表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/73

68.それぞれの道へ ※

***


 最高に幸せな瞬間だった。レオナールに触れられた場所全てが心地よく、下半身の鈍い痛みも幸せに感じる痛みだった。何もかも忘れ身体が1つになるように、ただ互いを求めあった。


 ローズはゆっくりと目を開くと、カーテンの隙間から星空が見えた。そして暖かい温もりが、後ろから自身を包み込んでいることに気付く。


 後ろを振り向くと、レオナールがこちらを見て微笑んでいた。そのままレオナールに向き合うように体制を変える。互いに一糸まとわぬ姿のまま抱き合った。


「起きてたの?」

「ああ」

「寝ないの?」

「寝てしまっては、この幸せが一瞬で終わってしまう」


 そしてローズの額にキスをした。


 幸せだった。幸せで、幸せで仕方がない。


 だがこの幸せが、もう長くないことも分かっていた。レオナールの胸に手を這わせて、胸元にキスをした。次にそのまま頬へと手を這わせる。


「お酒ばっかり飲んでたんでしょ。早死するよ」


「……ヴァルから聞いたのか?」

「ここに来るまでヴァルからいろいろ聞いたよ。酒に溺れてるって」

「そんなことはない。ちょっと多めに飲んだだけだ」

「そんで女は毎晩取っかえ引っ変えって」


「……余計なことを」

「寂しかったのね、私がいなくて」 


 レオナールは気まずそうに「そうだな」と答えた。


「案外未練がましいのね」

「情が深いと言ってくれ」

「ソレイユレーヌさんの時もそうだった?」

「やめろ」

「ふふっ」

「俺で遊んでいるな?」

「分かった?」

「悪い女だ」


 そう言われると強く抱き締められた。ローズも強く抱き締め返す。


「明日、他の人と結婚しちゃうのね」

「……ああ」

「時間が止まればいいのに」

「そうだな」


 残念ながら、そんなことは起こらない。

 刻一刻と時間は過ぎていく。


 日を跨ぎ、空が白みを帯びた頃、扉を叩く音がした。


「レオ、起きてるか。帰らねぇと騒ぎになる」


 扉の向こうから声が聞こえた。


「分かった」


 仕方なく離れ、互いに服を着た。ゆっくりとなるべく時間を掛けて着替える。最後にマフラーをして着替え終わるとレオナールが手を差し伸べてきた。ローズがその手を握ると、2人で外へと出た。

 繋いでいた馬の元まで行くと、ヴァルが待っていた。レオナールは馬に乗り、前にローズを乗せた。


「ローズを貸馬車屋に送る。少し待っててくれ」

「分かった」

「ヴァル、すまなかった。有難う」


 するとヴァルは目を見開き「こわっ」と声を上げた。


「何がだ」

「謝ってるし感謝してる!」

「常に言っている」

「いやいや、ねぇから!」


 ヴァルがそう言うと2人とも黙った後、軽く吹き出した。


 レオナールは馬を歩かせた。ヴァルの時と違って走っていないので、乗り心地はマシだった。走っていた時は早く終われと願っていたが、今では終わらないで欲しいと願った。


 貸馬車屋に着くと馬を降りた。ローズの腰を掴んで馬から降ろすと、レオナールは「待っていてくれ」と店の中に入っていく。


(帰るんだ……)


 夢が醒めていく。心地が良い夢だった。ずっと見ていたかった夢だ。


 暫くしてレオナールが戻ってくると「この馬車で行くらしい」とローズの隣に停めてあった馬車に触れた。そして御者が馬車の準備をした。


「夜は宿泊することになるだろう。次の日もこの馬車で行けるよう話しをしてある」

「分かった、ありがとう。あと渡すものがあるの」


 ローズは肩にかけた小さなポシェットから、小さな赤い薔薇の花束を出した。


「ブートニア。式は赤い薔薇のブーケを使うって聞いた。それで、ここに来る前に作ったの。レオナール自身が、まぁ、ちょっと華があるからシンプルにした」


 レオナールはそれを受け取ると複雑そうな顔をした。


「え、あれ、嫌だった? もっと豪華にした方が良かった?」

「いや、嬉しいが、薔薇はローズを思い出す。だからあまり見たくないと思っていた」


 実際、予定された挙式でもブートニアを使わないことにしている。周りからは微妙な顔をされたが、それでも拒否をした。


「思い出したらいいじゃない」

「ローズ、俺は未練がましい男だぞ」

「ふふっ、情が深いんでしょ」


「準備が出来ました。出発出来ます」


 御者がそう言うと、ローズはレオナールの胸に飛び込んだ。


(嫌だ……行きたくない……)


「あい――……」


 ――愛人にして。


 そんな言葉が頭をよぎる。

 

(ダメ……それはダメ……)


 言ってしまいそうになった言葉を無理矢理飲み込んだ。これだけは言ってはいけない。母親をこれ以上悲しませることは出来ない。


「ローズ、愛している」

「私も愛してる」


 苦しい程に抱き締め合った後、ローズは馬車に乗った。窓を開けてレオナールの手を握ると、レオナールは唇にキスをした。何度も何度もキスをして、最後はゆっくりと離れた。


 離れるとレオナールは馬車を叩いた。御者は馬車を発車させる。レオナールが見えなくなるまで、ローズは手を振った。見えなくなると窓を閉め、大声で泣いた。


 出した涙は一生分。

 首にかけていたマフラーを取り、抱き締めた。


「さよなら、レオナール」


 ローズにとって初めての大恋愛は幕を閉じた。




***


 ローズが居なくなると、急いで狩猟小屋へと戻った。そしてレオナールとヴァルは馬を走らせ、ラファル邸へと戻る。


 玄関前ではそわそわと右往左往しながら外で従僕(フットマン)が待っていた。2人は従僕に馬を渡す。レオナールはそのまま支度部屋である自室へと向かった。


 ずっと待っていた従僕がレオナールの姿を見てほっとする。来ないのでは、と噂され使用人皆慌てていたのだ。結婚式用の礼装に急いで着替え、整髪料で髪の毛を整えられた。


薔薇(ローズ)のブートニアか……)


 レオナールは貰ったブートニアを左胸ポケットに差した。


「ブートニアをつけることにされたのですか?」


 使用人の1人がそう尋ねた。


「そうだ」

「でしたらこちらのブートニアが元から用意されていたものです。こちらの方がとても豪華ですし――」

「いい」

「ですがそれはなんというか華やかさに欠けて――」

「何度も言わせるな」


 レオナールはその使用人を睨み付けた。


「――ッ申し訳ありません」


 使用人は下がると、レオナールは立ち上がった。姿見の鏡で全身を確認する。


「完璧です、レオナール様」

「当たり前だ」


 そしてラファル邸を出ると、挙式へ向かう馬車へと乗りこんだ。

 ブートニアのある左胸を右手で触れる。この様な結果になってしまうのなら、駆け落ちを無理にでも決行すれば良かったと後悔の念を抱いた。だがそれも、血の誓約のせいで出来ない。


 ローズとの別れ際、「愛人になって欲しい」と言いそうになった。だがローズは愛人にはなれないと前に言っていた。彼女の気持ちを尊重するならば、今後も言うべきではない。


「さよなら、ローズ」


 レオナールはそう呟き、一筋の涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ