69.最終話 結婚式
――5年後。
――ローズの結婚式、当日。
「とても綺麗よ」
自室でウエディングドレスに着替え、ブライズメイドのナディアが髪を結ってくれた。ハーフアップに薔薇の花飾りをつけ、胸元にも薔薇の飾りをつけた。
「準備はどう? 馬車が来たわよ! あら! 素敵!」
母親が入ってきて歓喜の声を上げた。
「2人ともありがとう」
ローズは微笑むと、「仕上げね」と言ってナディアが最後に口紅をさした。赤い薔薇に似合う艶やかな赤い口紅だった。
「じゃあ行きましょう」
3人は部屋を後にして馬車へと乗り込む。馬車は教会が用意している質素な馬車だ。一応、結婚式用に白い布で飾り付けがしてあった。
挙式会場は丘の上にある小さな教会だった。その教会の帰りにレオナールと出会った場所だ。
「着いたわね。それじゃあ私は行くわね」
「ありがとう!」
ナディアと抱擁を交わすと、彼女は中へと入っていく。父親がいないローズは、母親と入場する。そして式場の入り口から祭壇の通路――精霊の道を途中まで歩き、新郎と交代して歩く。
「途中まで歩いてロイクと交代すればいいのよね。どうしよう。お母さん、緊張して最後まで歩いちゃったら」
「いや、途中にロイク居るんだから大丈夫だよ」
「緊張して見えない可能性もあるじゃない」
「大丈夫だって!」
自分以上に緊張しすぎた母親は、訳の分からない事を言う。ローズはゆっくりと息を吸って吐いた。それを見て母親は何度も深呼吸をした。
「間もなく入場しますよ」
扉の前に立つ修道女が声を掛けた。ローズが少ししゃがむと、母親はローズのベールを下げる。
「お母さんね、貴女の幸せを願わなかったことはないのよ」
「うん」
「愛してるわ」
パイプオルガンの音が流れ、扉が開いた。ローズと母親は腕を組んで入場する。1歩ずつゆっくりと歩き、真っ白な精霊の道を歩いた。
(……え!?)
帽子を深々と被ったある人物が、席の1番後ろに居るのが目に入った。
(ウソでしょ!? な、何で!! どうして――)
「ローズ!!」
母親が小声で注意する。ロイクが咳払いをしながら手を出していた。
「あっ……」
1人の人物に気を取られ、立ち止まっていることに気付かなかった。その後、式は順調に進行し最後まで終わった。
式が終わり、次は会食だった。教会の庭でやる小さな立食式のパーティーだ。参加者全員が庭へと出て行く中、1人だけ扉から外へと出て行った。
「ローズ、行こう」
ロイクは庭に行こうと促す。
「ごめん。少しだけ待ってて」
そんなローズを母親は咎めようとするが、ロイクは制止した。
「うん、大丈夫。待ってる」
「ありがとう」
ローズがスカートの裾を持ち、急いで教会を出た。
帽子を被った平民服の男の後ろ姿が見える。そんな服を着ていても分かった。ムスクの香りが風に乗って鼻腔をくすぐった。
「レオナール!」
彼は振り向きニヤリと笑う。
「やぁ、ローズ」
「何でここにいるの!!」
レオナールは懐から招待状を出した。
「忘れたのか? 送ってきただろう」
「返信なかった!!」
「忙しくて送れなくてな。それに、この招待状を見たのは1週間前だ」
「え? どうして?」
「前に店へ行った時言っただろう。今商船に乗って仕事をしている、と」
「……そう言えば」
「船から戻ってきたら、この招待状を渡された。返信するより、もう来てしまおうかと。修道女もこれを見せたら入れてくれた」
「……そう」
何を言おうかと考えると、「綺麗だ」とレオナールが言った。
「え?」
「綺麗だ。とても似合っている」
「思ってもないくせに」
「いや、いつの日か言わなかったか? 嘘は吐かないと」
「……そうだったね。ありがとう」
「その隣が俺ではないことが残念に思う」
ローズは言葉に詰まった。
「……何言って――」
「俺より良い男だったのか?」
ローズは目を瞬かせて驚いた。
「え……ええ、とても」
「そうは思えないが」
「どっかの誰かと違って、傲慢じゃないし変に自尊心も高くないの!」
「ははっ、そうか……なら良かった」
レオナールは微笑むと、ローズも微笑んだ。
「結婚おめでとう、幸せに」
レオナールは踵を返し、立ち去っていく。
無理矢理別れてすぐは気持ちの整理が追い付かず、苦しく精神を病みそうになった。
だが今ならわかる。
あの結婚は上手くいかない。
初めは浮かれた気持ちで楽しいはずだ。だが問題はその後である。侯爵夫人として教育を受けてこなかった自分は、教育係をつけられる。そして上手く振る舞えない自分を見て、周りから何を言われるかは明らかだ。
一族はそれを糾弾するはずだ。強い絆にはヒビが入り、やがてそれは大きくなり割れてしまう。そうなると修復するのは難しい。
ラファル侯爵がしたことは強引であったが、一族の長として、そして父親として理解が出来る行動だ。
全ては将来一族を率いるレオナールの為にした事だ。
楽しいだけでは結婚生活は上手くいかない。平民と貴族なら尚更である。初めから侯爵夫人の道ではなく、愛人の道しか歩めなかったのだ。
自分ですら理解出来たのだから、レオナールも理解しているはずだ。
「来てくれて、ありがとう」
レオナールは振り返らずに、手をひらひらと振った。ローズは教会へと戻る。庭へ続く扉の前でロイクが待っていた。ロイクは手を差し伸べるとローズはその手を取って扉を開いた。
本編はこれにて完結となります。
明日番外編を3つ投稿し完全に終わります。
もしよろしければ、御付き合い下さい。
本当にありがとうございました。




