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23.良い席で見れる招待状

 次の日――。


「あんなことがあったのに仕事は休まないのか?」


 お店が開く前、レオナールはやって来た。


「貴族様と違うの平民は」


 ムスッとした顔で答えた。本当は休んでしまいたい。だがそんな訳にも行かない。生活費もそうだか借金だってある。


「今日は大会の準備は無いの?」

「いや、ある。けどその前にこれを渡す」


 レオナールは白い封筒を取り出し、ローズに渡した。


「何これ」

「剣術大会の特別招待状だ」


「……その特別招待状ってのがよく分かんないんだけど」


 大会は今まで興味が無かった為、この招待状がどんな意味をなしているのか分からない。『特別』とつくのだから何かしら特別なのだろうが、何が特別なのかさっぱりである。


「そうだな……これは一般販売されていない招待状だ。どんなに欲しくても、金で手に入れることは出来ない」

「そうなんだ。じゃあとっても凄い招待状ってこと?」

「まぁ、そうなるな。最前列中の最前列だ」

「いい席で観れるってことね」

「まぁ、そうだな。それと、中の招待状に招待者と招待客の名前が書いてある。俺の名前とローズの名前だ。中を見れば家名が分かる。せめて大会当日までは開けないで欲しい」

「あ……その事なんだけど、私ね……」


 もう分かっている。

 彼はヴァンの貴族の本家――ラファル家だ。


「どうした?」

 

 言えばこの関係を終わらせることが出来る。


(どうしたの? 言いなさいよ! ローズ・クロシェット!!)


 言わなくては。「貴方の名前はレオナール・ヴァン・ラファル。だからもう来ないで」そう言えばいい。


 そうすればもうレオナールは来なくなる。


「ローズ?」


 怪訝そうに尋ねてくる。


「具合でも悪いのか?」


 レオナールが頬に手を添えてきた。動けなかった。

 鼓動は早くなり、レオナールに聞こえてるのでは、とすら思えた。


「……身体は大丈夫だったとしても、心が追い付いていない時もある。まだ辛いのなら無理をして仕事をしなくても――」


「離れて下さい!」


 その声にハッとして入り口を見ると、ロイクが花が入った籠を持ち、怒った顔でこちらを見ていた。

 レオナールは眉をひそめるだけで、離れることはしなかった。それどころか睨み付けている。


「ローズは嫌がっています! 離れて――」

「ロイク! 違うの大丈夫! 彼は、その、私を心配してくれただけ!」

「え?」

 

 ロイクはキョトンとした顔で立ち尽くした。


「前に見た事があるな。幼なじみだったか?」

「そうだよ。それと私は大丈夫。少し考え事をしてただけ。もう学校行って。準備があるんでしょ?」

「そうだが――」

「行って。私も仕事があるの。この封筒は大会当日まで開けないから」


(あれ、私何言って……)


「分かった。当日はシュバルの下刻半に門の下で待っててくれ」


 レオナールはそう言って店を出ていった。ロイクとすれ違う時、何かあるかと思ったが特に何も無く、まるでそこに誰もいなかったかのように振舞った。


「ローズ……大丈夫? あの騎士学生に何かされてたんじゃ」

「え? 違うよ、本当に。ちょっとボッーとしてて、それを具合が悪いって勘違いして心配してくれたの」


「……そっか」


 ロイクはほっと胸を撫で下ろした。そしてローズが持っている封筒を見る。


「それ、あの騎士学生からだよね? 何貰ったの?」

「剣術大会の特別招待状ってやつ。あ、だから私ね、剣術大会行けるんだよ。席は違うけど会場まで一緒に――」

「え!? ちょっと待って!!!!」


 ロイクはとても慌てているようだった。持っていた花籠を置いて、ローズへと詰め寄ると肩を掴んだ。


「な、何??」

「ローズ! その特別招待状の意味分かってるの!?」

「えっと……お金じゃ買えないって。凄く特別だって」


 そう言うと彼はギリッと歯をかみ締め、肩を掴んだ手に力を入れた。


「そんな、そんな軽い意味じゃない!! 分かってるの?? それに招待されたってことは――」

「ちょっと! もうやめてよ! 痛いよ肩」

「ご、ごめん」


 慌てて手を離し、彼は気まずそうに視線を外した。


()()なのは分かってるの。私はそれに招待されて行くの」


 レオナールの話からして、とてつもない程に()()なのは分かった。剣術大会好きからすれば、喉から手が出る程欲しいはずだ。一般販売はされず、剣術大会に出る学生から招待を受けなければならない。なかなか難しいことである。

 だからロイクはこんなにも取り乱すのだろう。


「……そうだね。そっか。ローズは……だからあの日腕を組んで……やっぱりああいう男が……」


 ロイクはブツブツと小声で、壊れたように独り言を言い始めた。その様子が少し怖く、ローズは「大丈夫?」としか声を掛けれなかった。


 声を掛けてはみたものの、ロイクは笑った後、荷馬車に乗っていた花を次々と店の中へと運んだ。

 納品書を確認すると直ぐに彼は出て行ってしまった。


「そんなにこの招待状が欲しかったのかな」


 首を傾げてレオナールから貰った封筒を見る。ローズはエプロンのポケットに招待状を入れ、開店の準備をした。

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