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夢見る冒険者(仮)  作者: I.D.E.I.
13/23

記念写真と村田伶治

 「そっか。コミュニケーションってテレパスの能力が必要だったんだ」


 生産組四人の会話を見ていた佐藤一は空中を見つめ、ぼんやりと呟く。


 「仮面! 呆けるな! あ、で、魔法強化って具体的には?」


 陽平が佐藤一を叱咤した後に生産組全体に問いかける。問われた生産組は再び頷き合う事を続け、しばらくの後に今度は中村梓が答えた。


 「えっと山本君によれば、魔法の杖に属性の追加が可能だけど二つ問題があって、一つは使う魔力が増えそうだって。もう一つは触媒になる素材が判らないって」


 「なるほど。この世界に来たばかりじゃ、まだ判らない事の方が多いよな。使用魔力が増えるのはゲーム的には当たり前だけど、どの程度かな? 二倍使って二倍の効果じゃ意味ないし、二倍使って三倍の効果以上なら試す価値はあるはずだ」


 陽平に返されて、再び生産組が頷き合うだけの会議を始め、直ぐに中村梓が返してきた。


 「具体的にはやってみないと判らないって」


 「判った。引き続き研究を続けてくれ。それと山本のギルド登録もしておこう。パーティ登録は中村さんの方でよろしく」


 「はい」


 陽平が小走りに山本光雄に近づく。その陽平に山本光雄はビクビク、オドオドと言う感じだったが、陽平の言われるままに取得したばかりのスマホを取り出してギルド参加への同意を終了させた。


 「仮面! 素材は草原の獣さんたちの何かって可能性が高くなったと思うが?」


 席に戻った陽平が佐藤一に聞く。


 「まぁ、それが突破口って感じだな。これからは武器とかも自分たちで改良していかなくちゃならないってワケか」


 「肉や皮も使えそうだけど、運送手段の問題でひとまず置いておくとして、牙とか心臓はタッパーにでも入れて持ってくるか?」


 陽平の疑問に佐藤一は少しだけ考える。


 「どうだろう? 一日程度なら持つだろうが、実験に数日をかけた場合腐るよな?」


 「俺たちが飲み食いしないでも腹が減らない、喉が渇かないって状態だからな、そこんところはゲームしてるんじゃ無いのか?」


 「何もかも判らない事ばかりだな。よし、四つのパーティを合流させて二つのパーティで素材集めしよう。陽平たちには街の中で金集めして貰って、街で買える素材を中心に集めてもらう、ってトコでどうだ?」


 「俺の方は回復を怠らなければ問題無さそうだが、草原担当は大丈夫か?」


 「銃担当にショットガンを持たせて、スラッグ弾で打撃力を上げれば、って感じかな。八人構成ならなんとか行けんじゃねえかな。渡辺、田中、小林さんはどう思う?」


 佐藤一が三つのパーティのパーティリーダーに聞く。


 「すらっぐだん、って何だ?」


 「ショットガンに使う弾の種類だ。ショットガンは散弾銃って訳されて、その名の通り小さな弾丸を複数まとめて発射するワケだが、スラッグ弾は発射する弾は一つだけだ。その分命中率や射程は落ちるが打撃力は上がる。猟師がイノシシやクマを狩る時に使う」


 「凄いな。そんなのがあったら始めから言ってくれよ」


 「単純に取り扱いの差だ。落ち着いて一発一発を構えて撃つ、と言う状況ならショットガンの方が有利だが、何時、どこから来るかも判らなく、場合によっては跳ね回りながら、格闘しながら使うには向かない。特に戦闘訓練も受けてない俺たちじゃ尚更だ。だが、だが人数揃えて余裕があるなら慣れるには絶好の機会だろう?」


 「なるほど」


 「じゃ、先ずは金稼ぎだな。ショットガンだけじゃ無く、他の武器や予備、薬関係、タッパーや剥ぎ取りナイフとか、揃えられる物は揃えて、準備が出来たパーティから合流して素材狩りに出よう。他になにかあるか?」


 佐藤一が方針を示して最後の締めを取ろうとした。


 「見て貰いたい物があるんだが、良いか?」


 陽平が真剣な表情で切り出す。そしてスマホを操作してからテーブルの上に置く。


 スマホには佐藤一が教室で巫山戯た恰好をしている画像が写っていた。


 「あ? 去年だったか、今年だったか、冬頃に撮った画像だろ?」


 陽平は何を言っているんだ? と佐藤一が首を傾げる。他のクラスメイトもその画像の元になった状況を知っている者が大半だし、似たような状況は最近でも起こっていたと記憶している。


 陽平は黙ったまま、腕を組んで目を閉じる。


 意味ありげな陽平の態度に、画像を見た皆が色々考えるが答えが出ない。


 「あっ!」


 気付いたのは清水咲恵だ。普段はそんな声を上げて驚くような事はほとんど無いのに、少し取り乱し気味に驚いている。


 「方法の解説を要求」


 清水咲恵が陽平を見つめて問う。


 「あっ」


 次に小泉澪が声を上げた。


 「陽平君! どうやったんですか?」


 「なんだ? 小泉さん! 何がおかしいんだ?」


 佐藤一が気付いた小泉澪に聞く。


 「このスマホ。夢の中のスマホです! 現実で使ってるスマホじゃありません!」


 「「「あっ!」」」


 連絡手段には使っているが、ゲーム世界の中では使う機会が無いのでそれが特別な物だという認識が薄くなっていた事に気付く。


 「陽平! どうやった?」


 佐藤一が改めて皆を代表して聞く。


 「現実で使ってるスマホの画像フォルダーに作った覚えの無い俺の名前のフォルダーがあった。そこに昔のフォルダーから画像を移動させただけだ。その結果がこれだ」


 「つまり、コッチにあっちのデータを移せるって事か」


 「まだ、コッチで撮った画像を現実のスマホに移せるかどうかは試していないし、画像以外のデータが可能かも判らない。気付いたのが土曜の昼頃だったからな」


 「…よし! 皆で記念写真を撮ろう」


 佐藤一の一言で、ロビーの椅子を集めて急ごしらえの集合写真コーナーが出来た。前列十二人、後列十二人で前列の中央は陽平と佐藤一だ。二人は猛反発したが他の皆が断固として譲らなかった。


 まず佐藤一のスマホで撮影。それを佐藤一の持つ連絡網を使ってメール送信した。


 その後は攻略に出ないでそれぞれの撮影大会になった。一人一人が武器を構えた恰好で撮影したり、パーティで撮影したり、銃の担当者だけの集まりで撮影したりなどなど。個別に撮影したら全てを佐藤一に送り、まとまったら全員に送り直すと言う事にもなった。


 そしてパーティごとに分かれ、金稼ぎしながら街中での戦闘を撮影する事にも。


 「陽平君。今度は一人ずつ戦ってる場面を動画と画像で撮ります」


 「はいはい」


 やや呆れながら、小泉澪と鈴木千佳の要望で動くしか無い陽平と生産組五人だった。


  ○★△■


 日曜の朝。陽平は平日の普段通りの時間に目を覚ました。


 「朝、すっきり目覚めるのは色々と都合が良いが、二度寝できなくなるのはどうかと思う」


 妙な理不尽さを感じながらトイレに行き顔を洗い、寝癖を直してから服を着替える。


 朝食をどうするか考えながら自室の椅子に座り机にスマホを置いてスマホ内のフォルダーを開いた。


 「しっかりあるな」


 画像フォルダーの中にある陽平フォルダー。その中に夢の中で撮った画像がしっかりと保存されていた。


 とりあえず、と陽平は画像フォルダーの中身をメモリーカードにもコピーしておく。さらに変換コネクターを繋いだUSBメモリーにも保存した。


 保存したデータをどうするか考えていた時、佐藤一からメールが届いた。


 【無料のファイル転送サービスにアカウント作ったから共有したいデータはそっちに上げてくれ。ファイル名は「撮影者名-日付け-001」と言う感じで統一してくれると見やすいから協力よろしく。アドレスとゲストアカウントは…】


 クラスメイト全員に一括で配信されたメールだった。


 ネットにはデータを保存してくれるサービスがある。無料版は有料版のお試しという感じで、保存できるデータ容量が少なく、保存して貰える期間も短い。しかし個人で使う分には充分な機能だ。さらに共有機能があるサービスであれば、複数人が同じデータを共有出来るし追加する事も出来る。


 今回のように皆で撮った画像データを一カ所にまとめ、それを皆に配ると言う目的ならば打って付けだろう。


 陽平がそのアドレスにゲストアカウントで入ると、夢役所で撮影した集合写真やパーティごとの画像などと思われるファイル名が並んでいた。


 「画像ならサムネイルが表示される共有サービスを選べよ」


 陽平は文句を言いつつ、ネット上のデータをパソコンにコピーしていく。同時にパソコン側からスマホにアクセスし、パソコンにスマホのデータを吸い出していく。


 コピーが終わったら画像ファイルの名前を連番で付け直して転送サービスにアップロードする。


 暫くかかりそうだと思い、アップロードさせつつネットの掲示板を開く。夢の中のゲーム世界に実際に行ける連中の掲示板サイトだ。


-----------------------

 【陽平と愉快な仲間たち】


131 名前:ぼっちの魔法剣士

   聞いて欲しい! ついにぼっちでは無くなった!!


132 名前:ぼっちの魔法剣士

   早起き過ぎたかな? また来ます


133 名前:臆病者

   おはよう! 単独でボス制覇!

   じっちゃん! 俺はやったぜ!

   いっつぁんの情報通り、化け猫とイタチと毛と鬼火だった。しかも、確かにイタチの分身は魔力の目で見てみると簡単に判断出来た。凄いよいっつぁん!


134 名前:三刀流が出来なかった剣士

   おはよう。

   マジか!? レベルいくつだ? どれぐらい余裕だった?


135 名前:臆病者

   俺のレベルは32。しかし成長の仕方と効果が判らないから意味はあまり無いかな

   とりあえず、まず始めに毛を燃やした。情報通りあっさり燃えたよぉ。今までの苦労を思い出して泣いた。

   その後は逃げ回って風で化け猫を牽制しながらイタチを倒した。風使ってたらいつの間にか鬼火も消えてたのは笑った。

   化け猫は盾で抑えながらサブマシンガンで削っていったらいつの間にか終わってた、と言う印象だな。判ってたらレベル32なんて必要無いボスだった。


136 名前:三刀流が出来なかった剣士

   乙。

   初めての街の外はどうだった?


137 名前:臆病者

   いっつぁんの言ってた通りの、見渡す限りの草原。

   感動だった。

   思わず消えていった先達を空に思い浮かべて敬礼をしてしまったわ。


138 名前:ぼっちの魔法剣士

   おはようです。元ぼっちの魔法剣士です


139 名前:三刀流が出来なかった剣士

   ああ、イマジナリーフレンドの


140 名前:臆病者

   ああ、良かったね(優しい目)


141 名前:ぼっちの魔法剣士

   いるよ。本当に友達いるよ。空想の中の人じゃないよ

   いるんだよ。友達なんだよ。優しいんだよ。親友なんだよ


142 名前:三刀流が出来なかった剣士

   うん。うん。良かったね


143 名前:一

   おはようっす

   今回も陽平がとんでもない発見をしたっす。

   けど今日はイマジナリーフレンドを持つ方を慰める会っすか?


144 名前:臆病者

   自分で自分を慰めているヤツを慰める会などは無い!

   俺が断言する!


145 名前:三刀流が出来なかった剣士

   俺も断言する!


146 名前:ぼっちの魔法剣士

   お、俺だって断言する!

   いるんだよ。友達いるんだよ


147 名前:一

   まぁそんな事は富士山頂気象観測所の棚に上げておくっす


148 名前:ぼっちの魔法剣士

   遠いよ。高いよ。そこって閉鎖されてるよね?

   棚から下ろしてくれる人いないよ? 自動観測機だけしか無いよ?


149 名前:早撃ちの一発マン

   おはよう!

   なかなか良い棚が見つかったな

   で、新発見って?


150 名前:一

   夢役所で貰えるスマホの機能でカメラ機能があるっすよね?


151 名前:臆病者

   ちょっと待て ウェイト ア ミニッツ

   等一下 アテンド ミュートン

   夢役所のスマホって何?


152 名前:三刀流が出来なかった剣士

   おや? 始まりの町を語るスレで出てきた話題だな


153 名前:臆病者

   あったのか?


154 名前:早撃ちの一発マン

   夢役所でもらったステータスカードは初めは本当にカードだったが、途中からスマホになったって話題だ。役所に行けば交換してくれるぞ


155 名前:臆病者

   知らなかった_| ̄|○


156 名前:三刀流が出来なかった剣士

   ドンマイ


157 名前:ぼっちの魔法剣士

   カードだとカメラ機能は無いけど、スマホならカメラ機能があったなぁ

   当初は結構撮りまくってたけど飽きた


158 名前:一

   夢役所で登録する時、名前を登録したっすよね?

   その名前のフォルダーが、現実のスマホの画像フォルダーに無いっすか?


159 名前:三刀流が出来なかった剣士

   気付かなかった! マジである! 中にあの時撮った夢の中の画像があった!


160 名前:臆病者

   俺のにもある! 夢の中のスマホは持って無いけどフォルダーだけは有る、マジだよ、マジ!


161 名前:早撃ちの一発マン

   カードからスマホに交換してからのが全てあるな。

   現実のスマホのフォルダーは結構チェックしてたんだが、このフォルダーは気付かなかったぞ


162 名前:ぼっちの魔法剣士

   これがあれば、もっと信用を勝ち得たのに(T-T)


163 名前:一

   最近実装されたって事っすか?


164 名前:早撃ちの一発マン

   おそらくそうだろうなぁ。

   例によってアナウンス無しのいきなりアップデートか


165 名前:臆病者

   良くある事なんだが、なんだか悔しいなぁ


166 名前:三刀流が出来なかった剣士

   こういう掲示板情報のありがたみが判る話だなぁ


167 名前:一

   現実のスマホの中のデータも、コピーとか移動しておけば、向こうで見れるっす


168 名前:臆病者

   現実の画像? 入れといても邪魔じゃね?


169 名前:ぼっちの魔法剣士

   現実の恋人の画像を入れといて、俺この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだ、って戦友に自慢しよう


170 名前:早撃ちの一発マン

   ダウト!


171 名前:三刀流が出来なかった剣士

   ダウト!

   イマジナリーフレンドだけじゃ無くイマジナリーラバーか


172 名前:臆病者

   流石に痛いぞ


173 名前:ぼっちの魔法剣士

   いるモン! 恋人はいないけど友達はいるモン!


174 名前:一

   金属材料系のウィッキ入れとくとか、薬系統の化学反応式とかのデータを画像データとして取り込めないか、とか言ってたっす


175 名前:三刀流が出来なかった剣士

   流石に同じ物理法則が通用するかも判らないしなぁ


176 名前:臆病者

   魔法の有る世界だしなぁ


177 名前:一

   あ! 魔法の杖とかは改造して強化できそうって生産職が言ってたっす。

   でも必要な素材が今のところ不明なんすけどね


178 名前:早撃ちの一発マン

   不明って事は、まだ実現出来てないのか


179 名前:一

   草原の獣さんたちから剥ぎ取る何か、と言う予想はあるっすけど、まだっすね


180 名前:臆病者

   草原の獣さんたちの情報プリーズ


181 名前:ぼっちの魔法剣士

   臆病者さんはボス討伐したんじゃなかったっけ?


182 名前:臆病者

   外の草原見て帰って来ました。なんかヤバそうな感じがしたので


183 名前:一

   草原にはスライムさん、蟻さん、イノシシさん、鹿さん、クマさんなどがいらっしゃるっす。ちなみにスライムさんと蟻さんは草原の掃除屋みたいっすけど、近づけば戦闘になるっす


184 名前:三刀流が出来なかった剣士

   聞けばなんとかなりそうなんじゃね?


185 名前:臆病者

   確かに


186 名前:一

   俺らは四人組のパーティを八人組編成にして、ショットガンを装備して再挑戦する予定っす


187 名前:ぼっちの魔法剣士

   え? なんかヤバそうな響きが


188 名前:臆病者

   もっと詳しくぷりぃず


189 名前:一

   イノシシさんチームは三人が9ミリパラを撃ち込みまくって、一人が火の魔法を叩き込み続けてなんとか倒せたっす。

   鹿さんチームはロデオの暴れ馬のように暴れる鹿さんを取り囲んで、長時間かけて疲れ切るのを待ってたそうっす。

   イヌさんチームは十数頭のイヌの群れを相手してたそうっす。聞く所によると一番倒しやすい相手だったらしいっす。でも傷つき倒れたイヌがクォーンと泣きながら涙を浮かべた目で見つめてくるそうっす。

   クマさんチームは見ただけでヤバそうだったので、こっそり帰って来たそうっす


190 名前:三刀流が出来なかった剣士

   確かにヤバイ


191 名前:臆病者

   いろんな意味でヤバいな。うん、イヌもヤバイ


192 名前:一

   倒した後には血まみれで残っているっす。素材を剥ぎ取るなら蟻さんやスライムさんが来る前に切り裂かないとならないっす


193 名前:ぼっちの魔法剣士

   ま、マジの剥ぎ取りか…

   妖怪相手の消えてドロップに慣れすぎてたかも…


194 名前:臆病者

   安易に出なくて良かった…


195 名前:一

   剥ぎ取りできないと武器や弾丸の消耗だけで終わってしまうっす。

   先ずは牙とか心臓とか、その手の素材を回収して生産組に確かめてもらう予定っす。

   それよりも先に武装の強化のために金稼ぎとレベル上げと言う段階っす。誰かが犠牲になるとかは避けたいっすから


196 名前:臆病者

   情報サンクス。マジで仲間集めから始めなきゃならなそうだ。

   ルイルイのお酒処は何処ー!?


197 名前:三刀流が出来なかった剣士

   マジで仲間集めが重要だな。あっ、もしかしたらいっつぁんの所に合流出来ないか?


198 名前:臆病者

   それがあった!

   門の外に出れるから街の移動も出来るんじゃね?


199 名前:一

   可能性は大きいっすね。

   でもちょっと待って欲しいっす。再挑戦のための準備期間にしたんで、来て貰っても一緒に外には出られそうに無いっす


200 名前:臆病者

   行って挨拶だけでもしたいんだが?


201 名前:一

   その程度なら良いっす。けど街に入れるかは微妙っすね。門の直ぐ外で待ってた方が良いっすか?


202 名前:臆病者

   それで頼む!

   俺も情報発信者になる!


203 名前:三刀流が出来なかった剣士

   期待!

   ボスなら倒せそうだから俺も行ってみるかな


204 名前:ぼっちの魔法剣士

   俺もダチとボス攻略して行ってみるか


205 名前:一

   見えないお友達を紹介されてもキツいっす


206 名前:ぼっちの魔法剣士

   いるモン! 本当にいるモン!


-----------------------


 「今夜の夢でまた色々判りそうだな。もしかしたらまたアップデートとかあるかも知れないけど」


 陽平は掲示板サイトを開いたまま、別ウィンドで夕べ撮った画像を見ながら音楽をかけた。


 朝食は昼にしっかり食べれば良いと考え、買い置きしてあるお菓子を摘まんで済ませる。そしてネットで武器関連のウェブページを巡り始めた。


 通常の剣や刀はほぼ対人仕様だ。分厚く固い皮を持つイノシシやクマを想定していない。もちろん刀の達人が真剣に振るえば、イノシシを一刀両断にする事は可能かも知れないが、陽平たちにその技量を期待する事は出来ない。


 ならば鉈や斧ならばどうか?


 斧を使ったからと言って大木を一撃で切り倒す事が不可能なように、鉈や斧でもイノシシやクマを一撃で倒す事はほぼ不可能だ。

 剣や刀よりは傷を付けやすいが、大木を切り倒すのと似たような状況になる。


 鉈や斧を振るう人間の力が弱いのだ。さらに鉈や斧の刃が鈍く脆いのも原因としてある。


 金属はある程度以上の硬さを持っているため、薄く鋭くしても活用できるが、それでも加える力が大きいと破損する事になる。鉈や斧はその破損を回避するために薄さを犠牲にしている。つまり鈍いのだ。イノシシやクマなどを相手に薄く鋭くしても打撃の力に硬さで負けてしまう。


 「ある程度鈍くても、それを補ってあまりある力で断ち切らないとならないよなぁ」


 結局は力の増強しかない。


 レベルアップで力は増えているらしいが、イノシシやクマに対抗出来る程でも無い。


 「ゲーム的にはあの場にいたイノシシやクマもレベルが高いと言う可能性もあったな」


 考えながら陽平は重火器を中心にウェブサイトを巡り始めた。


 「取り回しやランニングコストを考えなければ、強い武器なんていくらでもあるんだよなぁ。でも重火器を運んでいるせいで取り囲まれたなんて笑い話にもならない」


 重火器は取り回しに難があるので、ほぼ前方のみが攻撃対象だ。人が片手で取り扱える武器ならば真後ろから来ても問題無いが、両手持ちの武器だと一拍以上遅れる事になる。まして地面に置いて使用する武器ならそれ以上だ。


 やはり草原の獣を相手するにはもうワンステップあるんだろうと言う結論に行き着く。


 画面には天井の無い軍用車両の後部荷台にマシンガンが備え付けられている画像が写っていた。


 「これはこれで有りだが、お高いんでしょう?」


 現実世界での米軍の軍用車両は中古価格で八百万ほど。日本の自衛隊が使っている軍用車両は中古価格で三百万から四百万の間だった。これがゲーム世界で売っていたとして、どれぐらいになるかは判らない。


 「うん、購入は無理だな。あ、軽トラックで良くね? 自動車ディーラーとか有ったかなぁ? 中古車でも良いんだが…」


 結局夢の中の街にどれだけの物資が用意されているかが不明なので、明確な解決策は見いだせなかった。


 「街の中の詳しい探索も平行して行わなければなぁ」




 「俺の名前は村田伶治。もちろん偽名だ。お国の役人として就職したのだが、適性だの能力だの前歴だのでかなり過激な部署に送り込まれてしまった悲しい公務員だ。いや、訂正、公務員と名乗るのも秘密だった。年はピチピチの二十九歳。断じて三十代ではないので間違えないように。アラウンドとか付けて呼ばないように。絶対にだ。そして、今一番問いたい謎がある。なぜ俺はこんな所で自分語りをしてるのだろう?」


 村田伶治(偽名)は駅から少し離れたマンションの2LDKに一人暮らししている。表向きの仕事は事務方の自衛官で、実際に登庁もする。しかし実務は無く、偽装用の書類作成以外は訓練施設で身体と技術を鍛える毎日だ。


 元々は国内、国外を問わず、情報の収集を担当する仕事だった。扇動や工作などの内容は無く、純粋に情報のみを仕入れる部門だ。だが夢の中のゲーム世界に行けるようになった事から、夢の中のゲーム世界専門となった。


 当初は別の部隊が噂の検証を行っていたが、実際に行けるのが村田伶治だけだったので白羽の矢が立った。


 担当になって直ぐは大勢の観察者に囲まれる中で寝て、二十四時間脳波計などが付け続けられ、嘘発見器よりも高レベルの観測もされ続けた。


 しかし嘘は吐いていないのに、就寝中のどの地点でゲーム世界に行っているのかも不明で、ゲーム中の脳波を拾う事は不可能だった。


 なので回りに知られる事が無いように配慮しながら、夢の中で情報収集を続けるしかなったが、最近、とある学校の一クラス全員が夢の中に行けると言う事が判明した。

 このチャンスを逃すまいと、村田伶治はさらに偽の会社員の身分取得を申請し、実際に夢の中のゲーム世界に行ける学生たちに接触する事にした。


 知り得た情報は上に報告する事になるが、上がその学生たちに直接接触する事は無いと考えている。


 実際に行けると言う人物に心当たりはあるが、自分を調べた時に一般人との差異は見られなかったので、検体が複数有っても無駄だろうと考えている。それよりも自分の同僚が行けるようになる方が重要だ。その手がかりは手に入った。既に検証班が作られ、行く準備も出来ているという。


 村田伶治はマンションの一室でノートパソコンを使って報告書を書きながら現状を再確認していた。


 部屋には一人暮らしの男が置いてありそうな物が最低限あるだけの殺風景な部屋だ。生活家電などはそれなりに使ってはいるが、ゲーム機やカメラなどは置く時に触った以外、手を触れた事も無い。部屋を引き払う時には全て処分する予定だし、やりこむ程趣味だと言える物は無かった。


 それに今回の場合有るとは思えないが、何者かが盗聴器を仕込む事も考えておかないとならない。場合によっては上が内緒で仕込む事もあるし。


 そう言った理由から、部屋の中でも機密に関する独り言は言ってはならないのだが、何故か自己紹介を強いられた。これは永遠の謎だ。うん、謎だ。そういう事にしておく。


 村田伶治は報告書を書き終わるとハッシュタグを利用した暗号化処理を行い、それをマイクロSDカードに記録していく。ノートパソコンの元データには別の文章を貼り付けて保存し、それから削除する。


 報告書の受け渡し方法は現在はほぼ直で直接の上司に偽装した書類と共に渡している。

それだけ情報の重要度は低いのだが、これからはある程度上がる可能性もある。


 村田伶治が報告した情報に、夢の中で撮影した画像が現実に持ち出せると言う内容があったためだ。未だ村田伶治はその画像を得てはいないが、今夜の夢でそれが実現する可能性が高い。


 村田伶治。掲示板に書き込む時のハンドルネームは臆病者。夢役所に登録した名前は02。


 今夜の夢でハンドルネーム「いっつぁん」に会って、「いっつぁん」なる人物が実在する可能性を確認しなければならない。その前に夢役所に寄ってステータスカードをスマホに切り替える必要があるが、掲示板の内容からそれは極簡単に実現出来ると踏んでいる。


 そして自衛官の制服に着替え、報告書を自衛隊庁舎にいる仮初めの上司に手渡すために登庁する。登庁する姿をご近所に見せるのも仕事の一環だ。


 そして中古軽自動車のマイカーという設定の自家用車で登庁した。


 二十九歳の独身自衛官の給料ではこれでも頑張っている方だ。と言う設定だ。


 実際の自衛官のお給料に関しては、聞かなかった事にしてください。うん、頑張ってるんだよ。ホントだよ。


 そして偽書類と一緒にマイクロSDカードを密かに渡し、次回用の偽書類を作るためにあてがわれた事務室に向かった。


 そこで昼を挟んで四時間程過ごす。いくら擬装用とは言え、短時間で出入りするのは流石に不自然だ。


 そして退出しても不自然では無い時間が来て、そろそろ帰ろうとした時、この自衛隊庁舎の上司から呼び出しを受けた。


 「命令により出頭いたしました」


 「ご苦労。休んで良し。今回は君に補佐を付ける事になった」


 「補佐でありますか? 要件を満たす書類作りは可能と言う事で宜しいでしょうか?」


 「うむ。条件は問題無い。書類作成の補佐に使用したまえ」


 「はっ。ご配慮傷み入ります」


 基本的に上司の言葉は上意下達。上の命令は絶対だ。


 この場合はお前と同じように夢の中のゲーム世界に行けそうな人間を担当に選んだから、一緒にゲーム世界に行って情報を集めてこい。と言われたに過ぎない。


 そして紹介されたのは位としては村田伶治と同位だが、実際はどうだかは判別不可能だ。一応同位として紹介され、そう振る舞っているので、同位として扱う以外の道は無い。


 そして、紹介された同僚は制服をきっちり着こなす女性自衛官だった。結構美人だ。


 紹介された後は仮初めの部署に案内し、空いている事務机を指して作業用の場所を確保してもらう。


 「さて、改めて自己紹介しよう。自分は村田伶治一等陸尉である」


 「はっ、自分は大槻圭子一等陸尉であります」


 「よろしく頼む。時に、あそこに移動した実績はあるのか?」


 「有りませんが、今回の情報で行ける可能性が高くなったので志願しました」


 「具体的な方式の開示を願う」


 「はっ。自分が村田一尉と同衾し、一尉のスマホデータをしっかり見つめて就寝せよと命令を受けています」


 堂々と言う大槻圭子に村田伶治は盛大にこけた。


 「ちょっと待てや! なんだ同衾って!」


 「同衾とは一つの布団で一緒に寝る事であります!」


 「意味を聞いたんじゃねぇ!」


 「では質問の意図を明確に願います」


 「年頃の女性としての貞操観念を聞いてるんだ!」


 「村田一尉が性的に欲情した場合でも、それを受け入れ、情報収集に邁進せよと言う命令ですが?」


 「それって、女としてどうよ?」


 とうとう自衛官としての仮面を取っ払った。


 「自分は三人の男性と肉体的関係の付き合いがあり、現在は誰とも交際しておりません。今回、村田一尉と肉体的関係になったとしても、任務の一環で有り、特別賞与が支給されると確約をもらっておりますので、むしろ是非にとお願いしたい事案であります。既に二ヶ月前より経口避妊薬を摂取しておりますので、直接交渉でも問題ありません」


 ハンドルネーム「臆病者」は、自分が本当に臆病者になったという気がしてならない。


 「あー。なるほど。君の覚悟と上の現状の捉え方は判った。なら、初めは同衾では無く、別の寝所から始めて、それでも大槻一尉があそこへ行けなかった場合には同衾から試行していきたいと思う。そんな予定でいいか?」


 「準備をしていたので残念ではありますが、実験データとしては有効な方法であると推察しますので了承いたします」


 「…君、もしかして溜まってる?」


 「かも知れません」


 「自分でやってる?」


 「アレはアレ。コレはコレです」


 「誰かセフレとか作ろうとしなかったの?」


 「変な男とか変な病気持ちとかは怖いのです。その点で言えば血液検査されまくっている村田一尉は状況的にも欲求解消の相手として安全パイと愚行いたします」


 「さいですか…」


 村田一等陸尉、もとい、ハンドルネーム臆病者は、猛禽類に捉えられたネズミの気分を味わうしか無かった。


 「(俺、この仕事が終わったら、田舎に帰って畑仕事するんだ)」


 村田一等陸尉の願いは叶うことがなった、と言っておくに留める。


 その夜。


 「村田一尉が性的行為により性欲を処理する行為を自分に対して行って頂ければ、自分の性的欲求も解消され、任務にも誠心誠意邁進できると愚考いたします!」


 「いいから、さっさと一人で寝ろや!」


 村田伶治の寝室に特攻した大槻圭子が蹴り出された事を語る者はいなかった。


 「仕方有りません。とりあえず今日は一人でします」


 一人で何をしたかは語られていない。村田伶治が聞けば事細かく聞き出すことは出来たのであろうが、村田伶治は全力で無視した。

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