表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/73

52.幸せな時間を

 朝、ヴァルがレオナールを迎えに来た。ヴァルが持ってきた着替えにレオナールは着替えている。シャツを脱いだレオナールの身体は引き締まっていて、胸板は厚く腹も6つに割れていた。


「見蕩れるな」

「見とれてない!」


 ローズは後ろを向いてレオナールを見ないようにした。因みにローズはもう平民服へと着替えている。


「触りたかったら触っていいぞ」

「いい!」


 ヴァルはわざとらしく咳払いをした。自分もいますよと、だから早くして下さい、とアピールする為だ。ローズは気まずさから大人しくし、レオナールはヴァルを睨み付けた。


「悪ぃけどな、レオが居ねぇからラファル侯爵はカンカンだ」

「何故怒る。意味がわからん」


「レオとレティシアが王都にいる間、食事は一緒に摂るようにってさ」

「は?」


 ズキリと胸が痛む。どんなにレオナールが彼女に思いはなくても、一緒にいられるのは嫌だった。レオナールはローズをチラッと見たあと、再び着替え始めた。


「なら今度から食事は外で摂ろう。朝も夜も」

「え……えぇ!? 嘘だろ!! 何時起きになるんだ!!」

「そうだな。余裕を持って1刻半早く出るか」

「げっ!!」

 

 ヴァルは絶望の表情を見せる。ローズはそれを見て悪いと思いながらも少し笑ってしまった。


「そうだ、ローズ」

「ん?」

「これから朝食と夕飯は一緒に食べないか?」

「え、いいの?」

「ああ。ただ早起きになるぞ。それと夕飯は学校帰りに迎えに行く。店が終わったら待っていてくれ」

「分かった。でもそれっていつまで?」

「今月末だな」

「今月末までにはレティシアさんは帰るってこと」


「……違う。これもしっかり話していなかったな。俺達の王都研修が終わるんだ」

「あっ……そうか……」


(毎年の事だから知ってたのに……)


 地方騎士学生の王都研修は3カ月であり、毎年この月末に地方騎士学校へと帰る。


「帰った後は手紙を書く。卒業したらこっちに来る」


 レオナールは着替え終わると「終わったぞ」と言う。振り向くとシャツにベストの私服を着ていた。


「え、あれ? ローズは卒業パーティーに呼ばねぇの?」


 ヴァルがそう言うと、レオナールは「ああ」と答えた。ローズはそもそも卒業パーティーのこと自体初耳であったので、首を傾げた。


「1カ月後に騎士学校の卒業パーティーがある」


 すると、レオナールは察して説明した。


「でも、それは学校でやるからここからは遠い。ラファル領だからな。それにローズは仕事がある。休んで来て欲しい所だが、母親をあまり店舗には出したくないのだろう」

「え……何で知ってるの!?」

「昨日酒を飲んだ後、泣きながら話していた」

「う、嘘……」


「嘘は言わん」


 レオナールはコートを羽織ると「おいで」と、左手を差し伸べてきた。ローズはその手を握る。


「送ろう」


 3人とも部屋を出た。それからはヴァルが朝乗って来た馬車で送って貰い、帰りにキスをして分かれた。舞い上がる気持ちを抑え、明日を楽しみにした。




***


 次の日の朝――。


 何時もより早く起きる。帰り際に迎えに行く時間を言われた。ローズは早起きをし、支度をする。


「なぜそんなに早いの?」


 突然声を掛けられビクッと肩をふるわせた。母親はまだ寝間着姿で目を擦っている。


「あっ、うるさかった? ごめんね」

「ねぇ、どうしてもう用意しているの?」

「えっと……」


 言えなかった。レオナールと朝食を摂るのだと言えば反対されるに決まっている。


「朝早く行ってお掃除しようかなって……あ、あと夕食なんだけど、暫くはナディアの家で食べるから」


 すると母親は「そう」と言って再び部屋へと戻って行った。ローズはほっとして胸を撫で下ろした。しばらくすると、馬車の音が聞こえる。

 窓から除けばレオナールが降りてきた。そのまま玄関に向かうので、ローズはドアノッカーを叩かれないようにする為、慌てて玄関へと向かい扉を開けた。


「おはよ」


 そう言って直ぐにドアを閉めた。


「おはよう。急に扉が開いて驚いたぞ。待ちきれなくて窓から見ていたか」

「違うッ!」


 そう怒りながら馬車へと向かった。


「可愛いな」


 レオナールはそう呟くと、ローズの後ろをついて行き、馬車へと乗った。


 馬車に乗るとヴァルが寝ぼけ眼で「はよ」と言った。まだ眠いらしいく、欠伸もしている。


「おはようございます」

「前にも言ったが、ヴァルの事は気にするな」


 ローズはこくりと頷くと、馬車は走り出しレオナールは肩を抱き寄せた。ヴァルは終始目をつぶり、ウトウトとしている。


 ヴァルを見ていると、ローズも眠くなってきた。そんなローズに気付いたレオナールは肩を抱き寄せ「寝ていいぞ」と言い、頭にキスをした。


「うん……」


 そのまま目をつぶった。


 ローズが寝ていると、1軒のカフェに着いた。【王様の朝食】と看板に書かれてあり、朝食が人気のカフェだった。よく雑誌に載っている所である。

 馬車は停車し、3人は降りた。


「わぁ、嬉しい!」

「早く中へ入ろう。寒すぎる」


 ただでさえ朝は冷え込む。吐いた息は白かった。寒さが苦手なレオナールを、ローズは可愛いとも思った。お店に入ると、暖炉が燃えており暖かかった。中には何人か男性が食事を摂っている。身なりが綺麗なので、中流階級以上の人達だとローズには分かった。


(平民はいないのね……まぁ、そうか。このお店高いしそういう人達の店だものね)


 どのお店にも、平民が使うような安っぽい店から、貴族達が使う綺麗な店があった。この【王様の朝食】という店は後者の人達の店だ。


(私の格好浮くなー)


 扉の前で待つと店員が来た。ローズの格好を見た後レオナールとヴァルの騎士学校の制服姿を見て席に案内した。ヴァルは1人別の席に座ると、メニューを渡された。


 メニューには絵が描いてあり、どれも美味しそうに見えた。


「どれにする」

「このスクランブルエッグとベーコンのセットにしたい」

「分かった」


 レオナールは(ベル)を鳴らし店員を呼んで注文する。店員が居なくなると、言わなくてはならないことを思い出した。


「言わないといけないことがあって」

「どうした?」

「ドアノッカー叩かないで欲しいの」


「……親に反対でもされているのか?」

「うん……そんなとこ」

「そうか。なら今度しっかり挨拶を――」

「ダメ! それはまだにして。お母さん、レオナールのこと良く思ってない。今は何を言ってもダメだと思う」


「……分かった」

「ありがとう。もう少し私が説得するから。マシになったら言うから」

「そうか」

「レオナールも反対されてるよね。私平民だし……」


 ローズは俯く。レオナールは言わないが分かってはいた。平民と貴族という2人の仲が、なんの障害もなくすんなりと結ばれる訳が無い。


「そうだな。レティシアから婚約解消の申し出があれば1番簡単なのだが」

「レティシアさんとの婚約が解消されても、他の人を婚約者にするんじゃないかな」

「その時は父上が死ぬのを待つのも手かな」

「え!?」

「心臓が悪くてな。そう長くは無いと言われている」


「……そんな。レオナールは悲しくないの?」

「それとこれとは別問題だ」


 そう言うと彼は、両手をテーブルの上に置いて「ほら」と言う。何がしたいのかよく分からず首を傾げると「手を」と言われた。

 そこで手を繋ぎたいのだと分かり、ローズはレオナールの手に自分の手を置いた。レオナールは満足そうに手を握る。


「ローズは触れたり触れられたりするのは嫌か?」

「嫌じゃなくて慣れてないだけ」

「そうか。なら嬉しいのか」


「……うん」


 恥ずかしくなる。顔を赤らめて視線を外すようにして答えた。そんなローズを見たレオナールは笑っていた。


「でも、レオナールは触りすぎなとこある。馬車でもキスするし、私――」

「いいではないか。好きなんだから」

「――ッ!」

「遠慮はしない。するつもりもない」


 レオナールは意地悪そうに笑う。そんな笑顔も素敵だなと思ってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ