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65.会わせたい人

 2人が別れた約1カ月後――。

 ラファル領――。


 ヴァルはレオナールの私室前で立ち止まった。軽い溜息を吐いて扉を叩く。中からの返事は無い。だがヴァルは扉を開けて中へと入った。

 入って直ぐにワイン瓶が足に当たる。それを蹴り転がし、ベッドの近くまで歩いた。


「レオ、朝だ。起きろって」

 

 ベッドの中でもぞもぞと動く影が見える。ヴァルがカーテンを開けると、レオナールが眩しそうにしていた。


「朝か……はぁ、疲れたな」


 レオナールは上体を起こす。何も着ておらず、とろんとした瞳でこちらを見ていた。ベッドの下にもワイン瓶が転がっている。それだけでなくラム酒などの強い酒瓶も転がっていた。


「飲みすぎ……それと――」


 ヴァルはレオナールの両隣にいる人物を見やる。見知らぬ裸の女2人が、こちらを見てクスクスと笑っていた。


「ああ、昨日見つけて来た。名前は――……何だ。何でもいいか」


 レオナールがそう言うと、彼女達はムスッとしていた。


 ヴァルは椅子に掛かったガウンを手に取ると、レオナールへ投げる。レオナールはそれを羽織ってベッドから降りた。髪はボサボサで唇の周りと胸元には、赤い口紅がこれでもかとべったりとついていた。


「双子だ。ソックリだろう。ソックリなのは顔だけじゃない」


 そしてヘラヘラと笑いながら、ヴァルの耳元で「あそこもソックリ」と言う。ヴァルはそんなレオナールの言葉を聞いて、溜息を吐く。


(昔に戻った……いや、昔より酷ぇな……)


 誓約書は見つかっていない。何処を探しても見つからなかった。レオナールは「俺が父上なら自分でいつまでも持っていない。何処か別の場所に保管するか、分家当主に持たせる」と探すことを諦めた。


 レオナールはテーブルの上にあった水差しを手に取った。一緒に置いてあるグラスへそれを注ぐ。


 すると扉が勢いよく開いた。そこには怒り心頭のラファル侯爵が立っていた。レオナールを見たあと、ベッドの上の女達に視線を移して睨み付けた。


「出ていけ!!!!」


 女達は服を持ち、慌てて出て行った。ラファル侯爵は次にレオナールへと視線を移す。


「おはようございます、父上。ご機嫌麗しゅう」

「何をしているんだ! 娼婦なんかを家に入れるな!」

「この間厩舎で注意されたので、中ならいいかと」

「巫山戯るな!!!!」

「良いではありませんか。どうせ、あと1週間と経たずにレティシアと結婚するんですから。それ迄、誰と何をしようが」


 とろんとした瞳でヘラヘラと笑うレオナールを見て、ラファル侯爵は近づいて行く。


(まずい……)


 このままではレオナールが殴られてしまう。ラファル侯爵は式が近いせいでピリピリしており、我慢の限界だった。ヴァルはレオナールの前に立ち、ラファル侯爵を立ち止まらせた。


「申し訳ありません。レオナール様はお酒を飲みすぎている様です。私から言いますので、どうか怒りを鎮めて下さい」


 ヴァルは深々と頭を下げた。ラファル侯爵は「ちゃんと監視しろ!」と怒鳴り、部屋を出て行った。


(誰のせいだと思ってんだ……)


 ローズに別れを告げてから、レオナールは変わってしまった。何事にもやる気を出さず、適当に女を見つけてはベッドへと誘っている。


 あのあと王都に暫くいた。国王も参加する重要な会議に出席する為だ。レオナールは次期当主として、ヴァルは専属騎士として参加している。だがその会議でも、レオナールはやる気がなかった。無気力と言っていい。分家当主達は様子のおかしいレオナールに気付いたが、何も言えなかった。

 ラファル侯爵は「まぁ、暫くすれば元に戻る」と放っておいたが、未だに元には戻っていない。


 ――より悪化していた。


 歯をギリっと噛み締め、ラファル侯爵に言いたいことを我慢した。そしてレオナールの方を向く。


「なぁ、レオ。ローズと話そう。このままじゃ――」


 ヴァルの耳をグラスが掠め、壁に当たったグラスは後ろでガシャンと音を立てて割れた。


「くどいぞ!」

「けど――」

「いいと言っている!」


 ヴァルは黙り、レオナールは頭を抑えた。二日酔いのせいだろう。


「何度も言うがこれでいいんだ。ローズは俺を嫌いでいい」


 ヴァルは割れたグラスの破片を拾う。ついでに幾つも転がる酒瓶も拾ってテーブルへと置いた。

 レオナールには何度もローズと会うよう言ったが、会わないの一点張りだった。言ったところでどうにもならないからだ。


(駄目だ……これじゃあ本当にレオは……)


 ヴァルはどうにかしてローズを来させなければと考えていた。こんな終わり方は嫌だった。


(手紙……じゃ駄目だな。ぜってぇ来ねぇ。なら……)


 ある程度瓶を片付けた後、ヴァルは1度部屋を出た。すると、ルネとアルベールが扉の前に立っていた。


「レオはどう?」


 そう言われ首を横に振った。


 あの日あったことは、この2人も聞いている。

 ルネはヴァルが薬を飲んだと聞いて驚いていたが、直ぐに「どうでした!?」と輝いた目で聞いてきた。それを聞いて「殺す」と言い喧嘩になりかけたのを、アルベールが止めている。一応冷静になった後、「不味いから注射で打てるように」と助言をしたので、そのうち注射で接種できるようになるに違いない。


「どうにかしてローズに来てもらいてぇ。けど、俺は監視しろって言われてる。だから――」

「行ってくれば?」

「――え?」

「行ってくればいいじゃん。僕とルネがレオを見てる」

「ラファル侯爵には上手く言いますから」

「まぁさっき2人で話してたんだよね。ヴァルに行ってもらおって。ローズとよく話してたのはヴァルだし、僕らが行くよりいいと思う。それに僕もルネも馬に乗るの得意じゃない」


 ヴァルは驚き暫く動かなかった。だが直ぐに「恩に着る」と言い馬を出して走った。

 時間が無かった。

 馬も休憩が必要だし、帰りはローズを連れて帰ることを考えなくてはならない。休憩をいつもより多めに挟むことを考えたら一刻も早く行かなくてはならなかった。


 必死に馬を走らせ、ローズの店へと着いた。


「ローズ」

「ヴァル? どうしてここに居るんですか?」

「ローズに頼みがあって来た」


 ヴァルはこの時、神に縋る思いだった。

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