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24.婦女暴行犯のその後

 とある深夜―― ボヴァンの上刻頃。


 月が闇夜を照らし、立派な馬車が馬に乗った護衛を数人連れて道を走っていた。さらにその後ろにもう一台の馬車が走る。前を走る立派な馬車とは違い、その馬車は牢馬車であり罪人が乗る馬車だった。

 

「もうすぐか」


 立派な馬車に乗るのはレオナールとヴァルである。数分経ち、馬車はゆっくりと止まった。場所は王都とヴェストリ地方のちょうど境である橋の上だった。


「いる」


 橋の向こうに灯りが見え、馬車二台と数人が立っているのが見えた。


 2人が乗っていた馬車が橋の中心まで来ると、向こう側にいた馬車も中心へと移動した。


 馬車の扉が開くと、この間会った警備署長が松明を持っていた。他の護衛達も松明を持っている。ヴァルが降り、周りの様子を確認する。

 すると、相手の馬車から2人降りてきた。1人は40歳前後程の男で、もう1人は10代の若い男だった。


 ヴァルは2人を見ると挨拶をして、レオナールに降りるよう合図した。


「ご無沙汰しております、レオナール様」


 レオナールが降りると、右手を胸に当て40歳前後程の男がお辞儀をした。


「お久しぶりです、テュルビュランス伯爵。急なお願いを聞いて頂き感謝します」

「何を言っていますか。レオナール様のご用命であれば何でも。ほらルネ、挨拶を」


 テュルビュランス伯爵は隣にいた10代半ばの若い男に、挨拶をするよう促す。若い男は眠そうな声で「久しぶりです」と答えた。


「寝てたのか?」

「何時だと思ってるんです。私来る必要ありました? 本当に?」

「ルネ!!」


 テュルビュランス伯爵に叱責され、ルネは黙った。


「レオナール様、息子が本当に申し訳ありません。ルネ、レオナール様はお前の為に――」

「テュルビュランス伯爵、いいんです。少しルネをお借りします。ヴァル、ルネに見せてやってくれ。俺はテュルビュランス伯爵と少し話しをする」

「あいよ」


 ヴァルは牢馬車の方へと移動する。ルネは気だるそうに後を着いて行った。


「それで、代わりの2人は」

「ご心配なく。用意しています。罪状も同じ強姦罪です」

「助かります」


「いえいえ、こちらこそ助かります。最近また()()を壊してしまったので」


 テュルビュランス伯爵はそう言って、離れていく息子ルネの背中を見た。


「ほぉ。自作の薬でですか?」

「ええ、そうです」

「相変わらず調薬の才能はありますね」

「それは……そうですね。歴代テュルビュランス家の中でも群を抜いてるかもしれません。ですが……はぁ、なんと言いますか、好奇心旺盛すぎて……与えた()()を壊さないよう言ってもなかなか……」


「ルネらしいですね」

「そう言って頂けるのは有難いですが、この間は窃盗犯を()()()()壊してしまって……その時は流石に地下牢に数日入れましたけどね」


「ふっ……ははっ! それはっ……ふふっ……さぞかし反省したでしょう」

「いやはや、どうなのでしょう。私も手を焼くばかりです」


 テュルビュランス伯爵は深く溜息を吐く。怒ればその時ばかりは反省しているように見えるが、数日すれば元に戻ってしまう。『間違った』といっては、治験に強い薬を使ってしまう息子ルネは悩みの種だった。

 だが玩具を与えないという選択肢もない。医師の家系であるテュルビュランス家にとって、それは大事な勉強でもあるからだ。


「好奇心があることは大事です。向上心もある。問題ありませんよ」


 レオナールはニヤリと笑い、テュルビュランス伯爵は苦笑いをした。




***


「久しぶりだってのに、その態度は酷ぇじゃねぇの」

「眠いんです。眠すぎます。これでろくなことじゃなかったら怒ります」


 ヴァルは牢馬車の前で立ち止まり、両脇にいた警備兵に開けるよう促した。南京錠は開けられ扉は開かれた。

 牢馬車の中にいたのは、小汚い男2人だった。あの時の婦女暴行犯である。手錠と手枷、そして猿轡をされており、震えながらこちらを見ていた。


「男2人?」

「そ! 俺らからの少し早い誕生日プレゼントだ。16歳おめでとう。ありがたぁく、受け取れ」

「へぇ、まぁ……ありがとうございます」

「んだよ、思ったより喜ばねぇな」

「だって……どうせ壊してしまったら父上に怒られる。この間なんて地下牢に入れられたんですよ?」

「そりゃあルネが反省しねぇからじゃねぇの?」

「してます! してるんですけど……なんと言うか、こう、少しくらいならって思っちゃうんですよね」


「……そういう所だぞ。けどな、こいつらは怒られねぇよ。殺していい2人だからな」


 そう言われルネは目を見開いた。


「本気で?」


 どうやら眠気は飛んだようで、驚きと期待の目でヴァルを見る。


「本気」

「念願の死刑囚……嬉しいです。ああ、ヴァル……持つべきものは友ですね。ありがとうございます」


 ルネは胸に手を当て、この上ない程感動していた。


「お礼はレオに言うんだな。こいつら本当は死刑囚じゃねぇもん」

「え……でもいいんです?」

「いい。レオの怒りを買うっていう大罪を犯してる」

「へぇー。何をしたんです?」


 するとヴァルはニヤリと笑い「聞きてぇ?」と言った。


「そこまで言っといて言わないは無しですよ」

「まぁ確かに。教えてやる。こいつら王都で何件も繰り返してた強姦魔でな、レオが口説いてる女を犯そうとした」


「ん? はぁ!? 待って下さい。聞きたいことが他にもあります!」

「分かってるって。レオ、今ガチで口説いてる女がいるんだよ。何時もの遊びじゃねぇ。本気のやつ」

「本気で!?」

「そ! んで、デート中はぐれて路地裏に行った女をな……未遂ですんだけどよ、レオはカンカンよ」


「……はぁー、馬鹿ですねこいつら。いやそれよりもレオが本気になってる女っていうのも気になります」

「そうだろ?」

(ねぇ)さんはまだ、レオのこと好きなんですけどね」


「何の話だ」


 レオナールが後ろに立っていた。その後ろには護衛がおり、縄で縛られた男2人を連れている。


「いえ、特に。あ、レオ、いやいやレオナール様。もう本当にありがとうございます。今度のレオの誕生日は奮発しますね」


「何もいらん……ただなるべくこいつらの始末には時間をかけて欲しいんだが、出来るか?」

「余裕です。やりたい事がいっぱいあるんです。最近は苦しむだけ苦しんで死なない薬を開発中でして。目指す所は()()()()()()のような痛みなのですが、死ぬ、死なないの調整が難しくて。あと味がどうしようもないくらい苦いみたいで上手いこと飲んでくれない……ああ、それはもういいですね。はぁ……もう考えるだけで、楽しみすぎてどうにかなりそうです」


 ヴァルとレオナールは、興奮するルネの様子を見て呆れたように「良かったな」と同時に呟いた。


「それと、そいつらはこの2人と交換だ」


 婦女暴行犯2人は牢馬車から出され、テュルビュランス伯爵が連れてきた2人を牢馬車へと入れた。目はギョロギョロとし、痩せこけた2人である。腕には注射痕がいくつもあった。


「よく聞けよ、今日からお前らは最近王都で連続していた婦女暴行犯だ。テュルビュランス領でも同じようなことをしていたんだろう? それが王都になっただけだ。いいな?」


「お、王都でその犯人だったと言えばもう戻らなくていいんですよね!?」

「そうだ」


「ならいいです! テュルビュランス領ではなく、王都でしていました!」

「もう嫌だ……あそこには……地獄には戻りたくない」

「あそこに戻るなら王都の刑務所に入りたい……」


 大の男2人は涙を流す。それは安堵の涙だった。


「酷いですね。ちょっとした実験に使ってるだけなのに」


 ルネは呆れるように言うと、レオナールとヴァルは笑い、牢馬車の扉を閉めた。そして護衛に鍵を掛けさせ、ルネと別れの言葉を交わす。

 

 ローズを襲った婦女暴行犯達は、テュルビュランス領へ移送される。医学の発展の名の元に、様々な薬物実験や手術の練習台となり、最後は命を落とすだろう。

 人体実験を積極的に行っているのはヴェストリ地方だけで、推進しているのはヴァンの貴族である。そしてこれを反対しているのがオーの貴族だった。


 実験に使われるのは軽罪人から大罪人。特に、命の危機に値するような実験は死刑囚を使った。


 王都警備隊に引き渡してしまっては、死刑になどならない。懲役刑で済んでしまう。愛する女を未遂であろうと襲われたレオナールの怒りは、そんなことでは収まらない。


「死をもって償え」


 テュルビュランス家所有の牢馬車を見ながら、レオナールは呟く。


 彼らはレオナールの怒りを買ったため、死刑囚と同等の扱いである。


 王都の女性達を脅かしていた婦女暴行犯は、捕まった形で終わらせなければならない。ローズが縄で縛られた彼らを知っているからだ。

 新聞に載ってくれなくては困るのだ。


 それにより、罪人の身代わりを見つけるという少し面倒なことをしなくてはいけなかった。


 だがそうまでしてもやらなければならない。ローズに何か聞かれた時に答えられないからだ。


 嘘は吐きたくない。


 ならば何も聞かれないようにしなくてはならない。


 レオナールはひと仕事を終え、馬車の中で目を閉じた。

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