち着かさなければならない。そのために全力で動かす。


 自分の中でしっかりとした理由という名の言い訳が整ったと勝手に解釈した田中啓一が嬉々として格闘を続ける。


 その結果として倒れた他のポットからも内臓型プルートーが遠ざけられた。


 それを見た井上智久が走り、倒れているポットを覗き込む。中は無人。田中啓一の搭乗するポットよりは破損が少ないが、それでもカプセル部分が大きく欠損していて、乗り込んだとしても丸見えだろうと予測できた。


 「この壊れた所からイトミミズが入り込んで、中の人間を運び出したんだろうな」


 運び出された元搭乗者は内臓型プルートーに変わった。だから無人状態で横たわり、イトミミズからも無視されているのだろう。


 「良しっ!」


 井上智久は一言、自分自身に気合いを入れるために声を発し、半壊したポットに乗り込んだ。


 「田中だって出来たんだ」


 田中啓一が動かした経緯を思い出す。始めは動かないと言っていたが、魔力を注いでみると言う話しの後に動かす事が出来た。ならばそういう事なんだろう。


 井上智久も田中啓一に倣ってリュックを背負ったまま身体を滑り込ませ、突き出した二本のレバーを握って魔力を通した。


 「あ、あは」


 井上智久は思わず笑いそうになった。


 手足限定とは言え、自分の手足が増えた感覚だ。もっともレバーを握っている手はあまり意識が向かないので、ポットの手足を動かそうとすると自分自身の手足に対する感覚が鈍る。


 「これって、バケットシートとか積んで座った状態にした方が良くないか?」


 井上智久はレーシングカーのドライバーを包み込む形をしたシートを想像して呟く。シートベルトを組み合わせて、搭乗者をガッチリと固定すれば、ポットの手足を操作する事に集中出来ると考えたからだ。


 「あ、違う」


 だがポットを立たせようとして気付いた。そしてポットを完全に二本の足で立たせて確証した。


 「身体を固定すると、バランスが取りにくくなるのか」


 バランスや力の入れ方は搭乗者自身の肉体制御に直結していると言っても良い状態だ。ガッチリと身体が固定されると、自分の足で立っているという認識が弱くなり、柔軟な行動がとれなくなる。ポットの足にかかる負荷の感覚もあるのだが、生身の足からの負荷感覚で瞬間的に取って来たバランス調整には追いつかない。


 簡単に言うとバランス調整に遅延が生じる。


 そのために、カプセルの中にいても、ポットと同じように立っている事が重要になる。


 先ほど、田中啓一がポットを立たせた時、躓きそうになったのもその遅延のためだろう。田中啓一は持ち前の運動神経で直ぐに調整出来たが、一般的な身体能力では慣れるのに時間がかかりそうだ。


 「身体を固定出来ないと危ないな」


 井上智久はこのポットをクラスの連中が乗り込む事を考えた。


 例えば背中の一部をベルトで固定は出来るが、両足は立ったままの状態にしなければならない。すると、もしもポットが倒れた場合に両手両足が中で振り回される。両足の骨折ぐらいは良くある事故になるだろう。


 しかし操作の特殊性から完全固定は出来ない。


 井上智久はこのポットを便利に使うのは難しい事になると考えた。


 「ま、陽平のトコの生産組が考えるかな」


 その事は、とりあえず投げる事は決定した。


 田中啓一の乗り込んだポットの火炎放射器は自爆した。井上智久のポットが持っていた火炎放射器を探すと、倒れたポットの下敷きになっていたようだ。半分地面に埋まっている火炎放射器を取り上げ、構えてみる。


 「魔法が得意じゃ無い田中でも暴発させたからなぁ」


 魔法はイメージだ。基本はそれでやって来た。魔法の杖で魔法を使う時も、イメージ次第で威力や特性が変わった。


 田中啓一もその方法で魔法を使ってきた。しかし火炎放射器は魔力過剰で暴発した。その二つを考えると、この火炎放射器はあまりイメージしなくとも一定の効果を発揮する可能性がある。


 誰が使っても同じ効果。


 それは武器として理想的な姿だ。使う者によって効果が変わる物は戦いには使えない。この火炎放射器がそのコンセプトで作られているのなら、単純に引き金を引く所から始めて見ないと田中啓一の二の舞と言う事になる。


 井上智久は火炎放射器を少し遠くの内臓型プルートーに向けて狙いを定め引き金を引いた。


 ボンッ、ボーボボボボ!


 この街に初めて来た時に見た、ポットが使っていた火炎放射器と同じ炎が出た。


 「良しっ! とりあえず引き金を引くだけで使える道具なのは確定っと」


 井上智久はそのまま、火炎放射器を魔法の杖に見立てて、魔力を込めてみる事にした。


 「ゆっくと、ちょっとずつ…」


 呟きながら、慎重に魔力を流す。


 すると、大して流していないのに火炎放射器の炎は強さを増し、到達距離を伸ばしていった。


 「難しい! ファイアーボール一発分の魔力も入れないでコレかよ。下手したら流しすぎて暴発するぞ」


 今までは魔力の少なさで悩んだりして来たが、今は多すぎる魔力を絞る苦労に悩まされる。


 井上智久が魔力の調整で苦労している間に、山田功二と清水咲恵の二人も倒れて無人になったポットに乗り込んでいた。


 二人とも四人の中では魔法担当だ。一応剣や槍、そして銃での戦いも経験してはいるが、夢見の街を出てからはほとんどを魔法で戦ってきた。なので田中啓一と井上智久の二人と比べると魔力量と魔力操作に関する熟練度は高い。


 そのおかげか、魔力の流し過ぎは直ぐに理解する事が出来た。


 「うん。魔力が必要だけど、魔法を一度も使った事が無い人でも動かせるようになってるんだ」


 「魔石動力。人はスイッチ」


 「魔石が無くなったから、乗り込んだ俺らがその分の魔力を入れてやらないと動かない」


 「魔石一個分の魔力を放出」


 「うん。後は自分の身体のように動かす事を意識するだけ」


 二人の乗った二機のポットも立ち上がった。


 しかし田中啓一と井上智久とは運動神経が違うのだろう。自らの手足のように動かす、とはいかなかった。


 二人とも運動は得意な方だ。清水咲恵は普段から私的に水泳を嗜んでいる程だ。なのに田中啓一らとは決定的な違いが見て取れる。


 「夢の中で接近戦を繰り返してきた二人とはステータスで差がついたのかな」


 格闘戦は田中啓一に任せ、二人は井上智久と同じように火炎放射器でプルートーを焼き払う作業に従事した。


 「田中ぁ! そこの火のついた塊を山の方に蹴っ飛ばしてくれぇ!」


 井上智久が火炎放射器で燃やしながら田中啓一に指示を出す。その指示通り助走をつけた田中啓一の乗ったポットが半分以上燃えている内臓型プルートーを蹴飛ばして弾き飛ばす。


 「コレで最後!」


 「少しでも塊になってるヤツは燃やしとけよ」


 山田功二が最後の内臓型プルートーが動きを止めた事を確認し、井上智久が更に指示を出す。


 「けっこういたが、それほど強敵でも無かった気がするんだが」


 田中啓一がポットを歩かせて戻って来る。そして四機のポットは搭乗者の頭が一番近くなるように身を寄せ合った。肩は組み合っていないが、円陣を組むような恰好だ。


 「俺たちの魔力に反応して襲ってきたみたいだが、それほどしつこくは無かったよな」


 井上智久が今回の戦いの疑問点を出す。


 「小さい、って言うか、平原のイトミミズとか森の中のプルートーは俺たちの魔力に敏感だったけど、今回は同じように襲ってくると言う感じでも無かったよね」


 山田功二も井上智久の意見に賛成する。


 「魔力量の差?」


 「このポットとか言う機体に乗ってたヤツらは襲われて取り込まれたよな?」


 「あ、じゃ、コレに乗ってた兵士が俺たちより魔力量が多かった?」


 「「それは無い」」


 山田功二のセリフに対し、田中啓一と井上智久の声が重なった。


 「動かして判ったが、こいつは少ない魔力で動かせる。俺たちより魔力量が多ければ、こいつももっと派手に戦えてたと思うぞ」


 「ああ、少なくとも、暴発して使えなくなる様な物は持っていなかったはずだな」


 「なるほど。じゃ、コレの兵士が襲われたのって…」


 「魔石の有無?」


 「プルートーは魔石を求める?」


 「魔石は魔力を生み出す元みたいなモンだろうしな」


 「イトミミズぐらいの小さいプルートーは、魔石も人の魔力も同じように見えるから、魔力持ちを手当たり次第に襲うワケか。で、デカくなればその程度の魔力じゃ足り無いから、あまり積極的には襲ってこない、と」


 「ならワザとデカくしてやれば?」


 「魔石の魔力が弱くなれば、その分小さくなるんじゃネ?」


 「あ、そうか」


 「デカくなったヤツが魔石を求めて街に入り、そのデカ物からこぼれたイトミミズが人を襲う、と言う構図か」


 「なら魔石で誘導できるって事かな?」


 「出来てないよな? 俺たちも魔石を持ち歩いていたし」


 「魔石の活性化?」


 「「「あっ」」」


 清水咲恵の一言に三人が気付く。


 「俺たちが乗り込む前にはポットはほとんど魔石で動いてた」


 「俺たちが乗り込む時は魔石は無くなってたから、自前の魔力で動かした」


 「魔石で動いていた時は、搭乗者もろともプルートーに取り込まれた」


 三人による総括に、清水咲恵もしっかりと頷く。


 「活性化した魔石ならおびき出せるか」


 「どうやる?」


 「明かりの魔道具に大きな魔石を入れて放置する?」


 「おびき出すのはそれで出来るか。問題はおびき出してから、だよな」


 「単純に取り込まれたらそれで終わっちまうからなぁ」


 「火山でもあれば良いんだけど」


 「登って来れないぐらいの穴を掘るか? 現実的じゃ無い感じはするが」


 「なんか、これ以上は俺たちだけじゃどうにもならなそうだな」


 「俺もそう思う」


 「街のお偉いさんに相談してみるか」


 「あ、じゃ、その前に街の周りを回って、他の門とかも安全を確認しないと」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ