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41.避難場所

 2曲目が始まり、戻ってきたレオナールと共に踊る。見える位置にはソレイユレーヌとルネが踊っていた。


「ずいぶん楽しそうでしたね、元カノさんと」


 レオナールとソレイユレーヌが階段下で話しているのを見て、気が気ではなかった。ソレイユレーヌは後頭部しか見えず、レオナールの顔しか見えなかったが、彼は優しく微笑んでいたので楽しかったのだろう。


「そうか?」

「ええそうですよ! 頬っぺなんか触っちゃって」

「ん? ……触っていないぞ」

「嘘つき! 見てたんだから!」


 優しく微笑みながら、ソレイユレーヌの左頬に触れていた。胸が痛くて痛くて仕方なかったのだ。見たくないのに気になって見てしまった。ドレスのスカートをぎゅっと握り締め、辛い思いを我慢した。


「……多分それは、頬を触ったのではなく彼女のイヤリングに触ったんだ」


(嘘だ……)


 イヤリングを触る意味が分からない。とても綺麗なイヤリングだとしても、触らなくてもいいはずだ。


「嫌な気持ちにさせたな。悪かった」


「……別に」

「まぁ正直。ローズが嫉妬してくれて嬉しいとは思うが」


 ローズはムスッとした顔でレオナールを見た。そんな顔で見ると、レオナールは困った様に笑った。


「愛しているのはローズだけだ。俺が誰と話していようと、自信を持て」


 ローズは頷こうとしたが止めた。まだ不安材料があったからだ。


「ねぇ……聞きたいんだけど」

「どうした」

「レティシアって誰?」


 結局レティシアのことだけは、誰も教えてくれなかった。だが1番懸念しなくてはならないとサロメは言っていた。


「誰から聞いた」


 低く怒っているような声だった。そしてサロメへと視線を移す。


「言っておくけど、サロメさんじゃない。噂でレティシアって名前を聞いたの。それで、レオナールと関係があるみたいだから、皆に聞いたんだけど教えてくれなかった」


「……そうか」

「それで誰なの?」


(彼女……じゃないよね……)


 動悸が激しくなる。レオナールは顔をしかめた。気になりすぎて、ステップが疎かになってきた。それをレオナールはカバーしていく。


「集中」

「でも――」

「終わったら話す」

「今聞き――痛っ」

「どうした?」

「足、靴擦れで……」


 慣れないヒールで数日踊っていたせいか、靴擦れを引き起こしてしまっていた。踵と足の小指に痛みが走る。レオナールは踊るのを止めて立ち止まった。


「どうしたの?」

「早く言え」


 するとレオナールはローズを横に抱きかかえた。軽々と急にそんなことをされ驚いたのと、恥ずかしさで顔が破裂しそうだった。


「ちょちょちょ――」

「暴れるな。落としてしまう」


 ローズは赤くなる顔を抑えた。周りの視線が突き刺さる。ヒソヒソと女性達が話しているので、陰口だろうなと分かった。

 だがレオナールは気にすること無く、そのまま広間から出て行ってしまった。


「え、あれ。どこ行くの?」

「リビング。今は休憩室として解放しているからな。そこで手当てをしよう」


 そのままリビングへと向かって中へと入った。暖炉にはゆらゆらと炎が揺らめいていた。


 レオナールはローズを1番手前のソファへと座らせた。「足はどっちの足が痛い?」と言って、ローズの前に彼は跪いた。


「両方。小指と踵」


 ローズはスカートの裾を少し上げると、靴を脱がされた。靴下には小指の辺りに血が滲んでいた。


「ちょっといいか?」

「え?」


 レオナールはローズのスカートの中に躊躇なく手を入れる。


 驚いて何も言えずにいると、彼の手は靴下を留めていた2本のリボンに触れる。そのリボンを取ってソファへと置くと、再びスカートの中へと手を入れた。

 太腿にレオナールの手が当たる。靴下を脱がしているのだと分かった。太腿からふくらはぎへとゆるゆると下っていくその手つきに、ローズはなんとも言えないむずむず感と恥ずかしさがあった。手探りだけでそんなことをしてしまう男なのだ。


(こなれてる!)


「ふむ。これは痛いな」


 靴下を脱がされ、足先が露になった。小指と踵の皮がむけており、ジンジンと痛む。


「救急箱が何処にあるか……」

「え……自分の家なのに分からないの?」

「分からん」

「なんで!?」

「持ってきたことがない。言えば使用人が持って来る」

「あっ……そう」


(坊ちゃんめ……)


「3曲目は足を考慮して踊るのは止めよう。だからこのまま帰ろうとは思うが、その前に俺はやることがある。それが終わったらホテルまで行こう」

「え!? レオナールも泊まるの!?」

「いや、送るだけだ」

「あ……そう……」


(びっくりした、焦った……)


「何だ。泊まって欲しかったのか?」

「ち、違う!」

「そっちが希望ならお望み通りに」

「違うってば!」

「何が違う。どう違う。言ってくれないと分からないぞ」

「もう! レオナール!」

「ははっ、いやいやほんと可愛いな。愛おしくて仕方がない」


 ローズは顔が真っ赤になると、レオナールは部屋を出て行った。


 しばらくすると、使用人(メイド)が救急箱を持って入ってきた。使用人はテキパキと要領よく手当てを終えると、部屋から出て行った。


(そういえばレティシアの正体まだ聞いてないや……)


 聞きそびれてしまった。失敗したなと、靴下を履き直していると女性2人が入ってきた。楽しそうに2人話しながら入ってきたにも関わらず、ローズがいると分かると黙った。


 彼女達は部屋の隅に移動する。静かな部屋に暖炉の火が燃えている音に混じって、女性2人のヒソヒソ声が聞こえる。


(よし、出て行こう)


 陰口から逃れる為、ローズは立ち上がって部屋から出た。手当てのお陰で歩いてもほぼ痛くなかった。


(それにしても、モテすぎじゃない?? こんなにモテてれば、そりゃ最初に私のこと発情女って思うわね……)


 リビングの扉を開けて廊下に出る。リビング側の反対側の壁はガラスの壁になっており、中庭が見えた。庭には光源石の彫刻が光り輝いていた。犬猫の動物や、ユニコーンや妖精などの彫刻だった。

 その廊下を歩いていると、ガラス扉があった。その扉を開けて中庭へと出る。


「綺麗だな……ここは花壇?」


 冬なので花は少ないが、しっかり手入れされてる。そのま中庭を散歩していると、温室があることに気付いた。中には明かりがついており、多くの樹木と花が咲いていた。

 

(ちょっと見てみたい……寒いし……入っていいのかな?)


 扉に手を掛けそのまま引くと開いた。ローズは一歩踏み出し「失礼します」と小声で言って中へと入った。


 中は暖かかった。


 暖炉もついており、羽織りを着ていないローズには有難かった。温室の中心には噴水も見える。その噴水の向こう側にはベンチと思われる端っこが見えた。そこで休憩しようと歩いて行くと、1人の女性が座っていた。彼女は右手にハンカチを持って俯いていた。


(あれ? 泣いてる?)


 鼻をすすり、ハンカチで目元を抑えているように見えた。ローズはどうしようかと立ち止まっていると、女性はこちらに気付いたようで顔を上げた。


「あっ。すみません……座りますよね。どうぞ」


 彼女はそう言って、ベンチの真ん中から左端に退いた。ローズは御礼を言い、彼女から少し離れて隣に座った。チラッと横目で彼女を見ると、やはり泣いている。ローズが来たため必死に涙を止めようとしているように見える。


 まだあどけなさが残る15、16歳程の少女だった。真っ直ぐとしたピンクブラウンの髪はハーフアップにされ、花の形の髪飾りに、煌びやかな宝石が光っている。泣いてしまっているが、目元の化粧は思った程落ちていない。多分、ハンカチを擦って涙を拭っているのではなく、抑えるようにして拭っているからだと思われた。淡い桃色の口紅をしており、愛らしい彼女に似合っていた。

 

 レオナールが2階に行きアルベールと話していた時、「女性はもしずっとダンスに誘われなかったらどうするんですか?」という質問をした。すると「実はいっぱいいるんだよねー。そんな人は他の部屋に逃げてるよ」と話していた。


 彼女はそんな人なのだろう。


 出会いの場で誰からも誘われないというのは、確かに居た堪れない。壁の花という烙印を押されるのだという。


「あの、大丈夫ですか?」


 ローズは少しでも励まそうと声を掛けた。


「え? あ、すみません。その、泣いてるのバレてましたか?」


 バレてないのだと思っていたことに驚いて、目を見開いて目を瞬かせた。すると少女は鼻をすすり、悲しげに微笑み「大丈夫です。いつもの事なので」と答えた。


 その言葉にさらに驚いた。少女はとても可愛らしい子だったからだ。

 

「えっと……次はきっと良い人が見つかりますよ! それにしても見る目がないですね、今日来た男どもは! とても貴女は可愛らしいのにダンスに誘わないなんて!」


 ローズは「もう!」と頬をふくらませて怒った。すると少女はキョトンとして「え?」と声を出した。


「あ、えっと……違うんです。その、誘われなくて泣いていたのでは……」


「ん?」

「――いえ……そうですね。誘われなくて泣いてたんです…………少しだけ……ほんの少しだけ愚痴を言わせてください」


 少女はふぅ、と息を吐いて顔上げて真っ直ぐ前を見た。


「私、とってもとっても大好きな人が居るんです」


 少女は口の端を上げて笑みを浮かべた。


「へぇー! 恋してるんですね!」


 ローズはどんな愚痴だろうかと身構えていたが、恋バナは大歓迎である。


「泣いていたということは、片想いなんですか?」


 ローズはわくわくした気持ちで少女が話すのを待った。

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