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夢見る冒険者(仮)  作者: I.D.E.I.
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報酬と限界の村

 管理の一部を任されている、と言っていた者の話しは伝え終わったので、これからの事を考える。


 「えっと、機械の鳥、えー、なんて言ってたっけ?」


 陽平は生産組の代表である中村梓に聞く。


 「へブラクワイさんです」


 「そのヘブさんはどうだった?」


 「なんか、私たちがいなくなった途端にかなり曖昧になったそうです。時間経過の感覚があやふやで、数分の出来事か、数時間経ったのか判らないと言っていました。今は他の皆で身体のチェックをして貰ってます」


 「プレイヤーがいる事が時間経過の条件か? 街自体がプレイヤーに依存しているのかも知れないな。今度は俺たち全員が消える前に街の外に出て貰って、何時間ぐらいで俺たちが出てくるのか確かめて貰った方が良いかもな」


 「それは確かめたいですね。あっ、へブラクワイさんは自分でこの街に入る事が出来るのでしょうか?」


 「仮面たちに運んで貰ったんだよな。自分一人だけで、自分の意思で入ろうとしたらどうなるんだろうな。うん、検証は必要か。生産組はかなり忙しくなりそうだな」


 「えっと、ゴーレムとかの研究を中心にやっていけば良いんですよね?」


 「いや、その前に、中村さんには重要な調合を頼みたい」


 「え…、強力な治療薬ですか?」


 「そんなモノよりも重要だ」


 「そ、それは…」


 「焼き肉のタレだ」


 「………」


 「甘辛醤油みりん系統から味噌、ゴマ、生姜焼き用、ハンバーグソース等々、需要は尽きないはずだ」


 「…なるほど。しかもここでなら太らないし食べ放題と言う事ですね」


 呆れているのかと思ったが、実際は燃えていたようだ。


 「なんとなくしか調べていないから見逃している可能性は高いが、元々飲み食いは除外されていた項目だ。急遽取り入れられたとしたのなら、定番的なモノ以外はほとんど無いと考えても良いと思う」


 「定番…、あのレジェンドの定番のアレが売られていたら、それに勝てるでしょうか?」


 「アレもまた万人に好まれる味では無いはずだ。それに君には調合師としての技能がある! 調合師のスキルを使って定番のアレを越える物が作れるはずだ。いやっ! 作らねばならないっ! これは天命なのだぁぁぁぁ!」


 ドーンっと音が鳴ったような気がする。


 後に、陽平の陰に黒いスーツを着た小太りのセールスマンを見たと言う者が何人かいたが、全ては黙殺された。怒られそうだから。


 「まぁ冗談はこれぐらいにして」


 「本当に冗談だったんですか?」


 「……冗談はこれぐらいにして、買い物に行こうか」


 「あの、ほとんどお金は無くなってしまったのですが」


 「大丈夫。例のアレから謝礼としてお小遣いを貰ったから」


 スマホをチラッと覗いた時に入金がありました、と言う短いメッセージを見た。確認した所けっこうな金額が振り込まれていたので、ギルドメンバー八人で分ける事にした。


 一人三十万。陽平だけは四十万になったが、なんやかんやで陽平が多く貰うべきだとなった。実はマジックポーチの中に『引換券』と言う物が二枚入っていたが、その利用方法も判らないのでホームセンターには行くつもりだった。


 そしてホームセンターでは生産職は解体用具からアウトドア用のバーベキューグリル、炭、トングなどから食用油や調味料各種を一丸となって買い集めていた。


 生産職のチームワークハンパない。


 イヤ、小泉澪と鈴木千佳もしっかり混ざってる。かなり肉が食いたいらしい。


 呆れながら陽平は皆から離れ、適当なレジカウンターに引換券を二枚全てを置く。すると品名や金額を一括で表示するモニターに文字が現れた。


 【正面入り口 駐車場1番 2番に搬送しました。ご利用ありがとうございました】


 陽平のうろ覚えの記憶では、ホームセンターの正面入り口には特売品や目玉商品の棚があった。その横に車なら四台までは駐車できるスペースもあったはずだ。そこに引換券のブツが搬送されたらしい。


 一人だけホームセンターから出て、目的の駐車場にい行く。


 そこには、二人乗りの自動車タイプのEVバギーと一人乗りのバイクタイプの四輪EVバギーが一台ずつ、計二台駐車されていた。しっかりと起動キーが刺さっている。


 陽平がスマホを向けて鑑定してみる。


 【魔力発電機構を搭載した電動バギー 所有者:ギルド『空色の夢』】


 「随分太っ腹じゃないか」


 二台とも軍用車をイメージさせるゴツい車体だが、ほとんどが鉄パイプのような物で構成されている。特に自動車タイプは窓ガラス等は無く、天井も無いがその骨組み部分はパイプで構成されていてまるで檻のような構造だ。シートはバケットシートと呼ばれる搭乗者を包み込むような構造のシートで、主に競技用として作られた物が二人分乗っている。


 例えば山のような急勾配を登ろうとして失敗し、転げ落ちたとしても檻のような車体構造とバケットシートで車体も中の搭乗者も無事である可能性が高い。そんな構造だ。


 あくまで転げ落ちた場合であり、崖などから落下した場合はその限りでは無いが。


 逆にバイクタイプは跨がり乗る構造なので、身の危険を感じたら車体から飛んで離れる事になる。そのため本気で走る気ならば体中をプロテクタースーツで固める必要がある。その辺はオフロードバイクと似たような感じだ。ただしオフロードバイクと違って四輪なので、そう簡単には転倒する事は無い。逆に転倒する程の事態が起これば、余程の身体能力が無ければ車体の下敷きになる確率は高い。


 この事から、陽平はバイクタイプを自分が乗り、車タイプを小泉澪と鈴木千佳に乗って貰う事を考えた。後は二人の運転に対するセンスだが、それは実際に乗せてから考える事にした。


 そして考えるのはその後の事。


 陽平にバギーが渡されたのは、さっさと遠くへと移動しろ、と言う要請だろうと考える。ゼロツーたちは鶏人間と接触し、夢魔との戦闘を経験したので、その方面で冒険を続けそうな気がする。佐藤一たちは機械の鳥ヘブラクワイとの関係から機械の種族と関わる可能性が高いと考える。


 ならば自分たちは、より遠くの何かと接触する事になるのだろう。


 それが何かは判らない。だが何かがあるのは間違いないだろう。


 陽平は小泉澪と鈴木千佳にどう切り出すか考えながらホームセンターの中へと戻って行った。




 渡辺健二をリーダーとする脳筋パーティこと松本剛、武藤寛太、山口敦の四人は草原の獣狩りを行うべく、ショットガンを構えてゆっくり歩いていた。


 特に緊張や警戒はしていないが、小走りにでも走ると周囲の気配があまり感じられなくなり、出会い頭に獣に襲われる危険がある、と言う理由だけだった。


 突然の不意打ち。それさえ無ければ獣相手でも後れをとらないと考えている四人だ。


 なによりスタンガンの存在が大きい。


 銃タイプのスタンガンはワイヤー付きの電極を撃ち出す構造のため、人間相手のスペック上の有効射程は十メートルらしいが、獣相手では五メートルぐらいがせいぜいだ。硬い毛で覆われている獣の場合は突き刺さるかもが怪しい。だが突き刺されば大人でも一撃で昏倒する電気ショックを撃ち出せ、場合によってはそのまま二撃、三撃の電気ショックを打ち込むことが出来る。


 電極を撃ち出す部分はカートリッジになっていて、一回使ったら交換と言う事になるが、当たればライオンでも昏倒させる事が出来る。


 大型のゾウなどなら、一撃では無理かも知れないが。


 そのスタンガンは山口敦に任せ、ショットガンは魔法職の武藤寛太に任せる。そして渡辺健二は痺れて動けなくなった獣に対して刀を振り降ろす戦法をとった。同時に松本剛がメリケンサックや軍用ナイフで攻撃を加えると言うやり方で、接近戦専門の二人のワザを鍛える方向にした。


 こう言った機会でも無いと接近戦を鍛える機会が無いと言う判断だ。


 ほぼ気絶に等しい昏倒した獣に斬りかかるのは、剣士としてどうなんだ? と言う意見が出たが、始めは倒れた牛に刀で斬りかかっても深さ三センチほどの短い傷を付けるので精一杯だった実力なので先ずはそこから鍛え直したいとメンバーに懇願したのが始まりだ。


 松本剛も単なる喧嘩の域を出ない拳を鍛えたいと参加している。


 そしてこの夢の中のゲーム世界が特殊なのだろう。肉体というモノは簡単に力が上がるはずは無いのだが、渡辺健二と松本剛の攻撃力が上がってきていた。


 スタンガンで昏倒しかかった鹿の首に斬りかかり、その太い首の三分の一を切り裂いた。


 その一瞬後に松本剛がアッパー気味の右を鹿の腹に叩き込むと、ホンのわずかだが鹿の身体が浮き、鹿は倒れて昏倒した。


 スタンガンによる昏倒か、松本剛の打撃による昏倒かははっきりしない。ちなみに首を切り裂いただけでは昏倒はしないだろうと、渡辺健二の刀の所為では無いと言うのは全員の統一した意見だった。


 そして鹿は首筋を大きく切られたことにより、間もなく絶命した。


 「力かワザかは判らねぇが、どっちも確実に上がってるな」


 渡辺健二がタオルで刀から脂を拭いながら感想を言う。


 「俺としてはワザの方が現実に持ち越せるから嬉しいんだがなぁ」


 松本剛は軍用ナイフで鹿の胸を切り裂いて、強引に肋骨を割りながら言った。


 「力じゃね? 前は鹿の胸を開くのも一人じゃ無理だっただろ」


 山口敦がスタンガンのカートリッジを交換しながら言う。ショットガンをベルトで肩に下げているのは、不意打ち対策だ。


 「俺も力だと思うな。力の持ち越しって、少しぐらいは出来てるんじゃないのか?」


 同じようにショットガンで周囲を警戒している武藤寛太は解体の方はあまり見ていない。


 「ああ、陽平は身体制御能力とか言ったが、筋力も微かに上がってると思うぞ。普段の練習とかもあるからどっちの影響か判りにくいが」


 「現実でもこれぐらいの鹿なら狩れるのかね?」


 「どうなんだ? 野生動物にしてはトロい感じはするんだが」


 「俺もトロいと感じた。やっぱゲームか」


 「もしかしたら俺らの反応速度が上がったとか?」


 「それは無いだろ。少し前、飼い犬同士の喧嘩を見たことあるが、一瞬の攻防を繰り返してた。アレに介入するとか無理だと感じたからなぁ」


 「じゃあ、やっぱゲームとしてトロくしてるのか。野生動物とかだと、レベルも関係無さそうだしな」


 「お、心臓が魔石になった」


 「掃除屋もおいでだ。そろそろ離れるか」


 松本剛が手の中の鹿の心臓が石になったのを確認。そのまま腰に下げた巾着袋に押し込む。そして渡辺健二が移動を促した。


 「どっちに行く?」


 山口敦が草原を見回しながら聞く。どっちとは、街の門を中心に円を描くように移動するか、それとも別の方向へを進むか? と言う質問だ。


 「なぁ、俺たちも時間延長、使わないか?」


 水筒からの水で手を拭い、タオルで残りの血を拭っていた松本剛が提案する。


 「もっと奥まで行って見るとか? まぁ頃合いだよな」


 「時間延長のブツもあるからなぁ」


 「良いんじゃね? この四人で一辺に使えば孤立することもないし、もう陽平たちが使ってるしな」


 他の三人も肯定的だ。


 「よし、使ってもう少し深い所に行ってみるか。ヤバそうならここら辺まで戻ってくれば良いんだしな」


 最後に渡辺健二の言葉で決定した。そして直ぐにそれぞれが宝玉を持って使用する。特に巫山戯ることも無く全員が一気に使用した。


 「確かに何も変わらねぇな」


 「じゃ、街の門から離れる方向だな。見えている方向だと森の方へ進むか?」


 「あっちってたしか鶏の方じゃね?」


 「鶏かぁ。バイクは見てみたいが、誰かが行った方向ってのは面白くねぇよな」


 「じゃあ山だな」


 ほぼ四人が一塊になって移動を再開した。この四人の場合は斥候などの役割分担が無く全員が斥候役で有りアタッカーだ。


 構成自体が刀と格闘、そして魔術師と銃なので、刀と格闘が常に前衛に立つことになる。残りの飛び道具の二人は前衛の後ろにつくよりも、左右に広がった方が前衛二人の邪魔になりにくいと言う事で前後では無く左右という配置になった。


 暫く何事も無く進んだが、その後、草原の中に茶色い塊を見つけた。


 「遠くてよく判らねぇな。イノシシか?」


 「イノシシよりも大きい感じだが…。どうする? このまま進むと戦う事になりそうだが?」


 「スタンさせるか? それとも一気に撃ち抜くか?」


 松本剛と渡辺健二の意見に山口敦がスタンガンにすべきか、ショットガンにすべきか問う。


 「強さ的には鹿よりも上だろうし、一度一気に撃ち抜いて様子を見た方が良くね?」


 最後の武藤寛太の意見で方針が決定した。念のために渡辺健二と松本剛の二人もショットガンを構える。この二人の場合はいつでもショットガンを放り出して刀や拳にスイッチするので、元から銃担当の山口敦と魔法担当の武藤寛太は二人が飛び出した時に当てないようにと気をつけなければならない。


 山口敦と武藤寛太にとっては未だに慣れない連携だ。せめて一拍待ってから飛び出して欲しいと常々思う。


 「あまり急いで飛び出さないでくれよ。味方撃ちなんてしたくないからな」


 「俺が飛び出したら任せてくれれば良いんだ。簡単な話だろ」


 「フォロー出来ねぇっつってんだよっ!」


 「フォローなんざ要らねぇってんだろ!」


 松本剛と山口敦がやり始めた。完全に意地の張り合いだけの言い合いだ。武藤寛太は溜息を吐いて放っておく事にした。渡辺健二に至っては松本剛の意見が正しいと思っているが、二人の剣幕で口を挟む意識は無くなっている。


 しかし、二人の喧騒は前方にいる何かにとっても煩いようだった。


 それは鬱陶しそうに四つ足で立ち上がり、渡辺健二たちに顔を向ける。


 「ライオンさんでしたか」


 武藤寛太がようやくそれだけを口にする。


 と、同時に山口敦がショットガンを発射。込めていた銃弾はスラッグ弾。イノシシや熊を狙っていた銃弾だ。散弾ではライオンに大きな傷は付けられなかっただろう。


 そのスラッグ弾はライオンの前足に当たり、大きく抉ることに成功した。


 ゴアアアアアアアアッ!


 悲鳴とも雄叫びとも判らぬ叫び声が重低音で響く。


 さらに二発目のスラッグ弾が放たれるが、狙いはハズレて鬣を少し千切っただけに終わった。


 そして松本剛が飛び出した。


 そこは肩に担いだショットガンだろう! っと他の三人が心の中で突っ込むが、先ほどの言い合いで頭に血が上っていたので、その選択肢は無くなっていた。


 渡辺健二はショットガンを構えるが、松本剛が飛び出したせいで撃てない。山口敦も武藤寛太も撃てなくなった。


 そして松本剛の飛びかかっての右ストレートは、あっさりと咥えられて、松本剛の身体ごと引き倒された。さらにライオンがくわえ込んだまま頭を左右に激しく振る。


 それは固い肉にかぶりついて、頭を左右に振って食いちぎる動作だ。


 それを松本剛の腕に対して行っている。しかも流れる様な一瞬の行動だ。見て、考えて、行動する、と言う思考の果ての動きでは無く、本能の動作だ。


 しかしこちらも脳筋と呼ばれた男たちだ。その一瞬後には考え無しで飛び出していた。


 渡辺健二はショットガンを放り捨てて刀を抜いてライオンに突き刺そうと突進。武藤寛太は停止の魔法の杖をライオンに押しつけて発動させるべく飛び出し、山口敦はスタンガンに切り替えるために一拍遅れたが銃型と箱形の二種類のスタンガンを持ってライオンに駆け寄った。


 顔を狙った渡辺健二の刀に危険を感じたライオンは一瞬で松本剛から離れて後ろに飛び退る。それを追うように刀を突き出すが、その時点で勢いは削がれてしまった。しかし武藤寛太の魔法は松本剛が離れていれば遠慮無く撃てる。そしてショットガンで抉られた前足の反対側の前足を痺れさせた。


 前足が潰れたライオンは、それでも後ろ足だけで後方に飛び退ろうと藻掻くが、山口敦の銃型のスタンガンがライオンの腹に当たり、激しく痙攣させる。


 ギャアアアアア!!


 ライオンから聞こえる悲鳴じゃ無いなぁ、などと呑気に考えながら、突き刺さったままのプラグに何度か電流を流す。


 するとライオンは泡を吹いて昏倒した。


 「てめぇ! 良くもやりやがったなぁっ!」


 右腕をだらんと下げた松本剛が起き上がり、昏倒したライオンを睨む。


 「松本! 腕は?」


 「って、脱臼かも知れねぇ。痛ぇし、痺れてっけど感覚はある。そんな事より…」


 松本剛は左手で軍用ナイフを抜くと、昏倒しているライオンの首筋に何度もナイフを突き刺した。


 まるで狂気に取り憑かれたような鬼気迫る勢いだったが、殺されかけたトラウマをこの一瞬で払拭させるための大事な行動だ。


 既に始めの一、二撃で絶命は確実だ。生きていても昏倒からの出血で大した力も出せないで絶命するだけだろう。だが松本剛は手を止めず、何度も突き刺していく。


 さらに動く左腕をワザとライオンの口に入れ、ライオンの牙に自分の左腕を突き立てる。そして思い切り引き、ナイフの頑強さを利用して内側から牙の何本かを叩き折った。


 松本剛の指を三本程束ねた太さを持つ牙だ。


 それをナイフを利用したとは言え、叩き折ったのは素直に凄い成果と言える。


 その根元近くから折れたライオンの牙を手に取り、ようやく松本剛は息を吐いた。


 「はぁ、はぁ、はぁ、ざまぁみろ!」


 落ち着いたであろう松本剛の表情をみた渡辺健二は武藤寛太と山口敦に指示を出す。


 「武藤。松本の腕を見てやってくれ。山口は周辺警戒。俺はこいつの心臓を取り出しておく」


 武藤寛太はドラッグストアで買った『打撲・骨折にUTIMINAOーR』と言う軟膏を取り出す。はっきり言って胡散臭いが、ある程度利用できるだろう、と言う事は判っている。この夢の中なら時間を掛けさえすればどんな怪我でさえ自然回復するシステムだろうと予測しているが、怪我の痛みは長引けば怪我をしそうな行動さえも抑制してしまう。なので使える物は何でも使うと言う方針だ。


 「松本。自己診断はどんな感じだ?」


 「脱臼で間違いない。普通なら専門医に対処して貰わねぇと後に残るんだよなぁ」


 「本当はやっちゃ行けないんだが、はめてみるぞ。ここでの怪我なら中途半端でも自然治癒されるだろう」


 「ああ、頼む。動かねぇって方がマズイしな。それに自業自得だ」


 「自業自得が判ってるなら充分だ。やるぞ」


 武藤寛太は松本剛の腕を強引に持ち上げ、肩の高さで肘打ちを真正面に撃ち込むような形にさせる。そして松本剛の二の腕を内側から叩いた。


 瞬間的に松本剛の上半身が大きく揺れた。


 「どうだ?」


 武藤寛太に様子を聞かれた松本剛は自分の力で腕を回してみる。が、少しだけ動かしにくい感じを受けた。


 そこで自分で脇の下から大胸筋を掴んで、強引に肩を振り回す。


 それでようやく自由に肩が動くようになった。


 「大丈夫だ。少しずれてたかも知れねぇが、今のでしっかり入った」


 「念のためドラッグストアで買った軟膏を塗っとくぞ」


 これで松本剛の治療は終了した。


 その頃には渡辺健二もライオンの心臓を抜き出し終わった。


 「ライオンの方が牛よりもヤリ易かったな」


 迫力はライオンの方が強いが、大きさは牛の方が二回りも大きい。なので胸の厚さも違うので、ナイフだとライオンの方が切り分けやすい。あくまでも比較的な話しだが。


 「さて、皆血だらけになっちまったなぁ。一旦仕切り直すか」


 渡辺健二の意見に皆が無言で同意する。体力的では無く、精神的に疲れたと言う所だろう。


 門の方向へと歩き出そうとした所、遠くから微かに地響きの音がするのに気付いた。


 「何の音だ?」


 「川の氾濫、は無いだろうから、地震か?」


 「いや、何かが来る。獣の足音だ!」


 「スタンビートか?」


 山口敦が気付いた獣の足音と言う事で、武藤寛太が異世界小説でお馴染みになった魔物たちの大暴走を想像した。


 「どこから響いてるか判らん。武藤、肩に乗せろ」


 山口敦が言うと武藤寛太が少しだけ前屈みになる。その背中側から勢いを付けて武藤の腰を足がかりに一気に肩の上に飛び乗った。


 武藤寛太の肩の上に直立だ。


 武藤寛太は山口敦の両足を持つ事はせず、腰に手を当てて肩をいきらせる。武藤寛太がしっかりと動かなければ、この方が上になった山口敦もバランスがとりやすい。


 三メートルを超える高さになった山口敦が見回すと、遠くに草原をかける一団を見つける。


 「見つけた。位置はこの方向、約三百から五百メートルぐらいか。数は五!」


 「五? それにしては音が大きいな。種類は?」


 「未だよく見えないが、大型の牛っぽいな。バッファローみたいな感じだ」


 「牛か。ショットガンで行けそうだな。念のためスタンガンも用意しておけば行けるんじゃないか?」


 「あっ、いや、誰か乗ってる! 馬みたいに利用しているようだ!」


 「馬かぁ。馬って確か、けっこうな金額がする財産だったよな? 下手に殺すと弁償問題とかになりそうだよな」


 「敵対してきても、馬だけ残せば換金出来るだろうし、俺たちの足にもなるな」


 「敵対してきたら面白そうだな」


 「やめろって。先ずは友好関係から始めろ、って言われてるだろ。とりあえず様子見だ。関わるか、無視するかは向こうの出方次第にしておこう」


 松本剛の軽口を諫め、渡辺健二がまとめる。


 「もうすぐ、あっち、五十メートルぐらい先を通るはずだ」


 武藤寛太の肩から飛び降りた山口敦が報告する。それを聞いて皆がショットガンをしっかり構える。


 既に牛らしきモノに乗っている集団は皆にもはっきり見えている。


 それは一体の大きな一本角を持った牛を、四体の『人』が乗った角の無い牛が追いかけていると言う構造だった。


 牛に乗っている一人がロープを取り出す。それを頭上で振り回すとロープが輪になっているのが判った。


 投げ縄だ。


 「カウボーイか」


 単なる牧童という意味では無く、アメリカでバッファローを捕らえる専門家としてのカウボーイ。バッファローが捕獲禁止になって以降は牧場の牛専門になり、衰退していった職業の一つだ。


 だが目の前には逃げ回るバッファローモドキを追いかけて投げ縄を振り回す男達がいる。まぁ、馬では無く、似たようなバッファローモドキに跨がっているが。


 姿形は完全に人間の男。二十代から三十代と見られ、カウボーイハットでは無くヘッドギアの様なモノを頭に付け、身体は全身を覆う革鎧を身につけている。腕にはまるで漫画のようなデカい革製のグローブを付け、それでも器用に手綱と投げ縄を操っている。


 「はっ!」


 一人が投げ縄を器用に投擲した。


 ロープで作られた輪がバッファローモドキを捉えた。と同時にカウボーイが投げ縄のロープを放り出した。


 「せっかく捕まえたのにロープを捨てたぞ」


 松本剛の言う通りだった。が、その投げ捨てたロープの反対側の端には金属の碇が結びつけられていた。


 さらに他のカウボーイが次々に投げ縄を投げると同時に碇付きロープを放り出す。


 するとバッファローモドキがロープに絡め取られて転倒した。


 同時にバッファローモドキの周りに火花が散った。


 バッファローモドキはロープから逃れようともがき暴れる。その動きと呼応すかのように火花が舞い散る。


 「火花。いや、電気か! あの牛、電気を放出してやがる」


 「電気鰻かよ」


 「いや、アレは魔法だな」


 「似たようなモンだろ」


 「空中放電で火花が出るって、どんだけだよ」


 それぞれが勝手な事を言う。そんな事を言っているとはつゆ知らず、カウボーイたちはドンドン投げ縄を放り、碇を投下していく。


 現実のカウボーイは縄で縛ってから歩かせて移動すると言う方式をとるが、目の前のカウボーイたちは先ず徹底的に動けなくする方式のようだ。


 一人のカウボーイが跨がっていた角無しバッファローモドキから飛び降り、手綱に繋がったロープの先にある杭を地面に突き刺す。


 訓練された馬などは手綱を放り投げても目の届く位置にいて、呼べば近寄ってくるぐらいに調教が施される場合もあるが、この角無しバッファローモドキは乗ることが出来れば良いと言う程度の調教しかされないのが基本のようだ。


 逃亡防止の杭を打たれた角無しバッファローモドキをおいて、カウボーイが幾重にもロープが絡まった一本角バッファローモドキに近づく。そして刀身が乳白色の大きな鉈を取り出すと勢いを付けて一本角バッファローモドキの角に振り降ろした。


 鉈は角の根元に食い込むが、せいぜい五センチぐらい食い込んだ程度だ。しかしカウボーイは鉈から手を放して急いで離れる。


 同時にまた火花が散った。


 別のカウボーイが入れ替わり、また乳白色の鉈を食い込ませる。


 さらに今度は別のカウボーイが骨製の棍棒を肩に担いで入れ替わり、薪割りのように角に棍棒を叩き付けた。それを幾度と繰り返す。


 何度か振り降ろした後には棍棒を渡して交代。それを繰り返して、ついには一本角バッファローモドキから角を叩き折った。


 そこでカウボーイたちの緊張が解けた様に見えた。


 カウボーイたちは使っていた棍棒や鉈を丁寧に収納し、二本のロープを除いて角が折られたバッファローモドキからロープを解いていく。そして手に持ったロープを鞭のように使って角が折られたバッファローモドキを叩いて立ち上がらせる。


 「どうやら魔法の雷は角が無いと出せないみたいだな」


 「角を折ってから捕獲か。で、持ち帰って馬代わりにするか、食用にするかって所か」


 「俺たちも牛とかが相手だったら、捕らえて、街まで歩かせれば良かったんだな」


 「もしライオンがいたら餌ぶら下げてるようなモンだけどな」


 結局他人事として見物を決め込んでいた四人が再び好き勝手なことを言っていただけだが、この四人にカウボーイが気付いた。


 今までは雷を放つバッファローモドキを捕らえることに集中していたし、丁度胸の高さの草が中間に生い茂っていたこともあって、動かないでただ眺めていただけの四人には気付かなかった。だが、落ち着いて眺めれば目立つ風体の四人が並んで立っている状態だ。


 気付かない方がおかしい。


 気付けば、距離にして五十メートルにも満たない近さだ。警戒して攻撃態勢をとるのは当然と言えた。


 カウボーイたち四人が杭と棍棒を取り出す。銃に相当するモノも無く、魔法の杖らしきモノも無かった。これに四人は油断することになる。


 「クドッシー!」


 「イエトポロダート!」


 「シーティット!」


 四人のカウボーイの内の二人がバッファローモドキに乗って渡辺健二たち四人の場所目掛けて走り出した。


 「やばっ! なんか友好的な話し合いの余地は無いようだぜ?」


 「いきなりケンカ腰か。銃使わなければ良いよな?」


 「とりあえず銃も杖も仕舞っとけ。そうだな、鉄パイプでも装備しておこうか」


 渡辺健二の言葉で松本剛以外がマジックポーチにショットガンとスタンガンを収納し、代わりの得物として鉄パイプを取り出す。松本剛は始めからメリケンサックのままだ。


 「来い来い来い」


 松本剛は両手のメリケンサック同士を打ち合わせて、これからの乱闘を期待していた。


 「頼むからやり過ぎるなよ…」


 武藤寛太が松本剛を見ながら呟く。他の二人も似た気持ちだったが止める術を持っていなかった。


 「オンデバーニ!」


 近づくカウボーイたちがバッファローモドキの背の上で叫ぶ。


 そこで渡辺健二たち四人の意識は途絶えた。


 次に気がついた時、思うのは妙に身体が痛いと言う事だった。それに対して自分でどうにかしようにも自由が利かず、痛みをそのまま受け続けなければならない、と言う不快感が続いた。


 さらに意識がはっきりしてくると、自分が地面に横たわっている事に気がついた。そして起き上がろうにも、身体が動かない。


 そして意識がはっきりと覚醒すると、自分が腕を後ろ手に縛られ、地面に転がされていることが認識出来た。


 「どう言う事だ?」


 松本剛が自分の状態を認識して、ようやく言葉にした。


 「気がついたか?」


 「これで全員が目を覚ましたな」


 「芋虫状態だから確認は出来ないがな」


 渡辺健二、山口敦、武藤寛太の声がかかる。


 「あー、つまり、俺たちはあのカウボーイたちに捕まったのか?」


 「それが一番可能性が高いな。完全に意識が無くなってたから、気絶した後に何があったか判らんが」


 「まぁ、他の何かの生け贄に出された、って可能性は低いだろ」


 「下手したよなぁ。完全に油断してた。あれって魔法だったか?」


 「カウボーイがへし折った牛の角を持って、何かを叫んだのを見た気がするんだが」


 松本剛が最後に見た情景を言う。


 「何? するとスタンガンみたいな魔法だった可能性もあるな」


 「あの牛は雷の魔法を使ってたからなぁ。あの角が魔法の杖と同じ働きだったわけだな」


 「魔法かぁ。敵になる存在が魔法を使ってくる、とかって想定してなかったよな」


 粛々と反省点を口にするが、後ろ手に縛られて転がされているので、それしか出来ないとも言う。


 「セッ、ソール?」


 突然明かりが差し、カウボーイの声が響いた。そこで自分たちが転がされていたのが部屋の中で、外よりはかなり暗かった事に気付いた。


 「縄を解け! 俺たちをどうする気だ!」


 松本剛が怒鳴るが、向こうの言葉が判らないので、こちらの言葉も通じていないのは判っている。とにかく、こうして叫んでおけば何を要求しているかぐらいは判るだろう、と言う程度の意味しか無い。


 「ビーツ! スキファ!」


 そう言って革鎧を着たカウボーイが松本剛の顔を蹴飛ばす。


 けっこうな勢いで蹴飛ばされて松本剛は驚いたが、蹴られた痛みは直ぐに消えた。本来なら歯の一本ぐらいは折られていた程の蹴りだったが、松本剛には小突かれた程度の影響しか無かった。


 「(レベルが上がったせいか? とりあえず痛がっている振りでもしておこう)」


 松本剛は顔を地面に向け、痛みを我慢しているかのように歯を食いしばって細かく震えて見せた。その様子に満足したのか、革鎧を着たカウボーイは松本剛から離れる。


 「ポスタッ! マーテ、キショジョイッシュ!」


 カウボーイが怒鳴る。しかし、何を言っているかも判らないし、足まで縛られていて芋虫状態だ。芋虫のようにのたうつ事ぐらいしか出来ない。


 「ちっ! ポスタッ!」


 舌打ちしたのは判った。こういうのは共通なのか、などと呑気な感想を思う。


 カウボーイは強引に服を鷲掴みにして立たせようとした。しかし両足まで縛られているのでバランスを崩して倒れてしまった。


 「フォブノ!」


 そこでどう言う状態で縛られているかを理解したようだ。この乱暴なカウボーイと縛ったヤツは別人だったようだ。


 カウボーイは革鎧の腰に差したナイフを抜き、四人の足のロープを切る。


 「ポスタ!」


 どうやら『立て』と言っているらしいと判ったので、のろのろと立ち上がる。


 「どうする?」


 「様子見だ」


 松本剛が呟くように聞き、渡辺健二が同じように答えた。


 「オプジェッ! プシー!」


 革鎧を着たカウボーイの誘導で部屋を出る。そこは木製の建物の廊下に見えた。そしてさらに歩かされると、外に出た。


 外は木製の建物が軒を連ねる集落のようだ。見える部分は少ないが、大きな街には見えない。小さめの宿場町か、もしくは少しだけ大きな村という感じだろう。


 そんな中で一つの建物から出されたそこは、バスケットボールのコート二面分ぐらいの広場だ。その広場の中央に歩かされた。


 周りには取り囲むように数人の男達がいる。ここまで女性は一人も見ていない。


 さらに観察すると、男達は総じて肌が汚い。吹き出物というか、顔の皮膚がかなり凸凹だ。口は臭く、歯はかなりガタガタで汚い。痩せている男が約三割。残りの七割は不自然に腹が出ている。


 「ここの連中はこう言う種族なのか?」


 「なんか栄養失調みたいだな」


 「腹一杯牛食ってるんじゃないのか?」


 「あ、牛しか無いんだ」


 最後に武藤寛太が結論を出した。


 渡辺健二が自分たちを縛っているロープを見ると、それは革製の紐だった。


 「植物性の食い物が無いのか。あ、でも家は木製だぞ?」


 「でも家はなんか古いし、あのバンガロー風に造られた丸太を組んだ建物なんか、かなり細い木を使ってるな」


 「草原はあるけど木は無かったし、草原の草は食えないって事かな」


 「食えなくとも草刈りすれば堆肥にはなるんじゃないか?」


 「近場の草は牛の分ってことだろ?」


 「食糧不足か。だとすると、人間の命なんて最も軽いって事になりそうだな」


 「まさか、食われるのか?」


 「牛がいるから人間は食わんだろ。単に見せしめのために公開処刑じゃないか?」


 「あー、一番有りそう」


 山口敦の意見に武藤寛太が同意する。


 「じゃ、やるか?」


 「出来るだけ殺すなよ? 無理なら仕方ないが、後で関係修復とか必要になったら揉めるからな」


 「俺も人殺しにはなりたくは無い。見殺しにはするけどな」


 「それで良いと思う。それでも殺す事を躊躇うなよ。一番大事なのは自分の命だ」


 「おう」


 「あっ、見ろ、俺たちのバッグだ」


 山口敦が顔だけで示した先には、地面の上に無造作に積まれたマジックポーチがあった。数も四つ、全てある。


 「よし、タイミングを見て、一気に行くぞ」


 広場の中央に立たされた四人に対し、広場の端で偉そうに何かを呟いている男がいる。おそらく長か、裁定者なのだろう。その横には革鎧を着たカウボーイが二人立っている。その手には渡辺健二たちが持っていた鉄パイプが握られている。


 「プロット、ティファリデン、クロベデニー!」


 偉そうな男の言葉で革鎧を着た男達が渡辺健二たちに近づく。中にはナイフを抜いた者もいる。そして中の一人がバッファローモドキの角らしきモノを掲げた。


 「ゴー!」


 渡辺健二が決行の号令を掛ける。


 同時に四人がそれぞれの方向に突進をかけた。先ずは体当たりだ。


 両足は自由なので踏ん張りは利く。そこを利用してレベルアップで上がった筋力での体当たりだ。当然のようにぶちかましをされた革鎧の男達は吹き飛んだ。


 渡辺健二は直ぐ横にいる革鎧の男の足を回し蹴りで払い、倒れた所を、腹に膝を体重をかけて入れた。革鎧の男はその一撃で昏倒する。


 松本剛は体当たりの体勢を戻すと、直ぐ横にいるナイフを持った男の股間を蹴り上げた。


 おそらく一つぐらいは潰れたのかも知れない。股間を蹴り上げられた男は泡を吹いて気絶した。


 武藤寛太と山口敦は残りの一人になったカウボーイを両側から責め、武藤寛太が足払いをかけた所で山口敦が踵落としを脳天にお見舞いした。


 これで取り囲んでいる革鎧の男達は全て倒した。


 しかし回りに控えていた革鎧の男達が迫る。中には渡辺健二たちの鉄パイプを持っている者もいる。


 渡辺健二は急いで後ろ手に縛られている手を尻の下を通して足から抜く。けっこう無理をしたので肩が痛いが、強引に両手を前に出した。そして落ちているナイフをとる。


 「切るぞ! 手を出せ!」


 声をかけられた松本剛は直ぐに後ろを向いて縛られている両手を渡辺健二の方へと向けた。そして一気に両手の紐が切られる。


 「よっしゃーっ!」


 松本剛は気合いを入れて、迫る革鎧の男達に走り出す。


 渡辺健二は直ぐに山口敦の手の紐も切り、次に武藤寛太の手の紐も切る。武藤寛太はナイフを受け取り、渡辺健二の紐を切って、全員が自由を取り戻した。


 「武藤! アレ! 使えそうか?」


 渡辺健二は地面に転がっているバッファローモドキの角を指差す。


 「やってみる」


 武藤寛太は普段から魔法担当だ。四人の中では魔力操作の経験が一番長い。


 角を拾った武藤寛太は、革鎧の男がこの角をどうやって持っていたのかを思いだし、似たように掲げてみた。


 しかし何も起こらない。


 「使い方が違うのか?」


 武藤寛太が焦る。しかし何度やっても魔法は発動しない。


 周りを見ると、松本剛の暴れっぷりで戦力は充分にたりているように見えた。なので落ち着いて魔力の流れを見ようと集中してみる。


 「あ、一度角に溜めるのか」


 武藤寛太の感触では、バッファローモドキの角は普段から魔力を溜めていき、必要になったら一気に放出するタイプの構造に感じた。

 革鎧を着たカウボーイたちに捕まった時に一気に放出していたから、角にはほとんど魔力が残っていなかったようだ。おそらく渡辺健二たち四人を昏倒させた電撃が最後の一撃だったのだろう。この角を持っていた男は使えない状態を判っていなかった可能性が高い。


 理屈が判ったので武藤寛太は角に魔力を注いでいく。


 けっこうな量の魔力が入っていった。これ以上は武藤寛太の方がマズイ、と言う所で止めたが、感触では三分の一も入っていない。これでどれだけ使えるのか? そう思って一度使って見ようと顔を上げた。


 終わってた。


 「あれ? 終わり?」


 「おう。ちょっと暴れ足り無かったけどな」


 松本剛がすっきりした顔で言った。


 「こんな所さっさと抜けようぜ」


 山口敦がマジックポーチを持ち上げ、自分以外のポーチをそれぞれに放り投げながら言う。


 「もう少し待てって。きちんと報告出来る様に、見るべきモノは見ておかないとな」


 「これ見ろよ。ナイフは牛の角を削って革を捲いてあるだけだぜ」


 「本当に牛以外無かったみたいだなぁ」


 「牛の角はどうだった?」


 聞かれて武藤寛太は牛の角の構造を説明した。


 「振り上げてきた角がこれ一本だけ、って事は、もしかしてここの連中、魔法が使えないのか?」


 「使い方を知らないか、そこまで頭が働かなかったか」


 「調べてみようぜ。もし魔力切れの角が残ってたら、電撃魔法は角の使い捨てだと思い込んでるって事が証明されるな」


 さっさと抜けようと言っていた山口敦が調べてみようと言い出す。


 「あ、それなら見つけた」


 松本剛があっさりと言う。


 松本剛が指差した先には骨の山があった。そこには何本ものバッファローモドキの角が見えている。


 「ゴミ扱いかよ」


 「魔力が無いか、使うと言う発想が無いのか」


 「角は貰っていこうぜ。陽平んトコに持ってけば、魔法の杖にしてくれるかも」


 「だな。迷惑料だ。根こそぎ持って行こうぜ」


 松本剛と山口敦の意見で、四人のマジックポーチに入るだけ入れる事にした。

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