番外編 でちゅまちゅ
5日前――。
ラファル侯爵は書斎で仕事をしていた。机の上には書類が積み上がっている。
「うわあああああん!!!!!!!!」
2階にある子供部屋から大声で泣く声が聞こえる。誰の声かなど聞かなくてもハッキリとわかる。
「リヴィが泣いているな……」
そう言ってラファル侯爵は微笑んだ。孫であるリヴィは齢まだ3歳程だった。乳母が子供部屋に居るはずなので、そのまま仕事を続けているが、リヴィは泣き止まない。
ラファル侯爵は紅茶を1口飲むと、立ち上がって子供部屋へと向かう。
子供部屋の扉はいつも開いていた。何かあれば直ぐ駆けつけられるようにだった。中を除くと、リヴィが座り込んで泣いていた。その前にいる乳母が必死に慰めようとしている。
「どうした」
その声に驚いたのか、リヴィは泣き止んだ。だがまだひっくひっくと直ぐに泣き出しそうである。
「あ、ラファル侯爵……」
乳母がお辞儀をし、ラファル侯爵は中へと入った。
「先程転んでしまいまして」
「ほう、痛かったのか」
「いえ、それが原因ではなくてお召し物が」
「ひっく……うぅ……」
リヴィの服を見るとスカートが色とりどりに汚れてしまっている。
「絵の具遊びをしていたのですが、その上に倒れてしまいまして。汚れて悲しくて泣いているのです」
「こ、これぇ、おじいちゃまがぁ、くれた……ひっく……うぅうああああ」
「……ふむ、なるほど」
ラファル侯爵は少し考え、乳母に代わりの服を取ってくるよう命じた。乳母が出て行き、2人きりになる。ラファル侯爵はしゃがみ込むと、リヴィを抱き上げた。スカートの汚れが服につくが、そんなことは気にしなかった。
ラファル侯爵は咳払いをする。
「はい! リヴィたん! おじいちゃまが抱っこちまちたよー! 泣かないでくだちゃいねー!」
声色を変え、リヴィを元気付けるように話し掛ける。それだけでなく、クルクルと動き回り少しでもリヴィの機嫌が良くなるようにしていた。
「うっぅっ、でもぉ――」
「大丈夫でちゅよー! またぁ、おじいちゃまが可愛いおべべ買ってきてあげまちゅからねー!」
「べぇべ?」
「お洋服でちゅ」
「これぇ、すきなふくだった」
「ならまたそれを買いまちゅからねー!」
「おじちゃまが」
「おじちゃまじゃなくて、おじいちゃまでちゅよー!」
「んーん、おじちゃまがいる」
そう言われハッとする。全身の血の気が引き、顔を引きつらせてゆっくりと扉のある後ろを振り向くと、レオナールとヴァルが立っていた。
レオナールは顔を引きつらせ、ヴァルは口元を歪ませ必死に笑うのを堪えている。
時が止まったように何も言わずにただ立ち尽くすと、レオナールが去り、それを追うようにヴァルが去って行った。
「おじいちゃま?」
「……いや、何でもない。大丈夫だ」
「えー、いつもみたいな、へんなおはなしかたやってー。ふたりのヒミツのおはなしかたー」
ラファル侯爵は何とも言えない表情で、リヴィの頭を撫でていると、ちょうど乳母が着替えを持って来た。




