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3.ちょっと休憩を

 あれから騎士学生は何度も花を買いに来た。その度に金貨1枚を渡し、お釣りはチップとしてくれた。


 そして、何度か街中で女性と歩いているのを見た。見る度に違う女性と歩いている事に気付き、背の高い青年が言っていた『で、今回は誰と遊んだんだよ』を理解した。







「ぐあーーーー!!!! あと少しーーーー!!!!」


 花いっぱいのリアカーを引きながら、ローズは緩やかな坂道を登っていた。


 今日は店を閉めて、注文があった大量の花を配送している。届ける先は街の外れにある小さな教会だった。そこで夕方から結婚式が行われる予定らしい。


 予約を受けていた花を、リアカーに乗せて街外れまで来ている。ロイクから「手伝うよ」と言われたが、彼に悪いので遠慮している。


 教会は緑が多い丘の上にあった。そばには川が流れている。


「何が大変って、この長くてゆるーい坂道よね。花も重いけど……」


 花自体は重くない――が、花を水が入ったバケツに入れている為、重かった。急激な坂では無いのでまだ運べるが、その坂道は長い。


「ロバ借りれば良かったー! 次からは借りるぞ絶対に!!」


 節約の為、借りなかった事を後悔していた。額に滲む汗を拭い、教会の扉を叩く。人が出てくる間の時間に、バケツをリアカーから降ろした。そして30代程の修道女(シスター)からお金が入った布袋を受け取り、中身を確認した。


「確かに。ありがとうございました!」

「ロバを使わなかったのですか? 大変だったでしょう。貴女にパランケルスの加護があらんことを」


 修道女は教会の扉を閉めた。


「ふひひっ、今日の売り上げ目標達成!」


 背伸びをして教会を見上げた。扉の横の壁には今人気の舞台【精霊王と村娘】のポスターが貼ってあった。そこには主演男優と主演女優の絵が描いてある。特にこの主演女優は今1番人気の舞台女優で、ローズはこの女優のファンだった。

 このポスターは街中にもよく貼ってある。その隣には、最近連続している婦女暴行事件の注意喚起が書かれた貼り紙がしてあった。


 そして壁の中央には、神であり王家の祖先であるパランケルスが彫刻されている。

 その彫刻に向かって手を合わせ「ありがとうございます。パランケルス様」と呟いた。


 ローズは再びリアカーを引き、緩やかな坂を下る。下りは楽だった。早く降りすぎないように注意すれば良い。あっという間に下り終え、少し川辺で休憩しようかと良い場所を探した。


(あそこで、ちょっとだけ休憩しよう)


 ちょうどいい大きさの木が1本生えていたので、その木の下で休憩しようと再びリアカーを引いた。だが、その木の下にはもう既に先客がいた。


 木の下で仰向けに寝ており、本を開いて顔の上に乗せている。足を組んで気持ち良さそうに寝ている騎士学校の制服を着ている男だった。その横には剣を置いている。


(この人授業はどうしたの。地方騎士学校と王都騎士学校は、合同訓練中なんじゃないの?)


 各地方の騎士学校の制服を、最近では街中でよく見る。毎年この時期になると、騎士学校3年生は王都で合同訓練をしているからだ。授業が終われば、彼らは街へと繰り出し遊んでいた。

 各地方の騎士学校で制服の色が違う。


 赤は北のノルズリ地方、黄は東のアウストリ地方、青は南のスズリ地方、緑は西のヴェストリ地方である。


 なので何処の地方から来たのか分かりやすかった。


(この人も、あのよく買いに来る貴族の人と同じ色の制服だ)


 つまり、この居眠りをしている人物も西ヴェストリ地方の騎士学生だと分かる。

 この西ヴェストリ地方の騎士学生は、よくナンパしている姿もよく目撃した。他地方に比べ、軟派な男が多い事で有名である。


(ここじゃない方がいいな。……ん? 猫の鳴き声?)


 何処からかミュウミュウと鳴き声が聞こえる。耳を澄ますと木の上から聞こえてきた。ローズはリアカーから離れ、居眠り男を踏まないように木の上を確認する。

 見れば子猫が降りれなくなってしまったようで、居眠り男の寝ている真上の枝で、ミュウミュウ鳴いて助けを求めている。


 ローズの他にはこの居眠り男しかいない。起こすのも悪いので、ローズは木に登る。


「おいで猫ちゃん。可愛いねー」


 小声で呼び、子猫の元へと慎重に移動した。もう少しで子猫へと手が届きそうな時に、手を支えていた枝が折れてバランスを崩した。


「きゃあーーーー!!!!」


 そのまま落ち、下の居眠り男の上へと落ちてしまった。

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