表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/73

30.告白

 レオナールが勝ちそうになり、慌てて大声を上げた。もう駄目だと諦めたが、レオナールは試合を放棄した。


「よ、良かったぁ」

「あら、本当にローズさんの事が好きなのね」


 ふふっとサロメは笑う。


「……どうなんでしょうね。きっとほかの女の人にも――」

「それは安心したらいいわ」

「え?」

「ローズさんのことを他の女と同じように思っているなら、あそこで負けたりなんかしないわね。むしろ勝つわ」

「そうでしょうか」

「ええ、だってエルキュールにあんな形でも負けるなんて、あの男にとって最大の屈辱よ。プライドすっごく高いんだから。それをローズさんの為に折ったんだもの」


「確かにプライドは高いですね」

「そうよ。自信を持っていいわ」


 やっと自分が特別なのだと思えた。それまでどんなにレオナールが愛の言葉を綴っても、「そうは言っても他の人にも言っているのでは?」と心の隅で思っていた。


「満足か?」


 数分後、レオナールが迎えに来た。その顔は不機嫌そのもので、とても愛する女性へ向ける顔ではない。


「ごめん。でも、ありがとう」


 そう言うと、レオナールは大きく溜息を吐いて「行くぞ」と腕を出してきた。


「え、決勝観ないの?」

「観なくていい。どうせヴァルが勝つ」


 そしてレオナールはさっさとしろとばかりに、眉をひそめて腕を掴むように圧をかけてきた。ローズが腕を掴むと、サロメをひと睨みしてその場を後にした。


 会場の外に出ると、綿飴の屋台は終わりかけのようで、もうそろそろ締めようとしていた。


「あ、食べたかったのに」


 つい言葉に出してしまった。会場に入る前、ちょっと食べたいなと思っただけである。するとレオナールは「何が食べたい」と聞いてくる。


「え、えっと……」

「何が食べたいんだ。早くしないと閉まるぞ」


 ローズは「あれ」といって綿飴(コットンキャンディー)を指さした。赤、黄、青、緑、白の5色に彩られた綿飴で、木の棒に刺さっている。


「あんなもの甘いだけだぞ」

「いいの!」


 平民は甘い物を滅多に食べれるものではない。レオナールはお金を払い、それを受け取るとローズへと渡した。

 貴族のマナー本を読み、お金をこちらが払うなど一切言わないようにした。言えばレオナールの機嫌が悪くなる。


 ローズは綿飴をひと口食べた。すると、唾液で綿がトロリと溶けだし口の中で消えた。


「美味しい!」


 自然と顔がほころぶ。レオナールはそれを見て微笑み、歩き出した。


「楽しかったか?」

「うん、意外と」

「そうか。ここまでどうやって来た」

「大衆馬車だよ。乗り継いで」

「また大衆馬車か。大衆馬車が好きなのか?」

「違うよ! 貸馬車は高いでしょ! 大衆馬車と違って!」


(こんの金持ちめ!!)


「そうか。なら送ろう。うちの馬車がある」


 そして敷地内の端に移動する。そこには多くの馬車が停まっていた。どうやら寄宿生以外は馬車で来る人が多いらしい。


 隼と短剣が描かれた紋章に常磐色の馬車の元へとたどり着く。帽子を被った30代くらいの御者が、もう既に待っていた。


 レオナールが御者と話した後、一緒に乗り込み出発する。貸馬車屋の馬車と違い、やはり高級感がある。座椅子は綿ではなく、艶のある滑らかなベルベット生地で、内装もシンプルではなく彫刻がされていたり、背面や側面はクッションがついているように柔らかかった。


(すごっ。貴族って感じ)


「どうした」

「ううん。別に。あ、綿飴食べる?」

「いらん」


「えー、美味しいのにな」

「そうか。俺には良さがわからん」


「貴族様には分からないでしょうけど、なかなか甘い物ってら食べれないのよ平民は」


 そう言うと、レオナールは眉をひそめた。


「ローズ」

「何?」

「その貴族だの平民だの言うのはやめろ。将来はローズも貴族になるんだからな」


「……それってどういう意味?」

「そのままの意味だ。いずれラファル侯爵夫人になるのだろう」


 そう言われて固まった。レオナールが言っているのはプロポーズに近い。嬉しい反面、絶望が襲う。


 子供が出来ないローズは、レオナールと結婚は出来ない。


「なんだ」

「いや……ちょっと結婚のことなんだけど、それは無理かなって」

「何故そう思う」

「そもそも、付き合ってないもん」


「……ローズ?」

「だから、そういうのは考えないでお互いちょっと遊ぶぐらいで――」

「ローズ!!」


 レオナールは大声を出した。眉をひそめ怪訝そうにこちらを見ている。


「何が不安にさせている」

「え? 別に――」

「言ってみろ」

「だから、本当に――」


 レオナールはローズの両手を取った。じっとローズの目を見つめる。


「あっ……私……」


 言ってしまってはもう会うことは無いだろう。1000年血筋を保ってきた大貴族である。跡取り問題は重要なのが明白だった。

 向かいに座っていたレオナールは、ローズの隣に移動すると肩を抱き寄せた。


「ひっく……ごめん……でも言ったらもうダメなんだって思ったら……」


「ほう。よっぽど俺に惚れていると見える」

「もう!」


「ははっ……まぁ、冗談はさておき、何故そう思う?」

「絶対そうって決まってるから」

「そんなの分からないだろう。言え」


 そう言われ、ローズは言う決心をした。いずれは分かることなのだ。遅かれ早かれ別れるのなら、傷は浅いうちがいい。


「……私ね、借金があるの」


 何を言われるのかと身構えていたレオナールは、ホッとしたように軽く息を吐いた。


「そんなことが理由か?」

「んーん。その借金が出来た理由が問題」


 ローズは大きく息を吸って吐いた。


「子供が出来ないの」


 ローズの大粒の涙が、スカートに落ちた。


 馬車の中に静寂が訪れる。ローズはレオナールの顔を怖くて見ることが出来なかった。顔を見ず、そのまま俯いて理由を話し始めた。


 馬車の事故に巻き込まれ一命を取り留めたが、木の破片が下腹部に刺さっていたせいで子供が出来ないこと。事故の相手は逃亡し、治療費の借金があることを伝えた。


「だから、結婚なんて無理だよ」


 話し終えるとローズは涙を拭った。あとはレオナールからの別れの言葉を待つだけである。


「そうか」


 そうレオナールは呟くと、ローズのこめかみにキスをした。レオナールの顔を見ると微笑んでいた。驚いて目を見開くと「大丈夫だ」と優しく言った。


「でも――」

「子供のことは心配しなくていい」

「だって、次期当主でしょ! しかもラファル家の!」

「養子を取ればいい」


「……え?」

「養子だ。平民には馴染みはないだろうが、貴族ではよくある。うちの一族でもよくやる」

「そうなの?」


「ああ。それに俺には弟がいる。今度結婚するんだ。養子を取れないなら、その2人の子供が跡取りになればいいからな」

「そう……なんだ」

「だから気にしなくていい。そんなことで悶々とするな」

「うん……」


「まぁだが、驚いたな」


「……そうだよね。『子供が出来ない』なんて言われたら誰でも――」

「いや、そっちではない」

「ん?」


「ローズが結婚を意識しているってことだ。意識しているのは俺だけだと思っていた」


 みるみる顔が赤くなる。


(顔が、あつい!!)


 嬉しさと恥ずかしさが同時に襲う。前からそうだがレオナールは何の恥ずかしげもなく、そんな台詞を吐いてしまう。


「やはり可愛いな」


 レオナールはローズの瞳に浮かぶ涙を人差し指で拭った。


「そう言えばしっかり言っていなかったな」

「なに?」

「ローズ、愛している。結婚を前提に俺と付き合って欲しい」


 ふざけた様子もなく、手を取って真面目に見詰めてくるレオナールに動悸が止まらなかった。


「は……い……」


 恥ずかしさのあまり俯いた。するとレオナールは顎に触れ、自分と目線が合うように上へと向けさせた。


 ムスクの香りがより強く香ると、柔らかい唇が優しく重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ